現代を扱った朝ドラのヒロインによくあるパターンで、とにかく破天荒で天真爛漫、周りの迷惑も考えず、突き進む、でも必ずその無茶苦茶は寛大な周囲の人に、「しょうがないね、○○ちゃんは」と笑って許される、そして、その無軌道ぶりにもかかわらず、彼女の人生はhappyに展開する、というのがある。
見ている方は、「人生そんなに甘いわけないだろ!」と突っ込みたくなる。
この「ちゅらさん」もまさにそうなのだが、その陳腐さを救っているのが、菅野美穂演じるメルヘン作家・城ノ内真里亜の存在だ。不幸な家庭環境で育ち、屈折しまくっている彼女の、「迷惑千万な奴」という冷静なツッコミが、このドラマを、上記の使い古された陳腐なワンパターンから救っていたと思う。
この真里亜というキャラクターには、原型がある。
1998年に岡田が書いたドラマ「ランデブー」で桃井かおりが演じたポルノ作家・真由美だ。
このドラマは、岡田自身も、自己ベスト2に選んでいたが、私も大変な傑作と思う。私は岡田という脚本家をこれで初めて見出した。
ストーリーは、主婦・朝子(田中美佐子)が、夫(吹越満)の怪獣オタクぶりに愛想を尽かして家出し、リバーサイドタウンという不思議な町にたどり着く。そこにあるホテル「マリア」に滞在し、そこに住む真由美と不思議な友情で結ばれる。また、幼い兄弟のためにつぶれかかった屋形船を切り盛りする美青年(柏原崇)と、余命いくばくもないと知り家族にわからないように死のうとする風来坊のようなその兄(高橋克典)とも交流ができる。
真由美は、先に賞をとってしまったために、同じく作家を目指していた恋人に自殺された過去を持ち、ために人生を斜めから見ているが、兄(高橋)はその恋人にそっくりだった。
私はこのドラマの高橋があまりにかっこよかったので、ついファンクラブにまで入ってしまい、コンサートにも行ってしまった(「サラリーマン金太郎」で熱が冷めた)。
最終回で、クールな真由美が、朝子との友情を大事に思っていることを、かちかち山とか、姥捨て山とか引き合いに出しながら訥々と語るシーンが絶品。
そして、30年あっていない恋人との恋に終止符を打つためだけにホテルを経営していた主人・岸田今日子(最終回では、恋人のジョージ・チャキリスが本当に別れを告げに来た。それで、マリアという名はウエストサイド物語から来ているのだとわかった)や、真由美の担当編集者・田口浩正や、吹越満ら脇役の怪演も良かったし、近年にない、出色のドラマだったと思う。
ちなみに、主題歌は、多分これが最後の小室プロデュースだったであろう華原朋美の"Here We are"で、アンニュイ感を醸し出していた。
余談だが、ドラマの中で、柏原崇が素人バンドを組んでいて時々練習してるという設定だったが、そのメンバーは、現実に柏原がやっているバンドNOWHEREと同じだった(弟の収史も含む)。
あまりの歌の下手さと、そのシーンの必然性のなさに、「お願いだから芝居だけにしてくれ」と思っていた。
後年、いいな、と思った藤木直人のバンドがNOTHINGという名だと知って、「不吉だからやめてくれ」と思ったものだ。
岡田は、自らはっきり認めているように、「めぞん一刻」や「タッチ」といった漫画に影響を受けている。
まず、大勢の他人が同じ建物に住んで交流する、というパターンが多い。
「ランデブー」もそうだし、「ちゅらんさん」の一風館(これはうちの近所の雑司が谷にあるという設定)、そして、「ぼくだけのマドンナ」もそうだった。
「ちゅらさん」の、ヒロインの夫は文也、死んだその兄は和也、というのは「タッチ」へのオマージュだ。
それにしても、岡田の作品では、悪人が一人も出てこないというのが、気持ちいい。
昨年やっていた「マザー&ラバー」は、役者志望のフリーター(坂口憲二)とキャリアウーマン(篠原涼子)のカップルなのに、「男の方が稼ぎが少ないのが情けない」といった、ジェンダーバイアスが一切出てこないし、二人が恋に落ちるきっかけが、坂口が「働いている女の人は偉いんだ!」と叫んだこと、というのが大いに気に入った。
「ジェンダーと法」の講義でも教材にした「アットホームダッド」と同じプロデューサーだったからだろうか。