ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「軍医ワッセル大佐(改め少佐)」The Story of Dr. Wassell 後編

2022-09-13 | 映画

日本軍が侵攻してくるジャワ島に取り残された傷病兵と、士官一人、
出航に間に合わなかった間抜けな一人の兵士。

彼らを率いる海軍士官は、もはや軍医ワッセル中佐だけになりました。


しかも病院に戻ってみると、中は砲撃で無茶苦茶な状態でした。



残骸の影に、スリー・マティーニことトレマティーニが潜んでいました。

他のものがオランダ軍と山中に逃げてしまった後も、
彼女は彼らが戻ってくることを予想して待っていたのです。

翻訳はされていませんが、彼女を見つけたワッセル中佐は、

「(それを予想するとは)水晶占いコンテストで優勝だな」

と言っています。
これ、ちょっとした民族侮蔑表現じゃないか?



スリーマティーニが会いたかったのは、ホッピーでした。
彼の方は会えて嬉しいと口で言いつつそんな嬉しそうではありません。

そりゃそうでしょう。

彼にすれば、トレマティーニは単なる戦地の看護師。
ここに残るつもりはもちろん、連れて帰るつもりも全くなく、
現地でちょっとお戯れする相手くらいの認識だったのですから。



病院に戻った兵たちは疲労困憊し、なぜワッセルの元に残されたのか、
呪うように言うマードックのような者もいました。

ワッセル中佐だって、(自分が選んだとはいえ)
こんな状況になって誰よりも困っているのに、まあ酷いもんです。

つい神に祈る心境になっているワッセルに、ゴギング副長が声をかけました。

「君は成功を信じていない・・・。
昔の失敗をいつまでも引きずっているように見えるよ。
中国で何があったんだ。女か戦争か」

この副長は、戦艦の副長にしては歳を取りすぎていて変ですが、
中国人のピンが死んでしまったので、今、
ワッセルのこれまでを語る唯一の相手として、
そこそこ大人な年齢のもののわかった男性として描かれています。

待ってましたとワッセルは語り始めました。

「両方です。豚に故郷を追われ、カタツムリに中国を追われた」


豚というのは、アメリカの村にいたときに、豚を積んだ車にぶつかり、
その拍子に目にした新聞にマデリンの写真があって、
それに一目惚れして中国に渡ってしまったという意味ですが、
それではカタツムリとは。


ピンが死ぬまで語っていた話の続きです。

ワッセルは、ウェイン医師に煽られてマデリンを同行することを諦め、
一人で赴任した長子で、流行っていた疫病の原因を研究しておりました。

しかし研究は遅々として捗りません。
そもそも病原菌となる媒体が全く不明なのでした。

ある日ワッセルは運河で通り過ぎるボートに乗っていた中国女のネックレスに
カタツムリの殻が含まれている(気持ちわるっ)のに気がつきます。

そこで彼らの船の船端に付いているカタツムリをもらって研究したところ、


なんと!吸虫を発見したのです。



ワッセルと助手のピンの二人が夢中で研究していると、
後ろのドアが開き、そこにはマデリンが立っていました。

マデリンさんたら、治安の悪く疫病の多発する長子に単身やってきたのです。
これは、ワッセル医師を追いかけてきたということでしょうか。


ワッセルは顕微鏡を覗いていて全く気がつかないままだったので、
ピンは気を利かせて二人の再会場所を池のほとりに設定しました。


そこがこれ。
あまりムードがあるとは思えませんが、まあいいでしょう。



ポケットチーフまでピンにコーディネイトしてもらったワッセル、
池のほとりで彼女といい雰囲気になり、もう少しでプロポーズという時、
ピンが彼に電報を持ってきました。

それを読むなり彼の様子が変わります。



何があったの?と聞くマデリンに、ワッセルはいきなり
僕は海軍に志願するつもりだ、と言い出すではありませんか。

ワッセルの意図はよくわかりませんが、マデリンは
二人の男を張り合わせるつもりか、ワッセルに求婚させるつもりか、
こんなことを言って行動を迫ります。

「ウェイン先生には求婚されているの」

しかし、それに対し、あっさりと、

「二人の幸せを祈る」

と言い放つワッセル。

マデリン、無念の作戦失敗。
ショックを受け、彼の元を去っていきました。

一体この電報の何が彼を変えたのでしょうか。

原因は、電報に書かれていたニュースでした。
ウェイン医師が、フォーク状の尾を持つセルカリア吸虫を発見したという。

自分もついさっきそれを見つけたばかりなのに、タッチの差で
ライバルに一足先を越されてしまったのです。

よりによってそのライバルが求婚している相手と自分が会っている時に。

ウェインに学者としての業績で負けたワッセルは、
女性も同時に諦めてしまったというわけです。

そして、それは同時にじぶんが中国にいる意味も無くなったということなので、
そこを去る理由として海軍に入隊することを咄嗟に決めてしまったのです。

これが「カタツムリに中国を追い出された」の意味でした。


そこまで話し終わった時、副長がトラックの走行音を聴きました。
偵察に出かけたワッセルは、山中で不恰好な巨大仏像と遭遇します。


彼は思わず仏に祈っていました。

「近づいてくる兵力が日本軍でありませんように」

これが本当の「神も仏もない」ってやつです。



その甲斐あって?隊列から英語の歌が聞こえてくるではありませんか。
彼は「アメリカ海軍の一人として」仏に丁重に礼を言って去りました。



近づいてきた車列はイギリス軍でした。

ワッセルは車上で眠っている唯一の将校を叩き起こし、
10名の怪我人を乗せていいか聞くと、あっさり「どうぞ」。

この将校、60時間寝ていなかったこともあり、適当に返事したようですが、
それをいいことに、ワッセルは彼から
全員をトラックで連れて行ってくれるよう言質を取るのを忘れません。


さて、負傷兵たちを港に輸送する手段は確保しました。
これであとは港に行けば、停泊している護衛艦に乗せてもらうだけです。


負傷兵を乗せたトラックを運転するワッセルに伝令が伝えてきました。

「日本軍が橋まで攻めてきており、砲弾を撃ってくるから、
各車両は45メートル間隔で速度を保つように」

この後「君が代」をアレンジしたスリリングな音楽が流れますが、
これが音楽的になかなか馬鹿にできないクォリティです。



ワッセルの前を走っている車両に砲弾が直撃し、一瞬にして消え失せました。
咄嗟に道を逸れ、斜面を牛を蹴散らしながら突っ切って逃げます。


荷台の負傷者軍団は阿鼻叫喚ですが、なぜかその中で
ハーモニカ(『草競馬』フォスター作曲)を演奏し始めるやつあり。

平常心って大事・・・なのかも。



負傷者軍団を優先すると、全員が一台のジープに乗り切らなかったので、
この時、ホッピーとインドネシア人看護師トレマティーニだけは、
彼女が強く主張した結果、二人で後ろのジープに乗っていました。

ところが彼らのジープは運悪く砲撃を受け、谷底に転がり落ちていきました。



トラック運転手は即死!

ホッピーはただでさえ重症だったのに、さらに車の転落で両足骨折。
しかしトレマティーニは不気味なくらい無傷でピンピンしています。



ホッピーのジープが姿を消したことに皆が気づき、
ワッセルは一人で車から降りて探しにいきました。


戻ってみると、目の前で橋が崩落していきました。
これで彼らと合流する可能性は永久になくなったということです。

「・・・さよなら、アーカンソー(ホッピーのこと)」

ホッピーと同郷人のワッセルは、悲痛な面持ちでつぶやきました。



橋が崩落したことをトレマティーニから知らされたホッピーは、

「ジャワからは二度と出られない気がしていたよ」


と自嘲的につぶやきます。
とにかく彼と一緒に居られればいいトレマティーニは、

「わたしがアーカンソーを忘れさせてあげる」

などとむしろ嬉しげに言いますが、それが彼の心を逆撫でしました。

そら怒るわな。

「聞け、アーカンソーの一握りの土が、お前ら千人より値打ちがある!」

ここで彼の気持ちになって考えてみましょう。

もしこの現地の女性が自分に執着して、余計なことを言い出さなかったら、
彼は間違いなく仲間と同じトラックに乗っていました。
少なくともこんな形で置き去りにされることはなかったのです。

彼女の存在が疎ましく思われたとしても、それは当然かもしれません。


しかし、諦めというのは人の心に変化を与えるものです。
すぐに彼は反省し、酷いことを言ったのを謝りました。

しかし、彼女が「愛してる」というのに対し、彼の返事はただ

”So do I. ”(俺もだ)


その後二人はジャングルで人影に囲まれ、軽機関銃で銃撃戦を行いますが、
その結果どうなったかは描かれないままです。

彼は最後まで彼女に「愛している」とは言わずに死んだでしょう。




ワッセルたちがやっとのことで港に辿り着くと、
まず駆逐艦「ペーコス」は敵駆逐艦が近づいたので出港してしまっており、
40名乗りの船に何百人も既に乗せた民間船も、
天候が悪く雷が鳴ってるので、出港して沖に停泊していました。

とにかくあれに乗ろうと、ジャンク船で接近を試みます。



しかしここまできて、オランダ人艦長は負傷兵の乗船を拒否してきました。

理由は、敵から攻撃されるのは必至なので、
足手まといで助かる見込みのない負傷兵は乗せられないというのです。



しかし、押し問答している間に後ろでこっそり負傷兵の積み込み完了。
乗ってしまえばもうこっちのもんです。

いつの間にか乗り込んで手を振っている負傷兵軍団を見て艦長呆然。

「オランダ人は天国で歓迎されますよ、艦長」



しかしマサチューセッツのアンディ(アンダーソン)は、傷が深く、
船に乗り込む気力が残されていません。

それを励ましたのが、乗船補助をしていた恋敵?ベッティーナの彼氏、
オランダ軍将校のディルク・ ヴァン・ダール大尉でした。

「見たまえ、ベッティーナが乗っているぞ。
私は任務でここに残るが君が船に乗って彼女を守ってやってくれ」


やっぱりいい奴だった、ヴァン・ダール大尉。



ワッセルが船上でアンディの手当てをしていると別の医師がいました。
相手を見ると、あら、恋敵で仕事のライバル、ウェイン先生ではないですか。

ワッセル医師にとってウェイン医師は、吸虫の発見で先を越され、
好きな女性も譲ったという訳ありの相手です。

ところが向こうは、

「ああ・・確かあなたは・・・ウィッスル先生

ちげーし。
っていうか、名前も覚えてないくらい相手にされてねーし。

ワッセル先生、極力平静を装って、

「お、奥様はお元気で?」

すると相手は10分前までは元気だったですよ、と事もなげに言います。
つまり彼女は同じ船に乗っているということですか。

内心の動揺が思わず顔に出てしまうウィッスル先生でした。


身動きできない船内で鮨詰めになっている負傷兵たちに、
一つのニュースがもたらされました。

彼らを置いて出港して行った駆逐艦「ペーコス」は、敵に襲われ、
撃沈してしまったというのです。

皆呆然としました。
戦友たちが乗っていた船。
もしかして自分達が乗っていたかもしれない船です。



その時、船はヴァン・ダール大尉からの無線を傍受しました。
恋人のベッティーナも特別に無線室でそれを聞きます。

ヴァン・ダール大尉は守備隊で日本軍の大艦隊を迎え撃っていました。

「輸送船7隻、軽巡洋艦1隻、重巡洋艦1隻、駆逐艦6隻です!」

陸地への砲撃に続き、上陸用舟艇が14隻沿岸で待機中、
1隻の船に100人ほどの兵が乗っているという知らせに
人々は真っ青になります。

絶望的なことに、それを見ている守備隊はヴァン・ダール大尉一人でした。



なぜ一人なのに退避しない?と誰もが思っています。
そして彼はすぐに敵に発見されました。

「さようなら、皆さん!」

続いて機関銃の音が・・・・。



「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン・・・」
(-人-)

そのセリフで言われているところのクィーンも先日崩御され,,,、
と思ったのですが、よく考えたら彼はオランダの軍人。

今調べたところ、この時オランダはヴィルヘルミナ女王の治世下でした。



またしても軽快な東洋風旋律が始まり、日本軍の攻撃が近づいてきました。
当然ですが、艦長の指令各種は全てオランダ語で行われます。

戦争映画でオランダ海軍が出てきたのは初めて見ました。


甲板にもデッキにも人が満載なのに、そこに零戦が襲撃してきました。



子供を連れた母親が銃弾に斃れました。



その時、ウェイン医師が撃たれたという知らせを受け、
ワッセルは急いで彼の元に駆けつけます。

「今すぐ奥さんを呼んでください!」

「なぜ僕の妻を呼ぶの?」(´・ω・`)

「なぜっていい看護師だから」


ウェイン医師の妻が看護師のマデリンであるとワッセルは信じきっています。



え、ウェインの奥さんって・・・・。



「え」

ということは・・・。



「よかった〜!」

「な、妻に何を」(怒)

「いや、お会いできて嬉しくて」

「そうみたいだね(怒)」




しかしその後がよくありません。
マデリンは沈没した「ペーコス号」に乗っていたのです。


その時、視力を失ってやたら耳が鋭くなった彼が、
B-17の編隊の爆音を聞きつけました。



「助かったぞ!」


B-17のつもり。



さて、その後彼らはなんとか無事に帰国の途につきました。

最後の場面は、ワッセル中佐がバスタブで熟睡しているところから
始まるわけですが、どうでもいい逸話が残されています。

このシーンで、ゲイリー・クーパーは、
胸毛を剃って欲しいというスタッフの依頼を拒否
したというのです。

まあ確かに度を越して濃い胸毛ではありますが、
剃ることを拒んだクーパーの気持ちはわからないではありません。
そして剃って欲しいと頼んだスタッフの気持ちは確実にわかります。

そこに、海軍大将が呼んでいる、と伝えにきた士官に彼は、

「なんで呼ばれたのかわかってるよ」

力無く答えました。
なぜなら、ジャワの負傷者脱出を独断で行っていたからです。
軍法会議にかけられるのだろうと思っているわけですね。



しかし全くこの副官(大尉)、顔に表情を出さず何も言わないので、
ついおどおどしてしまい余計なことを喋るワッセル。

「私が愚かだったかな?」

「イエス、サー!」


副官、なぜそこでその返事を?

と、このシーンに来て、わたしは思わず目を疑いました。
映画を通じて彼の袖章を初めてこのシーンで見たわけですが、

ワッセルって少佐じゃないですか〜!

どうりで「コマンダー」と呼ばれていたわけだ。

ルテナント・コマンダーの意味だったのね。
字幕では「司令官」と翻訳されていたのでなんか変だと思っていたの。

ということは、邦題の「ワッセル大佐」って全くの間違い?
いや、これなんとかしようよ。

というわけで当ブログタイトルだけなんとか訂正を試みました。


何を言ってもイエスサーしか言わない無表情の副官。
彼に連れてこられたところは、



ベタ金の大集合。

「お・・・・・・・・」

思わず絶句するワッセル少佐。(わかったからには今後少佐でね)


奥から出てきたのは少将。

「私のしたことについて・・」

「その話をワシントンから聞く」

「わ、ワシントン・・・?」

部屋の奥には国旗の前にラジオがどーんと置かれています。
アメリカでも玉音放送みたいにラジオを拝聴するんですね。



彼が案内されて椅子に座ろうとすると、



自分の名前を大統領が呼ばわったので慌てて途中で立ち上がり。

「飾らない内気な人物だが祖国のために志願し
その後海軍少佐に任命された」


あ、少佐って言ってますね。


ワッセルが振り返ると、そこには見たことある将校が・・・。
ジャワで苦楽を共にした「マーブルヘッド」副長ではありませんか。

あの頃はボロボロだったのに、随分と見違えてご立派に・・・(涙)



彼に助けられた負傷兵たちもラジオ放送を聴いていました。



アンディがカンガルーの仔を抱いているということは、
ここはオーストラリアです。

横にはベッティーナがいました。
ヴァン・ダール大尉が亡くなったので、アンダーソンの横にいるのね。


まだ全員完全に怪我は治っていないようですが。



彼を知るオランダ軍の兵士たちもそれを聞いていました。



同じ時刻、輸送機B 24(たぶん)。



海上から救出された「ペーコス号」乗員を乗せた飛行機でも
大統領のスピーチを聞くことができました。


傷病兵を助けて大統領がスピーチに取り上げられている軍医、
その名前を聞いてマデリンは驚きの表情を浮かべます。


その後アメリカで、ワッセルのネイビークロス授賞式が行われました。



傷病兵軍団、副長なども顔を見せています。
副長は車椅子ですが、その横にはマデリンもいます。

二人は再会し、結ばれたということでよろしいか。



ちなみに、実在のワッセル少佐の海軍十字章の内容は次のとおりです。

「 1942年3月1日、オランダ領東インド、ジャワ島で、敵軍と遭遇し、
敵機の攻撃を受けているとき、担当するアメリカ海軍の負傷者を看護し、
避難させるために、特に功労のあった行為、職務への献身、
自身の生命の安全を顧みぬ勇敢な行為に対してこれを授与する」


ワッセル少佐が観客席に目をやると、負傷兵軍団は
皆彼に向かって微笑んで見せました。

目の見えないクラウスには、ジョンが説明してやっています。
クラウスって下士官だったのね。



そしてワッセルの胸に今輝くネイビークロス。



彼が目をやると、そこにはマデリンの美しい微笑みが・・。



授与者の名前はフランク・ノックス海軍長官です。



クラウスが仲間に訊ねます。

「軍医の様子は?」

「もう最高さ」


映画は兵たちの様子で終わります。



最後に、実在のコリドン・ワッセル少佐の写真を。

ワッセル少佐は見ての通り、1942年当時はすでに58歳でした。
ゲイリー・クーパーのロマンスは何から何まで全くのフィクションです。

ワッセルの叙勲とラジオ放送ありきで制作された映画なので、
各種恋愛模様も、映画のための創作だったのは間違いありません。


それにしても、考えずにいられないのは、
あまりにも不運なホッピーとトレマティーニの二人のこと。

彼らに実際のモデルがいなかったことを祈るばかりです。


終わり。