「川柳歳事記

情け
情け無用勝てば正義の風が吹く
救出のドラマ血と血が通い合う
せめてもの情け急所を避け弓矢

「川柳歳事記

都会
少年の夢を見て来た上野駅
雑踏の中の孤独に重い靴
都市砂漠ダリの時計は溶けるだけ

「川柳歳事記

出る
出口まず探して遊ぶ慎重派
出るまでの闇を知らずか私の子
くどくどは耳に溢れて出るばかり

「川柳歳事記

つきまとう
日時計と追いつ追われつ生きている
尾行されているとも知らず縄のれん
つきまおいやっと夫になりました

「川柳歳事記

ちゃらんぽらん
鉛筆を転がしている分岐点
ええかげんにして　この前もプロポーズ
金魚鉢の中で人魚を飼っている

川柳上達法

１５．前衛川柳の隣
定義がどうなっているのか知らないが、前衛川柳と言えば、内容、形式的に最先端の川柳と思われる。
そこで、前衛川柳の隣を狙うのである。

息をしていますか君の中のぼく

これは「川柳マガジン」２０２０年の３月号の前衛川柳で特選となった句である。
そして、
元気でしょうか　貴方の中の私

この句は、「川柳マガジン」２０２２年２月号の超柳派で佳作に選ばれた句である。
この句を見ると雑詠としてすこしも違和感がない。

「川柳歳事記

宝
座敷まで占拠お宝邪魔にされ
何もない故郷が宝だと気づく
男にもある青春のオルゴール

「川柳歳事記

注ぐ
愛の他僕には注ぐものが無い
未消化のあなたへ注ぐ陽の光り
優しさを注ぐと優しさが返る

「川柳歳事記

刹那
昨日のぼくは昨日のうちに捨てました
その刹那神も仏も留守だった
落日の刹那に今日を折り畳む

「川柳歳事記

健やか
健やかにならぬ七百メートルの地下
健やかに赤ちゃん乳母車で寝る
知らない子等健やかでいるらしい