金木犀、薔薇、白木蓮

本の感想、ときどき映画。
★の数は「好み度」または「個人的なお役立ち度」です。
現在、記事の整理中。

86:杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』

2024-04-27 15:38:39 | 24 本の感想
杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』
★★★★☆3.5
 
【Amazonの内容紹介】
 
大御所ミステリ作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳で死去した。
女癖が悪かった宮内は、妻帯者でありながら多くの女性と交際しており、
そのうちの一人とは子供までつくっていた。それが僕だ。

宮内の死後、彼の長男から僕に連絡が入る。
「親父は『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの小説を
死ぬ間際に書いていたらしい。
遺作として出版したいが、原稿が見つからない。なにか知らないか」

奇妙な成り行きから僕は、一度も会ったことがない父の遺稿を探すことになる。
知り合いの文芸編集者・霧子さんの力も借りて、
業界関係者や父の愛人たちに調べを入れていくうちに、
僕は父の複雑な人物像を知っていく。
やがて父の遺稿を狙う別の何者かの妨害も始まり、
ついに僕は『世界でいちばん透きとおった物語』に隠された
衝撃の真実にたどり着く――。
 
****************************************
 
先輩から借りた本。
 
読み終えた後、
 
「理屈としては通っているけど、父親の感情とか思考パターンには
 釈然としないものがあるな。
 まあ、でも読んでいる間は面白かったからいいか……」
 
と思って後書きを読み、
 
※以下ネタバレ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この本自体が「そう」であり、主人公が書いた物語になっていることに気づく。
サービス精神に満ちた労作だ!
 
霧子さん、序盤からずっと出てきているにもかかわらず、
この人が登場する必然性がたいしてないので、
「この人が盗みの犯人か?」「親父の愛人だったのか?」
とかいろいろ考えちゃったのだけども、
結局、物事をスムーズに進める装置&解説役でしかなかったのにはズッコケ。
 
文句をつけようと思えばつけるところはあるのだけれども、
一点突破のアイディアと、それを実行した労力に、
素直に「お見事!」と賛辞が出てくる一冊だった。
 
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85:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』

2024-04-24 16:28:48 | 24 本の感想
小川哲『君が手にするはずだった黄金について』
★★★★☆3.5
 
【Amazonの内容紹介】
 
才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは
「承認欲求のなれの果て」。
認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの?
青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、
ロレックス・デイトナを巻く漫画家……。
著者自身を彷彿とさせる「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する連作短篇集。
彼らはどこまで嘘をついているのか?
いや、噓を物語にする「僕」は、彼らと一体何が違うというのか?
いま注目を集める直木賞作家が、成功と承認を渇望する人々の虚実を描く話題作!
 
****************************************
 
先輩から借りた本。
タイトルだけ知っていたのだけど、予想していた内容とはずいぶん 違った。
主人公が作家だというのもあって、
「本当は俺が手にするはずだった名声を、あいつが手にした! 許せない!!」
みたいなドロドロとした嫉妬と焦燥に満ちた小説なのかと思っていたのだけども、
意外や意外、「主人公が作家である」という設定にはあまり重きをおいておらず、
読み心地は軽くさらりとしている。
情報商材を売って問題になっていた旧友と、炎上した漫画家についての話が
特に面白かった。
 
37ページ
「もしかしたら、僕にとって小説を書くことと、美梨と会うことは、
 人生において同じ部分に存在しているのかもしれない。」
140ページ
「何もかもがうまくいって摩擦のない人生に創作は必要ない。」
 
この二カ所も印象的だった。
 
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76-84:最近読んだ本(記録のみ)

2024-04-19 11:30:21 | 24 本の感想
 菅原佳己『日本全国地元食図鑑』
 
 『ニッポン全国 懐かしのご当地パン図鑑』
 
 『日本ご当地おやつ大全』
 
 『「無印良品」この使い方がすごい!』
 
 『無印良品 ラクして片づく収納術』
 
 『デコる! 学ぶ! 推す! 楽しいが広がる 趣味手帳のはじめ方』
 
若山曜子『お弁当サンド』
 
ミニマリストますみ『私の中を整理する片づけ』
 
メンタルドクターSIDOW『ケーキ食べてジム行って映画見れば元気になれるって思ってた』
 
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75:平山瑞穂『エンタメ小説家の失敗学~「売れなければ終わり」の修羅の道~』

2024-04-15 18:04:33 | 24 本の感想
平山瑞穂『エンタメ小説家の失敗学~「売れなければ終わり」の修羅の道~』
★★★★☆
 
【Amazonの内容紹介】
 
文学賞での華々しいデビュー、10万部超えのヒット、
そして相次ぐ映画化オファー。
人気作家への道を邁進していたはずの小説家は、
どうして筆を執ることすら許されなくなったのか?
著者が自らの作家人生を自虐的に再検討しつつ、
あとを絶たない小説家志望者への教訓を紡ぐ。
名だたる大手出版社で本を出してきたからこそ語れる
業界の裏事情も満載。
編集者たちとの赤裸々エピソードで、
知られざる〈小説家のリアル〉が明かされる。
 
****************************************
 
kindle unlimitedにて。
 
たぶん、どんな仕事をしているかによって感想が大きく変わる本。
 
筆者に近い仕事、すなわち、オファーを受けて
自分の名前で何かを生み出す仕事をしている人にとっては、
経験則が共有しづらいこともあってかなり有用。
 
逆に、全然違う形態の仕事をしている人にとっては、
「他責思考の愚痴ばかり」になるのだと思う。
 
第4章、「決定権があるのは誰か」、本当にそうですよ……。
建前上は作る人間に決定権があるような形を取っているけど、
「言うこときけない? じゃあ、この話はなしで」
って、普通にあるもん。畑違いの業界でも。
 
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70-74:最近読んだ本

2024-04-10 20:37:53 | 24 本の感想
 沖田円『丘の上の洋食屋オリオン』
 
初めて読む作家さん。
突き抜けたところ、新しいところはないけれども、
最初から最後まで安定した感じ。
女同士の関係の描き方が好み。
 
 
標野凪 『ネコシェフと海辺のお店』
 
上手い。
いま乗りに乗っている作家さん、という感じがする。
各話の登場人物同士がゆるやかにつながっているのも
読んでいて楽しいし、
魚と韻文の組み合わせにもオリジナリティがあってよい。
 
 
管野カラン「かけ足が波に乗りたるかもしれぬ」
 
Webで公開されていた短編読み切り漫画。
詩歌の持つ力。
こういうお話がきちんとTwitterで反響を呼ぶのが
なんだか嬉しい。
 
 
 toka『世界一 居心地の良い部屋の作り方』
 
著者さんのファンなので購入。
インテリアのセンスが好き。
料理や絵など、自分の好きなこと、楽しいことを
日常に取り入れた生活がとても良い。
 
 
コバシイケ子『台湾のすこやかで福のある暮らし』
 
カラフルな明るい写真に惹かれて。
また台湾行きたいな~。
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69:和泉かねよし『二の姫の物語』

2024-04-04 19:00:40 | 24 本の感想
和泉かねよし『二の姫の物語』
★★★☆☆
 
【Amazonの内容紹介】
 
戦乱の世、姫と家臣という身分を超えた絆(きずな)で結ばれたふたりがいた―――。
やがて、避けられぬ運命に翻弄(ほんろう)された時ふたりが選んだ道は―――――?
●収録作品/二の姫の物語/サーキットの女王様/地上20mで会いましょう
 
****************************************
 
初めて読む漫画家さん。
ずいぶん前に買ったのを積ん読していたので記憶もおぼろなんだけど、
確か、SNSでフォローしてる歴史好きな人が勧めていて
知ったんじゃなかったかな?
 
読み始める前は「絶対私が好きな話じゃん!」と思ったのだけども、
意外に淡々と冷静なまま読了してしまった……。
ヒーロー・ヒロインの美点が「設定」だけで、
実際に感じられなかったからなのかしら。
そして、架空の国とはいえ、ベースは中華もの。
この国では閨閥が権力に結びついていないんか?
とか、国のシステムのあやふやさも気になった。
短編だし、そこがメインじゃないのはわかってるけど、
皇位継承がストーリーにかかわってくるなら、
おざなりにしちゃいけない部分だと思う。
がっつり説明はしなくても、解釈できる程度の匂わせは
しておかないといけないと思うのよね……
 
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68:辻村深月『この夏の星を見る』

2024-04-04 18:48:18 | 24 本の感想
辻村深月『この夏の星を見る』
★★★★☆
 
【Amazonの内容紹介】
 
この物語は、あなたの宝物になる。

亜紗は茨城県立砂浦第三高校の二年生。
顧問の綿引先生のもと、天文部で活動している。
コロナ禍で部活動が次々と制限され、楽しみにしていた合宿も中止になる中、
望遠鏡で星を捉えるスピードを競う「スターキャッチコンテスト」も
今年は開催できないだろうと悩んでいた。
 
真宙(まひろ)は渋谷区立ひばり森中学の一年生。
27人しかいない新入生のうち、唯一の男子であることにショックを受け、
「長引け、コロナ」と日々念じている。
 
円華(まどか)は長崎県五島列島の旅館の娘。
高校三年生で、吹奏楽部。
旅館に他県からのお客が泊っていることで親友から距離を置かれ、
やりきれない思いを抱えている時に、クラスメイトに天文台に誘われる――。

コロナ禍による休校や緊急事態宣言、これまで誰も経験したことのない事態の中で
大人たち以上に複雑な思いを抱える中高生たち。
しかしコロナ禍ならではの出会いもあった。
リモート会議を駆使して、全国で繋がっていく天文部の生徒たち。
スターキャッチコンテストの次に彼らが狙うのは――。
哀しさ、優しさ、あたたかさ。人間の感情のすべてがここにある。
 
****************************************
 
最近出たコロナ禍の物語、作者は辻村深月。
ということで、模試や入試等、あちこちで使われていた作品。
 
まあとにかく分厚くて、読むのに一週間かかってしまった。
しかし、作者のネームバリューというか、
「時間を費やしても、無駄にはならないだろう」
という信頼があり、読了。
 
3つのパートが交差する第3章から、ぐぐっと引き込まれる。
オンラインで一堂に会したとき、遠い場所に住む彼らが繋がりあい、
理解者を得る流れに胸が熱くなる。
 
小説の中に新型コロナが出てくると、
なんだか息苦しくて嫌だなあと思っていたし、
それを出す意味というのが感じられない作品が多かった。
でも、これはちょっと違って、
「今を描く」「今を切り取る」ことの価値を初めて感じられた。
Zoomのシステムに戸惑う気持ちなんかも忘れていたな~。
やっぱり喉元を過ぎると印象が薄れていく。
 
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67:内山純『魔女たちのアフタヌーンティー』

2024-04-02 18:29:47 | 24 本の感想
内山純『魔女たちのアフタヌーンティー』
★★★☆☆
 
【Amazonの内容紹介】
 
自分自身を整えるために、ゆっくり紅茶を淹れるのよ。

“魔女“が住むと噂される白金台の大きな屋敷。
黒い服に身を包む女主人のお茶会は、型にとらわれず自由で楽しい。
丁寧に淹れた香り高い紅茶と宝石のようなティーフーズも素敵だが、
冷えたアイスティーと芋けんぴの相性も抜群だ。
仕事も恋も上手くいかず、鬱々していた真希は、お茶の奥深さを知り、
様々な年代のゲストの悩みを聞くうちに自分自身に向き合っていく――
ちょっと不器用な人々のつながりを描く心満たされる物語。
 
****************************************
 
初めての作家さん。
「ご飯もの」というジャンルのお約束とも言える「ほっこりした感じ」が
かなり薄いのが、ちょっと変わった感じ。   
別に陰惨な話ではないのに、全体的になんとなく薄暗いのよ。
 
第2話の、自分の価値基準を持たず
他人の価値判断に合わせて行動してしまったり、
値段だけで価値を測ったりするPTAママ、
具体的に誰とは言えないのだけども 、こういう人、いそう!!
口に出さないだけで、同じような振る舞いをしている人は
多いことだろう。
私も、値段をまったく気にしないかと言ったらそうではなく、
いただきもののチョコレートをうまいうまいと
ぱくぱく食べたあとで、
「えっ、あれ一粒500円だったの!? 
 もっと大事に食べればよかった!」
みたいなことはよくある……。
 
結局、彼女は最後まで変わらないのだけども、
このブランド好きが後々の展開に活かされてくるのはいいね。
 
245ページ、宇津木が真希に対してなぜか一箇所だけ
「です・ます」調で喋っているセリフがあり、違和感。
話の流れからして、宇津木の発言だと思うのだが……
私の読み違い?
 
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66:戸森しるこ『ぼくらは星を見つけた』

2024-03-25 14:41:24 | 24 本の感想
戸森しるこ『ぼくらは星を見つけた
★★★★☆
 
【Amazonの内容紹介】
 
野間児童文芸賞受賞作家の最新作は
「新しい家族」をつくるドラマチックでうっとりする物語。
幸福な予感が幻想的な世界で描かれます。

丘の上の青い屋根のお屋敷に、彼女たちは住んでいました。
ご主人のそらさんと、十歳の星(セイ)。そしてハウスキーパーのシド、白猫のダリア。
そらさんの旦那さんは、十数年前に亡くなった、天文学者の桐丘博士です。
専属の庭師と、そらさんの主治医が出入りするほかは、
現実から切り離されたように静かなところでした。

ある日、「住みこみの家庭教師」という募集を知って、
お屋敷にひとりの男性がやってきます。
それが岬くん。この物語の主人公です。

岬くんは元美容師で、手品や楽器という特技も持ち合わせています。
そらさんは岬くんを家族の一員として迎え入れ、
星は紳士的でユーモラスな岬くんにすぐに懐きました。
けれど無愛想なハウスキーパーのシドだけは、なかなか心を開きません。
不器用だけど本当はやさしく思いやり深いシドに、岬くんは惹かれていきます。

その家族にはいくつか不自然な点がありました。
「本当の家族」を求め続ける岬くんが、奇跡的な巡り合わせで「運命の人」にであう物語。
 
****************************************
 
先輩から借りた本。
 
おとぎ話のような舞台設定や名称に、
現代日本のコンビニやらなんやらが入り込むのがやや気になったけれども、
雰囲気もストーリーも、とっても好み。
 
家族の秘密は明かされていく過程で明らかになる事情が
子ども向けではないのでは……と感じさせるけれども、
これはきっと「大人向けの児童書」なのだろう。
切なくロマンチックで、もう少しこの世界に浸っていたいと思える作品だった。
 
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65:倉島節尚『中高生からの日本語の歴史』

2024-03-25 14:38:22 | 24 本の感想
★★★★★
 
【Amazonの内容紹介】
 
言葉は人びとの暮らしや文化を映し出す鏡です。
日本語という謎に満ちた言語は、
どのようにして私たちが今日知るような形になったのか。
その全体像を明かします。
 
****************************************
 
「言葉は変わるもの。1000年経てば、同じ日本語でも
 すぐには理解できないものになってしまう」
ということは頭では理解していたものの、
古典文法と現代文法 の間にあまりにも大きな違いがあり、
いったいいつどのようにして変わっていったのか疑問に思っていた。
それがこの本を読んでだいぶんわかってきて、すっきり。
 
 各時代の音韻、表記、語彙、文法の変化について説明されていて、
「拗音が直音と異なる音として意識されるようになったのは鎌倉時代から」
とか、
「鎌倉時代あたりから連体形で文を結ぶことが一般化して、
 終止形と連体形が同じ語形になっていった」
とか、
「江戸時代、関東では、打ち消しの『ぬ』の代わりに『ない』を使っていた」
とか、それぞれの要素について、「ここでこうやって変わったのか」ということがわかり、
それらの変化の集合体が現代語なのだ、とようやく体感として納得できた。
そう思うと、古典文法って、
「長い歴史の中のほんの一時期の、整然と説明できる部分」
を切り取っただけのルールなんだなあ。
 
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