夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

provider責任制限法その3

2005年05月18日 | profession

また、この話題で書くのは嫌なのだが、仕方あるまい。

このブログでも2回触れたネット上の侮辱罪・名誉毀損罪で告発している件、前回は、プロバイダから回答が来て、発信者の身元がわかり(刑事告発しなければ、まず身元がわからなかったのだ。プロバイダは警察や裁判所の照会でしか開示しないから)、警察が本格的に捜査を始めそうだという報告をした。担当の刑事さんが今捜査本部が立っているような重大事件で忙殺されているが、もうすぐ解決しそうなので、そうしたら着手してくれるそうだ。

その発信者の身分が特殊なので、何人かの人から、刑事告訴を取り下げた方がいいと忠告された。はじめは、「発信者の身分によって被害者が泣き寝入りしなければならないなんておかしい、法学者として筋を通したい」と突っぱねていた私だが、ここのところは、取り下げた方がいいかな、と思い始めてきた。しかし、できない事情が生じた。ここまで腐っているのか、と唖然とした。

明日はまた警察に行かねばならない。
本当に難儀なことである。


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ニューヨーク州司法試験に合格しました!

2005年05月16日 | profession
今年の2月にニューヨーク州司法試験を受験していたのですが、今、ニューヨーク州のサイトで合格を確認しました。

http://www.nybarexam.org/feb2005.htm
私の知り合いの方、検索する際は、私の戸籍上の名前でお願いします。

不合格だったらみっともないので、ごく親しい方にしか受験を知らせていなかったのですが、ご心配をおかけしてすみませんでした。

当時勤務していた銀行からの派遣で留学させてもらったHarvard Law SchoolのLLM課程を修了したのは1992年、その後すぐにOxford大学に留学し、最優等賞(First Class、卒業時上位10%の成績ということ、日本人では聞いたことがないといわれました)つきで二つ目の修士号をとったものの、米国のロースクールに留学しながら、ニューヨーク州弁護士資格をもっていないことがずっと引け目でした。帰国後、『ロースクール留学ガイド』を出版し、今も古典的なガイドブックとして読み継いでいただいている(初対面の弁護士に「先生の本で留学準備をしました」とよくいわれます)からなおさらでした。

留学するまではご多分にもれず、米国に無条件で憧れる若者だった私も、実際にそこに住み、また、その後は仕事で頻繁に接するようになり、日本など足元に及ばないすばらしいところもたくさんもっている反面、決してまねしたくない欠点ももった国だということを認識しながらも、弁護士資格もない自分が批判する資格がない(いえば負け惜しみになってしまいそうでいやだ)と、どこか奥歯にもののはさまったような状態でした。

ロースクールを出て13年、今さらながら、やっぱり資格を取ろうと思ったのは、法科大学院で民法のほかに英米法も教えることになったからです。論文はたくさん書いているので設置審査は難なく通った(昇格の形式要件を満たしていない教員の昇格に反対したら「論文は数だけあっても仕方ない」と面と向かって嫌味をいわれた。でも、私はジュリストにだって判例評釈とかではなく、長い学術論文を上下に分けて掲載してもらったことだってある。少なくとも、そういうことを、数すらも足りず設置審に落ちた人間にだけはいわれたくないものだ。しかし、通らないような人間がどの面下げて同僚の尻を叩いて「第三者評価のために論文を書け」といえるんでしょうね)のですが、やはり、資格があった方が説得力があるだろう、長年の宿題にけりをつけなきゃ、という思いもありました。

また、アメリカ法を研究していますが、私法を中心に限られた分野です。試験でも受けなければ、公法も含めて広くアメリカ法を集中して勉強する機会はなかろうと思いました。アメリカの司法制度、法曹制度のことも身をもって学びたかったというのもあります。
短期間に集中的にアメリカ法全般を勉強したことで、研究上も有用な示唆を得られました。
すべての法律に共通するアメリカ法のバックグラウンド(アメリカ人の法意識、国の成り立ちによる影響、イデオロギーの影響、家族観等)を体得することができました。
おいおい、論文にして発表しようと思います。

といっても、現実は厳しいものがありました。
試験は、2月22日、23日でしたが、講義のある間は、全く試験勉強ができませんでした。
毎回オリジナルの資料を配布する講義の準備には時間がかかりましたし、毎回小テストを行い、採点してコメントして返したりするのも大変でした。
後期の最後の授業は2月1日、でも、このブログでも書いたとおり、その前日にノロウイルスで倒れ、死にかけました。でも、点滴しながら、最後の授業も、期末試験の解説講義もしました。ジェンダーと法の採点は、220人分の毎回の小テストとレポートの採点で、病がまだ癒えないのに徹夜が続き、他の科目のレポートの採点をしていて今度は学生の不正行為を発見し、その対応でまた時間をとられました。(実はこの件ではその後もひどい理不尽な目に遭い、あまりにもひどいので、法的手続の準備中です。誰かさんのように、採点そのものを放棄する人間はこんな思いもしないですむのか、なんと不公平な、と怒りを新たにしました)

結局勉強に集中できたのは一週間くらい。
受験科目が何と何だったそのとき初めて確認したという冗談のような状態でした。

米国に出発する数日前に、刑事法関係のノートを全部大学の研究室に忘れた(前期の新入生ゼミで米国刑事裁判制度のことを取り上げたため)ことに気づきましたが、どうしようもなく、刑事法については過去問をやるだけ、という状態でした。

あまり根をつめたので、眼精疲労がひどくなり、眼鏡をかけていられなくなりました。
元々右目が先天性の白内障で、矯正できないので、左目の矯正視力との差がありすぎて疲れるたちだったのですが。最近私が眼鏡のチェーンをつけているのは、なるべく眼鏡を外していないと目が痛くてたまらなくなるからです。電車に乗ったらすぐ外す、等しています。
死というものを不可逆変化と定義すると、私の目はもう部分的に死んでいるということになるでしょう。これからも毎日大量の論文の読み書きをするのですから、目だけはいたわらなければと思っています。

ニューヨーク州の司法試験は、1日目はNY Portionといい、NY州独自の法が出ますが、憲法から労災保険まで10科目以上あります。50問の択一と5問の論文試験です。
とても細かくて、たとえば、実定法だけでなく、訴状の送達方法も何種類もあり、そのうちどの方法を用いるべきかがどんな事件(契約違反とか、離婚とか)かによって違ったり、NY州に管轄がある場合も、離婚(これも当事者の一方が何年以上NYに住んでいるかによってほかの条件が違う、等細かい)、契約、不法行為によって違い、それらをすべて暗記しなければならないのです。

1日目は、ほかにもMPT(Multistate Performance Test)という、会議録、手紙、契約書、条文、判例(いつもState of Franklinという架空の州が設定されている)等生の資料に基づき、新人弁護士がボス弁護士にレポートを書くという形式の問題が出ます。
日本の新司法試験もこのあたりの影響を受けていそうです。

2日目はMulti Stateといって、憲法、契約法、不法行為法、不動産法、刑事法、証拠法について、6時間で200問の択一を解きます。
これは、NY独自の法でなく、アメリカの多くの州で採用されているいわゆるcommon lawが出題されます。
ややこしいのは、NY州法と違う部分がたくさんあるということです。たとえば、住居侵入罪の構成要件は、common lawでは、夜間、居住用の住宅であることが入っていますが、NYでは、そのような要件はありません。つまり、この6科目については、NY法とcommon lawを両方覚えなければならず、また、それがごっちゃになってしまうのです。

時差ぼけでふらふらになりながら(結局試験までろくに眠れませんでした)、若い受験生に混じって受験し、「もう二度とこんな経験はしたくない」と思いました。泊まったホテルで勉強中も、トイレに立つたび、洗面台の鏡で生え際に目立ってきた白髪を見ては、「こんな年になってから受験するとは思わなかった」とため息でした。寿命もこれでだいぶ縮まったような気がします。

受験の後、すぐボストンに移動し、今、論文を書いている、アメリカの不動産登記制度の中でもハワイと並んで特殊な制度Torrensをもっているマサチューセッツの登記所や土地専門裁判所等に通って、また、母校Harvard Law Schoolの図書館で調査をしました(受験の日まではちゃんと有休をとっています)が、恩師や旧友と再会できたすばらしい経験でした。そのことはまたゆっくり書きます。

これから、法曹倫理についての簡単な試験を受けたり、登録手続をしたりすることになります。
いずれにせよ、長年の宿題が提出できて、肩の荷を降ろした気分です。

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ジェンダーと法 学会報告

2005年05月16日 | profession
このブログでも何度も触れた、角田由紀子弁護士から連絡があった。

角田先生は、『性の法律学』という著書のある、ジェンダー法の第一人者で、セクハラ・パワハラ・アカハラの事件などを担当しながら(弁護団に角田先生が入っていると相手方は震え上がるという)、明治大学の法科大学院教授としてジェンダー法や裁判実務を教えていらっしゃる。

私は10年以上前から著書を読んで憧れていたが、昨年度担当した(本学で初の試み)一般教養の「ジェンダーと法」でゲスト・スピーカーとしてお呼びして以来、親しくさせていただいている。

先日のジェンダー法学会の報告文書をまとめていて、その中で私の提出したコメントを使用することの許可を求めていらしたのだ。

学会で先生が発表されたのは、売春の法的問題について。
売春を違法とすると、公序良俗違反で無効ということになり、売春施設の経営者がそうした施設で働いている女性に未払い給与を払うことを拒める、という困った結果になる。
自分の意思でなく売春をさせられている女性もいることを考えるとこの問題は深刻である。

これについて、私が「売春は組織対客の問題であり、たとえば、会社が違法な取引をしていたからといって、当然に労働者の賃金債権が無効になることがないように、別の問題として考えることができるのではないか」といったコメントをしていたが、学会の中では時間がなくて取り上げられなかった、もったいないので報告書には載せたい、ということだった。

とても光栄だし、先生のご丁寧な問い合わせにも感激した。
これが、普通の法律家の姿であるのだが、日ごろ異常な世界に住んでいる私は、そんな先生と接するだけでほっとする。

先日読んだ小谷野敦『恋愛の超克』に角田先生のことが出ていた、と教えてさし上げた。

この頃、小谷野をよく読んでいるのだが、確かに面白いのだが、一点だけ気になるのは、彼は人には能力差がある、恋愛する能力にも格差がある、だから恋愛弱者が救済されるようなシステムがないとだめだ、と主張する。それなのに、女性の容姿のことにやたらとこだわり、編集者から同業者の妻にいたるまで美人かそうでないかという情報に触れている。ここまで女性の容姿にこだわる人も珍しい。恋愛能力は必ずしも生まれつきのものだけではないが、容姿は生まれつきのものに左右される度合いが大きいのに、能力差で不利を与えるな、という彼の言説と大きく矛盾するのではないか。
この点は彼も承知しているようで、別の著書の後書には「美人好きは自分の最大の欠点である」と書いてあったが、開き直ってすむことではない。彼の「弱者救済論」とどう整合させるのか、ちゃんと説明してほしいなと思う。

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もっとも困るタイプ

2005年05月15日 | profession
読者の皆さんはとうにお気づきのように、私は「温厚で誰とでもうまくやっていける人」(夫はこのタイプ)というのとは、180度違う人間である。
夫からも「無駄に敵を作りすぎる」といわれる。損ばかりしている。

だから、「理不尽なことをしている、黙ってられない」と思う人間はたくさんいる(向こうから私を苦手と思う人はもっといるだろうが)が、こそこそ悪口をいうのは嫌なので、面と向かって批判するようにしている。
まったく見知らぬ人のタバコのポイ捨ても注意して殴られたりしている。

弱いものいじめは嫌なので、弱い人にはあまりいわないようにしている(こちらが指導義務を負っている相手は別)が、相手の立場が強ければ強いほどきちんと批判する。相手が上司でもそうなので、「お前みたいなやつとはやっていけないので退職しろ」とその上司に言われたことも何度もある。(上司が自分を批判した部下に批判されたその場で「辞めろ」というのはパワハラではないか)

ほとんどの人は、私が指摘したことが本当だとすれば問題だということを認めたうえで、しらばっくれたり、反論したり、謝ったり、隠蔽工作したり、卑劣な仕返しをしたり(先日も手の込んだ方法でやられた。あまりの低俗さ・やり方の姑息さにびっくりした。こんなことをして恥ずかしくないのだろうか。それとも、それほどなりふりかまわない状態になっているのか?私を陥れれば自分たちの側の問題が不問に付されるようになるとでも思っているのか、だとすれば救いようがない。この件は刑事民事双方の手続をするつもりである)する。

そんな私が一番困るのは、「恥を知らない人」。
上記のような被批判者の反応は、本当に困る悪質なもの・違法なものもあるし、それなりの措置をとろうと思っているしとっている最中のものもあるが、一応、「指摘されたことが本当なら問題」という前提での反応だ。

しかし、「たとえ指摘されたことが事実だとしてもそれが何か?So what?」という態度をとられると、それ以上こちらはどうしようもない。
恥を知らないっていうのは強いですね。無敵なんじゃないでしょうか?

そういう人が仕事上あまり関係ない人間ならそれほど深刻に悩みはしないのだが…。

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