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夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

奥田英朗『噂の女』

2013年03月04日 | 読書
ハズレがないと全部読んでいる作家の一人。

一人の悪女の生き様を周囲の人間の目を通して描く10個の章からなる小説。
主人公の21歳から27歳までが描かれる。

ヒロインの内面がけして描かれないところ、章と章の間で何が起こったか読者の想像に任せるところは東野圭吾『白夜行』にも通じる。

作品の完成度はさすがだが、作者が『最悪』『無理』などでも描いてきた地方都市(奥田の出身地でもある岐阜が舞台)の閉塞感やしがらみにしばられた不正や狎れ合いが罷り通る現実への痛切な告発が一貫している。

(私の学部は地域の政策などを研究しているので、私は地方都市の問題を抉ったものとして学生に『無理』を読むことを勧めている)

また、ジェンダーの視点からも秀逸である。

ヒロインの短大の同級生のセリフ
「平凡な結婚をして、子供を二人産んで、小さな建売住宅を買って、家事と育児とローンに追われて、田舎の女はそういう人生の船にしか乗れんやん。でも糸井さんは、女の細腕で自分の船を漕ぎ出し、大海原を航行しとるんやもん。金持ちの愛人を一人殺すぐらい、女には正当防衛やと思う」

「世界中どの国でも、女に殺される男の数より、男に殺される女の数の方がはるかに多いやん。やったら方りうもバランスを取るべきやと思う。女が男の百倍殺されとるなら、女が男を殺しても、罪の重さは百分の一やて。」


確かに、地方都市ってこんなに腐っているのかと驚かされる。

①警察は幹部が異動する度に餞別と称して大金を地域から徴集(そのかわりに駐車違反のお目こぼし等がある)
←これは横山秀夫の『64』にも出てきた。

②市営住宅の半分は市役所職員等のコネで決まる。職員の口利き料は10万円。

③公共事業の受注の談合は当たり前

④カルチャースクール・料理教室の講師は親戚の教育委員のコネでしかも親族のスーパーの売れ残りの悪くなった食材を使う。

等々。
これらを登場人物は全員「田舎で生きるということはこういうことだ」と諦めている。
私にはとてもできない。

ヒロインの美幸は、④については直談判して講師を代えさせたり、知り合いの女性を食い逃げした男にヤクザの弟を使ってヤキを入れたり、何より男を食物にする生き方自体が、こうした男中心の腐敗に大きくnoを突きつけているようにも見える。

それが、ほかの悪女ものと一線を画す痛快さになっている。

ただ、短大時代に大きく変貌した彼女だが、そのきっかけに一体何があったのか、出てくると思ったらこなかったのでそこは残念。




ちなみに全部読んでいる(読む方針の)作家は下記

三島由紀夫
笙野頼子
桐野夏生(グロテスク最高)
奥田英朗
角田光代(八日目の蝉最高)
貫井徳郎(乱反射最高)
津村記久子(女性会社員小説の白眉)
群ようこ(無印シリーズ最高)
平安寿子
林真理子(白蓮れんれんを読んでから)
湊かなえ


全部ではないが大体読んでいる
芥川
夏目
川端
鴎外
太宰治

横溝正史(金田一モノと由利モノは全部)
姫野カオルコ(エッセイは全部)
酒井順子
西村賢太(なぜかクセになる)
諏訪哲史(アサッテの人は三島と似た世界観、実際ファンだそうだ)
東野圭吾(玉石混交)
中村うさぎ
岸本葉子(教養の見田ゼミの先輩)
有川浩
伊坂幸太郎
ナンシー関


これから全部読もうかと思っている
中島京子(FUTONがすばらしかった)
奥泉光(桑潟ものは抱腹絶倒、笑いすぎて電車で読めない。シューマンの指はなぜこのミスの一位でなかったか不思議)
横山秀夫(受賞作より、64、震度ゼロがすごい)







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あなたは荒ぶる神だ、そうに違いない。

2013年02月17日 | 読書
ほぼ1年ぶりの更新である。閲覧してくださる人が毎日いるというのがありがたくまた申し訳ない。

吉田敦彦の『日本神話の深層心理』を読んでまた関連妄想してしまったことがあるので書いておく。

大国主神が一緒に国づくりをしていたスクナヒコナ(先日鳴り物入りでスタートして視聴率で大コケしたドラマ『Going My Home』に出てくる妖精クーナはこの神様らしい。是枝監督の『歩いても歩いても』はものすごく良かったのだが。出来の良い長男が命懸けで助けた海で溺れていた少年[これがまた医師だった息子とは比ぶべくもないだめっぽさで救われない]を罰のように毎年命日に来させる母親のやるせなさ、嫁姑のチクチクした喧嘩とか、愚痴とか、ちゃっかりしたきょうだいへの思いとか、けして綺麗事でない人間や家族の営みがリアリティをもって描かれていて最高だった)に去られた後、出雲の国で大物主に出会い、

「あなたはいったい誰なのですか?」と問うと、

「私はあなたの幸魂(さちみたま)・奇魂(くしみたま)だ」と答えた。
国づくりは大物主が助けていたというのである。
(日本書紀)

また、古事記によると、大物主は、大国主神に自分を御諸山に祭れといい、それが現在の三輪山、大神神社である。


これは三島の『豊饒の海』に影響を与えていないだろうか?

三島自身が解説しているように、第一巻『春の雪』は和魂、第二巻『奔馬』は荒魂を描いたものだという。

また、『春の雪』で主人公松枝清顕は、滝で親友本多繁邦から「あなたは荒ぶる神だ、そうに違いない」といわれる不思議な夢を見る。

夢日記に書かれたそれらの夢はすべて実現するが、実際に第二巻『奔馬』で、清顕の生まれ変わりである飯沼勲が大神神社で行われた剣道の御前試合のあと、奥の院に行く途中の滝で水浴びしているところに、大阪控訴院判事の本多が院長の代理で臨席したあと行き合う、というかたちで再現されたのである。


私はこのエピソードが大好きで、2008年、夫と大神神社の奥の院に登り、途中その滝も見た。思ったより小さな滝で、ここで本当に大勢の剣道部員が禊をしたのかと疑うほどだった。結構ハードな登山になったが、三島も登ったと思うと感無量だった。

写真は一切撮ってはいけない(この前後に世界ふしぎ発見でもやったがやはり映像はだめだった)ので、入口の写真をお見せします。

第二巻『奔馬』では、同じ機会に本多は奈良の率川神社の百合祭りにも出て「こんな美しい祭りを見たことはない」という。これも調べて見に行った(会員になると中で見せてくれるので会費を払って会員になった)。

本多は奈良ホテルに泊まったという件があるので、奈良ホテルに行って「三島が泊まったそうですが」と聞いたら、支配人が「こちらは不勉強ですみません。せめてものお詫びに皇族の泊まる特別室をお見せします」といって案内してくれた。


京都、奈良などの名所はほとんど行っているのに、こうやって解説をちゃんと書こうと思うとつい億劫でそのままになってしまうが、少しずつ紹介していきたいと思いますのでよろしくお願いします。


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天地明察 小さいおうち

2011年04月06日 | 読書
134回直木賞候補作および受賞作

天地明察 

天地明察
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)


江戸時代に様々な苦労を経て大和暦を大成し、太陰暦から太陽暦への転換という大事業を成し遂げた渋川春海の生涯を,彼を取り巻く人々とともに描いた作品。

この作品を貫くのは、「知」や「真理」への純粋な探求心と憧憬である。

渋川春海という名前自体、本名である安井算哲という名が、元々代々江戸城で御前碁を打つ家に育ち、優秀な碁打ちでありながら、定石をはみ出すことのできない職務につくものであり、その非創造性に「飽いて」「自分だけの春の海辺がほしい」ということから名乗ったものである。

その「自分だけの春の海辺」を必死で捜し、渋谷の金王神社にある算術の設問と解答を記したたくさんの絵馬を見に行き、その絵馬が風でふれあう、「からん、ころん」という音が、彼の生涯の様々な重大場面で繰り返し出てくる。その音こそが、「知」への憧憬の象徴だからだ。

その絵馬から、和算の大家となる関孝和と出会い、算術の才能から酒井雅楽頭(ちなみに本木雅弘は彼から長男を「雅楽=うた」と名付けた。ちなみに長女は伽羅)とに抜擢され、22歳で北極星観測隊に参加してから、改暦事業に携わるようになり、3度の挫折を経て、ついに、45歳の時、改暦の大事を達成する。

主人公はもちろん、関孝和への出題が誤問と知ってその場で切腹しようとするなど、純粋でまっすぐな性格だが、他の登場人物も、権力にも利害にも関心がなく、学問への純粋な関心だけに突き動かされている愛すべき人たち、とくに、北極星観測隊の隊長建部と伊藤の、儒教社会にもかかわらず、孫のような年齢の春海の計算の正確さを子どものように喜ぶ、純粋さ、その稚気に、思わず本を閉じて落涙した。「学問は長く、人生は短い」という真実に改めて思い至り、それにひきかえ、一応学問を仕事とする自分のいいかげんさが恥ずかしくなった。

学問や真理、知という絶対的なものに仕える同志愛で結ばれている者同士という関係は、授時暦の誤りを検証する自分の研究を無償で提供する(しかも自分の貢献は隠そうとする)関孝和や、碁のライバル本因坊道策、会津藩士安藤との関係にも表れ、現実の世界で利害計算が第一になっている人間関係にまみれた者から見ると、そのすがすがしさはまぶしいくらいだ。

しかし、改暦は学問の純粋さとは対極をなすと思われる政治とはもちろん無縁ではなく、春海自身も、改暦事業に関わる中で、暦を相対化するということが、権威そのものを相対化する危険をはらむものだと看破する。「権威の所在-つまり人々は、徳川幕府というものを絶対的なものとして崇めているわけではないのではないか。帝のおわす京、神々の坐す神宮、仏を尊崇する寺院、五畿七道に配置された藩体制。人々が自由に権威を選ぶ余地はいたるところに残されており、しかもそうした余地は、決して誰にも埋めることのできないものなのではないだろうか。」
暦を幕府の力で正確なものに変えることは、幕府の権威を絶対的なものとするためにも必要だったのだ。

しかし、そうした政治的な思惑ですら、作者の手にかかると、やはり公平無私な企みになる。民の安寧のために武断政治から文治政治への転換が絶対必要、改暦はその第一歩と考える家光の異母弟保科正之の徹底した名君ぶり、数々の善政も、自分の手柄とあっては徳川宗家の恥と自分が関わった書類を焼き捨てる忠義と無私(その徳川家への忠誠という家訓のために、幕末会津藩は朝敵とされ白虎隊などの大きな悲劇に見舞われる)にも泣かされる。水戸光国も大きな役割を果たす。それがきれい事になっていない筆力がすばらしい。

元々暦が自然の脅威をコントロールするためのものだということを想起すると、現在の日本政治家にはぜひ見習ってほしいものだ。

全て、歴史の転換点にあって、個人の利益でなく、自らの果たすべき役割だけに集中しようとする人々の姿が、読者に清冽な印象を与えるのだ。

また、主人公のえんとの関係も、甘いばかりの恋愛でなく、えんの自律した女性ぶりも共感できる。

久しぶりに読書の楽しさをどっぷりと堪能させてくれた作品。

『小さいおうち』も悪くはなかったが、なぜ少なくともこの作品が直木賞を同時受賞しなかったのかが不思議でならない。

受賞作 小さいおうち

小さいおうち
中島 京子
文藝春秋


これは純愛の物語である。

ただし、それを板倉にとって生涯を捧げる純愛たらしめたのは、彼の悲惨な戦争体験である。
それが饒舌に語られることがないだけに、タキの描く「小さいおうち」でののどかな暮らしとの対比でいっそう戦争の恐ろしさが読者の心に迫る。

巧みな構成、筆力の秀作である。

表紙の装画はネタバレになっています。読後じっくり見るとわかりますよ。この装画も作品の重要な一部なので、文庫版になっても使ってほしいですね。

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優しいおとな 桐野夏生

2011年03月18日 | 読書
みずほ銀行がずっとシステム障害でATMはもちろん、ネットバンキングもできず、困っている。

他の都銀にはそういう問題が起きていないのに。

三行が統合するときに、最も高性能だった富士銀行のシステムを中心にすることで話が進んでいたのに、三行の勢力の均衡のために、途中でDKB系のものに急遽変更したつけが、2002年4月の統合完成時に続いて起きてしまった。

「どうしてそんなことを?」と当時疑問に思ったが、銀行の上司からは、「勢力が偏るということは、統合に伴う人員整理などについてもうちが譲歩しなければならない、ということにつながる。みんなを守るために仕方ないことなんだ」と説明された。

実際に徐々に進められていた統合プロセスでは、管理職のポストが全部3の倍数になっていて、「これで生き残れるのか?」と不安になったことも、2001年2月、夫の海外転勤の際に、(主とした理由は香港大学の大学院の中国法専修コースに魅力を感じたことだが)、思い切って銀行を辞めた原因のひとつだった。

それにしても、HPを見ても、たとえば、自動引き落としはできるのか(できなくてクレジットカードの決済ができなかったら、ブラックリストに載せられてしまうではないか)、といった情報がないし、昨日の情報のままでアップデートされていないなど、利用者に対して説明責任を果たしていない。

せっかくの義援金が届けられなかったり、急激な円高で動いている外為市場のこともあったり、社会的責任は大きい。



優しいおとな
桐野 夏生
中央公論新社


桐野夏生の作品は(少女小説時代のものを除いて)全部読むことにしている。


社会が荒廃し、街ににホームレスがあふれる近未来の東京で、施設を脱走した後、自分の出自につながる『鉄』と『銅』の双子を捜しながらさまよう15歳の少年、イオンを描いた作品。

ホームレスは公園村、アンダーグラウンド、川人と様々なコミュニティを構成して生きている。イオンはそのどれも経験することになるが、それぞれの社会や人物造形にリアリティがあるのがさすが。

以下、ネタバレ注意

イオンの施設での体験がどのようなものであったのかの謎解きが縦糸になっているのだが、それに関連して、大きなテーマとして、「真の平等」の実現可能性というテーマを扱っている。

「人間の究極の平等を考え」、真っ暗な地下が一番平等だからという理由で地下に住む、「環境ですらも不平等を生んでいる社会に対して抗議する、真の正しい人間たち」闇人や、

先鋭的なフェミニストが主宰する、子供の差別の温床を撤廃するために、大人と子供が、親子関係の有無と関係なく共同生活する施設「照葉」、

両方とも、「原理的な平等主義」を標榜し、コミューンの実現を目指している。

それらが本当に成功し、関わった人間を幸福にしているのか、という重く大きなテーマを、せっかく扱っているのに、それが今ひとつ掘り下げられていないのが残念だ。

ただ、スカイエマのカラーの挿画が多用され、少年の目線から物語を紡ぐことを強く前面に押し出しているなど、新境地を開拓しようとしている点は、ファンなら必読。


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きことわ・苦役列車

2011年03月09日 | 読書
きことわ

7歳年の離れた幼なじみの永遠子と貴子、永遠子は貴子の母が弟と貴子と夏の間しばしば滞在した葉山の別荘の管理人の娘であり、貴子の遊び相手として毎夏親しく過ごしたが、心臓疾患をもつ貴子の母が急死して以来、別荘に行くこともなくなり、25年間会っていなかった。その別荘が手放されることになり、骨折した母に代わって,40歳になった永遠子が貴子と打ち合わせもかねて25年ぶりに再会する話。

時間と空間が自在に移動し、二人の女性それぞれの人生が描かれるが、文体がゆったりとした独特なリズムをもっている。

「ひとびと」とか、「うごかす」「こわす」というように、意識してひらがなが多用されている。「可笑しい」「揺らぐ」は漢字なのでかなり独特で、それはそれで作家のこだわりなのだろうが、「むつかせる」という明らかなら抜き言葉の文法ミスは作家としてどうかと思った。

純文学の雰囲気はもっているが、中身についてはとくに感心することはなかった。

和雄の姉に対する兄弟愛を超えた思いをもう少し描けば(抑制を効かせたつもりかもしれないが、食い足りない)違っていたかもしれない。


苦役列車

ひたすら自堕落な生活を描いた私小説。

悪を気取って実は小心者であり、また、家賃を踏み倒すとか、友達に借りた金を返さないとか、家族にたかるとか、スケールの小さい悪で、ただの迷惑な生活破綻者の暮らしぶりを描かれても少しも共感するところはない。

悪というなら、世の中の仕組に異議申立するくらいの気概でやれよ。


それでいて、プライドだけは異常に高いというのも反感しか覚えない。

そうした人間としての欠点も、それゆえにすばらしい芸術作品を生み出しているなら納得できるが、小説の出来もそれほどでもない、とすると、読んでいて不快になるだけである。


芥川賞受賞作品は最近全部読んでいるけれど、これはという作品はない。

すごいと感心する作品は『アサッテの人』以降、ないのが残念だ。




きことわ
朝吹 真理子
新潮社



苦役列車
西村 賢太
新潮社

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NANA 花より男子

2008年09月27日 | 読書
話題のマンガ2作品について

NANA

矢沢あいのマンガ「NANA」のすばらしいところは、全く違う生き方をする女性同士が深い友情で結ばれるというテーマだ。

大崎ナナは自立した女性。

母に捨てられたため、祖母に育てられ、援助交際の噂をたてられて高校を中退したという暗い生い立ちを持つ彼女は、地元北海道でのバンド活動とメンバーの蓮との恋(そのため腕に蓮の花の刺青を入れるほど)に生きがいを見出し、メジャーデビューを目指していた。

しかし、蓮だけがギターの腕を買われて違うバンドのメンバーとして東京でメジャーデビューすることになり、二人は泣く泣く別れる。

恋人の成功に伴い、共に上京するという手段も十分ありだと思うし、現実の芸能界を見てもそうするケースが殆どだと思うのだが、ナナは、「ただ蓮についていくことなどできない。自分も音楽で成功して蓮と対等のミュージシャンになる以外に蓮と添うことは考えられない。」といって、訣別するのである。その潔さには感動する。

そして蓮のバンド・トラネスは大スターになる。

それに対して、小松奈々は、自分というもののない女性である。

東京の美大で学ぶ恋人を頼って、就職や住むところの目途も全くない状態で北関東の実家から、東京に出てくる。

その車中で、バンド・ブラストの拠点を東京に移そうとするナナと知り合うのである。
偶然は重なり、二人は部屋探しの途中で再会、ともに同じ物件を気に入ったことから、ルームメイトになることになる。

奈々は美大の彼に振られ、バイトをやっても長続きしない(コピー取りすら満足にできない)、その場その場で流される生き方で、読者もいらいらさせられるし、親友の順子にも「あの子の相手は疲れるよね」といわれるくらいだ。

その挙句、かねてからファンであったトラネスのメンバー巧とただのグルーピーのように関係をもち、その直後に、ブラストのメンバー・ノブに告白され交際するこ
とにし、なんとどちらの子かわからないような妊娠をする。

むろん、美点もあって、「蓮には二度と会わない」と意地を張り通していたナナが蓮と再会するお膳立てをしてあげたりもする。

しかし、普通ならこれだけ生き方を異にする女性同士が親友になることなどないと思うのだが、男との愛情よりも強い絆を二人は結び合うのである。どちらかというとナナの方が奈々に依存しているようにすらみえる。

生き方が全然違う女性がわかりあうというテーマは昔からいいと思っていた。

いわゆるトレンディ・ドラマといわれるものの中で、私が一番名作だと思うのは、1992年、水橋文美江脚本の「さよならをもう一度」である。(私はアメリカ留学中だったが、日本食品店でビデオを借りてみていたのだ。)

ニュースキャスター・秋吉久美子がかつての恋人の医師・石田純一と再会するというドラマだが、その婚約者で上司の娘・石田ゆり子が秋吉に「私みたいに、男性に頼る生き方をあなたは軽蔑するでしょう?」というと、秋吉が「いいえ。男が全てって生き方、私はとっても潔いと思うわ。」という場面が忘れられない。

矢沢あいがデビューした1985年当時、私はりぼんを毎号買っていたので(小学生の一時期毎月買っていたのだが、その後は全くご無沙汰だったが、法学部に進学した頃無性に読みたくなって再開したのである。)、見ていたが、こんな名作を描ける作家と思わなかった。
(矢沢はファンである矢沢永吉からとっているそうだ)

「マリン・ブルーの風に抱かれて」も大甘の凡庸な恋愛ドラマでちっともいいと思わなかったのだが。

ちなみに、同時期にデビューしたさくらももこの「ちびまる子ちゃん」もはじめから読んでいた。連載2年目に入るとき、「まる子の年齢は変わりません。サザエさん方式を採用しました」と書いてあったのには笑った。

NANA―ナナ― 1-21巻 セット (りぼんマスコットコミックス―クッキー)
矢沢 あい
集英社
NANA -ナナ- スタンダード・エディション [DVD]
中島美嘉,宮崎あおい,成宮寛貴,松山ケンイチ,平岡祐太
東宝


NANA 2 Special Edition [DVD]
大谷健太郎,矢沢あい
東宝




映画も「ナナ」「ナナ2」両方見たが、なかなか原作に忠実だった。

しかし、ブラストの成功に伴ってマスコミがナナの実母をつきとめたりするというような暗雲が原作には漂っていて未完結なのに、2の方を「完結編」などといってしまってよいのか。

ナナ役の中島美嘉はまるであて書きしたみたいにぴったりだ(余談だが彼女ってメーテルに似てると思いません?)。
奈々の恋人(平岡祐太)をとってしまうバイト仲間の役はサエコだったが、遅番のバイトの後、終電に乗ろうとして駅の階段を駆け上がるとき、サエコが厚底ブーツでつまずいて転んでしまい、終電を逃してしまう。平岡が「こんな靴履いてこなくても」というと、「わざとよ」といい、その夜二人は結ばれてしまうのだ。(原作通り)
サエコがダルビッシュと婚約した際、交際していた小出恵介から乗り換えたとか、計算高いとか悪口をかかれていたが、その片鱗を覗かせる名演技であった。

「花より男子」

はじめは、つくしは花沢類に魅かれ、類の魅力がかなり丁寧に描かれているのだが、後に天敵だった道明寺司と結ばれる。

原作を読んで、はじめ、「作者は途中で構想を変更したのかな」と思うのだが、よく考えると、道明寺と結ばれるのは最初からの既定路線だな、と思い至る。

というのも、「花より団子」とは、「花」沢類より道明寺(桜餅の別名ですね)の方がいいというテーマを暗示しているからだ。
また、主人公が和菓子屋さんでアルバイトしていること、道明寺の司という名も、和菓子屋がよく「和菓子司」を店名にしていることも関係あるのでは?

でも、やっぱり花沢類の方が人間的に魅力的だと思う。

映画版は内田有紀主演で、道明寺が谷原章介、類が藤木直人(谷原と藤木はこれでデビュー)。

花より男子 [DVD]
神尾葉子
キングレコード



ドラマは井上真央、道明寺が松本潤、類が小栗旬(小栗はこれで大ブレーク。「GTO」にも気の弱い高校生役で出ていたが、同作品で窪塚洋介や池内博之がメジャーになったのに比べて、殆ど注目されなかった。なお、やはりブレーク前の藤木直人も鬼塚の友達の警察官役で出演していた)。

花より男子DVD-BOX
神尾葉子
TCエンタテインメント


しかし、道明寺財閥だけでなく、一条ゆかりの「有閑倶楽部」の剣菱財閥なんかもそうなんだが、マンガでは「○○財閥」っていうのが桁外れの金持ちの記号としてよく出てくるけど、戦後解体されて以来、「財閥」というものは少なくとも表向きはないのだということを編集者は指摘しないのだろうか。

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ホルモー六景

2008年09月15日 | 読書
本ブログでも私の血中京都大好き濃度を高めた作品と紹介した、京大法学部出身・万城目学の「鴨川ホルモー」の外伝となる6篇を集めた作品で、非常に面白かった。前作だけでなく、後で触れる「鹿男あをによし」との関連や、プロローグがうまい伏線になっているのも、梶井基次郎やクラーク博士まで登場する縦横無尽さも作品に無理なく生かされていることも、ポイントが高い。また、ホルモーはどうやら京都だけのものではないとわかるのも、さらなる続編への期待を高める。


ホルモー六景 (角川文庫)
万城目 学
角川書店(角川グループパブリッシング)



同じ作家の「鹿男あをによし」は去年ドラマ化されたが、主筋とは全く別に、明らかな「坊ちゃん」へのオマージュ作品になっている。

鹿男あをによし (幻冬舎文庫)
万城目 学
幻冬舎
ホルモー六景 (角川文庫)
万城目 学
角川書店(角川グループパブリッシング)


東京から奈良の女子高に赴任する教師が主人公、悪役の教頭は赤シャツ(だからドラマで児玉清はいつもピンクのワイシャツをスーツの下に来ていた)で、協力する同志は堀田という女子生徒、同系列の京都校にはマドンナ(ドラマでは柴本幸)がおり、主人公は奈良公園で鹿せんべいを齧ってみた翌日黒板に「鹿せんべい、そんなにうまいか」と落書きされたりする。

マドンナは「坊ちゃん」では野太鼓であった美術教師(佐々木蔵之助)と結ばれるというのがちょっと違うが。

また、京都校の先生が長岡先生、大阪校の先生が南場先生というのも面白い。

小林信彦の「うらなり」もそうだが、このように、本歌取りができるのは、本歌の内容がよほど人口に膾炙しているからである。若い人の読書離れでそういう作品が減っていくのが淋しい。

中村吉右衛門も、小さいときに祖父の養子(先代吉右衛門の娘である母親がが先代幸四郎との結婚を「家が絶える」と父に反対されたところ、「私は必ず男の子を二人生んでひとりをこちらの後継ぎにします」と約束してその通りになったそうだ)になり、ぐれかけていたのを「坊ちゃんの清のようなばあやが献身的に可愛がってくれたおかげで、今日の自分がある」といっている。


ドラマ化の際、原作では男だった「かりんとう」こと藤原先生を女にして綾瀬はるかに演じさせたのはちょっと違和感があったけれど、1クールもたせるには主人公の恋愛も描くという工夫も必要だったのか、と終わってみれば納得。


鹿男あをによし DVD-BOX ディレクターズカット完全版
玉木 宏,綾瀬はるか,多部未華子,佐々木蔵之介,児玉清
ポニーキャニオン


小説やマンガを原作にしてドラマ化する際、登場人物の性別を変えるということは、割とよくあることで、その嚆矢が「カバチタレ」。両方男だった主人公を二人の女性に変え、女性としての生き方まで考えさせるという大森美香の脚本はすばらしい。法律ドラマとしてもよくできているので、とくに心裡留保の説明のために、大学の講義でも学生に見せたりしている。常盤貴子の弟役の当時10代前半だった山下智久も初々しい(ジャニーズの中で顔が美しいと思うのは彼だけである。)

大森美香は「君はペット」もすばらしかったが、何かで脚本賞をもらった「不機嫌なジーン」はオリジナル作品。ともに理系の研究者である主人公の竹内結子が恋人の内野聖陽と再会を約して別れるとき、「絶対戻ってきてね。材木が倒れてきて死んじゃうとかいうのはなしにしてよ」というのに笑った。

堤真一が初めて民放連続ドラマに出た1996年の「ピュア」(最近太郎次郎の太郎と結婚した栗原美和子プロデュース、龍居由佳里脚本)で、イデオサヴァン症候群の和久井映見と一匹狼の孤独なフリー記者の堤真一が心を通わすというドラマだが、視聴者としては、「結ばれたとしても障害を乗り越えられるのか」と不安になったところ、和久井のもとに急ぎ向かおうとする堤が走っていて倒れてきた材木の下敷きになって死ぬというあまりにも安易なオチだったことを、大森は皮肉っているわけである。

「弁護士のくず」でも、主人公に振り回される新人弁護士をドラマ化の際女性から男性(伊藤英明)に変えていたが、これも成功例だろう。

「ガリレオ」については、原作では湯川学(福山雅治)に相談する同窓の刑事は男性だが、ドラマではその草薙刑事(北村一輝)は湯川のおかげで本庁に栄転するので、彼が所轄の女性刑事・内海薫(柴崎コウ・原作にはないキャラクター)に湯川を紹介し、男女のコンビができるという変更が行われていた。これは、はじめは反発していた内海がだんだん湯川に惹かれていくという展開を可能にするため。

しかし、原作では湯川はこんな変人ではない。それはそれで面白かったのだが、ドラマで最も気になったのは、准教授が研究室のトップになっているということだ。理系は多くの大学で講座制を採用し、教授の名を冠した研究室になっており、ナンバー2たる准教授がひとりいて、あとは講師、助教、助手、ポスドク研究生、院生、学部生と、厳しい序列・徒弟制度の世界だ。准教授が研究室を主宰しているということはないと思うのだが。(ドラマのように助手が准教授より年上ということは稀にはある。しかし、ポスドク研究生が助教のみならず准教授より年上というのはかなり悲惨なケースであろう)

直木賞作品「容疑者Xの献身」(私は「白夜行」で受賞すべきだったと思う)の映画化ではキーマンを堤真一が演じるとのこと、「続三丁目の夕陽」「クライマーズハイ」、クサナギ君が主演してた映画に続き、舞台の合間にどんだけ映画に出るのかと感心するが、その登場人物はおよそ女性にもてない男性という設定なので少し複雑である。

しかし、数学者という役柄は堤真一大ブレークのきっかけとなった「やまとなでしこ」(2000年)と同じだ。「愛は、年収」というキャッチフレーズのこのドラマは財力のみで男を選ぶCA・松嶋菜々子が貧しい魚屋(後に米国の大学講師)・堤真一と結ばれるという筋書きだが、ヒロインの計算高さと相手役の数学者という役柄が符牒になっている。当時も不思議だったが、一度は研究者になるのを諦めて魚屋になった者に教授(柴俊夫)が米国の講師の口を世話するかという点が、大学教員になった今いっそう疑問である。いくらでも研究室に就職を世話しなければならない院生やポスドクがいるだろうに。

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附属高校120周年

2008年09月15日 | 読書
私の母校、筑波大附属高校から、行事などの知らせが来た。

出身大学よりこちらの方に思い入れがあるので、東京のマンションもそのすぐ近くに買った。東京の下町・葛飾区の中学を卒業して附属に入ったときのカルチャーショックは、附属の大先輩の小林信彦の「日本橋バビロン」の以下の一節に深く共感するほどの、いや、それ以上のものであった。

「春日町めがけて都電がぐっと下ってゆく時、私は軽いうつ状態になった。うつ状態などという言葉は知らなかったが、自分が落ちてゆく気分はいやなものであった。
 はっきりいえば、自分が山の手の<文化的環境>から、下町という<非文化的な環境>に吸い込まれてゆくことへの抵抗感である。
 私の学校名は東京高師付属高校から新教育大学附属高校にかわっており、焼け跡に建てた二階建ての校舎で授業を受けていたが、生徒たちの交す会話はユーモラスで、シニカルで、二、三代かけなければ涌いてこないものだった。-自分の不幸を生な形で語らないこの気風が私に合っていた。下町はそうではない。生な不幸が続いていた」

小林信彦は下町といっても現在の中央区東日本橋出身である。その小林でさえこうだったのだから、隅田川も荒川も越えた外つ国に住んでいた私には同級生たちはまぶしいばかりで、そのコンプレックスは今も続いているのである。

日本橋バビロン
小林 信彦
文藝春秋



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反転 -闇社会の守護神と呼ばれてー

2007年10月25日 | 読書
反転―闇社会の守護神と呼ばれて (幻冬舎アウトロー文庫)
田中 森一
幻冬舎
田中森一の標題の著書を読んだ。

まず、バブル前後の政財界をめぐる事件の真相や裏側が赤裸々に描かれているのが、臨場感があって大変面白かった。
1987年にバブルの恩恵を最大限に受けた信託銀行に入社した私も、渦中で経験していたことだったので。

また、特捜検事の仕事のノウハウが、裏をかくことにより、そのまま裏社会の依頼人のために使えるということも非常に面白かった。しかし、人間である以上、価値判断に従って動くべきで、その法知識を、どちらのために使うかということは重大な問題である。

実は、田中氏をモデルにしたかのようなドラマ「ある日、嵐のように」を2001年にNHKでやっていて(マキノノゾミ脚本)、佐藤浩市が、辣腕特捜検事から裏社会の代理人弁護士に転じるという設定だったし、香川照之(前はこんな役ばっかりだったのよね)が、転落するIT社長を演じていて、ホリエモン事件を予言していてすごいなと最近の再放送を見て思ったのだが。

ヤクザと警察は紙一重というが、実際、その論理は、寄って立つ基盤が法かそうでないかだけで、大して違いはないのかもしれない。

とくに、組織の論理が絶対で、仁義をきるとか、筋を通すとか、裏切り者は許さないとか、そういうことは共通している。

田中氏が弁護士になってからしたことは、もちろん非難に値することもあるだろうが、摘発されたのが、検察出身でありながら検察の裏をかき、妨害することへのっ見せしめという要素があるならば、それは、正義よりも組織の論理を優先することになり,
やはり、法の番人として、あるべき姿ではないと思う。

上告審の行方を注視したい。

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品格とは

2007年10月16日 | 読書
女性の品格 (PHP新書)
坂東 眞理子
PHP研究所
ベストセラーになっているので一応、『女性の品格』を読んだ。

72ページに、

「流行を取り入れた服は質がよくて長く着れそうでも、デザインは必ず古くなって十年二十年と着ることはできません。」

まちがいなく、ら抜き言葉は品格がない。
他人に「品格」を説く本にこういう間違いがあること自体が、胡散臭さをよく表している。

大体、フェミニスト的には「女性の」と区別すること自体が噴飯ものである。

男性ならよくて女性なら品格がないなどということを認めること自体、一応ジェンダーに携わっている人間のくせに到底許しがたいことである。

著者はこんな人だと思わなかったので正直ショックだった。

前の前の内閣で「男女共同参画・少子化」問題担当大臣に猪口邦子がなったときも、不適格だと思った(もうやめたからいいけど)。
というのも、あの人は、夫のことを公的な文章で「主人」と抵抗なく書くし、ジェンダーバイアスに基づいた役割分担をしていることを平気で日経新聞のコラムに書いていたからだ。

いわく、「子供が小さいうちは、自分は外での交際を諦め、専ら家で主人の内外からの客をもてなすことに専念していた。しかし、子供が大きくなって、主人が『邦子もそろそろ外に出たら』といってくれたので、国連軍縮大使を引き受けたのである」

女性の中でもキャリアを持って活躍している人が、ジェンダーバイアスに鈍感であることを、日経新聞の夕刊という媒体で堂々と示すことが、どれだけ有害かわからないのか、と憤った。そんな人に男女共同参画などできるわけないのである。


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読書記録

2007年09月25日 | 読書
吉原手引草 (幻冬舎文庫)松井 今朝子幻冬舎八日目の蝉

犯罪者を主人公にしており、一瞬桐野夏生を思い出した。角田光代はこれで新境地を開拓したのではないだろうか。
人物の描写がすばらしく、とくに主人公の親友の「正しいのに心の温かい人」という理想的な人物像をごく自然に描いていた。

八日目の蝉 (中公文庫)
角田 光代
中央公論新社



悪人

吉田修一のほかのものとはだいぶ違う。大岡昇平の「事件」を思い出させるような、ごく普通の人間が犯罪の加害者や被害者になる過程を描いて静かな感動を呼ぶ。
あまりにリアリティがあるので、実際に起きた事件のルポルタージュかと思ったほどである。



悪人
吉田 修一
朝日新聞社



沈底魚

本年江戸川乱歩賞受賞作。本賞には珍しく公安やスパイを扱っている。
この頃かなり受賞作の質が低迷していた中ではいいほうだと思うが、次回作もぜひ読みたいと思うほどではない。
ただし、女性のキャリア理事官や主人公の同僚警察官の妻の描き方が、女性特有の性質を見事なほど全く出さず、フェミニスト的には絶賛ものだった。

沈底魚 (講談社文庫)
曽根 圭介
講談社



奥田英朗

「サウスバウンド」がトヨエツで映画化されるらしい。はじめは生活能力のない能書きばかりの全共闘崩れの父親に反感をもったが、だんだんその生き方がすばらしく見えてきて最後は落涙。
「家日和」「マドンナ」等も、どうしてこの人はこんなにサラリーマンの気持ちがわかるのか?と不思議に思うほど、面白い。


サウス・バウンド
奥田 英朗
角川書店



万城目学
「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」を読んだ。
森見登美彦に続いて、またも私の京都大好き指数を極大化してくれた作品。

こちらはモリミーと同じ京大だが、法学部卒。
文系らしく、京都・奈良の歴史を踏まえた作品で、モリミーとはまた違った面白さがある。「鹿男」の方は、理系の研究者が教授に進められて高校教師になるという設定がドラマ「高校教師」と同じなのだがその後の展開は全然違う。

モリミーは、トップランナーに出るというので、観覧希望を出したのだがだめだった。質問欄に「京都の歴史を踏まえた作品を書く予定はないのですか?」などとかいてしまったからいけないのかな。

モリミー作品に出てくる法学部卒の友人のモデルになった人は新司法試験に受かったそうである。

東野圭吾

「使命と魂のリミット」「夜明けの街で」どうも、この頃、すぐに先が読めてつまらない。
10月から月9でガリレオ(福山雅治)をやるのが楽しみではあるのだが。

じゃあ、加賀刑事が出るシリーズもやらないかな?

吉原手引草

松井今朝子 吉原で失踪した花形花魁の事件について、さまざまな関係者が語り、最後にあっという種明かしがある。一度も語ることはない花魁本人の魅力的な人物像が多くの他人の話でいきいきと表現されるのは作者の筆力だと思う。


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桐野夏生『メタボラ』(ネタばれあり)と『ハケンの品格』

2007年07月22日 | 読書
『メタボラ』という表題についての説明は小説の中ではないのだが、代わりは掃いて捨てるほどいるとばかりに使い捨てにされる若者を「代謝」という言葉で表しているのだろう。

ワーキングプアの問題をこれほど生々しくえぐった文学作品はないという意味で、優れた社会派小説である。

家庭の事情で大学を中退せざるを得なかった若者が、派遣社員として企業に搾取されぬき生きる希望すら失い(この辺の描写が具体的かつリアリティにあふれている)、ネットの集団自殺を図った沖縄で記憶喪失になり、そこでフリーターの男と出会い、新たな希望と絶望を体験する。
ユートピアとして内地からの移住者も多い沖縄のきれいごとではすまない現状も冷徹な視線で描かれ、日本で二番目に沖縄が好き(一番好きなのは京都だが。沖縄には3年に2度くらいのペースで行っている)な場所の事情もわかった。

ワーキングプアの問題は、企業に都合よく利用されていることが大きく、本人のせいばかりではないのだということがよくわかった。

2つ前のエントリーで書いた専業主婦優遇の問題も関係している。

パートで働いても夫の扶養家族というステータスを失うと却って経済的に損なので、年収103万円を超えないように調整するので、自給が安くてもいい。
そのことが、パートタイム職員一般の自給を押し下げ、非正規労働だけで生活するのを困難にするのだ。

銀行に勤めていたとき、その方が企業の都合にいいからだとよくわかった。
103万円以内で働きたい主婦を使えば、同じ仕事をやらせても正社員の一般職よりコストは3分の1くらいですむ(社会保険の使用者負担もないから)のだ。
それでも、1999年に派遣業法が改悪されるまでは、「専門職」(といってもファイリングという抜け道があったが)しか派遣で雇えなかったのだが、改悪されて拡大され、部署によっては正社員の一般職よりこういう派遣職員の方が多かった。

銀行は、グループ内に派遣業をやる会社を作り、そこに主婦を登録させて銀行に派遣させるというのが常套手段(私が退職してからも「女」の退職者ということで、その手のお誘いの手紙が今だに来る)で、制服も、たとえば、正社員の襟が左右対称なら、派遣スタッフの制服はちょっと左にずれているという微妙な違いがあるだけ。

逆に一般職には優秀な者だけ「主任」という肩書を与え、そうでない者は配置換えにしたりする。

商社なんかは、一般職に総合職になるか派遣職員になるか二者択一をさせる(安い派遣職員で代替できる一般職の仕事に高い給料を払いたくないのがみえみえ)なんてひどいところもあった。

メタボラ
桐野 夏生
朝日新聞社



派遣労働といえば、『ハケンの品格』。
エンターテインメントとしては面白いが、リアリティの面では全く評価できなかった。
まず、毎回、助産師など、会社員の仕事とは関係のない資格が必要なトラブルが発生し、篠原涼子がそれを生かして会社のピンチを救うというのが、ありえない。

それよりもっと問題なのは、日本の企業で「仕事ができる」ということの定義がまるでわかっていないということだ。
学校時代は、成績という可視的、定量的なもので評価されるが、日本の企業というところはそうではない。
最低限の基礎学力や仕事をする上での専門知識は必要だが、本当に「仕事ができる」というためには、それ以外の定量化できない、目に見えない、「調整力」「指導力」「協調性」というものが最重要なのだ。そしてそういうものにはマニュアルも教科書もない。

私は典型的な学校秀才にすぎなかったから、この「勉強ができる」ことと「仕事ができる」こととの間にある大きな溝に歯噛みする毎日だった。
留学させてもらったのだからそれでも評価してもらっていたのかもしれないが、自分が管理職に向かないのは十分わかっている。

とくに、文系社員の出世は中間管理職以上になると「管理能力」にかかってくる。
「理系の人は研究職という逃げ道があっていいな」とか、「学校の先生はできる人でもあえて生涯現役でいたいとかいって校長試験を受けないといういいわけがあっていいな」なんて思ったりしたものだ。

だから、春子のような人間は、技術があっても「仕事ができる」人間とは、日本の企業では絶対にみなされないので、「出世」はできない。
だから、正社員になったりしたら、「私はどうしてこんなに仕事ができるのに出世できないの?」と苦しむのに決まっている。だから、どんなに誘われても正社員にならずハケンを貫くのは自分のプライドのためなのだ。


ハケンの品格 DVD-BOX
篠原涼子.加藤あい.小泉孝太郎.大泉洋
バップ

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最近読んだ本

2007年06月08日 | 読書
話題になった本を図書館で借りて読んでいたら、本屋大賞を大体網羅していることがわかったので、少し感想を書く。(ネタばれあります)

小説は、移動中(主に大学のある町と東京の往復)と寝る前の数十分(一日の仕事を終え、好きな本をもってベッドに入るときの至福感といったら…)だけしか読まないと決めているので、銀行員時代よりは読書量が減った。

大賞『一瞬の風になれ』著/佐藤 多佳子(講談社)

これはさすがの大学周辺の図書館でもまだ順番が回ってこないので未読。

2位『夜は短し歩けよ乙女』 著/森見 登美彦(角川書店)

ブログで既に書いた。
その後森見氏の著作は全部読んだが、とくに『四畳神話大系』が抜群に良かった。

私の血中京都大好き濃度を極大化させてくれた作家である。
でも彼のブログを読むとsmokerらしく残念。

どの著作か忘れたが「野暮用」を「藪用」と表記しているのがあった。編集者チェックしようね。

3位 『風が強く吹いている』 著/三浦 しをん(新潮社)

直木賞受賞作『まほろ街…』はちょっとあざとくてあまり好きになれなかったので期待していなかったのだが、すごく良かった。
一見非現実的な設定なのに、説得力をもって長編をさわやかな感動とともに読み切れてしまう。
一作を読んで作家を判断するのはもったいないな、と思い直した次第。

風が強く吹いている (新潮文庫 み 34-8)
三浦 しをん
新潮社



4位『終末のフール』    著/伊坂 幸太郎(集英社)

本来なら終末がくることが発覚するまでがすごいドラマだろうにそこはあえて省略し、その後の人々のありように焦点を当てている潔さが成功している。

終末のフール (集英社文庫)
伊坂 幸太郎
集英社




5位 『図書館戦争』     著/有川 浩(メディアワークス)

これも気に入って、『内乱』『危機』と全部読んだ。
図書館が出版の自由を守るために自衛隊並みに戦闘組織になっているという一見荒唐無稽な設定だが、組織のあり方、研修の仕組など、ディテールがきちんと描かれているために説得力がある。
各人物の造型もすばらしい(ただ、主人公が王子様の顔を覚えていないのは絶対おかしいが)。主人公の親友柴崎は実際に柴崎コウに当て書きしているのではないか。物語自体の面白さが読書への愛というテーマに貫かれているのも良い。
次回で完結というのがさびしい。


図書館戦争
有川 浩
メディアワークス



6位 『鴨川ホルモー』    著/万城目 学(産業編集センター)

これもまだリクエスト中。


7位『ミーナの行進』    著/小川 洋子(中央公論新社)

これも話題になった『博士の愛した数式』より良かった。
高速バスの中で読みながら泣いちゃった。
でも、ミーナのその後はわからない方が、神秘的なミーナ像を壊さずにすんでよかったような気がするのだが、いかがなもんだろうか。

ミーナの行進 (中公文庫)
小川 洋子
中央公論新社



8位『陰日向に咲く』    著/劇団ひとり(幻冬舎)

処女作とは思えないほどうまい。すごい才能だと思う。
劇団ひとりは、お笑い番組を見ない私が、『電車男』のオタク演技がうまくて注目していたが、LIFE カードのネットCMもすごく面白いのでぜひ見てください。

でも、顔立ちはノーブルだし、両親が日航パイロットと客室乗務員でアラスカ(昔はアンカレッジ経由だったもんね)で育ったという育ちのよさがそこはかとなく表れているし、大好きである。

『純情きらり』を朝ドラを初めてリアルタイムで見たのもひとえに劇団ひとりが出ているからだ。
見てすぐに冬吾のモデルは太宰治とわかったので、原作津島佑子の『火の山ー山猿記』を読んだが、やっぱりかなり原作と違う。
桜子の弟でアメリカに住む老人が書いた覚書をフランス人の義理の孫が読むという設定は秀逸だが、国際連盟をUnited Nationsと何度も連呼するのは誤りだ。どうして編集者は指摘しないのか。
冬吾の死に方もちょっときれいごと過ぎやしないかい。

陰日向に咲く (幻冬舎文庫)
劇団ひとり
幻冬舎



9位 『失われた町』     著/三崎 亜記(集英社)

これも、本来は町が失われるということがわかるまでの過程の方がドラマになりそうなのに、あえてそれは描いていないところ、つまり人々が諦めて受け入れるところからスタートしているところが、『終末のフール』と似ている。

絶望的な設定の中に、結末わずかな光が差し込むまでのエピソードの積み重ねが丁寧でよい。


失われた町 (集英社文庫)
三崎 亜記
集英社


10位 『名もなき毒』     著/宮部 みゆき(幻冬舎)

やはりベストセラーになった『誰か』の続編である。

フェミニストとしては、やっぱり気になるのが、大企業のトップの掌中の珠である婚外子と結婚し、義父の命令でそれまで勤めていた出版社を辞めて社内報作成部署に勤める主人公の鬱屈である。
周りから「逆玉」扱いされる苦しみは、男女が逆だったらありえないのに、と本当にフェミニストとして怒りを感じる。
ただ、どう考えてもこのように苦しい立場に追いやるのは、思慮深い義父らしくなく、実は義父が娘を奪われた復讐をしているのではないかと勘ぐりたくなる。

このシリーズいつまで続くかわからないけど、最後は、主人公がこの鬱屈ゆえに殺人者になるという落ちなのではないかとうそ寒くなるのである。

名もなき毒
宮部 みゆき
幻冬舎




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東大生の京大生に対するコンプレックス

2007年04月13日 | 読書
夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
森見 登美彦
角川グループパブリッシング



の正体がわかった。
どうも、東大生は上昇志向がべたに出ているようで、京大生に対して妙なコンプレックスがあったのだが…。

同時に、これほど京都で生まれ育ち、京大を卒業した夫をうらやましいと思ったことはない。

森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』を読んだからだ。

驚くのは、20年前の話としても十分通用する普遍性だ。
妙なカタカナ言葉や流行言葉が出てこないことや、携帯電話やパソコンが出てこないことなどが全く違和感がない。

ああ、いいな、京大生、先斗町、糺の森、鴨川、高野川が舞台になる朴訥でバンカラな青春、東大では絶対成立しない。1300年の歴史と400年の歴史の違いをまざまざと思い知らされる。
(そういえば東大が舞台になった小説ってあまりないな、『三四郎』とか『されど我らが日々』くらいか?)

ただし、人間が空を飛ぶとか、ファンタジーの要素を出してしまうのは惜しい。現実に起こりうることだけでもこの面白さは出せただろうに。
それと、作者が理系のせいか、せっかくの京都の由緒ある神社仏閣自体があまり出てこないのがもったいない。
登場人物に空を飛ばせるなら、南禅寺の山門に降り立つとか、銀閣寺の月台(あれって硬くてちょっとやそっとの雨風では崩れないらしい)の上とか金閣寺の究竟頂に着地するとかにすれば良かったのに。

しかし、法学部の廊下で滑って転んで林檎を中庭にばら撒いた教授は誰だろう(知り合いが何人かいるので、想像してくすっとしてしまう)。

夫は上記のHPで作者と対談している大森望氏と同じ京大SF研出身。
結婚したとき、在京のOBでお祝い会を開いてくれたとき大森氏も来てくれた。
SF研の先輩でも農学部卒でファンタジーノベル大賞を受賞された方がいるので森見氏もSF研かもしれないと思ったが違うようだ。


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解体のため錨泊地に向かう戦艦テメレール号

2007年03月21日 | 読書
午後の曳航 (新潮文庫)
三島 由紀夫
新潮社
午後の曳航 [DVD]
サラ・マイルズ,クリス・クリストファーソン
オルスタックピクチャーズ
一昨年出張で久しぶりにロンドンに行った際、ナショナル・ギャラリーで一枚の絵に釘付けになった。

ターナーの「解体のため錨泊地に向かう戦艦テメレール号」だ。
歴戦の勇者テメレール号が役割を終え、静かに曳航されている姿が、右側に配置された落日との対比で左側に描かれている。

三島も1952年に朝日新聞の特別通信員としてロンドンに滞在中にこの絵を見たかもしれない。
そして、1963年に発表した『午後の曳航』のタイトルにこの絵が影響しているのでは、と思ったのだ。

その後すぐに、2005年度に英国人が選ぶ自国の絵画人気投票でこの絵がベスト1になったことを知った。



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