ウェグネダーオズは銀河煌き椅子の快楽について無言を貫きました。
フェブレドゥラーズン星人側からの二度目、三度目の経験を誘われてもウェグネダーオズは自身の貞操を守り抜きました。
応じなかったのです。
椅子の抗いがたい習慣性を知っていたフェブレドゥラーズン星人からは称賛の声が上がりました。
「立派だ。
彼は真の惑星間外交官だ。
惑星を守るという強い意志を持っていると言える。
シュワクイレイーズダー星はこれから大丈夫だ。
彼のような外交官の登場を見る事が出来て幸せだ。」
一方当のウェグネダーオズは憔悴が続いていました。
こう自問していました。
“私は快楽の誘いを断ち切ることが出来た。
自身の名誉を守る事が出来た。
その意志の強さは何度も示す事が出来た。
しかしどうだろう。
何故私は、強い意志を早く示せずに大勢の兵を死なせてしまったのだろう。
私にどのような落ち度があったのだろうか。”
ウェグネダーオズはスワートゥワーフェグとの対話の詳細を周囲に明かせない綾しめにありました。
つまり一人悩んでいたのです。
「私はただの凡夫だった。
自身の名誉を守る意志は示せても、大勢を守る意志を示すのは怖がるのだ。
自身の運命は守れても、大勢は守れなかったのだ。
凡夫が惑星全権代表だったのだ。
「私は許されない過ちを犯した。
我らシュワクイレイーズダー星人が私のような人間に成りおおせてしまえば、再び異星人に試練の戦に試される事になるのだ。
だから私は人々に意志の強さの尊さを訴えなければならない。
自ら運命を切り開く強き意志を惑星全土に広めれば、シュワクイレイーズダー星は異星人に攻められる事もなくなるだろう。
今度こそ私は、同胞を、シュワクイレイーズダー星を守るのだ。
強き意志の力をしろしめるのだ。
愛しき勇敢な同胞達よ、済まなかった。
あなた達の惑星を守る意志は同胞を守るという意志によってかつて守られなかった。
今や私の運命は、自ら惑星の意志を守る事と一つになった。
自ら運命を切り開くのだ。
自ら惑星の意志を強きに太しめるのだ。
それが私に課された罰なのだ。
自ら罰を受けるのだ。
与えられる罰は本当の罰ではないのだ。
懲罰者なかりせば、自身はのうのうと許されたのかという問いがその後に残る事になるからだ。
その問いは自身と周囲を再び罪科に誘うのだ。
世は再び罪の苦きを味わうのだ。
だから、自ら罰を受けるのだ。
第十八代目俊英書庫可搬脳髄惑星活性化担当明朗率先人的資本蓄積官ウェグネダーオズは人に明かせぬ快楽と罪を背負い、強き意志の尊きをしろしめていくのだ。
シュワクイレイーズダー星の英雄ウェグネダーオズは実のところ、あ・・・取るに足らぬ凡夫なのだ。
この事を全てシュワクイレイーズダー星に明かしてしまえば、そうだ言論界、特に社会倫理浮遊程度査証委員会と惑星間外交史編纂委員会の厳しい詰問にさらされ、そしてシュワクイレイーズダー星の方向性は混乱する事になるだろう。
断じて明かせない。
これも恐らくフェブレドゥラーズン星人の読みの内なのだろう。
シュワクイレイーズダー星人の試練はまだ続くと見ているのだろう。
ああ、惑星を守るとは、生きるとは、他者の意志を代表するとは何なのだろうか。
たまたま刈り取られた生きる意志は、同じ程度の強さの意志に対し、ただの時間差を以って無言となるのか。
ウェグネダーオズはこう自答し、涙に暮れました。
狩り籠め
千三百七十三青字