「老いて新鮮」松ひさし

ばあちゃんの笑顔

ばあちゃんはやさしい

騒ぐ子どもたちをさとしてニコニコ

ばあちゃんはつよい

怒鳴るおじさんをなだめてニコニコ

 

（続く）

「川柳歳事記」

正直

正直の人の頭に福来る

正直を風が聞いてる陽が見てる

正直に流れのままに生きて老い

「川柳歳事記」

常識

常識の目で見てるから腹が立つ

人の道知らぬ存ぜぬではすまぬ

最低の常識挨拶が出来る

「川柳歳事記」

朱

朱に染めたハートで今日は朱印押す

保証人朱肉いやがりつきにくい

赤門が遠くに見える受験生

「川柳歳事記」

喋る

人柄がにじむ喋りがあたたかい

ひとしきり泣いて女はまた喋る

喋ったら一気に晴れていった霧

「映像川柳」

平凡な日々を破壊の不整脈

　　　　　　　　　　美和山吹

「川柳歳事記」

市民

阪堺線に乗ってる人が市民です

死刑とは市民判決悩ませる

まだパワー残る市民だ頑張るぞ

「川柳歳事記」

しっとり

風の盆胡弓が闇に溶けていく

円でなく楕円でもなく母の胸

逝く人の徳をしのんだ通夜の席

「川柳歳事記」

じっくり

人知れず努力している隠し味

じっくりと練った人生豆の花

引き返す道に熟慮の跡がある

「老いて新鮮」松ひさし

おいしくて危なくて

研究開発で生み出され常食となったマンジュウ

栄養たっぷりでほかには要らない完全食品

工場で生産し不作や不足のない食品

味は極上で誰もが満足する満点食品

食べ慣れて　出始めの売り文句はもう忘れている

 

自覚は薄れたが有り難いマンジュウ

食欲を満たすばかりか心も充足してくれる日々

あるとき広い地域で突如マンジュウ大災難が発生

見た目は変わらないマンジュウがなぜか毒性化し

食べて亡くなる人が続出　危ない　怖い

 

世にあるたいていのものは長所と短所の二面

生き物村のでんでん虫

衝突事故は起こさないが交通渋滞を起こす

電気がない山中の小屋

停電の不安はないが電化機具が使えず不便で暗い

評判のスイカとブドウ

大きくてとても甘いがタネがいっぱい

研究開発されたマンジュウ

完全で安心な満点の食品だが中毒死の危険あり

マンジュウが毒物に変わるのは気象の具合とか

研究開発は考えが及ばなかったと言うばかり

 

おいしいけれど危ないマンジュウをやめ　元の食事に戻ろうとした

どうしたことか御飯と野菜に肉や野菜の食事は

いくら食べても食べても腹が減って減って辛い

とうとう我慢ができずマンジュウをまた食べ始めた

いつか　またマンジュウ大災難が起きるか

子や孫の代を思い　未来を考える

先が不安でも　空腹の今日　明日が我慢できない

 

「戯れ言」