夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

サッチャー元首相亡くなる(後輩として)

2013年04月09日 | Weblog

サッチャー元首相が亡くなりました。
実は、Oxfordでは、彼女と同じSomerville College(学生は学部を問わずどこかのCollegeに必ず属す)にいました。

ノーベル化学賞受賞者ドロシー・ホジキンが彼女のチューター(同大学では毎週一回教員=tutorが個人指導をし、tutorialと呼ぶ。私も現在民法の授業で取り入れている)だった。ホジキン以外もインディラ・ガンジーもこのカレッジにいた。

私が在学していたとき(1992ー1993年)は、「女性初の首相を出したことに誇りをもっているでしょう?」とnaiveにも、当時住んでいた院生寮公共スペースで友達(何人かとは今でも誕生カードとかやりとりしいる)にきくと、みな困ったような顔をして、「大学の予算を大幅に減らしたし、保守的で女性が困るようなことをした。きっと大金持ちと結婚したので高額でシッターを雇えるから働く女の大変さもわからないのよ。だから、歴代首相の中で唯一名誉博士号をもらっていない卒業生なのよ。」と評判は悪かった。

Margaret Thatcher Conference Centreを作るときも、名前を入れるのに反対した人がたくさんいた。(確か、はじめはDorothy Hodgkin & Margaret Thatcher Conference Centreとするという案だったのでは?でも結局彼女一人の名を冠することになった)

でも、カレッジでは半旗にして追悼の意を表している。カレッジからきたレターの一部を以下に。(カレッジが保守化したのでなく偉大な卒業生への礼節なのだと思いたい)

また、彼女のカレッジへの直筆レター
http://www.some.ox.ac.uk/CMS/files/Thatcher%20Letter%20open%2019790001.pdf


Baroness Thatcher (Chemistry, 1943) has died today, aged 87

08 Apr 2013

It is with great sorrow that we have learned of the death of Margaret Thatcher, Baroness Thatcher of Kesteven, this morning at the age of 87.

Baroness Thatcher, then Margaret Hilda Roberts, arrived at Somerville College in 1943 to study Chemistry. Raised in modest circumstances above her father's shop in Grantham, the young Margaret impressed her teachers with her passion for scholarship. Her tutor at Somerville was Dorothy Hodgkin, to date the only British woman to have won a Nobel Prize for science (in her case, Chemistry). Margaret's academic work was strong, and College records show that she was recommended for several grants and prizes, and an Exhibition. She also became President of the Oxford University Conservative Organisation.

Since her graduation in 1947, Somerville continued to enjoy a warm relationship with Baroness Thatcher; she was elected to an Honorary Fellowship of the College in 1970. She maintained a particularly close friendship with our former Principal Daphne Park. It is largely thanks to the visionary fundraising activities of Baroness Park that the College was able to build its Margaret Thatcher Conference Centre, which was officially opened by her in 1991. Further successful fundraising campaigns led us to establish The Margaret Thatcher Fund, which now incorporates several exciting initiatives.

Somerville College sets students from all backgrounds on paths to future success. We are immensely proud to have educated Britain's first - and so far only - female Prime Minister and one of the most internationally significant statespeople of the twentieth century. On this sad day, we pay tribute to the truly pioneering spirit that propelled her to the pinnacle of British political, and public, life.

奥田英朗『噂の女』

2013年03月04日 | 読書
ハズレがないと全部読んでいる作家の一人。

一人の悪女の生き様を周囲の人間の目を通して描く10個の章からなる小説。
主人公の21歳から27歳までが描かれる。

ヒロインの内面がけして描かれないところ、章と章の間で何が起こったか読者の想像に任せるところは東野圭吾『白夜行』にも通じる。

作品の完成度はさすがだが、作者が『最悪』『無理』などでも描いてきた地方都市(奥田の出身地でもある岐阜が舞台)の閉塞感やしがらみにしばられた不正や狎れ合いが罷り通る現実への痛切な告発が一貫している。

(私の学部は地域の政策などを研究しているので、私は地方都市の問題を抉ったものとして学生に『無理』を読むことを勧めている)

また、ジェンダーの視点からも秀逸である。

ヒロインの短大の同級生のセリフ
「平凡な結婚をして、子供を二人産んで、小さな建売住宅を買って、家事と育児とローンに追われて、田舎の女はそういう人生の船にしか乗れんやん。でも糸井さんは、女の細腕で自分の船を漕ぎ出し、大海原を航行しとるんやもん。金持ちの愛人を一人殺すぐらい、女には正当防衛やと思う」

「世界中どの国でも、女に殺される男の数より、男に殺される女の数の方がはるかに多いやん。やったら方りうもバランスを取るべきやと思う。女が男の百倍殺されとるなら、女が男を殺しても、罪の重さは百分の一やて。」


確かに、地方都市ってこんなに腐っているのかと驚かされる。

①警察は幹部が異動する度に餞別と称して大金を地域から徴集(そのかわりに駐車違反のお目こぼし等がある)
←これは横山秀夫の『64』にも出てきた。

②市営住宅の半分は市役所職員等のコネで決まる。職員の口利き料は10万円。

③公共事業の受注の談合は当たり前

④カルチャースクール・料理教室の講師は親戚の教育委員のコネでしかも親族のスーパーの売れ残りの悪くなった食材を使う。

等々。
これらを登場人物は全員「田舎で生きるということはこういうことだ」と諦めている。
私にはとてもできない。

ヒロインの美幸は、④については直談判して講師を代えさせたり、知り合いの女性を食い逃げした男にヤクザの弟を使ってヤキを入れたり、何より男を食物にする生き方自体が、こうした男中心の腐敗に大きくnoを突きつけているようにも見える。

それが、ほかの悪女ものと一線を画す痛快さになっている。

ただ、短大時代に大きく変貌した彼女だが、そのきっかけに一体何があったのか、出てくると思ったらこなかったのでそこは残念。




ちなみに全部読んでいる(読む方針の)作家は下記

三島由紀夫
笙野頼子
桐野夏生(グロテスク最高)
奥田英朗
角田光代(八日目の蝉最高)
貫井徳郎(乱反射最高)
津村記久子(女性会社員小説の白眉)
群ようこ(無印シリーズ最高)
平安寿子
林真理子(白蓮れんれんを読んでから)
湊かなえ


全部ではないが大体読んでいる
芥川
夏目
川端
鴎外
太宰治

横溝正史(金田一モノと由利モノは全部)
姫野カオルコ(エッセイは全部)
酒井順子
西村賢太(なぜかクセになる)
諏訪哲史(アサッテの人は三島と似た世界観、実際ファンだそうだ)
東野圭吾(玉石混交)
中村うさぎ
岸本葉子(教養の見田ゼミの先輩)
有川浩
伊坂幸太郎
ナンシー関


これから全部読もうかと思っている
中島京子(FUTONがすばらしかった)
奥泉光(桑潟ものは抱腹絶倒、笑いすぎて電車で読めない。シューマンの指はなぜこのミスの一位でなかったか不思議)
横山秀夫(受賞作より、64、震度ゼロがすごい)







あなたは荒ぶる神だ、そうに違いない。

2013年02月17日 | 読書
ほぼ1年ぶりの更新である。閲覧してくださる人が毎日いるというのがありがたくまた申し訳ない。

吉田敦彦の『日本神話の深層心理』を読んでまた関連妄想してしまったことがあるので書いておく。

大国主神が一緒に国づくりをしていたスクナヒコナ(先日鳴り物入りでスタートして視聴率で大コケしたドラマ『Going My Home』に出てくる妖精クーナはこの神様らしい。是枝監督の『歩いても歩いても』はものすごく良かったのだが。出来の良い長男が命懸けで助けた海で溺れていた少年[これがまた医師だった息子とは比ぶべくもないだめっぽさで救われない]を罰のように毎年命日に来させる母親のやるせなさ、嫁姑のチクチクした喧嘩とか、愚痴とか、ちゃっかりしたきょうだいへの思いとか、けして綺麗事でない人間や家族の営みがリアリティをもって描かれていて最高だった)に去られた後、出雲の国で大物主に出会い、

「あなたはいったい誰なのですか?」と問うと、

「私はあなたの幸魂(さちみたま)・奇魂(くしみたま)だ」と答えた。
国づくりは大物主が助けていたというのである。
(日本書紀)

また、古事記によると、大物主は、大国主神に自分を御諸山に祭れといい、それが現在の三輪山、大神神社である。


これは三島の『豊饒の海』に影響を与えていないだろうか?

三島自身が解説しているように、第一巻『春の雪』は和魂、第二巻『奔馬』は荒魂を描いたものだという。

また、『春の雪』で主人公松枝清顕は、滝で親友本多繁邦から「あなたは荒ぶる神だ、そうに違いない」といわれる不思議な夢を見る。

夢日記に書かれたそれらの夢はすべて実現するが、実際に第二巻『奔馬』で、清顕の生まれ変わりである飯沼勲が大神神社で行われた剣道の御前試合のあと、奥の院に行く途中の滝で水浴びしているところに、大阪控訴院判事の本多が院長の代理で臨席したあと行き合う、というかたちで再現されたのである。


私はこのエピソードが大好きで、2008年、夫と大神神社の奥の院に登り、途中その滝も見た。思ったより小さな滝で、ここで本当に大勢の剣道部員が禊をしたのかと疑うほどだった。結構ハードな登山になったが、三島も登ったと思うと感無量だった。

写真は一切撮ってはいけない(この前後に世界ふしぎ発見でもやったがやはり映像はだめだった)ので、入口の写真をお見せします。

第二巻『奔馬』では、同じ機会に本多は奈良の率川神社の百合祭りにも出て「こんな美しい祭りを見たことはない」という。これも調べて見に行った(会員になると中で見せてくれるので会費を払って会員になった)。

本多は奈良ホテルに泊まったという件があるので、奈良ホテルに行って「三島が泊まったそうですが」と聞いたら、支配人が「こちらは不勉強ですみません。せめてものお詫びに皇族の泊まる特別室をお見せします」といって案内してくれた。


京都、奈良などの名所はほとんど行っているのに、こうやって解説をちゃんと書こうと思うとつい億劫でそのままになってしまうが、少しずつ紹介していきたいと思いますのでよろしくお願いします。


2冊目の単著を出しました

2012年03月05日 | profession
ここのところ、演劇とかテレビドラマの話ばかりだったので、仕事もしているということもアピール、ということで、2010年3月に一冊目の法学研究書『中国民商法の比較法的考察』を出してから2年ぶりに、二冊目の単著を出しました。



『民法改正とアメリカ契約法』という研究書です。

アメリカ契約法の解説をしながら、民法改正の各論点について、検討委員会試案、加藤委員会試案や法制審議会での議論状況を紹介し、アメリカ法やCISG等の影響をどのように受けているかについて考察したものです。

何より、現在民法改正の議論がどのようになっているかを各案に配慮し、中国法まで視野に入れてきちんとまとめ比較法的に見た類書はないのではないかと思います。


岡田惠和を『おひさま』で見損ない、『最後から二番目の恋』でまた見直す

2012年02月17日 | 演劇
いやー、岡田惠和への私の評価はこの1年で急降下したが最近またうなぎ登り。ジェットコースターみたい。


そもそも、好きな脚本家である岡田の作品であること、住んだことのある場所の隣町が舞台であることなどから見始めた『おひさま』、意地で最後まで見たが、苦痛以外の何物でもなかった。

何よりも、戦中の雰囲気が全く出ていない、登場人物が全員21世紀を生きている人にしか見えない、井上真央が花団と同じ演技で空回りというのがだめだめ。

「女だから○○というのだけは我慢できない」といい、母親からの教えもそうなのに、母の死後彼女が一人で家事をし、父や兄二人が全く手伝いもしないのは矛盾だ。
主人公が松本のそば屋に嫁ぎ、出産後も安曇野の小学校で教員を続けるために、赤ん坊を安曇野の実家に預けず(父と兄だがほとんど外で働いてはいない)、他人の飴屋夫婦に預けるのも、「男に育児は無理」というジェンダー・バイアス。

炊飯器もガスコンロも冷蔵庫もスーパーもないその頃(戦前)のしかもど田舎の家で4人家族の家事を担っていて、毎日女学校の帰りに飴屋でだべる時間があるのもリアリティに欠けすぎる。全体に生活の厳しさがまるで伝わってこないのもだめ。

樋口可南子が娘を亡くして悲しいときにたまたま見かけた女の子に後日お見合いを持ってくるのも変だし、主人公が酔って人事不省になって見合い相手に告白して結婚に至るのもご都合主義すぎ。

渡辺美佐子(松本の老舗の菓子屋開運堂の娘らしい)や串田和美が出てるのは松本出身だからでしょうね。

1923年生まれの主人公やその10歳は上であろう恩師の伊藤歩も含めて殆どの関係者が2011年に存命という徹底したハッピーエンドもええ加減にしろといいたい。最後の方は意味もなく「うふふふふ」と笑う井上の声を聞くと虫唾が走るようになった。

こんなドラマが人気というのだから最近の視聴者はだめなんだ。



すっかり、「見損なったぞ、岡田惠和」と見捨てようとしたところに、1月から始まった『最後から二番目の恋』。16年前同じ岡田で『巡り逢えたら』の翻案『まだ恋は始まらない』と同じ中井・小泉なので見ることにした。しかし、嬉しい驚きがあり、これは、岡田の最高傑作『ランデブー』(1998年)に次ぐ名作だ。

『ランデブー』は、前にこのブログにも書いたが、岡田自身も、自己ベスト2に選んでいたように、私も大変な傑作と思う。私は岡田という脚本家をこれで初めて見出した。

ストーリーは、主婦・朝子(田中美佐子)が、夫(吹越満)の怪獣オタクぶりに愛想を尽かして家出し、リバーサイドタウンという不思議な町にたどり着く。そこにあるホテル「マリア」に滞在し、そこに住む真由美と不思議な友情で結ばれる。また、幼い兄弟のためにつぶれかかった屋形船を切り盛りする美青年(柏原崇)と、余命いくばくもないと知り家族にわからないようにどこか遠くで死のうとする風来坊のようなその兄(高橋克典)とも交流ができる。
真由美は、先に賞をとってしまったために、同じく作家を目指していた恋人に自殺された過去を持ち、ために人生を斜めから見ており、純文学の才能があるのにポルノのみを書いて流行作家になっているが、兄(高橋)はその恋人にそっくりだった。
私はこのドラマの高橋があまりにかっこよかったので、ついファンクラブにまで入ってしまい、コンサートにも行ってしまった(「サラリーマン金太郎」で熱が冷めた)。

最終回で、クールな真由美が、朝子との友情を大事に思っていることを、かちかち山とか、姥捨て山とか引き合いに出しながら訥々と語るシーンが絶品。
そして、30年あっていない恋人との恋に終止符を打つためだけにホテルを経営していた主人・岸田今日子(最終回では、恋人のジョージ・チャキリスが本当に別れを告げに来た。それで、マリアという名はウエストサイド物語から来ているのだとわかった)や、真由美の担当編集者・田口浩正や、吹越満ら脇役の怪演も良かったし、近年にない、出色のドラマだったと思う。
ちなみに、主題歌は、多分これが最後の小室プロデュースだったであろう華原朋美の"Here We are"で、アンニュイ感を醸し出していた。


なぜ、『ランデブー』の話を長々としたかというと、『最後から二番目の恋』もこれに似ていると気づいたからだ。

主人公の小泉今日子は45歳のTVドラマのプロデューサー、仕事や私生活の閉塞感から鎌倉の古民家に引っ越してきて隣家の中井貴一一家と知り合う。中井は妻を事故でなくし、思春期の娘と、早くに両親をなくしたため親代わりになってきた30代の双子の弟妹(坂口憲二と内田有紀)と同居する鎌倉市役所の職員。そこに、高校の担任教師と大恋愛して結婚したはずなのに夫からも息子からも必要とされなくなったと不満を募らせる妹飯島直子が家出してきて居座る。

とにかく、科白がリアリティがあるのに小粋でウイットに富んでいる。とくに小泉と同じような独身キャリアウーマンの親友二人(森口博子と渡辺真起子)とのあけすけな会話は、「ここまでいっちゃっていいの?!」というくらい。そして、私も40代女性なので、いちいちうなずけることばかり。

内田有紀の変人ぶりもすごいが、坂口憲二は難病を抱え、いつ死ぬか判らないために特定の恋人を作らず、「世界中の女性を幸せにすることが目標」と称して、長い関係を結べないことを納得づくで、夫から捨てられたとか、町で恋人にすっぽかされたとか、かわいそうなたくさんの女性に一夜限りの夢を与える「天使」業を、自宅でカフェを営む傍ら営んでいる。

坂口がなぜそんな生き方をするのか、はじめはわからないのだが、4回目くらいで病気が原因と明かされ、そこで私は、「そうか、わかったぞ、これは『ランデブー』の高橋克典の演じたキャラなんだ!」と金田一耕助シリーズの加藤武のように手を打った。

こうしてみると、内田の演じる変人キャラは『ちゅらさん』の菅野美穂なんだーとか、いろいろ思い当たったりする。


なぜ、『おひさま』はくそつまらなく、『最後から』はこの上なく面白いのか、それは、岡田が「大人のファンタジー」を描くのがうまいからだからなんだ。

天使みたいな夭折予定のイケメンが10歳以上年上のキャリアウーマンの恋人になろうとする、しがない中年の課長が娘くらいの年齢の可愛い部下(佐津川愛美、彼女の舞台はいいね)とその母親(美保純)の両方から惚れられるとか、どう考えてもファンタジーなのだが、科白回しのリアリティとこじゃれたとことが救っている(中井が「お連れしようとしていたレストランに図らずも他の人(小泉)と先に行ってしまったので両方に申し訳なく別の店にした」と正直に言うと、美保が「誠実なんですね。でも結婚相手にはそれを求めても,デイトの相手だとそういう誠実さは却下です」とか、なかなか思いつかない科白だと感心する)

まあ、最終的にはラブコメの王道をいき、口げんかばかりしている中井と小泉はくっつくんだろうなと予想はつくんだが、それはそれで過程を楽しませてもらおうじゃないの、と思える。

また、岡田は、自らはっきり認めているように、「めぞん一刻」や「タッチ」といった漫画に影響を受けている。
まず、大勢の他人が同じ建物に住んで交流する、というパターンが多い。
「ランデブー」もそうだし、「ちゅらんさん」の一風館、そして、「ぼくだけのマドンナ」もそうだった。
「ちゅらさん」の、ヒロインの夫は文也、死んだその兄は和也、というのは「タッチ」へのオマージュだ。
今回の中井の一家も、その隣人の小泉も、何か合宿っぽいノリで、やはりこの路線をいっているといえるだろう。


裁判所見学

2011年04月13日 | profession

担保物権法の授業の一環として、毎年京都地方裁判所を見学している。

昨年度は2月に実施した。授業期間中は、他の授業を休ませるわけにも行かず、結局この時期になってしまった。

主たる目的は、三点セット、つまり、裁判所が、競売の入札希望者のために用意した物件明細書、現況調査報告書、評価書の三点を、閲覧室で見てもらうことである。最近は、ネットでも見られるようになっているが、やはり現物のファイルを見てもらうのがいいと思っている。

一昨年度の感想文では、「夜逃げした後の散らかった部屋の写真とかがリアルだった」「下宿の側のマンションが競売の対象になっているとわかり、競売を身近に感じた」という声があった。


10時前に集合し、まず、裁判員裁判の開かれる大きな法廷で、裁判員制度についての説明と、裁判官席に実際に座らせてもらって、法服などを着させてもらった。20歳にして法服があまりにも似合う子もいた。



裁判長の席の下に赤いブザーがあって、非常時に押すことなども教えてもらった。


その次の民事裁判の傍聴は思いがけず非常に面白かった。

刑事裁判と違って、民事裁判は、書類のやりとりが中心なので、傍聴してもよくわからないことが多い。

前任校のあるソモラ市の裁判所に法科大学院生と行ったときは、ちょうど授業で取り上げたばかりの過払い金返還訴訟だったり、知り合いの弁護士が代理人だったので解説してもらったりした。

一昨年度は少し複雑な案件だったが、知り合いでもないのに代理人弁護士が少し別室で説明してくれた。

しかし、今回は、説明がなくても証人の社長の尋問だけでよくわかる案件だった。

京都市内の従業員一桁の小さな会社のトラブルで、入ったばかりの新入社員が3ヶ月で辞めてしまい、会社が、5月に実施したグアムの社員旅行の費用の返還と彼女が壊したプリンターの修繕費の支払いを求めた訴訟だった。

会社側にも被告側にも弁護士がつき、とくに被告側はベテランそうな弁護士が二人ついていて、訴訟物はせいぜい10万円程度、弁護士費用を考えればペイしないが、双方とも意地を張り合っているような感じがよくわかった。

争点になるのは、2月に改訂した就業規則「入社後1年以内に辞めた場合は旅行費用を返還する」という条項の有効性だ。

もっと驚いたのは、裁判終了後(結審は次回ということになったが)、大島裁判長が、事件の解説をしてくれたことだ。
私が、「海外留学の費用の返還義務については判例があって、金銭消費貸借という構成であれば、返還義務があるということだったと思いますが、こうしたケースは判例があるのですか?」と聞いたら「ないようですね」ということ、同席していた神戸大学法科大学院出身の司法修習生の女性も答えてくれた。
「こういうケースは和解になることが多いと思うのですが」
「当事者がどうしても判決がほしいというものですから」

裁判長が傍聴人にわざわざ説明してくれるというのは本当に異例だ。
ソモラ市の裁判長は、民事裁判の訴訟指揮で言葉の解説を入れてくれたりしたが、それでもかなり親切な方だった。
後で、大島裁判長が神戸大ローで教えていらして教科書も書いていることがわかったが、やはり、京都という土地は本当に学生を大切にしてくれる土地柄なのだとよくわかる。

物権法の授業で毎年見学に伺う京都地方法務局も、ものすごく周到に準備して(記念写真まで撮ってくれて)それはすばらしい見学会をやってくださるからだ。その上、3回生のインターンシップでもどこよりもたくさんの学生を受け入れてくださっている。
ソモラの法務局は、たまたまOBがいる間だけ協力してくれ、彼の転勤後は断られたからだ。尤も、法科大学院生がかなり失礼な態度だったということもあるが。(こんな所にくる暇があったら受験勉強したいのに、来てやってるんだよ、というそのままの発言を、登記官の前で、40代後半の社会人経験ある学生が叫んだのである)

ラウンドテーブル法廷というのを初めて見たのも新鮮だった(事案によっては、当事者と裁判官が円卓を囲む方式が望ましい、ということでもうけられている)。

私の授業は毎回小テストがある上に、個人指導と判例のまとめの発表まである。単位をもらうためのコストパフォーマンスがあまりよくないが、それでも最後までついてきてくれる学生はまじめで優秀な子が多く、教え甲斐がある。授業中私語や携帯が鳴ることは一切ない。素直だし、思いもしない発想を教えられることもある。

別の授業だが、一度だけ休んだ学生が「その回の授業を僕のためにもう一度やってもらえないでしょうか」とメールしてきたのにも、そのまじめさに感動した。私がここで教えた中で最も優秀でいつも小テストで期待以上の答案を書いてくれる学生だが。

ジェンダーの授業で「友達に同性愛者だと打ち明けられたらどうしますか」というアンケートに、「異性愛は、生殖など利害計算がつきまとう。同性愛者は損得抜きで純粋に人を愛せるから羨ましいと思う」というすごいコメントを書いた子には、「負うた子に教えられ」という気持ちになったものだ。

教師が学生に癒されるという職場環境は本当に恵まれているとつくづく思う。他にいやなことがあっても、文句をいったらきっと罰が当たるといつも思っている。


地震後の東京

2011年04月13日 | Weblog
いわきで大きな余震があったので、いわきの恩師に久しぶりに電話したら、「昨日、5月号の原稿を書いていたら地震が起きて、1時間ほど停電しました。送っていただいたろうそくが役に立ちました。ありがとうございます。」といわれた。「危ないからお願いだから東京のご自宅に避難してください」と懇願しても、地震ごときでじたばたすること自体、抵抗がおありになるようだ。謹慎中の歌舞伎俳優は妊娠中の妻と福岡に避難し、ミネラルウォーターを買い占めては東京の自宅に送っているというのに。

話が夫の根津の新しく借りたマンションの話に及ぶと、「何階ですか?」「1階です」「エレベータのことが問題なくていいですね」「先生のお宅は12階ですけれどエレベーターが止まったりするんですよね」「止まるけどすぐ修理してくれるので助かっています」
もう何もいえない。


4月2日、コンサートで元気をもらってから、帰宅し、夫と高速バスで東京へ。引越の手伝いのため。

3日に着いて、多慶屋で買い物していたら、二人の携帯が突然防犯ブザーのようなすごい音を立て、見たら、「茨城で地震発生」という非常連絡だった。そういう設定をした覚えはないが、ドコモのサービスでやっているらしい。そのとき東京は揺れてはいなかったが。

意外な影響が、自転車が品薄で買えなかったこと。工場が東北に多いせいらしい。

スーパーで牛乳やヨーグルトがなく、逆に冷凍食品が半額になっていた(計画停電の可能性があるため買い控えているらしい)。

駅ではエスカレーターがほとんどすべて停止、銀座駅も終電後と見まがうばかりに暗い。

根津は、大学への通学で使っていた駅で、研究会や調べ物でよく母校の東大に行くので頼んで近くのマンションを選んでもらったのだった。

カミングアウトします。

2011年04月13日 | Weblog

阪急梅田駅で宝塚宙組が募金活動をしていた。

この1年くらい、初めて若いアイドルのファンになり、初めての経験に自分でも戸惑っている。

今まで若い異性の芸能人を好きになったことがなかったからだ。

十代の頃は、私より7歳年上の新御三家、西城秀樹、郷ひろみらの全盛時代だったが、全く興味を持てなかった。
自分より20も年上の北大路欣也とか、近藤正臣とか、田村亮(芸人でなく田村さん兄弟の末っ子の方。二谷友里恵(私より2歳下。トライの現社長なので父親をCMに起用していると思われる)も十代のとき彼のファンだったと知ってちょっと驚いたが)とかが好きで、彼らの出るドラマを一生懸命見ていたのだった。とにかくおじさん好きだった。

唯一、『岸辺のアルバム』を見ていいと思った国広富之も、高校時代、彼に惹かれて『噂の刑事トミーとマツ』を見るうちに、係長役の林隆三(やはり私より19歳年長)の方がずっと好きになってしまった。(そういえば、このドラマの婦警役で人気の出た石井めぐみを久しぶりにTVで見た、と思ったら、椿鬼奴という女芸人だった。本当にそっくりだと思いません?年齢だいぶ違うけど。)

後は自分も20代後半、30代になってから、年齢の近い真田広之、堤真一、上川隆也、内野聖陽を好きになり、舞台や映画、ドラマは欠かさず見ているが、これは若いアイドルとはいえないだろう。藤原竜也を好きになったのも、『身毒丸』の舞台を見てその演技力に感心したからだった。

ところが、ここ1年くらい、あるアイドルにはまってしまった。
はじめは、出身地が近いとか、母子家庭で苦労した生い立ちとか、アイドルやりながらそこそこいい大学を卒業して偉いとかそういう感想しかなかったのが、いつの間にか、はまっていたのである。

夫には「目指せ、マルグリット・デュラス(それほど年齢差ないし才能も金もないけど)!」とかいって呆れられている。

彼の母親より自分の方が年上と知ってなおショックであり、また、学生に知られたらみっともないと思い(とくに男子学生が引くのではないか、研究室にポスター貼ったりしたらセクハラにならないか、とか)、はっきりいわなかったが、先日、同じ学部の女性教職員とちょっとしたパーティーをしたとき、「いいじゃないですか、別に」といわれ(とくに韓流にはまっている先生に)、ブログに書くことにした。

以下は、ファンにしかわからないしょーもないコメントなので、興味のない人はパスしてください。


彼のコンサートに、昨年の1月に続き、4月2日に行ってきた。ファンクラブに入っている学生がチケットを取ってくれたのだった。

大阪城ホールの周辺は独特の盛り上がりで、そういえば、数年前、後楽園の歩道橋の上で、やはりジャニーズの彼の属すグループのコンサートの直前でうちわをもってすずなりになっている若い女の子たちを見て、「よくやるわね」と思っていたのに、まさか自分がその集団の一部になるとは夢にも思わなかった。

やっぱり、人間は、年相応の時に年相応の経験をしておかないと、後で怖いとつくづく思う。

席は、楕円形の長い方の端、メインステージのちょうど真向かいの2階席の5列目だったが、そのためにサブステージがすぐ側にあり、そこに何回もきて歌ってくれたので、3メートル以内くらいで間近に見られて大興奮だった。間近で見ると、不規則な生活だろうに肌がきれいなのに驚き、そしてそう思う自分のおばさんさ加減に自分でちょっと引く。

私の席は通路の脇だったので、通路に出て思いっきり手を振ったら、目があった(ような気がした)。
中央の舞台もメインステージも肉眼でもかなりよく見えて、やっぱり大阪城ホールはすごくお得だと思った。
今までサザンやユーミンのコンサートに行った東京ドームや代々木体育館、横浜アリーナ等は、ものすごく広く、S席でアリーナでも後ろだと豆粒くらいにしか見えないからだ。

去年とは比べものにならないくらい、力が入っていた。
アンコールも「特別サービスですよ」といって2回もやってくれた。

以下、覚えている限りのことを書いてみる。

1.コンサートのセットやグッズのデザインは、ドラゴンを中心として赤と青で渋く統一、香港ぽいイメージで、このアジアツアーが1月29日に香港でスタートしたという特徴が際立っていた。

2.スタートは、中央ステージでスッポンから登場、いきなり「抱いてセニョリータ」、続いて「青春アミーゴ」と、大ヒット曲を前座のように先に持ってくることに、このコンサートにかける意気込みが感じられた。

3.去年よりはるかにたくさん観客の側に行き、手を出した観客のほとんどと握手してくれた。

4.「今日は、幅広い方にきていただいて、ちびっ子から (ここでしばらく言葉を選んでいたのか沈黙)熟女のお姉さんまで」というのがおかしかった。私と目があった(ような気がする)のは関係ないと思うけど。そう思ったおばさんは会場にたくさんいるのでは。

5.MCも面白かった。しゃべりは苦手らしく、「つたないMCの時間です。今日は質問を何でもうけることにします」かなり率直に答えていた。

Q「Super Good とSuper Bad、どちらが好きですか?」(40代くらいの人を選んでマイクを向けてあげていた)
A「Super Badですね。Super Goodは社長が選曲したので、少し古いですね。ずっと、『You、これやっちゃいなよ』といわれたことをいろいろやってきましたから、いいんですけどね。」

ちなみに私もSuper Badの方が好きだ。ユーロビート調の曲が楽曲としてできがいいと思う。
スローなバラードは彼の歌唱力と声量では少し無理がある。ただし、声量がない分、歌声が話す声に近いので、ファンにはたまらない、ともいえる。

Q「今回のアルバムの中で一番好きな曲は?」
A「そうですね、Party don't stopがノリがよくて好きですね」

Q「夕べ何をしてましたか?」
A「ミュージックステーションを見てました」(しかし、その番組は19時から生放送だから生では見られないはず。わざわざ録画していたのかな?ちなみに、この回は「元気が出る曲ベスト200」がテーマ。「青春アミーゴ」が69位あたりに入っていたと思う。それに、よく見ると、キンキやJ Friendsのバックでジュニア時代に踊っているのを発見)

「みなさん、ほかの歌手のパフォーマンスを見ているゲストの様子を画面の隅で丸の中で写すじゃないですか?僕、昨日それを見てたら、淳之介はノリノリでで頭を振りながら一緒に歌ってました。今度あいつが出たら注目してみてください」

Q「誰と仲がいいですか?」
A「そうですね。昨日亮ちゃんと飯食いましたね」

Q「もうすぐ結婚するんですけど、どんな結婚式がしたいですか?」
A「結婚のことはまだ考えられないですね。」わざわざカメラ目線で力強く「結婚はまだまだですからね」と念を押した。

Q「関西弁で好き、っていってください」
A「(大声で)めっちゃすきやねん!」(かなり目立つ赤いリボンとコスチュームの二人の女の子。「Love you 10 years」というカードをみて)「長い間ファンでいてくれてありがとう」(本人たち、感極まって泣き出す。すごく若い時代のうちわをとりあげて)「わー古いですね、このうちわ、完全に目が死んでますね」

Q(欠食児童とは正反対の体型の小学生の男の子)「どうしたらジャニーズに入れますか?」(会場、大爆笑、仕込んだんじゃないかと思うくらいはまった質問だった。)
A「そうですね、踊って踊って、踊り続ければなれますよ」

6.バックで踊っていたFIVE一人一人に質問。「趣味は何ですか?」釣りという子に、「シゲも最近釣りにはまってて、あいつ、暇だから釣りばっかり行ってるみたいなんですよ。今度テレ東でレギュラー始まるらしいのでみんな見てくださいね」(ちょっと残酷かなと思ったけど)

7.「昨日名古屋で始まって」というコメントにはちょっとブーイング(前の日から大阪でスタートしたから)

8.「後半で、80年代歌謡曲みたいな『罪と罰』という曲で、皆さんにグーパーしてもらいます。みんな、ここには僕と皆さんしかいないんだから恥ずかしがらないで」

9.外国でのツアーで日本らしさを出すために、後半のはじめは、鬼の面を被って登場して剣舞。

10。歌はともかく、踊りはやっぱりすごい。激しく踊りながらでも歌うときに息が切れないのも訓練の賜と思った。

11。通常のアンコールの後、「本日の公演はこれですべて終了しました」アナウンスが流れ、前日の代々木体育館での募金活動のビデオが流れた(朝イチで代々木に行ってから大阪に来て夜のコンサートをやった模様)が、あまりにも長く続く「山P」コールに答え、Tシャツ姿で登場、「本当に特別ですよ」といいながら、「ゴメンネジュリエット」を歌ってくれた。

12 去年は、ほとんど曲を知らなかったが、今回はアルバムを買って、移動中(電車の中は除く)ひたすら聴いて予習していたので、マイクを会場に向けられたとき、他の客と一緒に「最後のラブソング」を合唱できた。こういう一体感はすごいと思った。


彼は情熱大陸に出演したとき、「僕は男だからずっと仕事をしていきたい、小さい頃、お母さんが働いていて本当にかわいそうだった。女の人にそんな思いをさせたくない」といっていた。母親を助けるために自ら希望して小学校5年生で事務所に入り、今までひたすら努力してやってきたわけである。


「こんな時期だからこそ、今日は一日楽しく過ごしてください。皆さんあっての僕です」
ファンに触られまくってちょっと苦笑もしていて、「仕事と割り切ってアイドルしてるんだろうな。ホントは彼女以外には触れられたくないし、もっと遊びたいんだろうなあ。健気だなあ。いじらしいなあ」と思った。彼にとっては、有名になるとか、ちやほやされることは二の次で、とにかく11歳の時からアイドルは母親を助けるためにお金を稼ぐ手段、勤労青年なのである。
そして、どんなに明るくふるまっていても、そのたたずまいに哀しみや影がつきまとうのはなぜなのだろう。

手抜きのないパフォーマンスとサービス精神、プロ根性がすごいなと思った。

それに引き替え、私は、分野は180度違うけれど、彼ほどプロフェッショナルな仕事をしているだろうか、と考えさせられた。
私もいろいろ辛いことがあっても、もっと仕事を頑張らなければならないな、とものすごく勇気づけられた。

アイドルとは、元気づけ、鼓舞してくれる存在、それでいいのではないだろうか。

天地明察 小さいおうち

2011年04月06日 | 読書
134回直木賞候補作および受賞作

天地明察 

天地明察
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)


江戸時代に様々な苦労を経て大和暦を大成し、太陰暦から太陽暦への転換という大事業を成し遂げた渋川春海の生涯を,彼を取り巻く人々とともに描いた作品。

この作品を貫くのは、「知」や「真理」への純粋な探求心と憧憬である。

渋川春海という名前自体、本名である安井算哲という名が、元々代々江戸城で御前碁を打つ家に育ち、優秀な碁打ちでありながら、定石をはみ出すことのできない職務につくものであり、その非創造性に「飽いて」「自分だけの春の海辺がほしい」ということから名乗ったものである。

その「自分だけの春の海辺」を必死で捜し、渋谷の金王神社にある算術の設問と解答を記したたくさんの絵馬を見に行き、その絵馬が風でふれあう、「からん、ころん」という音が、彼の生涯の様々な重大場面で繰り返し出てくる。その音こそが、「知」への憧憬の象徴だからだ。

その絵馬から、和算の大家となる関孝和と出会い、算術の才能から酒井雅楽頭(ちなみに本木雅弘は彼から長男を「雅楽=うた」と名付けた。ちなみに長女は伽羅)とに抜擢され、22歳で北極星観測隊に参加してから、改暦事業に携わるようになり、3度の挫折を経て、ついに、45歳の時、改暦の大事を達成する。

主人公はもちろん、関孝和への出題が誤問と知ってその場で切腹しようとするなど、純粋でまっすぐな性格だが、他の登場人物も、権力にも利害にも関心がなく、学問への純粋な関心だけに突き動かされている愛すべき人たち、とくに、北極星観測隊の隊長建部と伊藤の、儒教社会にもかかわらず、孫のような年齢の春海の計算の正確さを子どものように喜ぶ、純粋さ、その稚気に、思わず本を閉じて落涙した。「学問は長く、人生は短い」という真実に改めて思い至り、それにひきかえ、一応学問を仕事とする自分のいいかげんさが恥ずかしくなった。

学問や真理、知という絶対的なものに仕える同志愛で結ばれている者同士という関係は、授時暦の誤りを検証する自分の研究を無償で提供する(しかも自分の貢献は隠そうとする)関孝和や、碁のライバル本因坊道策、会津藩士安藤との関係にも表れ、現実の世界で利害計算が第一になっている人間関係にまみれた者から見ると、そのすがすがしさはまぶしいくらいだ。

しかし、改暦は学問の純粋さとは対極をなすと思われる政治とはもちろん無縁ではなく、春海自身も、改暦事業に関わる中で、暦を相対化するということが、権威そのものを相対化する危険をはらむものだと看破する。「権威の所在-つまり人々は、徳川幕府というものを絶対的なものとして崇めているわけではないのではないか。帝のおわす京、神々の坐す神宮、仏を尊崇する寺院、五畿七道に配置された藩体制。人々が自由に権威を選ぶ余地はいたるところに残されており、しかもそうした余地は、決して誰にも埋めることのできないものなのではないだろうか。」
暦を幕府の力で正確なものに変えることは、幕府の権威を絶対的なものとするためにも必要だったのだ。

しかし、そうした政治的な思惑ですら、作者の手にかかると、やはり公平無私な企みになる。民の安寧のために武断政治から文治政治への転換が絶対必要、改暦はその第一歩と考える家光の異母弟保科正之の徹底した名君ぶり、数々の善政も、自分の手柄とあっては徳川宗家の恥と自分が関わった書類を焼き捨てる忠義と無私(その徳川家への忠誠という家訓のために、幕末会津藩は朝敵とされ白虎隊などの大きな悲劇に見舞われる)にも泣かされる。水戸光国も大きな役割を果たす。それがきれい事になっていない筆力がすばらしい。

元々暦が自然の脅威をコントロールするためのものだということを想起すると、現在の日本政治家にはぜひ見習ってほしいものだ。

全て、歴史の転換点にあって、個人の利益でなく、自らの果たすべき役割だけに集中しようとする人々の姿が、読者に清冽な印象を与えるのだ。

また、主人公のえんとの関係も、甘いばかりの恋愛でなく、えんの自律した女性ぶりも共感できる。

久しぶりに読書の楽しさをどっぷりと堪能させてくれた作品。

『小さいおうち』も悪くはなかったが、なぜ少なくともこの作品が直木賞を同時受賞しなかったのかが不思議でならない。

受賞作 小さいおうち

小さいおうち
中島 京子
文藝春秋


これは純愛の物語である。

ただし、それを板倉にとって生涯を捧げる純愛たらしめたのは、彼の悲惨な戦争体験である。
それが饒舌に語られることがないだけに、タキの描く「小さいおうち」でののどかな暮らしとの対比でいっそう戦争の恐ろしさが読者の心に迫る。

巧みな構成、筆力の秀作である。

表紙の装画はネタバレになっています。読後じっくり見るとわかりますよ。この装画も作品の重要な一部なので、文庫版になっても使ってほしいですね。
トラックバック (1)

火事場泥簿

2011年03月25日 | Weblog
みずほ銀行が、システム障害に陥っている件だが、未処理の給料振込等を優先的に解決するために、19日~21日の3連休、ATMを休止し、代わりに、全支店の窓口を開けて、一人10万円まで預金の引き出しを受け付けていた。その際、通帳・印鑑がなくても、キャッシュカードと運転免許証などの本人確認書類を見せれば引き出しできるようにしていた。

それを利用し、詐欺が行われたと知った。みずほ側で払戻請求を受けた際、システム障害のため、正確な預金残高を把握できないまま、10万円までは支払に応じざるを得ないことを悪用し、ありもしない預金を、中には複数の支店を回って引き出した者が、全支店におり、被害額は2億円に上るということだ。

こんな、人の弱みにつけ込んだ、火事場泥棒のような心ない犯罪があるだろうか?

この事態を収拾するためにまたみずほは人手をとられ、正常化が遅れるではないか?システム障害のことだけではなく、たとえば、みずほ銀行いわき支店は未だに営業再開できていない。近くにある七十七銀行は再開した(恩師に聞いた。今時、キャッシュカードもクレジットカードも一枚ももってらっしゃらない方なので、やっと引き出しできたということだ)というのに。それだけではない、4大バンクの一つが正常に営業できないということが、金融システムの機能不全を助長し、日本全体の復興を妨げるではないか?

また、いろいろな支援事業を性悪説に基づいて行わなければならなくなり(たとえば、配給の列に複数回並ばないようチェックするとか)、非常な非効率を招く。日本人の大半は馬鹿正直な人たちなのに、一部の心ない人たちのためにこのようなことになることを考えると、今回の詐欺は、未曾有の国難に際して足を引っ張る行為である。

生命・財産を失ったり、今も苦難に耐えている被災者を冒涜する者だし、非国民といってもいいのではないか?

このような人でなしの者には、厳正に臨むべきだ。

まず、民事的には、手間はかかるだろうが、一件一件、預金伝票と突合して、過払いした預金者に返還を請求すべきだ。不当利得は故意・過失がなくても成立するので、面倒でも全件きちんと請求してほしい。自分たちにも落ち度があるなどという遠慮は、彼らに対しては、全くする必要がない。 

刑事的には、詐欺罪の故意の立証は難しいだろうが、悪質な場合は警察にきちんと通報してほしい。


金融取引法の研究者としては、預金者の本人確認義務という論点について、またとないフィールドワークの機会だったので、3日間のどこかで、引き出しをやってみてテラーがどの程度の注意義務を尽くしているか、見ておけばよかった。家賃の振り込みなどで現金は必要だったのだが、混んでいるかな,と思ってOGとして遠慮したのだった。しかし、日曜日に出町支店の前を通ったので、「引き出す人で混んでいるかな」とちょっと入り口から覗いたら、ロビーにはあまり人がいなかったので。



宅配やゆうパックの情報をずっとチェックしていて、ゆうパックがいわき支店留めで送れるようになったので、25日の朝、大学に行く途中、近くの四条大宮郵便局にカップラーメン等を詰めた小包をもっていったら、「いわき支店はまだです」といわれた。

「そんなはずはない。私はさっきネットで見たんだから」というと、「確認します」とのこと。

その確認に10分以上かかり、局長を呼んで、「いったいいつの情報に基づいてだめだといったのか」ときいたら一昨日のものだという。

別に震災がらみでなくても、自分の仕事であるゆうパックの送付という業務が、東北方面には全然送れない状態から、毎日徐々に正常化していくのであれば、毎日情報をアップデートするのがプロとして当然だろう。ましてや、それが被災者の生命にもかかわるかもしれないと考えれば、より真剣にすべきだろう。随時ネットに公開され、一般家庭でもすぐ見られるようなものを、肝心の郵便局で見ていない、2日前の情報でよしとしていうというのが信じられないのだ。プロとして、人として、感受性に何か問題があるのではないか?

ヤマト運輸は、全然関係ない荷物の配達に来た人にきいても、そういう状況を把握しているのに、一体この郵便局のていたらくは何だ?何のために民営化したのかわからないではないか?

郵政会社に電話で苦情をいい、「こういう情報の全郵便局への周知はどうなっているのか?会社全体の問題なのか、それとも、会社ではきちんと指導しているのにきかなかったという、四条大宮局特有の問題なのか、今後のためにもはっきりしてほしい」といったのに、「会社として周知しているかどうかはお客様にはお伝えできない情報になっています」という木で鼻を括ったような対応、本当に呆れてものもいえない。


仙谷、馬淵などが復権し、これまでの与野党の攻防が全部無効化している。これだけの国難に直面すると、ここ最近の国会でのやりとりが、児戯に等しい馬鹿馬鹿しいもののように見えてくる。

首相の外国人献金問題もふっとんだし。

石原都知事の見識を問う

2011年03月24日 | Weblog
乳児に水道水を摂取させるななどと首長がいうのは、徒にパニックを煽るだけだ。

あの人はセクシストだというだけでなく(「子供産んでないババアには年金払うな」と公式の場で発言して、女性団体から訴訟を起こされている)、リーダーとしての資質にも欠けるといわざるをえない。


<iframe src="http://matome.naver.jp/paste?id=2129161684892120001&amp;ver=2.0&amp;color=02&amp;size=02&amp;p=1300929625191&amp;g=1" frameborder="0" width="460" height="540"></iframe>

4月から夫が東京の本省に転勤になり、根津に住むことになった(護国寺のマンションは一人では広すぎるので賃貸する)ので、私も今まで以上に東京都の行き来をすることになるが、この人が続投するのだけは絶対嫌だ(もちろん、東京出身者としても)。


地震から日にちがたって、海外からのお見舞いメールもぱったりなくなったところに、香港の友達から、3度目のメール。

Another week has gone. We learnt from media that your countrymen have been fighting hard, which we highly praise. We will continue to pray.

Add oil (which means "you can do it") !

Our best wishes,


世界が忘れつつある中で、こういうのは、本当に嬉しい。

最後は、中国語で「加油」(北京語でジャーヨウ、広東語ではガーヤウと発音)、頑張れという意味だ。

彼女は香港大学大学院の同級生だった香港政府官僚、授業も英語だったし、英語でしか話したことないので,たぶん、私が多少中国語ができることを知らず、こういう回りくどい表現になったのだろう。

ちょうど私が研究テーマにしているオーストラリア起源の不動産登記制度を香港でも導入しようとしている担当者になったので、調査のために今年度中には訪問する予定なのだが(科研費が出るといいのだが)。



近くの宅配便の営業所までは荷物を送れるようになったので、いわきの恩師に電話したら、東京行きの高速バスが復旧したことをご存じなかった。電気の供給は止まっていないが、携帯もパソコンももたない主義でいらっしゃるので、こういうことになってしまうのか。どうも私たちは、ネットで情報を得られるのが当然という前提で動きすぎている気がする。

さっそくバスの運行会社の電話番号をお知らせした。途中何かあるかもしれないのがご心配なのかもしれないが、とりあえず、一刻も早く東京のお宅に避難していただきたい。

それにしても、郵便は全く来ないというのに、雑誌に連載されている原稿をいつも通り投函されたとお聞きして、涙が出た。

ふるさと納税で被災地を支援

2011年03月22日 | Weblog
京都府は個人で被災地に物資を送るのはまだ受け付けていない。

今は義捐金などの現金がいいだろう。

最近、「義援金」という言葉ばかりになっているが、ちょっと前までは、「義捐金」だった。
「捐」という言葉は、「出費する」「懐を痛める」という意味。誰かを「援助する」というというと、助ける方と、助けられる方の立場が違うみたいだが、(義捐金
を出している人を批判しているのではもちろんありません)「義のためにお金を出す」という方が、たまたま災害に遭った人とそうじゃない人の不公平をなくすための出費、だから、当然だみたいな感じがするのでいい。

「捐」という漢字は、金預金取引において、預金者は、名義人か、預入行為者か、それとも出捐者かという論点があり、通説は出捐者だが、最近それでは説明できない最高裁判例がいくつか出ている、という文脈で民法ではおなじみの漢字なんだが。

「捐」という言葉の方が、みんなで痛みを分け合っているような気がして私はいいと思う。

その方が、預けられた方も心して使い道を決めてくれるような気がする。

現金による支援の方法として、ふるさと納税という方法がある。(別に全く縁のない地域宛でもできます)

義捐金詐欺が横行し、そうでなくても、使途がどうなるかわからない、そう考えるととてもいい方法だと思う。

詳しくは、下記、総務省のHPを参照。

http://www.soumu.go.jp/menu_kyotsuu/important/080430_2_kojin.html

私も扶養家族がいないので一人で年間50万円くらい住民税を払っているが(それは昨年住んでいた大阪市の分、来年払うのは京都市になるから、非課税の宗教法人が多いため個人住民税が高く、もっと高額になるだろう)、さっそく恩師のいらっしゃるいわき市に寄付の申し出をした(ただ、その手続は,今はそれどころではないのでずっと後になるだろうが)。

控除の対象になるのに上限があるのは承知の上。


それにしても、「ACのCMが不快」という声が大きく、とくに最後に流れる「エーシー」という甲高い声が耳障り、というので、その声だけが消されている。

家族を亡くした被災者が、親子の姿を見て辛い思いをされるのは仕方ないが、それ以外の人が苦情の電話をかけたりする、そういうヒステリックな反応は馬鹿馬鹿しいだろう。普通のCMのかわりなんだから。そんな電話で回線や電気代を使うのやめてほしい。
今回の震災の支援CMを制作中というから、その作業の邪魔にもなる。

それだったら、前に収録してあったらしい馬鹿騒ぎしているバラエティ番組の内容の方をどうにかすべきじゃないか。

それから、TVに出るアナウンサーやタレントの服装が急にださくなった。どうも、視聴者の反感を買わないように地味な服にしようとして、流行遅れみたいなのになるらしい。喪服にしか見えない服装の人もいる。いつもタンクトップみたいなのを着ている西川史子も白い長袖ブラウスを着ていた。

そういう、形だけ整えておく、というのは偽善的で嫌だ。

明るい色の、センスの良い服の方が、見ている方も明るい気持ちになるのではないか?


それに、この自粛ムードは、1988年に昭和天皇が危篤になった時を思い出して、大政翼賛会みたいで怖い。

井上陽水が日産のCMで「みなさーん、お元気ですか?」といっていたのを、「やんごとなき人が元気じゃないから」という理由で口パクになったり、カラオケなどを大音量でやるなといわれたり、何ヶ月もの間、毎日日刊紙の一面に血圧などのバイタルデータが出てたのを思い出す。

何が本質的な問題なのかを冷静に見極めた方がいい。



ところで、大学生協でも単1電池が売り切れていて、メーカーが出荷をストップしていると表示されていた。

京都みたいなところでさえ買占めしていると、被災地に届かず、死活問題になるのじゃないだろうか?

天災の上に人災まで

2011年03月21日 | Weblog
私の恩師のいるいわき市は、原発問題に起因する風評被害で、物資が全く入らず、孤立した方々が餓死の危険にさらされている。

大変な思いをされている方はたくさんいらっしゃるが、これは、どう考えても人災である。

頻繁に報道されている地域ではありませんが、どうか皆さん、このことを深刻に受け止めてください。

いわきからの悲痛な声が下記にあります。

http://4guruguru.jugem.jp/?eid=1264



なお、ヤマトの宅配便は、福島に関しては、閉鎖されていない営業所止めで、荷物が送れるようになりました。

といってもガソリンもないので、取りに行ける方は限られるかもしれませんが。

送れる営業所は下記の通り。

http://www.yamato-hd.co.jp/information/info/notice_1103_01.html
トラックバック (1)

レターパックなら大丈夫

2011年03月20日 | Weblog
福島には宅配便や小包はまだ送れない(毎日業者のHPを確認している)が、郵便は送れるので、断水で困っておられるいわきの恩師に水のいらないシャンプーだけでもお送りしようと、ドラッグストアで探したが、考えることは皆同じのようで、ここ京都でもどこに行ってもない。

が、18日、まさかと思ったが一応入ってみた河原町三条のドラッグストアで見つけた。(観光中心地の方があるのかも)

それをさっそく速達で送った後、「普通の郵便が大丈夫ならレターパックも大丈夫かも?」と思い、郵便局に電話して確認したら、「遅れる可能性は高いですが、受取人がそこにいるなら大丈夫」とのこと。

先生に電話したら、「出版社から定期的に送ってくるものも含めて、地震から一切郵便物は来ていない」というので、速達にした意味はあまりないかもしれないが。

「放射能漏れの風評被害で、物資を運んだトラックが近くまで来たのに引き返したとかで、もう、スーパーマーケットには品物が何もなく、どこも開いていない。食料が全く手に入らない状況。近所で農家やってる中学の同級生が米を持ってきてくれたので、それで食いつないでいる。」とのこと、先生がそんな思いをされていると思うと、気の毒で涙が出る。(こちらが協力を申し出ても、他人に甘えるような方ではないので、よほどのことなのだろう)

さっそく、レターパックに、レトルトカレー、板チョコ、ビタミン剤、ウエットティッシュなどを入れて、マンションの真ん前にあるポストに投函しようとしたら、分厚すぎて入らない。

ちょうど集配に来て出発してしまったところの郵便局のバイクを、必死で四条通りを走り、捕まえて、「福島宛ですけど、レターパックなら大丈夫ですよね」と確認したら、知らなかった。「知り合いにそういうものを送る人はたくさんいるのだから、そういう情報を知らないのはだめじゃないですか?」と、手渡しながら苦情をいっておいた。


京都は、被災者の方々に申し訳ないほど、本当に何の問題もない生活が続いている。

ただ、海外からの旅行・ツアーのキャンセルが相次いで旅行業界は大打撃らしい。

私は、東京の計画停電の関係で学会のHPがダウンしたり、や首都圏の大学の先生と連絡できなかったりの不便はあるが、

増えた仕事は入試の追試関連業務と学生の安否確認。

メールを出すと、「わざわざありがとうございます」とか「安否確認ご苦労様です」とちゃんと書いてくる学生が多くて、「ああ、ほんとにうちの学生はいい子ばかりだな」と思う。

茨城以北が実家の学生は20人台(全学の学生総数は1800人)しかいず、他の学生もほぼ安全確認できたが、たまたま東北旅行中で無事だが戻れない者、家族の安否がわからない者もいる。

学生数がもっと多かったり、被災地からもたくさん学生を受け入れている大学の確認作業はもっと大変だろう。



京都では地震の影響がないのに、買占めがあり、コンビニにも「乾電池、懐中電灯は売り切れです」と貼り紙してある。

そういうことするのは本当に情けないのでやめてほしい。

コンビニは表の電灯だけ消して、中は真夜中でも煌々と灯りがついているのも、何か形だけ繕っているようで嫌だ。


ちなみに、私のケースのように、特定個人宛でなく、避難所宛等に個人で物資を送るのはまずいそうだ。
個人で送るものは中身の種類が多様なので、その仕分けに人手がとられ、却って迷惑だそうだ。
中越地震の際も、仕分けしきれない段ボールが山積みになって場所をとって大変だったそうだ。
送るなら、自治体等、とりまとめている所を通じてすべきであるとのことです。
トラックバック (1)

優しいおとな 桐野夏生

2011年03月18日 | 読書
みずほ銀行がずっとシステム障害でATMはもちろん、ネットバンキングもできず、困っている。

他の都銀にはそういう問題が起きていないのに。

三行が統合するときに、最も高性能だった富士銀行のシステムを中心にすることで話が進んでいたのに、三行の勢力の均衡のために、途中でDKB系のものに急遽変更したつけが、2002年4月の統合完成時に続いて起きてしまった。

「どうしてそんなことを?」と当時疑問に思ったが、銀行の上司からは、「勢力が偏るということは、統合に伴う人員整理などについてもうちが譲歩しなければならない、ということにつながる。みんなを守るために仕方ないことなんだ」と説明された。

実際に徐々に進められていた統合プロセスでは、管理職のポストが全部3の倍数になっていて、「これで生き残れるのか?」と不安になったことも、2001年2月、夫の海外転勤の際に、(主とした理由は香港大学の大学院の中国法専修コースに魅力を感じたことだが)、思い切って銀行を辞めた原因のひとつだった。

それにしても、HPを見ても、たとえば、自動引き落としはできるのか(できなくてクレジットカードの決済ができなかったら、ブラックリストに載せられてしまうではないか)、といった情報がないし、昨日の情報のままでアップデートされていないなど、利用者に対して説明責任を果たしていない。

せっかくの義援金が届けられなかったり、急激な円高で動いている外為市場のこともあったり、社会的責任は大きい。



優しいおとな
桐野 夏生
中央公論新社


桐野夏生の作品は(少女小説時代のものを除いて)全部読むことにしている。


社会が荒廃し、街ににホームレスがあふれる近未来の東京で、施設を脱走した後、自分の出自につながる『鉄』と『銅』の双子を捜しながらさまよう15歳の少年、イオンを描いた作品。

ホームレスは公園村、アンダーグラウンド、川人と様々なコミュニティを構成して生きている。イオンはそのどれも経験することになるが、それぞれの社会や人物造形にリアリティがあるのがさすが。

以下、ネタバレ注意

イオンの施設での体験がどのようなものであったのかの謎解きが縦糸になっているのだが、それに関連して、大きなテーマとして、「真の平等」の実現可能性というテーマを扱っている。

「人間の究極の平等を考え」、真っ暗な地下が一番平等だからという理由で地下に住む、「環境ですらも不平等を生んでいる社会に対して抗議する、真の正しい人間たち」闇人や、

先鋭的なフェミニストが主宰する、子供の差別の温床を撤廃するために、大人と子供が、親子関係の有無と関係なく共同生活する施設「照葉」、

両方とも、「原理的な平等主義」を標榜し、コミューンの実現を目指している。

それらが本当に成功し、関わった人間を幸福にしているのか、という重く大きなテーマを、せっかく扱っているのに、それが今ひとつ掘り下げられていないのが残念だ。

ただ、スカイエマのカラーの挿画が多用され、少年の目線から物語を紡ぐことを強く前面に押し出しているなど、新境地を開拓しようとしている点は、ファンなら必読。

トラックバック (1)