ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

海軍技術研究所~防衛省技術研究所目黒試験場

2013-07-21 | 自衛隊

というわけで、目黒の技研に潜入してきたエリス中尉です。
とは言っても技研の内部まで見たわけではないので、外からの写真だけです。

しかし、2013年、このハイテクの時代、しかも軍事周辺技術については
トップと言わないけど世界の先頭集団にある日本の技研にしては
あまりにもしみじみとした風情のある建物ではありませんか。

この目黒防衛省エリアには、

防衛省防衛研究所
技術研究本部
統合幕僚監部
陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊

が共同使用という形で存在しています。

これからお話しする技術研究本部は

艦艇装備研究所
先進技術推進センター

を含む防衛省の一部です。



グーグルアースもう一度。
300mの屋根を持つ大水槽の周りが技研が集中しているところ。



表札も真新しい艦艇装備研究所の入り口。




この大水槽を研究設備としているわけですが、ここで大水槽の気になるスペックを。

長さ 247m

幅  12m

深さ 7m

なんと。
300mの長い長い建物は、もしかしたらそうではないかと思っていましたが、
ほとんどが水槽だったんですね。あたりまえか。

 

 

 

 

 

 

 

 


そこでもう一度出してくる大水槽の写真。
こういう水路のようなのが延々247mにわたってあるわけですね。
うーん。これ、一度見てみたい。

このプールは、電動プランジャー型の造波機を備えています。
プランジャーとはポンプのこと。

ところでトイレが詰まったときに使う先にゴムの付いたあの道具、
英語では「プランジャー」と言います。
これから英語圏を旅行する人、海外では必要になる場合もありますので、
覚えておくと便利かもしれません。
こういう事態は5つ星ホテルでも時々起ります。(経験あり)
まあもっとも、5つ星なら自分でプランジャー使わなくてもいいですけどね。


というのは全くの蛇足ですが、とにかくここはそういうシステムで波を造ります。
規則波、不規則波とタイプの違う造波が可能で、作ることのできる波長は
1メートルから最大20メートル。

これらのシステムはすべて赤外線によって遠隔操作されます。



森閑として全く人気のないこの一角。
おそらくこの日、どの設備も稼働していなかったのかもしれませんが、
いったいこれらの設備は年にどれくらいの日数使われるのでしょう。



怖いよこの表札怖いよ。

それはさておき、海軍関係で「耐圧」といえば?
そう、潜水艦関係です。

ここでは主として、耐圧試験タンクを使用しての

潜水艦用耐圧構造模型に対しての圧壊試験

を実地しています。
そのためにここに設置されているのが

フローノイズシミュレータ

というものなのですが、これは

「艦艇や水中航走体の流体性能、音響性能について試験・評価することを
目的に建設された極低背景雑音の大型キャビテーション水槽」

をいいます。

キャビテーションとは「空洞現象」とも言われ、液体の流れの中で、
圧力により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象ですが、
それを人工的に起こす装置ということのようです。


なにか具体的に分かるものは無いかと調べたところ、
艦艇装備研究所の防衛技官、大本理沙氏の論文を見つけました。
独立法人所有の航海練習船、「青雲丸」の模型を使ったキャビテーション観測です。
図解で非常にわかりやすいですので、興味のある方はどうぞ。

「フローノイズシミュレータにおける流体計測技術について」



入口に麒麟草とか生えてるし・・・・。
そういえば小学校の時の鉄筋校舎がこんな感じだったわ。



ここが信管実験棟。

砲弾、誘導弾、ロケット弾が目標への弾着時に最適作動条件を果たしているか、
そして設計通りに作動しているかを確認するための実験装置があります。

これが

信管衝撃シミュレーション試験装置

です。
これは、窒素ガスを圧縮した減圧槽内に射出し、各種の弾着環境を模擬して
それらのデータを得る装置です。
火砲の発射衝撃のシミュレーションを実地することもできます。

それらは瞬間X線撮影装置で弾着の瞬間および破壊システムが記録されます。
そうして得られたデータから、耐弾性に優れた材料や構造が研究開発されるのです。


ところで皆さん、防衛省がこういった「武器研究」をしているのは当たり前ですが、
どこでその実験しているのか疑問に思ったことはないですか?



それが、ここ。「衝撃実験棟」。

ここには砲弾模型を使って砲弾の飛翔状況を作りだし、各種現象を計測するための

非定常高速過渡弾着シミュレーション試験装置

というものがあります。

試験にあたっては、砲弾の模型をマッハ1.5から3で高速落下させます。
同時に高温・高圧ガスを作用させることにより、室内において
砲弾の非定常な飛翔状況を作り出すことができるのです。

因みにブラストウェーブ(爆風)の最大持続時間は5ms(5/1000秒)、
直径50ミリ以下の供試体を試験対象にしています。



防衛省公開資料より。


この装置を使った研究が防衛省のことだから発表されていないかと調べたら、
技研の論文集のタイトルだけ集めたPDF文書が見つかりました。

どれどれと読んでみると・・・・・・・・・・・これ、興味深い、というか面白いです。


寄り道になりますが、この論文のタイトルを淡々と挙げておきますので
読みたくなったら最後のリンクをクリックしてみてください。
ただし、すべて「概要」ですので念のため。


●FPR掃海艇(えのしま)の構造強度

●空力弾性風洞試験技術・・・横転中の航空機の空力弾性現象の把握

●CBRN(放射能汚染地域)対応遠隔操縦作業車両システム

●軽量戦闘車両システム・・・・コンパクトで火力、防御力、機動力を有する戦闘車両の成立性

●ヘルメットの耐弾性能評価技術について(陸上装備研究所による)←おすすめ!

●船首砕波解析への粒子法応用・・・・・コンピュータで水しぶきをリアルに再現

●CFD用い舶用ぷ色ペラの流体性能の予測技術・・・より静かなプロペラを目指して

●見にくいものも見つけ出す・・・・2波長赤外線センサー

●撃てば即当たるマイクロ波兵器・・・・ライト・スピード・ウェポン←おすすめ!

●粒状物質の爆発飛散シミュレーション

●跳躍技術・・・ロボットやパワーアシストが走るなどの動作を行うために必要な跳躍技術

●戦闘機操縦者のマルチタスク能力に関する研究(航空医学実験隊による)

●金属ナノ粒子を用いた医用材料等に関する研究・・・抗ウィルス性材料

●コンポジット推進薬の高性能化・・・・誘導弾の燃料

●防災用ヘルメットアンテナの開発・・・・無線機月ヘルメットの開発

●ニュートラルネットワークを用いた艦隊防空システム

●遠距離加熱赤外線サーモグラフィ法による非破壊検査・・・
               地雷の遠隔探査、航空機、艦船などの非破壊検査のための方法

●非常用飲料水貯水槽の開発・・・災害発生時に水を確保できる貯水槽

http://www.mod.go.jp/trdi/research/abstract_s.pdf


いかがですか?
直接軍事に拘らない、実にあらゆる方面の「あったらいいな」を研究していますね。
これがもう少しマニアックに、さらに斜め上に進んでいくと、アメリカの
DARPA(国防高等研究計画局)になったりするんですね。違うかな。


またこの衝撃実験棟は

対銃弾耐弾性評価装置

火力に対する各装備品等の脆弱性解析装置

などを備えています。



この付近にはさらにまるで昔の工場のような謎の建物多数。



空き地には新しい設備が増設されるとどこかで読みましたが・・・。
その気配全く無し。

これだけの研究と、そのための実験が行われているにしては
あまりに時代から取り残されたような古めかしい建物が立ち並ぶ空間。

この建物に一歩はいるとそこには最新設備のハイテク実験装置が並び、
さらに技術立国日本の軍事周辺技術がここで実験され作り出されるのだと思うと、
つくづく技術とは「人の頭の中の世界」なのだなあという妙な感慨が浮かんでくるのでした。



今回このようなところに侵入して、あらためて調べなければわからなかったことばかりです。

誰もいない(人ひとりにすらすれちがわなかった)この空間だけが都会の喧騒から切り離されて
まるで異次元にあるような気すらした、目黒の技術研究所でした。






最新の画像もっと見る

4 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
父の軌跡 (婆裟羅大将)
2013-07-22 22:50:24
こんにちは
目黒の技研の様子、なんか ロストワールドのように時に忘れ去られたような建築群ですね。
実はこれ 戦中からの父の軌跡ではないかと大変興味深く拝見しました。
というのも 父は旧制高校から新制大学の狭間あたりに東京で生きていた人で、招集が遅いという理由で親の厳命で工学部へ行ったのですが、それでも国策に従って海軍の研究部門に強制(?)協力に行っていたと話してくれたことがあります。

信じられないほど 現実離れした研究していたよ、とは言っていましたが、それでも戦後は造波抵抗の第一人者(自称)となり、バルバスバウの世界初の統括的理論解析を成し遂げた(自称)と申しておりました。

私は不勉強で父の大ぼらが どれほどのものか分かりませんが、米海軍は高く評価していたようで、1960年代に米海軍の費用で何度も渡米しておりました。

それでも人と競り合うと 主流になれないのは息子の私と同じで、防大などというマイナーリーグで研究してましたが、敷地の都合で長い水槽は作れずに 水が循環する回流水槽を作って実験をしておりました。
ここでは私のおもちゃのボートも走らせたことありまして、速力が足りずにリターンに吸い込まれそうになり、取ろうとした父が 水槽に落ちてずぶ濡れと言うこともありました。

回流水槽も古い実験棟とともにだいぶ前に取り壊され、父も先日七回忌ですから 既に過去の物語ではありますが、懐かしくて書かせていただきました。

古い建物は私も大好きでして 横須賀の病院や、先日母校である府中の大学へ行ってきて自分の好みを再確認してまいりました。(来月あたり写真紹介します)


http://plaza.rakuten.co.jp/vajra33/diary/200706280000/
横須賀の古い病院


目黒の貴重な写真、資料を紹介していただきありがとうございました。これからのご活躍も期待しております。
では ごめんください。
返信する
防衛技官ですか? (エリス中尉)
2013-07-23 05:26:01
お父さまは防衛技官でいらしたということでしょうか。

わたくしは父が医師だったのですが、医者と一言で言ってもいろんな医師がいて、
必ずしも科学を追求する学究の徒としての使命感を持っている者ばかりではない、ということもそのおかげでよく存じています。

しかし、技術者にはそういった世俗から離れて、ただ真理を追究したいという欲求のもとに
そのような職業を選んだ人が多いという印象があります。
わたしが無条件で「技術者」に憧れを持つのはそういった理由なのです。

婆沙羅大将もどちらかというと「そっち系」のような気がしますが・・・。
「府中の大学」って・・・・・・もしかしてNO大ですか?
返信する
勤労動員て奴ですね (婆裟羅大将)
2013-07-24 21:41:40
お返事ありがとうございます。

防衛技官?
いや 言葉は正確に書かないといけませんね。
強制協力ではなく 学徒勤労動員、または学徒動員、勤労動員と書くべきでした。

Wikipedia の学徒出陣の項によれば 徴兵の
猶予を受けた理科系学生は兵器研究に駆り出されたとありますから、
たぶんこれですな。

------------引用開始------------
対象

1943年(昭和18年)の徴兵対象者拡大の際、学徒出陣の対象となったのは主に帝国大学令及び大学令による大学(旧制大学)・高等学校令による高等学校(旧制高等学校)・専門学校令による専門学校(旧制専門学校)などの高等教育機関に在籍する文科系学生であった。彼らは各学校に籍を置いたまま休学とされ、徴兵検査を受け入隊した。

これに対して理科系学生は兵器開発など、戦争継続に不可欠として徴兵猶予が継続され、陸軍・海軍の研究所などに勤労動員された。
-----------終了----------


うちの父は間違いなく学究タイプでしょう、工学部より理学部に行きたかったと言ってましたから。
でも旧制一高から新制の灯台、大学院まで行って その後PhDも取ってますから、まあ 優秀だったんでしょう。

私は能力の点で学校には残れなかったクチで、ただ理屈っぽいのは確かでしょうね。


NO大
これは世田谷の大根踊りの方ですね。(笑)
うちは生協の白石さんで有名な N○K○大(伏字になってない?笑) でして、府中(農+教養)と小金井(工)にある方です。
返信する
失礼しました (エリス中尉)
2013-07-25 02:33:41
失礼しましたなどというとNO大を卒業した方に失礼してしまうのですが、
わたくしNOKO大のつもりで言っておりました。
NO大というのもそういえばあったんですね。
NOKOの方は「受験界」ではマイナーだけど、卒業時の就職には大モテ、
と卒業した方が言っておられましたっけ。
返信する

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。