夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

最近読んだ本

2007年06月08日 | 読書
話題になった本を図書館で借りて読んでいたら、本屋大賞を大体網羅していることがわかったので、少し感想を書く。(ネタばれあります)

小説は、移動中(主に大学のある町と東京の往復)と寝る前の数十分(一日の仕事を終え、好きな本をもってベッドに入るときの至福感といったら…)だけしか読まないと決めているので、銀行員時代よりは読書量が減った。

大賞『一瞬の風になれ』著/佐藤 多佳子(講談社)

これはさすがの大学周辺の図書館でもまだ順番が回ってこないので未読。

2位『夜は短し歩けよ乙女』 著/森見 登美彦(角川書店)

ブログで既に書いた。
その後森見氏の著作は全部読んだが、とくに『四畳神話大系』が抜群に良かった。

私の血中京都大好き濃度を極大化させてくれた作家である。
でも彼のブログを読むとsmokerらしく残念。

どの著作か忘れたが「野暮用」を「藪用」と表記しているのがあった。編集者チェックしようね。

3位 『風が強く吹いている』 著/三浦 しをん(新潮社)

直木賞受賞作『まほろ街…』はちょっとあざとくてあまり好きになれなかったので期待していなかったのだが、すごく良かった。
一見非現実的な設定なのに、説得力をもって長編をさわやかな感動とともに読み切れてしまう。
一作を読んで作家を判断するのはもったいないな、と思い直した次第。

風が強く吹いている (新潮文庫 み 34-8)
三浦 しをん
新潮社



4位『終末のフール』    著/伊坂 幸太郎(集英社)

本来なら終末がくることが発覚するまでがすごいドラマだろうにそこはあえて省略し、その後の人々のありように焦点を当てている潔さが成功している。

終末のフール (集英社文庫)
伊坂 幸太郎
集英社




5位 『図書館戦争』     著/有川 浩(メディアワークス)

これも気に入って、『内乱』『危機』と全部読んだ。
図書館が出版の自由を守るために自衛隊並みに戦闘組織になっているという一見荒唐無稽な設定だが、組織のあり方、研修の仕組など、ディテールがきちんと描かれているために説得力がある。
各人物の造型もすばらしい(ただ、主人公が王子様の顔を覚えていないのは絶対おかしいが)。主人公の親友柴崎は実際に柴崎コウに当て書きしているのではないか。物語自体の面白さが読書への愛というテーマに貫かれているのも良い。
次回で完結というのがさびしい。


図書館戦争
有川 浩
メディアワークス



6位 『鴨川ホルモー』    著/万城目 学(産業編集センター)

これもまだリクエスト中。


7位『ミーナの行進』    著/小川 洋子(中央公論新社)

これも話題になった『博士の愛した数式』より良かった。
高速バスの中で読みながら泣いちゃった。
でも、ミーナのその後はわからない方が、神秘的なミーナ像を壊さずにすんでよかったような気がするのだが、いかがなもんだろうか。

ミーナの行進 (中公文庫)
小川 洋子
中央公論新社



8位『陰日向に咲く』    著/劇団ひとり(幻冬舎)

処女作とは思えないほどうまい。すごい才能だと思う。
劇団ひとりは、お笑い番組を見ない私が、『電車男』のオタク演技がうまくて注目していたが、LIFE カードのネットCMもすごく面白いのでぜひ見てください。

でも、顔立ちはノーブルだし、両親が日航パイロットと客室乗務員でアラスカ(昔はアンカレッジ経由だったもんね)で育ったという育ちのよさがそこはかとなく表れているし、大好きである。

『純情きらり』を朝ドラを初めてリアルタイムで見たのもひとえに劇団ひとりが出ているからだ。
見てすぐに冬吾のモデルは太宰治とわかったので、原作津島佑子の『火の山ー山猿記』を読んだが、やっぱりかなり原作と違う。
桜子の弟でアメリカに住む老人が書いた覚書をフランス人の義理の孫が読むという設定は秀逸だが、国際連盟をUnited Nationsと何度も連呼するのは誤りだ。どうして編集者は指摘しないのか。
冬吾の死に方もちょっときれいごと過ぎやしないかい。

陰日向に咲く (幻冬舎文庫)
劇団ひとり
幻冬舎



9位 『失われた町』     著/三崎 亜記(集英社)

これも、本来は町が失われるということがわかるまでの過程の方がドラマになりそうなのに、あえてそれは描いていないところ、つまり人々が諦めて受け入れるところからスタートしているところが、『終末のフール』と似ている。

絶望的な設定の中に、結末わずかな光が差し込むまでのエピソードの積み重ねが丁寧でよい。


失われた町 (集英社文庫)
三崎 亜記
集英社


10位 『名もなき毒』     著/宮部 みゆき(幻冬舎)

やはりベストセラーになった『誰か』の続編である。

フェミニストとしては、やっぱり気になるのが、大企業のトップの掌中の珠である婚外子と結婚し、義父の命令でそれまで勤めていた出版社を辞めて社内報作成部署に勤める主人公の鬱屈である。
周りから「逆玉」扱いされる苦しみは、男女が逆だったらありえないのに、と本当にフェミニストとして怒りを感じる。
ただ、どう考えてもこのように苦しい立場に追いやるのは、思慮深い義父らしくなく、実は義父が娘を奪われた復讐をしているのではないかと勘ぐりたくなる。

このシリーズいつまで続くかわからないけど、最後は、主人公がこの鬱屈ゆえに殺人者になるという落ちなのではないかとうそ寒くなるのである。

名もなき毒
宮部 みゆき
幻冬舎



この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 作らさせていただきます | トップ | A2 森達也 »
最新の画像もっと見る

読書」カテゴリの最新記事