尖閣問題に明け暮れる昨今、民主党・自民党総裁選、維新の会のどたばた騒ぎ以外に内政の重要な問題が報道されない。
どさくさに紛れて民主党野田政権は、原子力規制委員会人事は野田首相が勝手に決める。問題が多い人権災害救済法案を可決する。【革新的エネルギー・環境戦略】と大仰なお題目を唱えて【原発ゼロ】政策に舵を切ったかのように見せかけて結局閣議決定をしない。オスプレイの試験飛行を認める。
七十円台に張り付いたままの円高、長期化するデフレ、悪化する雇用、置き去りにされている被災地。何から何までどうにもならない。
山積する諸問題に頬かむりを決め込んで権力闘争にうつつを抜かす。一体全体この国の政治家は何なのか。これらの諸問題の本質を報道しないメディアは一体何なのか。国民の絶望は深い。
【日米関係は日中関係】という外交用語がある。日米、日中関係は、二国間関係に終わらず、米中関係を含めた日米中の三国関係になる、という意味だ。
今回の竹島・尖閣列島をめぐる中国・韓国との領土問題も同様。中国・韓国との二国間関係では解決ができない。結局、米国の助けを借りないと何もできない日本の立場を露呈しただけである。
いくら、実効支配を叫んでも、領土問題は存在しないと叫んでも国際社会では通用しない。特に、尖閣問題を契機に中国と敵対関係に入れ、と声高に主張していた右派連中は、本当に中国と戦争前夜の情況に入ったとたん、石原慎太郎都知事のようにほとんど声を上げなくなった。
よくよく考えてみれば、石原都知事が尖閣を東京都が買い上げると発表したのは、米国ヘリテ―ジ財団を訪問した時だ。その前に、前原民主党政調会長が、同じく米国で、尖閣問題はあいまいにしないとぶち上げている。さらに香港の活動家が尖閣上陸をしたが、彼らの本拠は、米国にある。
これらの一連の出来事を並べると、今回の尖閣問題は、表面的には中国と日本の対立のように見えるが、その背景は、米国産軍複合体の思惑も絡んだ非常に複雑なものがある。
日本と中国との関係について、米国には二つの考え方がある。一つは、中国を重視し、中国と友好関係を深めるという考え方。これはクリントン国務大臣が代表する米国民主党の考え方。もう一つは、日本との関係を重視し、中国の台頭を封じ込めようとする共和党の考え方。今回の尖閣問題は、中国封じ込めを重視する共和党の考え方に近い。
ところが、パネッタ長官が中国訪問前に日本に立ち寄り、【尖閣列島は、日米安全保障条約の適用内だが、領土問題については中立だ】と語った。パネッタ発言の文脈をよく読むと、右派連中がよく言う、【米国は日本を守る】という言葉が、如何に空しいかが分かる。
法律的に言うと、米国の参戦は、議会の承認が必要で、たとえ、米国政府が参戦を決意しても、議会の同意がないとできない。右派連中は、その事に触れたがらないが、厳然たる事実だ。
パネッタ長官が中国訪問の真意を18日付「星条旗新聞=Stars and Stripes」は、「我々の目標は、米国と中国が世界で最も重要な2国間関係を確立する事であり、その上でも緊密な軍事関係が鍵となる」と中国の梁光烈(りょう・こうれつ)国防部長に述べた、と報じている。このような米中関係を【チャイメリカ】と呼ぶ。
・・・
「チャイメリカ」は、文字通りの世界第一・第二の大国間関係で、世界史的な広がりと意味を持つ。金融的相互依存に留まらず、外交・軍事から政治・経済・文化のあらゆる分野で競合しつつ協調する。
『防衛白書』などから未だに日米同盟がアジアの中心で中国と対抗していると信じている読者は、著者が詳しく紹介・分析する米中戦略・経済対話で、アメリカの世界戦略・アジア戦略が大きく変化し、米国国防総省報告が中国の軍事力を「国際公共財」と評するまでになっていることに驚くだろう。
尖閣列島問題で頼みの米国が「日本固有の領土」と認めてくれない背景も、本書のいう「米中協調体制が世界を決める」から理解できる。著者矢吹は、こうした点からも日米安保が「賞味期限はとっくに切れて、今は害しかない」と断言する。若者によく読まれる孫崎享の日米関係論と共に、外務省にとっては、耳が痛い話だろう。
・・・
加藤哲郎(ジャパメリカからチャイメリカへ)
矢吹晋の著書『チャイメリカ』を引用しながら、加藤が日本の現在の世界の政治状況を解説している。
特に米国国防省が中国の軍事力を【国際公共財】と認めている事に注目しなければならない。当然ながら、その裏には米国の軍事力も【国際公共財】だという認識がある。世界のGDPの第一、第二の覇権国家がお互いの軍事力を【国際公共財】として認め合う関係をどう見るか。
素直に読めば、中国と米国で世界をリードしようという意志の表れだろう。この関係を世界の国々や人々にとって良いことだと見るか、それとも最悪の関係だと見るか。これは立場によって異なるだろう。ここでは、冷徹な力の論理が貫徹する国際社会の現実を直視しなければならない。
このように考えれば、野田政権の【尖閣国有化】は、あまりにも拙速、一歩間違えれば、戦争の危機を招きかねない暴挙だと言える。しかも、頼みの綱の米国の立ち位置の変化を考慮に入れない愚策だと思う。結局、一番得をするのは米国。日中双方に良い顔をしながら、何一つ失わない。こんなおいしい話はない。
現にパネツタ長官の中国訪問、習近平次期国家主席との会談後、反日デモは鎮静化した。冷静に見ると、日本は大きな借りを米国に作った事になる。
早速その見返りが行われた。一つは、原発ゼロ政策の閣議決定見送り。他の一つは、オスプレイ試験飛行の強行。世界情勢に暗い首相の政治判断が、日本の国益を大きく損ねたのである。
当然ながら、野田政権をここまで追い込んだ石原慎太郎都知事・前原政調会長などの発言・行動も徹底的に批判されなければならない。
私見だが、中国進出の日本企業は、今回の暴動による被害賠償を日本政府および東京都と石原慎太郎個人に請求すべきだろう。彼らの発言・行動によって何十億という被害をこれらの企業は被っている。彼らの火遊びの責任を取らすべきであり、そうしなければまたぞろ同じ過ちをすることは間違いない。
米国は常に大きな戦略(世界戦略)に基づいて行動する。中国も同様で、偶発的に起きる個々の出来事・問題・事件にはきわめて柔軟に対処するが、決してこの【大きな戦略】の枠組みから外れるような事はしない。
米国にとっては、今回の尖閣の問題は、米中関係を深化するためにきわめて重要な出来事だった。日本には、「尖閣は日米安保の適用範囲」とリップサービスを行う一方、「領土問題は中立」と言う。1972年の沖縄返還以前は、米国は沖縄を統治していた。その時は明確に尖閣は沖縄県のものと認知していたにも関わらずである。
このような米国外交の強かな二面性を認識していたら、尖閣国有化などというきわめてセンシティヴな問題を拙速に行えるわけがない。生き馬の目を抜くような国際社会の荒波の中で余りにも無策な外交を繰り広げているとしか言いようがない。
こんな野田首相をまたぞろ代表に選んだ民主党の連中には呆れてものも言えない。鶴田浩二の歌ではないが、「何から何まで真っ暗闇じゃございませんか」と言わざるを得ない情況である。
「護憲+コラム」より
流水
どさくさに紛れて民主党野田政権は、原子力規制委員会人事は野田首相が勝手に決める。問題が多い人権災害救済法案を可決する。【革新的エネルギー・環境戦略】と大仰なお題目を唱えて【原発ゼロ】政策に舵を切ったかのように見せかけて結局閣議決定をしない。オスプレイの試験飛行を認める。
七十円台に張り付いたままの円高、長期化するデフレ、悪化する雇用、置き去りにされている被災地。何から何までどうにもならない。
山積する諸問題に頬かむりを決め込んで権力闘争にうつつを抜かす。一体全体この国の政治家は何なのか。これらの諸問題の本質を報道しないメディアは一体何なのか。国民の絶望は深い。
【日米関係は日中関係】という外交用語がある。日米、日中関係は、二国間関係に終わらず、米中関係を含めた日米中の三国関係になる、という意味だ。
今回の竹島・尖閣列島をめぐる中国・韓国との領土問題も同様。中国・韓国との二国間関係では解決ができない。結局、米国の助けを借りないと何もできない日本の立場を露呈しただけである。
いくら、実効支配を叫んでも、領土問題は存在しないと叫んでも国際社会では通用しない。特に、尖閣問題を契機に中国と敵対関係に入れ、と声高に主張していた右派連中は、本当に中国と戦争前夜の情況に入ったとたん、石原慎太郎都知事のようにほとんど声を上げなくなった。
よくよく考えてみれば、石原都知事が尖閣を東京都が買い上げると発表したのは、米国ヘリテ―ジ財団を訪問した時だ。その前に、前原民主党政調会長が、同じく米国で、尖閣問題はあいまいにしないとぶち上げている。さらに香港の活動家が尖閣上陸をしたが、彼らの本拠は、米国にある。
これらの一連の出来事を並べると、今回の尖閣問題は、表面的には中国と日本の対立のように見えるが、その背景は、米国産軍複合体の思惑も絡んだ非常に複雑なものがある。
日本と中国との関係について、米国には二つの考え方がある。一つは、中国を重視し、中国と友好関係を深めるという考え方。これはクリントン国務大臣が代表する米国民主党の考え方。もう一つは、日本との関係を重視し、中国の台頭を封じ込めようとする共和党の考え方。今回の尖閣問題は、中国封じ込めを重視する共和党の考え方に近い。
ところが、パネッタ長官が中国訪問前に日本に立ち寄り、【尖閣列島は、日米安全保障条約の適用内だが、領土問題については中立だ】と語った。パネッタ発言の文脈をよく読むと、右派連中がよく言う、【米国は日本を守る】という言葉が、如何に空しいかが分かる。
法律的に言うと、米国の参戦は、議会の承認が必要で、たとえ、米国政府が参戦を決意しても、議会の同意がないとできない。右派連中は、その事に触れたがらないが、厳然たる事実だ。
パネッタ長官が中国訪問の真意を18日付「星条旗新聞=Stars and Stripes」は、「我々の目標は、米国と中国が世界で最も重要な2国間関係を確立する事であり、その上でも緊密な軍事関係が鍵となる」と中国の梁光烈(りょう・こうれつ)国防部長に述べた、と報じている。このような米中関係を【チャイメリカ】と呼ぶ。
・・・
「チャイメリカ」は、文字通りの世界第一・第二の大国間関係で、世界史的な広がりと意味を持つ。金融的相互依存に留まらず、外交・軍事から政治・経済・文化のあらゆる分野で競合しつつ協調する。
『防衛白書』などから未だに日米同盟がアジアの中心で中国と対抗していると信じている読者は、著者が詳しく紹介・分析する米中戦略・経済対話で、アメリカの世界戦略・アジア戦略が大きく変化し、米国国防総省報告が中国の軍事力を「国際公共財」と評するまでになっていることに驚くだろう。
尖閣列島問題で頼みの米国が「日本固有の領土」と認めてくれない背景も、本書のいう「米中協調体制が世界を決める」から理解できる。著者矢吹は、こうした点からも日米安保が「賞味期限はとっくに切れて、今は害しかない」と断言する。若者によく読まれる孫崎享の日米関係論と共に、外務省にとっては、耳が痛い話だろう。
・・・
加藤哲郎(ジャパメリカからチャイメリカへ)
矢吹晋の著書『チャイメリカ』を引用しながら、加藤が日本の現在の世界の政治状況を解説している。
特に米国国防省が中国の軍事力を【国際公共財】と認めている事に注目しなければならない。当然ながら、その裏には米国の軍事力も【国際公共財】だという認識がある。世界のGDPの第一、第二の覇権国家がお互いの軍事力を【国際公共財】として認め合う関係をどう見るか。
素直に読めば、中国と米国で世界をリードしようという意志の表れだろう。この関係を世界の国々や人々にとって良いことだと見るか、それとも最悪の関係だと見るか。これは立場によって異なるだろう。ここでは、冷徹な力の論理が貫徹する国際社会の現実を直視しなければならない。
このように考えれば、野田政権の【尖閣国有化】は、あまりにも拙速、一歩間違えれば、戦争の危機を招きかねない暴挙だと言える。しかも、頼みの綱の米国の立ち位置の変化を考慮に入れない愚策だと思う。結局、一番得をするのは米国。日中双方に良い顔をしながら、何一つ失わない。こんなおいしい話はない。
現にパネツタ長官の中国訪問、習近平次期国家主席との会談後、反日デモは鎮静化した。冷静に見ると、日本は大きな借りを米国に作った事になる。
早速その見返りが行われた。一つは、原発ゼロ政策の閣議決定見送り。他の一つは、オスプレイ試験飛行の強行。世界情勢に暗い首相の政治判断が、日本の国益を大きく損ねたのである。
当然ながら、野田政権をここまで追い込んだ石原慎太郎都知事・前原政調会長などの発言・行動も徹底的に批判されなければならない。
私見だが、中国進出の日本企業は、今回の暴動による被害賠償を日本政府および東京都と石原慎太郎個人に請求すべきだろう。彼らの発言・行動によって何十億という被害をこれらの企業は被っている。彼らの火遊びの責任を取らすべきであり、そうしなければまたぞろ同じ過ちをすることは間違いない。
米国は常に大きな戦略(世界戦略)に基づいて行動する。中国も同様で、偶発的に起きる個々の出来事・問題・事件にはきわめて柔軟に対処するが、決してこの【大きな戦略】の枠組みから外れるような事はしない。
米国にとっては、今回の尖閣の問題は、米中関係を深化するためにきわめて重要な出来事だった。日本には、「尖閣は日米安保の適用範囲」とリップサービスを行う一方、「領土問題は中立」と言う。1972年の沖縄返還以前は、米国は沖縄を統治していた。その時は明確に尖閣は沖縄県のものと認知していたにも関わらずである。
このような米国外交の強かな二面性を認識していたら、尖閣国有化などというきわめてセンシティヴな問題を拙速に行えるわけがない。生き馬の目を抜くような国際社会の荒波の中で余りにも無策な外交を繰り広げているとしか言いようがない。
こんな野田首相をまたぞろ代表に選んだ民主党の連中には呆れてものも言えない。鶴田浩二の歌ではないが、「何から何まで真っ暗闇じゃございませんか」と言わざるを得ない情況である。
「護憲+コラム」より
流水