夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

ちゅらさん・岡田惠和

2005年02月11日 | 演劇
「ちゅらさん」は美人という意味で、偶然にもこのブログで取り上げたもう一つの朝ドラ「ええにょぼ」と同じ意味だ。

現代を扱った朝ドラのヒロインによくあるパターンで、とにかく破天荒で天真爛漫、周りの迷惑も考えず、突き進む、でも必ずその無茶苦茶は寛大な周囲の人に、「しょうがないね、○○ちゃんは」と笑って許される、そして、その無軌道ぶりにもかかわらず、彼女の人生はhappyに展開する、というのがある。
見ている方は、「人生そんなに甘いわけないだろ!」と突っ込みたくなる。

この「ちゅらさん」もまさにそうなのだが、その陳腐さを救っているのが、菅野美穂演じるメルヘン作家・城ノ内真里亜の存在だ。不幸な家庭環境で育ち、屈折しまくっている彼女の、「迷惑千万な奴」という冷静なツッコミが、このドラマを、上記の使い古された陳腐なワンパターンから救っていたと思う。

この真里亜というキャラクターには、原型がある。
1998年に岡田が書いたドラマ「ランデブー」で桃井かおりが演じたポルノ作家・真由美だ。
このドラマは、岡田自身も、自己ベスト2に選んでいたが、私も大変な傑作と思う。私は岡田という脚本家をこれで初めて見出した。

ストーリーは、主婦・朝子(田中美佐子)が、夫(吹越満)の怪獣オタクぶりに愛想を尽かして家出し、リバーサイドタウンという不思議な町にたどり着く。そこにあるホテル「マリア」に滞在し、そこに住む真由美と不思議な友情で結ばれる。また、幼い兄弟のためにつぶれかかった屋形船を切り盛りする美青年(柏原崇)と、余命いくばくもないと知り家族にわからないように死のうとする風来坊のようなその兄(高橋克典)とも交流ができる。
真由美は、先に賞をとってしまったために、同じく作家を目指していた恋人に自殺された過去を持ち、ために人生を斜めから見ているが、兄(高橋)はその恋人にそっくりだった。
私はこのドラマの高橋があまりにかっこよかったので、ついファンクラブにまで入ってしまい、コンサートにも行ってしまった(「サラリーマン金太郎」で熱が冷めた)。

最終回で、クールな真由美が、朝子との友情を大事に思っていることを、かちかち山とか、姥捨て山とか引き合いに出しながら訥々と語るシーンが絶品。
そして、30年あっていない恋人との恋に終止符を打つためだけにホテルを経営していた主人・岸田今日子(最終回では、恋人のジョージ・チャキリスが本当に別れを告げに来た。それで、マリアという名はウエストサイド物語から来ているのだとわかった)や、真由美の担当編集者・田口浩正や、吹越満ら脇役の怪演も良かったし、近年にない、出色のドラマだったと思う。
ちなみに、主題歌は、多分これが最後の小室プロデュースだったであろう華原朋美の"Here We are"で、アンニュイ感を醸し出していた。

余談だが、ドラマの中で、柏原崇が素人バンドを組んでいて時々練習してるという設定だったが、そのメンバーは、現実に柏原がやっているバンドNOWHEREと同じだった(弟の収史も含む)。
あまりの歌の下手さと、そのシーンの必然性のなさに、「お願いだから芝居だけにしてくれ」と思っていた。

後年、いいな、と思った藤木直人のバンドがNOTHINGという名だと知って、「不吉だからやめてくれ」と思ったものだ。

岡田は、自らはっきり認めているように、「めぞん一刻」や「タッチ」といった漫画に影響を受けている。
まず、大勢の他人が同じ建物に住んで交流する、というパターンが多い。
「ランデブー」もそうだし、「ちゅらんさん」の一風館(これはうちの近所の雑司が谷にあるという設定)、そして、「ぼくだけのマドンナ」もそうだった。
「ちゅらさん」の、ヒロインの夫は文也、死んだその兄は和也、というのは「タッチ」へのオマージュだ。

それにしても、岡田の作品では、悪人が一人も出てこないというのが、気持ちいい。
昨年やっていた「マザー&ラバー」は、役者志望のフリーター(坂口憲二)とキャリアウーマン(篠原涼子)のカップルなのに、「男の方が稼ぎが少ないのが情けない」といった、ジェンダーバイアスが一切出てこないし、二人が恋に落ちるきっかけが、坂口が「働いている女の人は偉いんだ!」と叫んだこと、というのが大いに気に入った。

「ジェンダーと法」の講義でも教材にした「アットホームダッド」と同じプロデューサーだったからだろうか。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

採点が終わった

2005年02月11日 | profession
やっと、期末の採点が終わった。

小テスト(ほぼ毎回行う)、レポート、期末試験の採点が終わっても、

3科目について、それぞれ、
出席点
小テストの平均点
レポート
期末試験(if any)

の配分をどうするか、どのようにしたら、まじめにやっている学生を救済できるか、いろいろなパターンをsimulateするだけで徹夜になってしまう。

また、幸い今回は、不受講者は試験も受けなかったのでそういう問題はなかったが、昨年は、初回に「受講上の注意」を配布し、「5回以上欠席した場合は単位を認定しない」と記載しているのに、5回欠席したのに期末試験を受けている者が複数名いたので、対象者ひとりひとりに、「もしかして5回まではOKと誤解していませんか」という電話もしたので大変だった。

採点結果は詳細なエクセルの表になる。これを、名前を伏せて公表しようかとも思うが、学籍番号だけでも知られるのは嫌かもしれないと思うので、敢えてしていない。
採点基準は公表している。

ただ、前学期は、一部の学生に、細かい採点結果をメールで知らせた。
というのも、何名かの学生が、小テストについて友人のを見たケースを当該小テストについて減点したが、結局彼らはいずれも減点しなくても合格点に達しなかったので、減点と単位不認定の間に因果関係がないことを示すために、減点した場合としない場合と両方について、各項目の素点を知らせたのだ。

「ジェンダーと法」の最後のレポートは、ジェンダー問題のフィールドワークで、身近な働く女性にインタビューしたり、CM等のジェンダー問題の調査を課したのだが、どれもこれも、学生の真摯な発見に満ちたものだった。

母親や叔母をインタビュイーに選んだ学生も多かったが、身近な者を、ジェンダーの視点から改めて評価する作業に、新鮮な感覚を覚えた者が多かった。
そして、泣けたのは、夫婦ともにキャリア職の両親をもつ学生が、今回母親をインタビューして初めて「同じ仕事なのに、母だけに家事の負担が課され、私自身も、小さい頃、母についてだけ、家にいないことに不満をもらしていたことを心から申し訳ないと思った」というくだりだ。

こういうときは本当に教師になってよかったと思う。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

provider 責任制限法

2005年02月11日 | profession

ネット上の名誉毀損・侮辱等が行われ、それが民法上の不法行為に当たると被害者が考え、損害賠償請求訴訟を起こす場合、まず、相手方を特定しなければならないが、その方法が、プロバイダー責任制限法に記載されている。
これは、ネット上の名誉毀損について、発信者のみならず、プロバイダーおよび管理者の責任も認めたニフティ事件の第一審判決を受けて作られた法律だ。

(発信者情報の開示請求等)
第四条
 特定電気◆通信◆による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気◆通信◆の用に供される特定電気◆通信◆設備を用いる特定電気◆通信◆役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
2 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
3 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
4 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

これによると、プロバイダーは自己の判断で開示することもできる。

現に、今手続をしているサイトのプロバイダーLの公開している規定では、
①Lの自主判断
②裁判所の開示命令
③警察機関による捜査関係事項照会書
の三つの場合に開示する、とあった。

そこで、まず、Lに自主開示を請求したのだが、実はこのサイトは、最近別のproviderからLが営業譲渡を受けたばかりで、Lのポリシーでは②と③しか開示しないのに、規定の方の修正が遅れており、古いままの規定を公開していたので、そのことでちょっともめた。

なぜ、providerの自主判断で開示しないかというと、発信者の方からプライバシーの侵害等で苦情をいわれると困るという判断があるらしい。

そこで、私の選択肢としては、
1.Lを相手取って「発信者のアドレスを開示せよ」という民事手続を行い、裁判所から勝訴判決=開示命令をとって、開示させる。
2.刑事事件にして、警察から捜査関係事項照会書を出してもらう。

という二つの方法があるのだが、
もちろん、1.の方が穏便なのだが、問題がある。
3度手間になるということだ
掲示板を運営するプロバイダに訴訟を起こして開示されるのは、IPアドレスのみ。
今度は、そこから特定された発信者側のプロバイダに訴訟を起こして裁判所に開示命令を出してもらい、それで発信者が初めて特定される。
それでやっと発信者を相手取って本訴を起こせる、ということになるのだ。

弁護士に頼まず、本人訴訟するつもりの私だってうんざりするプロセスだ。
法律に詳しくない人は、泣き寝入りするしかないだろう。

匿名で卑劣な誹謗中傷をする人間がまかり通る、これは病んだ社会だ。
いつもいうように、意見があれば、正面から来てほしい。

こういう風潮に一石を投じるためにも戦い抜くつもりだ。
刑事手続のほうもいくところまでいくつもりでいる。

幸い、私のケースは、はっきり刑法に触れるようなものだったので、警察署が被害届けを受理してくれ、プロバイダに照会してくれた。担当刑事さんがネットのことをよく知らなくて、URLを照会書に入れ忘れたということもあり、時間がかかったが、やっと開示されたので、これから発信者の方のアドレスを照会するところである。

こういう経験はなるべくしたくなかったが、せめて、現実に訴訟の当事者になる(本人訴訟でやるつもり)ことが、法科大学院の講義に生かせる、と思って自分を慰めている。

自殺した脚本家野沢尚(藤木直人の主演した「喪服のランデブー」は本当に傑作だった)も、ネット上のトラブルに苦しんだ経験を持つらしい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

弱者の定義

2005年02月11日 | profession
1月のある週末に、毎年1度この時期に集まる友達を自宅に呼んでパーティーをした。
夫がパエリアとマリネを作り、お客さんもいろいろ持ち寄ってくれた。
Kさん手作りのローストビーフや、Rちゃんがその場で揚げてくれた春巻きは絶品だった。
Kさんが、「憲法9条」という名前のお酒をもってきたり、Tさんが持ってきた「獺祭」という山口の地酒が、「書類を一杯広げて勉強しているありさまが、獺が餌を並べるのに似ている」という言葉からきている、等で始まって早々から大いに盛り上がった。

同じ高校の同級生と先輩で、知り合うきっかけは、高校の林間学校の付き添いOBとして一緒だったということだった(むろん、小さな高校なのでその前から知ってはいた)。
私の出身高校では、一年生が蓼科の山荘に林間学校に行くのだが、それに、各班一人OBがつくのだ。私が高1のときは、桐蔭新聞を新聞コンクールで優勝に導いた合原さんという人だった。

私は体力なくて自分の時でも蓼科山登山で苦労したから、自分が付き添いになるなんて思いもしなかったが、大學2年の夏休みに、思い切って引き受けることになった。というのも、予定していた人が、アキレス腱を切ってしまい、急遽ピンチヒッターを要請されたのだ。

メンバーは、同級生の
Rちゃん(現在附属中学の先生)
Dちゃん(現在静岡大助教授)

1年上の
Yさん(製薬会社勤務)
Nさん(経営コンサルタント)

2年上の
Kさん(附属高校の先生)
Tさん(出版社勤務)

だ。

大学生活のこととか、いろいろ話した.
Kさんは、『女と男』という著書もあり、ジェンダー教育に力を入れている社会の先生、Tさんは、『バイアスフリーの英語表現ガイド』という本を編集した人。
Rちゃんは英語教育で賞をとった英語の先生。

日本の「アメリカ英語帝国主義」はなんとかならないのかとか、事実婚を選択している人もいるので、ジェンダーの偏見の話とか、本当に多岐にわたる話をしたのだが、「マイノリティへの差別は許せん」という話で盛り上がった後、私が、タバコのマナーが悪い奴や、S本の住人の交通マナー等のひどいことについての悪口をいったときのことだ。「私の人生の目標は、結局、金持ちになることでもなく(現に大学教師になって年収は3分の2になったし)、いい暮らしをすることでもなく、インテリでマナー等のきちんとしたコミュニテイの一員になることだったのだと思う。だから、初めてそういう世界に触れた高校時代を再現するために高校の近所にマンションを買った。そういう観点でいうと、S本という町は、人口のわりにマナーの悪い人を見る確率がかなり高い(葛飾区より悪い)し、大学教師という人種はある意味銀行員よりずっと愚劣だし、私は目標に近づいたのでなく、遠ざかったような気がする」という話をしたら。

「でも、あなたの学問は、そういう、インテリでなく、マナーも悪い,普通の人たちをこそ救うために使わなければならないのじゃないの?」という問題提起をされ、はたと考え込んでしまった。

私は、「あらゆる偏見から自由でいたい」とか「弱者の味方でありたい」という欲求がかなり強い人間だと思う。だから、銀行員のときも女性差別と戦ってきたし、大學でも「ジェンダーと法」と教えたり、学生に点字を教えたりしている。

何らかの理由で、道徳や善への欲求が低かったり、責任感が強くなくて、タバコのポイ捨てをしたり、怠け心により採点をさぼって学生に迷惑をかける人間だって、弱者じゃないのか、という問いにどう答えるか?

いろいろ考えて、こう整理した。
私が味方をしたい弱者とは、自分の責任でなく弱い立場に置かれている人であり、自分の意識が低いまたは努力をしない結果弱くなっている人は弱者と認めない。そういうのはルサンチマンに過ぎない。

だけど、「意識が低い」ことを本人だけの責任に帰してもいいのか、この部分は、100%確信はない。教育者としては、こんなふうにいいきることは許されないような気もする。
否、教育者のくせに、「意識が低いのは自分の責任」と考えることこそ、私の教員としての最大の弱点なのかもしれない、と思い至った。これから私が真剣に克服すべき課題だと思う。

同時に、そういう問題を解決するためにも、「ジェンダーと法」のような、人権教育に力を入れていきたいと思う。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門

2005年02月08日 | 演劇
直前の項は、かなりキレて書いてしまった、すみません。
ここには書けないような嫌なこともあったので、つい理性を失いました。
でも、アクセス数が急に一日900件を超えてびっくりした。
そんなにスキャンダラスでした?でも法令や職務規定には違反していません。

夫の顔を見て、腕枕で眠っただけで少し元気になった。

日曜日は一日採点の続きをして、夜、渋谷のシアターコクーンに標記の芝居を見に行ってきた。
今回夫はつきあってくれなかったのだが、「一人じゃさびしい」と言ったら、他に用もないのに渋谷まで送ってきてくれた。すまん、夫…。

堤真一が主演なのでチケットをとっていたのだが、予想以上に良かった。

清水邦夫といえば、駒場にいた頃、『予め失われている恋人よ』という芝居の看板が出ていて、見てはいないが、それがきっかけでリルケの詩集を買って、暗誦したりしたっけ…。
今でも最初の何行かは覚えているので恥ずかしいがちょっと書いてみる。

予め失われている恋人よ
一度も現れたことのない人よ
お前は知らないのだ
どんな調べがお前に好ましいかを

冒頭のシーンで、浅間山荘事件を思わせる鉄球が舞台に出てくる。

浅間山荘事件(変換すると、浅間さんの掃除する権利と出てくる、お馬鹿な変換何とかしてくれ)は、1972年2月の事件で、当時小学校3年生だった私が生涯で初めて認識したニュース映像だ。
鉄球が山荘に打ち込まれるシーンを今でも覚えている。
すなわち、1970年11月の三島事件はまったくリアルタイムの記憶にはないということ。
今これほど自分の人生に影響を与えた人の死のニュースなのに、残念でたまらない。
この事件の直前に発売されたカップヌードルは、狩り出された機動隊員が雪の中ですすっている情景がTVで繰り返し流れたために、爆発的に売れるようになったらしい。
ということは、三島はカップヌードルも食べずに死んだのだなあ。マックもアメリカでは食べただろうが、日本では食べずじまいだったのだなあ。
何でも三島前、三島後で考える癖があるもんで…。

この冒頭のシーンからわかるように、この芝居は連合赤軍の話なのだとすぐ思い当たった。

主人公将門は、頭の負傷が元で狂気に陥り、あろうことか、自分を、将門の幼馴染だが、今は憎んでその命を狙う者であると思い込んでしまい、その彼をめぐって、将門の影武者をはじめとする家来たちが大混乱と疑心暗鬼に陥り、裏切り等により自滅していくというストーリーだ。

将門が民衆の貧困を救うため、京の藤原氏に歯向かったように、連合赤軍の闘士たちも、社会を良くするという大義のために国家権力と戦っていたはずだ。
それがいつのまにか、自分自身の中に敵を見出すようになり、疑心暗鬼と裏切りの果てに殺し合う。

浅間山荘事件をジェンダーの視点から説いた大塚英志の「彼女たちの連合赤軍」はとても面白い。
永田洋子は女性同志のジェンダー性が許せなかった、闘争の中でも、女性闘士は男性闘士の欲望を満たしたり等、ジェンダー的な役割を強制された等、興味深い。
本当の平等社会だったら男女差別もないはずだけど、現代でも、外ではフェミニスト、家では奥さんを搾取する活動家っているのよね…。

1975年の作品だから、そういう時代の雰囲気が出るのは当然だが、当時の「ベトナム」戦争(ベトナム人はアメリカ戦争と呼んでいるので、私たちはベトナム戦争と呼ぶだけで、アメリカ側に立っているのだと気づかされたのは、2001年にベトナム縦断旅行をした時)のようなことが、今イラクで行われており、決して一時代の問題と片付けられない普遍的なテーマと思う。

堤真一の、ノーブルさと野性味のミックスされた魅力がよく生かされていたし、せりふまわしだけで、正気か狂気かわかるという演技力もあらためてさすがと思った。

中嶋朋子とは、TPTの「ロベルト・ズッコ」でも共演していたが、すごく激しい立ち回りが多いせいか、彼女の足にバンドエイドが貼ってあるのが見えて、「ああ、大変だな」と思った。

桔梗の前役の木村佳乃は舞台では初めて見たが、意外に演技がうまく、プライドと情熱を併せ持つ女性をよく体現していた。小谷野敦は彼女の大ファンらしいので、見に来たのだろうか。

でも、1981年に大学生になった私には、学生運動の頃の雰囲気は体感できないが、学生が理想に燃えて戦った時代があったのだなあ。
私が大学に入った頃、「駒場生の必読書」というのがあって、理系でもこれを読んでいないと相手にされなかった。柴田翔『されど我らが日々』と庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』(どちらも芥川賞受賞、前者は東大文学部長になった独文学者、後者の受賞は三島の絶賛を受けてのもの)だ。
これを読んで、当時の緊張感に憧れを持ったりしたな。
1987年に『ノルウェイの森』を読んだとき、学生運動時代を扱いながらこれほどノンポリなのはどうかしている、と反発を覚えた。私は村上春樹の作品は『眠り』(昨年世田谷パブリック・シアターでサイモン・マクバーニーが演劇にした『Elephant Vanish』もすばらしかった)という短編を最も評価するが、それ以外はさして感心しない。『約束された場所で』『アンダーグラウンド』はあまりにあざとい。

それに引き換え、国立大学の法人化などという自分たちの勉学生活に直結するような事態にも反応しない今の学生は全くふがいない。まあ、私も何もしなかった一員として恥ずかしいわけだが(でも、法人化の10ヶ月前に初めて教員になったのだから、どうしようもなかった)。樋口陽一先生が、「国立大学に、古田敦也がいなかったのが一番の不幸だ」とおっしゃっていたなあ。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

学期末にまた倒れる

2005年02月06日 | profession
さんざんな一週間だった。

まず、また病気で倒れた。
前期も、最後の講義の夜に過労で倒れて大学病院に一週間入院した(このブログの最初の項「入院の顛末」参照)が、やっぱり学期末って、疲れがたまるのか?

1月31日(月)、東京で中国法研究会に出席してから、夕方の高速バスに乗った。乗る直前に新宿のデパートに入っているすし屋で買った穴子寿司をバスの中で食べたが、どうも、端っこばかりを詰め込んだみたいで、煮詰まりすぎているような味だった。
S本に着く頃、ちょっと気持ち悪かったので、「バス酔いしたかな」と思いつつ、研究室に行って、深夜2時半まで仕事をしていた。

気持ち悪くて、何も食べられない。黒酢飲料のみ飲んで寝たが、吐き気がして、とうとう一睡もできなかった。朝、2度ほど吐いたが、水分しか出てこない。下痢もひどくなってきた。

2月1日(火)は、一限、担保法の試験、2限、社ゼミ最後の授業、4限、ジェンダーと法の最後の授業の予定だった。
学生委員の先生に電話して、担保法の試験監督の応援に来ていただき、健康安全センターに行ったら、すぐに大学病院の消化器内科を受診せよとのことで、受診したところ、点滴を受けることになった。社ゼミについては、今日は、現地集合で法律事務所の見学の予定だったので、弁護士の先生と学生に連絡して私抜きでやってもらうよう依頼した。
3限のオフィスアワーにアポのあった学生さんにも、病院の方に来てもらって点滴しながら廊下で会った。
500ccの点滴が終わったところで、担当医師が、「もう一本やるので、4限は休講にしてください」といったが、「最終講義なので、休みたくない」といい、200ccに換えてもらって、14時半に点滴を終え、ジェンダーと法の講義を行った。

前回からレイプ裁判の資料を読んでいるが、国家によるレイプの例として、柳美里の『8月の果て』従軍慰安婦の部分も教材として扱い、「ジェンダーバイアスは全てのマイノリティの差別、圧制につながる」と話した。
また、大学のセクハラ事件についても、なぜ好意を伝えたことがセクハラになりうるのか、この授業をやる者の責任と思い、説明した。

法科大学院の入試の問題は、私は今回全く入試に関与していなかったので、私自身もHPに書いてある時間に試験が行われると思っていた。それにしても、解せないのは、29日土曜日に起こったことを、31日(月)の夜にしか発表しなかったこと。そのため、2日(水)にしか多くのマスコミが報道できなかった(1日(火)の朝刊にはごく一部のマスコミしか間に合わなかったようだ)。
また、2ちゃんねるには、試験問題の誤字が非常に多かったという書き込みが複数ある。
このことを知って、身体だけでなく、心にも大きなダメージを受けた。

翌、2月2日(水)、吐き気と下痢は収まらないが、予定通り、2限に担保法期末試験の解説講義を行った。試験問題は、真剣に取り組むから、その解説は学生にとって吸収しやすいと思い、赴任以来必ず実行している。昨年度担保法を受講して単位を取得したI君が、ゼミの後輩に聞いて、今年度も解説講義だけ聞きに来てくれたのがとてもうれしかった。
解説講義の後、ちょうど授業で扱った短期賃借権、連帯保証人、執行認諾文言つきの公正証書等の出てくるドラマ「ナニワ金融道3」のDVDをみんなで見た。
午後は、法科大学院関係の会議に出た。 

2月3日(木)朝9時に大学病院に再び行ったら、「白血球が増加しており感染症の疑いあり」として、15時過ぎまで点滴を受けた。
頭にきたのは、その間中点滴を受けている人のカウチが4つある処置室で、女性の検査技師と男性の研修医が、ずっと大声で私語していたこと。しかも、内容が身内の噂話で、研修医がこの科に今日来たばかりなので、技師がいろいろと教えてやっていたようだが、スタッフの悪口、特徴、カラオケの趣味、結婚問題等、全部聞こえてしまった。こちらは吐き気がして治療を受けているので、静かにしたいのに、仕事の話ならともかく、くだらない話を聞きたくないし、第一、大學の一員として恥ずかしい。また、経済学部は予算が削られて大変なのに、病院はそんなに暇で余裕があるのか、と怒り心頭に発した。
看護師にいっても収まらないので、とうとう、点滴をもって起き上がって注意し、苦情相談の医事係にも車椅子で連れて行ってもらってきっちり話してきた。

それから、夜24時まで研究室で仕事をしても期末の仕事は終わらない。

何が大変って、ジェンダーと法の採点だ。
知らない人が多いようだが、学則上、3分の1以上欠席したら単位を取れないことになっているし、きめ細かい評定をしなければならないという文科省の指導で、出席をとらなければならない。
ほとんどこれを実行している先生はいないようだが、私は、出席をとることで講義時間が減るのも悪いと思い、毎回小テストをやっている。15回分、220名分の小テストやレポートを採点し、データを名簿に打ち込むのが本当に大変だ。体調が悪いなか、泣き言をついいいたくなる。
恩に着せたくないけど、「昨日飲み過ぎて疲れたから」2コマ続きの授業をはじめの60分で切り上げたり、期末試験だけで評価するのにその期末試験も翌学期が始まってもまだ採点しないような人間が上にいると思うと無性に腹が立つ。

でも、ジェンダー問題についてまじめに考え、気づく学生の真摯なレポートを読むと、心打たれ、疲れも吹っ飛ぶ。

2月4日(金)、最終のバスで東京に戻るつもりで、朝から採点等の期末仕事をしていたが、その途中である事実が発覚し、担当の委員会の先生方と一緒に対応することになり、それどころではなくなってしまった。

がーーーーん、裏切られた。

結局、5日の朝まで徹夜で仕事し、バスでやっと東京に帰ってきた(2週間前とおんなじ)。

もう、心も身体もぼろぼろ。

それにしても、法学者として、従来、危機管理、リスク計算ということを日常生活でも考えているが、それを見直す必要があるなと思った。

日本以外にいるときは、「交通機関が理由もなく予定どおり動かない」「列車が軍隊の都合で運休になる」「業者が契約を守らない」「人が約束を守らない」「飲める水がない」「お湯が出ない」「英語が通じない」「店が宗教上の理由で全て休業」というリスクまで計算しなければならない。
米国でさえそういうことがあったので、留学したばかりの頃、かなり落胆した。
が、日本にいるときは、せいぜい天候のために交通機関が動かない、遅れるくらいのリスクくらいをみておけばいい。その点だけはこの国に住んでいてありがたいが、実際、日本ほど、こういう点がwell organisedな国は世界に類がない。

しかし、最近では、こういうリスクも念頭において行動計画をたてて、いろいろなところに支障がないようにしておかなければならないので疲れる。

●自分が病気で動けなくなる。
●契約の相手方(使用者である大學、在学契約の相手方である学生等)が誠実に契約を履行しない
●複数の教員でやっている授業なのに、その一人に採点を完全に放棄される。しかもその人間が命令権・権力を持っている。
●仕事上必要なことを10回以上照会しても、上司が全く回答しないので、先に進められない。サインが必要な書類も無視されるので、提出期限に遅れそうになる。
●上司があとで「そんなことを言った覚えはない」とすぐ梯子を外すので、大事なことは、他の人が同席している場所で聞いておかなければならない。
●義務を履行しているだけなのに(履行している人はほとんどいないので目立つというだけ)、刑法上の侮辱罪に該当するような態様で誹謗中傷を受ける。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする