詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

こころは存在するか(30)

2024-03-28 23:03:04 | こころは存在するか

 「ことばは人間とともに生きている。語る相手を待ってのみ発達していく。」という文章が和辻哲郎全集第十巻のなかにある。相手を「持って」ではなく「待って」。「待つ」と「持つ」は漢字が似ているが、意味とずいぶん違う。「待つ」とき、「待っている人(ことば)」にできることは何もない。
 「ことば」は語る相手=聞いてくれる相手のなかで発達していく。新しいことばになっていく。筆者が書けば「新しいことば」になるのではなく、「相手のことば」のなかで変化することで「新しくなる」。これは、「聞いてくれるひと」の、それまでのことばが否定され(破壊され)、新しく生まれ変わるということだ。ことばは、常に、発した人を超越し、他者のことばを否定しながら生まれ変わり、そのあとで話者に帰ってくるものなのだ。
 「間柄の本質」については、こう書いている。

我れの志向がすでにはじめより相手によって規定せられて、また逆に相手の志向を規定している。

 これは「ことば」について語っている部分と完全に重なる。ことばを相手に語り始めるとき、何を語るかは相手によって規定せられていると言えるが、語り始めればその瞬間から(語り始めなくても、語ろうと思ったときから)、そのことばのなかには相手のことばを破壊する何かが秘められている。相手のことばを破壊し、生まれ変わって帰ってくることばをこそ、話者は「待っている」。

 こういう「読み方」は、たしかに「誤読」なのだが、私は「誤読」をやめることができない。私の「誤読」は和辻には帰っていくことがない。和辻はすでに存在しない。しかし、本のなかで、和辻は「待っている」と、私は感じる。
 これは「自惚れ」ではなく、さらに大きな「誤読」というものだが、私は私の肉体のなかで、和辻のことばも私のことばも変わっていくのを「待っている」のだと言えばいいのだろうか。

 こういうことを書く瞬間、「喜びにこころがおどる」というのかもしれないが、これは「胸のなかで(奥で)こころがおどっている」ということか。しかし、私は「こころ」は存在しないと思う。「おどっている」のは「こころ」ではなく、たとえば顔の筋肉、足の筋肉である。ときには、その動き(おどり)を抑えることでさらに激しく「おどる」ものもある。「こころ」があると仮定したら、そのとき「こころ」は「胸の奥」にあるのか、押さえつけられた足の筋肉にあるのか。顔や、足や、手や、方々の肉体に散らばって、「こころ」は存在するのか。
 和泉式部の「千々にくだくれどひとつも失せぬ物にぞありける」みたいだなあ。(脱線)

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1 コメント

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こころは存在するか(30) (大井川賢治)
2024-03-29 08:51:19
本章では、子供のことばの発達に、親の愛情がいかに大事か想像できました。

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