ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に編⊃声

嗚呼陸軍潜水艦〜マル秘のまるゆ

2012-03-23 | 陸軍






その計画を当初から海軍に秘匿して、まったく陸軍だけの手で作り上げ(ようとし)た、
陸軍潜水艦、まるゆ

まるゆというそのかわいい響きにより一層涙をそそられるのですが、
正式?には、本日画像のように丸の中に「ゆ」の字が入るのです。
マル秘記号と同じですね。
(ユニコードの出し方がわかりませんでした)orz

一部海軍の高官に対して公開実験という形でお披露目をしたものの、
世間的には全てが
鉄のカーテンの中。
というか、あまりにごく一部の部門を動員して作られたので、その存在を知る者は
一般は勿論、
海軍にも皆無と言っていいほどいませんでした。

苦難の末計画立ち上げからあっという間に完成、
いつの間にかその姿を現した陸軍潜水艦。

その後も徹底した防諜網を張ったため、その航行中、
その存在を知らない各方面から、
様々な扱いをされることになりました。


まるゆは昭和19年7月、マニラ方面に

23日の予定のところ51日かかって

到着しました。

冒頭漫画は、やっとこ着いたと思ったら、当地にいた軽巡洋艦木曽から
このような失礼な誰何されたという、実話です。
ちなみに2コマ目の木曽ですが、スケッチをして10分の1に縮尺した自信作です。
(艦だけ描き込み過ぎて他のコマとのバランスが取れていない・・・)

この航行のとき、台湾海域で、哨戒中の米潜水艦が、次のように打電しています。


「我船籍不明の潜水艦発見、南下中」
「船尾に日の丸。しかも浮上航行中」
「日本海軍に非ず。当分監視を続行する」

アメリカ軍もびっくり。軍艦旗でなく、日章旗をつけた潜水艦。
しかも、潜水艦なのに敵であるこちらに気づかず、白昼堂々と海上を浮上航行しています。
これは、まるゆの乗組員に言わせると

「潜水すると航行速度が落ちるから」


ということだったようですが、それなら潜水艦である意味が全く無いのではないかと(略)


海軍の潜水学校の関係者は

「当時笑ったのだが、航行中に木やその他でで偽装していたことである。
空襲を受けた時は海軍なら当然潜航するか、あるいは鎮座するわけであるが、
やはり陸式だなと思った」

と、呆れておられます。


このときも、もしかしたら葉っぱを乗せて海のど真ん中を
堂々と航行していたのかもしれません。

しかし、米潜水艦はこの「ヘンな潜水艦」を攻撃しませんでした。
あまりにも突飛過ぎて、どうしていいかわからなかったとも言えますし、
オトリ作戦ではないかと勘ぐって様子を観ていたのかもしれないという説もあります。

かくのごとく秘が裏目に出て、まるゆが受けた苦難は枚挙にいとまがありませんでした。
画像のようにあからさまに馬鹿にされるくらいならともかく、
まるゆの存在を知らない味方の
海軍艦艇から、何度となく砲撃を受けた、
といいますから穏やかではありません。


一度は、攻撃に対し、手旗信号、帽子や日章旗を振ったり、
司令塔の脇にペイントされた
日章旗を見せたり、陸海軍共通の暗号書をめくって

「我味方なり」

と信号しても、
つまり、何をしても海軍艦艇に信用してもらえなかったそうです。

ほうほうの体で避退して、横須賀鎮守府に厳重抗議しにいったら、

「少しでも怪しい行動がある艦艇は容赦なく撃沈せよと命じている」


・・・・まあ、日章旗は、余計に怪しまれる原因になったかもしれませんね。
まるゆは一度、攻撃してきた海軍艦艇から、
「なにゆえに軍艦旗を揚げざるや」とその点を怪しまれています。

横鎮からは

「今後とも我が艦隊の行動海面には出没せぬことですな」

と、つれなく釘を刺されたまるゆですが、訓練中適当なところで浮上したら、
行動海面どころか、
軍秘で地図にも書けない呉軍港のど真ん中に
ぽっかりと出現してしまったことがあります。

セクスタント(六分儀)の扱いが起用だったというだけで、
教官にされてしまった陸軍少尉の、
「初歩的ミス」でした。

驚く間もなく監視艇が飛んできて引っ張られ、尋問を受ける羽目になったそうです。
このとき尋問した伊潜艦長である海軍中佐はどう思ったかその後まるゆ乗員を励まし、
自分の伊潜に豪華なフルコースを用意させ、彼らを招待しました。
まるゆ御一行様は、まず伊号潜水艦のその広さ、豪華さに驚き、
西洋料理を供する海軍式に感激するとともに、
我がまるゆをかえりみて
トホホな気分になったということです。


食事の話の後になんですが、なにしろ、まるゆときたら、トイレもありませんでした。
海軍潜水艦の射出式トイレなど、作っている場合ではなかったので、

「汲み置き式」。


それ
はドラム缶や桶に溜めており、ただでさえ狭い艦内は
凄まじい悪臭だったそうです。

まるゆは前述のマニラへの航行中、人が丸太のように転がるほどのシケに遭った、
というのですが、それは、一体どうなったのか・・・。

阿鼻叫喚の艦内を想像しただけで身の毛がよだちます。



海軍の艦艇のみならず、まるゆは民間船からの攻撃にもあっています。
朝鮮半島沖を航行していた日本郵船の貨物船「伊豆丸」は、
潜航せずにただじっと浮いている見たこともない潜水艦を発見しました。

軍艦識別のためのシルエットは識別表のどこを探しても無し。
海軍からの無線情報にも該当艦はありません。

「もう逃げられない。戦うべし」


総員が配置につき、ある者はスパナやハンマーを手に、
伊豆丸は船ごとこの潜水艦に突っ込んでいきました。

おりから錨を降ろして休憩を取っていたまるゆ乗員の驚いたの何の。
一旦通過したと思ったら伊豆丸はくるりと船首を返し、
反転して再び全速力で突っ込んできたではありませんか。
衝撃と轟音のショックで寝ていたまるゆの乗員は跳ね飛ばされました。

衝突後、ここにいたってこの潜水艇が
我が国のものであることに
さすがの伊豆丸もようやく気づき、船長は青ざめて謝りに行ったそうです。


船長、機関長共に憲兵隊にさんざん油をしぼられたのですが、

今度はさらに海軍武官府から呼び出しがかかりました。
二人は重罪覚悟で蒼白になって出頭したところ、


「貴官らの敢闘精神は見上げたものだ。
止むを得ざる処置であると同時に寧ろ勇敢な行為である」

と激賞されてしまったというのです。


これはいかなることだったのでしょうか。


海軍軍人で、およそこのまるゆに接触した者は大なり小なり

「素人が無茶しやがって・・・・」
というような感慨を持ったもののようです。

ある海軍輸送船の先任将校は、ある日浮上しながら進む不審な潜水艦を発見しました。
ただちに「総員配置」を命じ、高角砲は水上弾を装填。
全ての対空機銃は仰角を合わせ、一発必中の照準を開始、爆雷は全て安全装置を脱し、
艦全ての鉄砲はこの潜水艦をターゲットに定め、総員の緊張はマックス。

と こ ろ が 。

件の潜水艦、浮上しているのに戦闘態勢を取るでもなく、そのまま通り過ぎていきます。

「あれーっ?」


とか言っていると、なんと、もう一隻があらわれ
同じようにのうのうと前を通過していくではありませんか。

はやる部下たちが「撃ち方始め」を催促してくる中、
「まあ待て、まあ待て」と首をかしげながら見ていると、

そのまま遠ざかって行きました。

息つまるような数十分でした。(笑)
あとからそれが陸軍の潜水艦でることを聞いた先任将校は、


「なんじゃあありゃあ」


とばかりにあきれるとともに、このように書きのこしています。


「それにしても、陸さんにあんな間抜けな行動を取られては、
我々は至極迷惑である!」


驚くことにまるゆは航法など全く無視し、ジャイロコンパスもまともな海図も持ち込まず、

「前の艦を抜かさぬように着いていきさえすればよい」

というような態度で操艦していたそうです。


それでも、予定の倍の日数かかったとはいえ、なんとか目的地に着いたのですから、
「怖いもの知らずというか、素人は凄いと思った」というある海軍軍人の感想が、
この全てを語っているように思います。

まるゆに体当たりした伊豆丸の艦長と機関長をわざわざ呼びつけ、
ほめたたえたこの海軍少佐は、
実は大きな声では言えないものの、

「あんなもんじゃ誤認されて体当たりを食ったとしても当然だ。

あんなヘンなものをうろうろさせている陸軍の方が悪い!」

という陸軍に対する意思表明として、あえてこちらをこうやって庇った、
ってことはないでしょうか。






参考*決戦兵器 陸軍潜水艦 土井全次郎
     陸軍潜水部隊 中島篤巳
     潜水艦気質 よもやま物語 槇幸












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