そういう訳で、その曲に警戒しようとしたルァーンクィースルの精神律動は曲の作用で逆に強烈に性的脈動を高しめてしまいました。
そのような条件と薬効は当然、闘育担当官達の知性的予見に事前支配されていました。
彼らは薬効の性徳を嘲笑したり溺れる事無く、薬効知識と使用類例の獲得に成功したのです。
このように闘育担当官達の知性の成長は当然、乱心知性化精神の発露に基づいていました。
ヌアイスドゥアーイスライスは闘争的怜悧さを目に漲らせながら、特殊な波長を放つ拡声器を用いて矢継ぎ早に言葉を投げかけます。
この拡声器の声を聞いた人間は、頑健な知性統御に基づかなければ、衝動に屈するようになるのです。
「ルァーンクィースルよ。
お前は今自身の欲望項目乙の座標軸丙つまり性的脈動に対し、知性の統御権を譲り渡したい衝動に駆られているであろう。
お前の脳波波形と血中成分の明晰な分析から明らかだ。
この指摘に対し、お前の知性的返答の如何の可能性をまず探る。
答えろ。」
「な・・・何なんだ貴様ら。
一体私に何を注射・・・したのだ。
ぐっ・・ただでは済まさん。
私の醜態を攻撃情報配信業者に売るつもりだな。
貴様らは対抗企業の回し者だ。
戦ってやるぞ。
貴様らをさらなる破滅に叩き落としてやる。
必ずだ。」
ルァーンクィースルは抗しがたい性的脈動と体中を走る血行増進作用
に動悸を覚えながら、湧き上がる憤怒と共にヌアイスドゥアーイスライスを睨みつけました。
「ルァーンクィースルよ。
お前の生活習慣、商品開発部部長としての職務判断、身体の振る舞い、心理依存する人間関係、休日の行動類型から分析し、かつこの円形閉塞空間という条件を考慮すると、お前の最優先の満足事項は、身体衝動満足の序列に従い、性的脈動の満足を選択するはずだ。
つまり怒りに基づいた罵倒の応酬を私に求めるのではなく、その円形閉塞空間において並行存在している生理的同輩生物、クスァーンルィーンクァーングを専横的に搾取しつつの、性的脈動満足行為への没頭を選択するということだ。
その際、選択という元来知性的労働の領分を、衝動に委譲してしまうという知性的判断を行う代わりに、欲望の支配の確立を許すであろう。
当官、国欲情旧皮質選好主義者凜理規律闘育担当官ヌアイスドゥアーイスライスは事前に理知的に抽出した、知性的判断に耐えうるお前の網羅情報を知性的に分析した上、以上を述べた。
ルァーンクィースルよ。
お前の知性的返答や、衝動表出振る舞い、言動の明示を待つ。」
ルァーンクィースルは狂牛病の牛のように全身をよたつかせながら、怒りと性的脈動、ヌアイスドゥアーイスライスに言われた言葉の解釈の遂行のせめぎ合いを喰らい続けました。
「ぐ・・・おのれ・・・訳の分からん事を・・私がクスァーンルィーンクァーングなんかと交わるだと・・・腹立たしい無礼さだ・・貴様ら、背後の会社を探し出し、子息を皆チンピラに輪姦させてやるからな。
必ずだ。」
ヌアイスドゥアーイスライスは感情の微塵の起伏も見せずに眼下の緑色画面からの情報収集を素早く行い、質問の構成を完成させました。
ヌアイスドゥアーイスライス自身も闘育の発展のため、精神、身体情報は全て記録されていました。
「怒りの衝動に委ねるより、知性による自身の統御を試みてみよ。
これまでお前は部長としての権勢を知性ではなく欲望の支配に任せてきたはずだ。
今が知性の復権の機会なのだ。
私の発言に対し、例えばお前は高ましまった性的脈動の支配に屈しないという意志と論理を私に知性的に示してみよ。」
ヌアイスドゥアーイスライスの矢継ぎ早で抑揚の無く、知性と怜悧さを無機的に合成させた声は、特殊な拡声器を経由して次々とルァーンクィースルの大脳新皮質に突き刺さっていきます。
対するルァーンクィースルの支配的な希望は、面倒な論理分析を忌避し、欲望衝動に身を任す事でした。
実際、ルァーンクィースルはそれまでそのようにしていました。
このような特異状況下で更に欲望衝動を行儀良くさせておくのはもはや困難になっていました。
何故ならヌアイスドゥアーイスライスの計算されたような論理的発言は確かに知性的誠実さに満ちていましたが、今のルァーンクィースルにとっては、拡声器経由の音波は売春窟の遊女の誘い声でした。
拡声器の科学効果によって、このような状況下においてはルァーンクィースルのような人間類型は知性的誠実さにわずかでも衝動が混入すると、自動的に衝動の方が刺激されるのです。
つまり、現在闘技場に流れている曲と、それに対する衝動のような関係です。
常に完全な知的統御の立脚が求められる状態にあるという事です。
「フウッ・・・フウッ・・・ヒューーッ。」
しかし目の上瞼は釣り上がり、目は充血し、瞳孔は開きっ放しです。
「何も答えられないのか。
ルァーンクィースルよ。
呼吸という最低限の生理第一層活動の拡充を許したな。
それはお前の知的統御の回復のためか。
それとも、欲望衝動の律動に耽溺するためか
お前が発する生理情報からすると、自律神経操作による副交感神経系を経由した後者への身体準備だ。
お前は今まで他者の衝動を不要、不当に刺激しつつ利潤を得、呼吸してきたな。
抽出済みの経済収支と、健康情報から明らかだ。
また、お前は過去二十年間に渡り、呼吸器の疾患を抱えていない。
お前の既往歴調査から明らかだ。
今お前は社会的病理を治療する時にある。
知的統御を欲望衝動に対し、優勢させるのだ。
乱暴心知性的化精神を発揮するのだ。
呼吸を落ち着かせるのだ。」
ルァーンクィースルの苦しみの原因はもはや、辛うじて残る他者の前での醜態を恥じる自身の廉恥心でした。
怒りと戸惑い、性的脈動、状況逃避の可能性模索が相互衝突して発生するのは全身の大暴れだったので、彼は素直にそう任せました。
「ウワーッ、グオオーッ、アアアッ。
やかましい。
ルォアーッ。
どうしろと言うのだ。
お前らは私の恥が欲しいのだろう。
フグウアーッおのれーっ。
後でお前らの大量の恥情報をせしめてやるからな。
必ずだ。」
ヌアイスドゥアーイスライスは視覚と聴覚経由の情報を無機質に分析するだけです。
「闘育後の復讐的暴力衝動のほのめかしについて、輪姦という裏社会経由攻撃手法を、恥情報収集という社会的攻撃手段に移しつつ段階二に移行したか。
暴力傾向“松”の者は権勢暴力“竹”の事後実行をほのめかす事で、自身の恥への耽溺を許容する正当化心理を演出する事が多い。
この男の権勢の横暴をたしなめる同僚は不在だった。
欲望耽溺型の職務判断の過剰累積者の闘技場での一類例を示すものだ。」
ヌアイスドゥアーイスライスの分析が始まるや否や、ルァーンクィースルは衝動の赴くままクスァーンルィーンクァーング、火星語で“丸っこくてのんびりした幼稚園”の意の動物に後ろからのしかかり始めました。
衝動のままにほっつき歩いていたクスァーンルィーンクァーングは新たな律動に奔らされ出したのです。
それは異生物による抗しがたい性的律動の波でした。
クスァーンルィーンクァーングはその律動が肉体後部の原始的欲望の妥協的許容無言明示楽器たる性器を素通りさせ、壮麗な吐息の音色を奏でるのに抗う事無く即座に感動するのを同意しました。
欲望交響曲の楽団は常に指揮者を確認せずに楽器を奏でるのです。
“ブハァッブハァッブハァッブハァッ”
そして闘技場内に流れる曲の旋律は相変わらず終わりがありません。
ずっと同じ節が繰り返す曲調なのです。
曲名は“欲望原子と堕落中性子の遊離結合は永久”といいます。
“人間は何故欲望に負けてしまうのか”という問いの意味が込められています。
この曲の旋律はずっと繰り返しです。
終わりが無いのです。
永遠の問いだという事です。
暗示されている意味は以下です。
“欲望原子が回転すると必ず堕落中性子は回転を止め放散する。
何故なら、欲望への耽溺が始まり、堕落が止むからだ。
放散した中性子は回転している原子核に吸着していくが、回転する欲望原子のため、堕落中性子として再び放散する。
欲望原子の回転の原因はもはや堕落中性子となる。
何故なら堕落は欲望を生むからだ。
大気は無限の中性子を供給するが欲望原子に負け、容易に堕落中性子となる。
大量の堕落中性子は周囲の通常原子をも堕落させていく。
こうして原因と結果の相互補完による自動走行状態が出現する。
その状態の出現時に流れる旋律はこのようなものだ。
これで人間の欲望とは永久に自動走行する、理由の無いものだという暗示になる。
つまり“人間は何故欲望に負けてしまうのか”という問いである。
この問いには答えが無いため、永久だという事なのである。
では何故上の問いに答えが無いのか。
それは単にまず、そのような欲望の出現時に流れ出す旋律はいきなりであり、人間は聞き入ってしまうという点がある。
何故なら欲望の性質は元来そのようなもので、人間は身を委ねてしまうのだ。
流れ出した欲望の旋律に耳を傾けてしまうのだ。
旋律を止めるには、曲の題名の問いに対する答えを思いつけば良い。
さもなければその題名の旋律は奏で続ける事になる。
“人間は何故欲望に負けてしまうのか”
という問いの答えを分からない者が、旋律に聞き入り続けつまり、欲望に負け続けるからだ。
欲望に負ける答えを分からない者は対抗の術ももちろん知らないという事だ。
旋律を本当に終わらせるためには、問いの答えを見つける必要がある。
聞こえてきた曲を止めずに題名の答えを考えてみる:
終わりのない旋律に身を任せたまま、つまり自分が欲望に負け続けながら欲望に勝利しようとする行為だ。
答えなど分からない。
曲を止めて題名の答えを考えてみる:
まだ本当の答えを分かっていないにも関わらず、曲を聴くという欲望に身を委ねた自分を脱出させたいという欲望にまた負けてしまった。
だからそんな人間は曲を止めたところで、答えなど分かるはずはない。
欲望の真の超克がまだ無いからだ。
要するに、曲を聞いた人間は題名を見ても答えなど分からない。
人間が聞き入ってしまう欲望旋律は節の繰り返しなのはこのためだ。
また、まだ曲を聞いていない人間が題名を見たとしても、欲望の旋律を聴いていないため、問いの答えなど分からない。
まだ欲望というものが何か全く関知していない人間には、答えなど分かるはずもなく、曲に聞き入る必要があるということだ。
つまりいずれにせよ、人間というものは必ず曲に聞き入るという欲望に負けてしまうという事だ。
結局、“人間は何故欲望に負けてしまうのか”という題名の問いに対する答えは誰にも分からない、という事になる。
永遠の問いだという事だ。
人間はいつか奏でられ出す、この終わりの無い欲望の旋律にまず耳を傾けてしまうが、一度欲望の旋律に耳を傾けてしまったならば、永遠に分からなくなる、つまり人間には決して分かるはずの無い永遠の問いだという事だ。“
分かろうとすると永遠に分からなくなる。
知ろうとしても勝手に訪れてしまう。
欲望の抗しがたいからくりを火星人は終わりの無い旋律と題名で曲に綾しめていたのです。
火星人にとって象徴的なのです。
欲望に狂い争ったかつての自分達を忘れず、永遠の欲望を通じ、永遠の反省を促しているのです。
ちなみにその旋律は何と地球の電媒上で流れています。
時期が訪れればこの電媒で紹介します。
日本の子供達はテレビゲームという欲望耽溺状態の中、敵を倒す事でその旋律の調伏をさせられていたのです。
超太古以来、地球外の旋律は求めずとも勝手に訪れてしまうものです。
仕方が無いのです。
どうにか付き合っていくしかないのです。
そのゲームの題名は“欲望収支相互補填状態は永遠”という意味です。
ところで人間はある欲望に負けたなら、ある脳の症状を出来し目が回り出します。
次に目を回したくない衝動に従い、膝を抱えてぐるぐる団子虫のように回り出します。
すると、目が回る原因は団子虫のようにぐるぐる回るからだと勘違いするようになります。
しかし、団子虫を止めないのは、目が回り出すのを恐れるためです。
目の回る本当の原因を知らぬまま、団子虫は永久の自動走行を始めるのです。
そもそもその者が欲望を超克出来ずに目が回り出したのは、欲望に屈した自身を鼓舞する激痛の恐怖から逃げ続けたためなのです。
そんな人間は目の回り出す恐怖にあっさりと負け、本当の原因に達する事はなく、欲望の奴隷であり続けるのです。
これがゲームの題名となった医学臨床症例はこれが由来なのです。
火星の全土を包んだ大戦争の背後には異星人が蠢動していました。
連中の圧倒的社会学理論が火星の政治経済の神経を貫通し、火星人を社会調査のために操っていたのです。
地球の、人間を自動走行に至らしめる欲望に負ける国如きが、異星人契約の万華鏡の綾とりを指で触れる事など絶対に出来はしないのです。
筒にいれた指はすぐに糸で絡まり、抜けなくなるのです。
万華鏡を見て呆けておけば良いのです。
ところで何も現実は変わりません。
私なら万華鏡の筒の中に生物兵器を入れてやります。
こう言います。
“指でつまもうとしたら知能が向上する神経液を刺して来るぞ。
そしたら異星人の契約の意図もほどける。
どうだ、素晴らしいだろう。
条件はな、生物兵器由来の知性を手に入れたなら、万華鏡の返還時に異星人に喧嘩を売ってもっと大きな万華鏡を要求する事だ。“
しかし纜冠讃が入れた生物兵器の神経液の効能は、万華鏡を返す際には必ず失うのは内緒です。
万華鏡を子供に見せびらかして路地裏で殺していたのを告白しなかったからです。
つまり返還時には元の馬鹿となるのです。
大きな万華鏡を渡された暁には再び纜冠讃に生物兵器を求める事になるのです。
私は地球のある国々に宇宙海賊を未来、勧請するという明白な意思を持っております。
私は倫理的訴求を未来永劫受けないという絶対の確信の下にです。
私に助けを求めても無駄です。
ルァーンクィースルとクスァーンルィーンクァーングは熱い合奏を同意しました。
“欲望原子と堕落中性子の遊離結合は永久”の旋律は闘技場内に響いて伴奏を止めません。
ルァーンクィースルの猛り狂った指揮は譜面も知らずに指揮棒を奏者の動物を規律出来ると思っています。
しかし相手は衝動のままの動物なので、後ろからのルァーンクィースルの指揮に従順や規律を見せません。
そこがルァーンクィースルのさらなる指揮欲望を掻き立てます。
「ウルァー。
スウェー。
グアッフ。
ギイイイエエエア。」
“ブハァッブハァッブハァッブハァッ”
Escort Time
五千八百六十青字