シュワクイレイーズダー星人はヌァーズケイーングルダンを知りませんでした。
シュワクイレイーズダー星人官僚、俊英書庫可搬脳髄惑星活性化担当明朗率先人的資本蓄積官ウェグネダーオズは流入してきた情報の咀嚼に追われました。
そして逡巡しました。
“私達が示してきた戦う意志は一体何のためなのだ。
弱者たる私達はいないかもしれない子孫のためなのか。
いや、未来の弱者の異星人のためなのか。
だとしたら、異星人のために戦う意志をこれから鼓舞出来るのか。
負ける事が分かっている戦に払い続ける苦痛と涙に一体意味はあるのか。
私達は宇宙に不要な摩擦を生むのみで、遠くない未来に学者の研究課題になるだけなのか。
私達の戦う意志は、涙は一体何なのだ。
弱き者は生きるに値しないのか。
未来に生きる者は生きるに値するのか。
強き者は更に力を奪い、蓄えた力で弱き者を生かすとしても、その過程で泣かされた弱き者の涙には、如何なる理由が後世あてがわれるのか。
理由がなかったならば、弱者の涙は後世再び正当化されてしまうのだろうか。
私達の涙は、戦う意志は一体何に向けるべきなのか。
科学力の劣るならばその方策すらないのか。
科学力の劣る者は過去もそして生きるに値しないのか。
分からない。
私達の先祖伝えし絢爛たる文化は、その時代の強者の気まぐれに枯らされ、その花壇は永遠に踏みにじられるのか。
弱き者のために涙を流し、力を振い続けた私達の誇らしい勇者の伝説は、宇宙の賊共の繰り言に挿げ替えられるのか。
愛おしい我らのシュワクイレイーズダー星の草々の命は賊の巣窟に踏み荒らされるのか。
力だ。
力が足りないのだ。
科学の力が足りないのだ。
スワートゥワーフェグの言う通り、意志の貫徹のためには力が要るのだ。
力が無ければ、善も悪に屈するのだ。
私達は力が欲しい。
悪に負けぬ力が欲しい。
力のためになら何でもしよう。
悪に負けぬためなら、私が悪に染まろう。
まずは時間が必要なのだ。
魂の種を絶えさせてはならない。
魂や文化の花壇が荒らされてしまえば、私達は奴隷のように生きていくだけだ。
この快楽椅子のぬるま湯に漬かり、異星人の侮辱に妥協的な笑みを浮かべるだけだ。
ならない。
ここで椅子に座らなければ、そうだ皆が椅子に座らされるも同じなのだ。
力だ、科学の先鋭化を惑星で訴えよう。
シュワクイレイーズダー星の草々の大樹のためだ。
私がここで人柱となろう。“
「ウェグネダーオズよ。
どうするのだ。
椅子に座るのかどうかもう一度聞こう。」
スワートゥワーフェグは問いかけました。
「椅子に座る。
私は魂を汚し、シュワクイレイーズダー星を守る。」
「愚かな男だ。
私達に勝てぬ連中が、ヌァーズケイーングルダンに勝てると思っているのか。
連帯の意志を見せない惑星からは私達は一定度の資本を収奪し、連中との戦いに備える。
お前達は私達に滅ぼされぬとしても、ヌァーズケイーングルダンに食い尽されるが良い。
辿る運命の道筋すら読めぬか。
愚かな惑星全権代表だ。
そして苛立たしい。
宇宙逼迫の政治状況をつまびらかにしてやったというのに、何だお前は。
お前がこの状況を惑星に伝えれば、お前達も合理的な判断を下しやすくなるだろうに。
それが分からんのか。
何故判断を急ぐのだ。」
「惑星に帰った所で答えは変わらない。
私達科学弱者は、最後まで生きる意志を示し続ける。
子孫のために独力で戦い続ける。
私達はお前達にも、ヌァーズケイーングルダンにも恭順の意を示す事は無い。
愛おしい草々を、賊共の靴に踏み荒らされるを許しはしない。
もし、椅子に座らず、安保協定に応じるならばお前達は次々と侵襲的政策を進めてくるだろう。
私は子孫のために自身の魂を快楽に汚す。
戦いのために私達は」
「もういい。」
スワートゥワーフェグは言葉を遮りました。
「お前が感傷主義を発揮し、合理的判断を下せないという事は分かった。
お前達の運命の道筋も読めた。
破滅だ。
お前の言う絢爛文化も守る事は出来ない。
ある種の試験だったのだ。
お前達が逼迫状況下でどのような合理的判断を下せるかというな。
ヌァーズケイーングルダンなど嘘だ。
私達はお前達シュワクイレイーズダー星の全総合的な安保能力、意志を見ていたのだ。
私達が発見する、宇宙に進出しようとする文明惑星に対し、私達は脅威を提供するのだ。
軍事的なものだ。
そして戦闘の推移を経て、このような問いかけをするのだ。
私達の背後にヌァーズケイーングルダンという恐ろしい宇宙海賊がいる。
だから、妥協的な安保協定を締結し、私達の軍事保護下となれ、とな。」
一方ウェグネダーオズはぽかんとしています。
スワートゥワーフェグは続けます。
惑星全権代表の意志
千八百七十九青字