市民活動総合情報誌『ウォロ』(2013年度までブログ掲載)

ボランティア・NPOをもう一歩深く! 大阪ボランティア協会が発行する市民活動総合情報誌です。

2009年1・2月号(通巻442号):レポートR

2009-01-01 17:00:41 | ├ レポート
母なる大地から
“おいしく、クリーンで、正しい”食を
 食のコミュニティ世界大会「Terra Madre」に参加して

編集委員 久保友美

 イタリアというと何を思い浮かべるだろう。ファッション、歴史的建築物、明るい人柄…。何といっても欠かせないのが「食」である。イタリアで食を語る際に、よく耳にするのが「スローフード」。スローフードとは、ゆっくりと時間をかけて“スローに”食事をとるという意味ではない。食生活や食文化を根本から考えていこうという活動で、86年にイタリア北部ピエモンテ州のブラの町で始まり、89年にはスローフード協会が設立された。
 そのスローフード協会による食のコミュニティ世界大会Terra  Madre(テッラ・マードレ)が08年10月23日~27日、イタリアのトリノで開催された。04年から隔年で開催され、今回で第3回目となる。テッラ・マードレは、イタリア語で「母なる大地」。母なる大地からスローフードの哲学でもある「おいしく、クリーンで、正しい(*)」食の実現を可能にしていくために、生産者、料理人、学識経験者など食のコミュニティにかかわるさまざまな人々が130か国以上から7千人以上が集まった。また、開会式で「母なる大地と和解できるのは若い人たちしかいない」と語られたように、1千500人近くの若い世代の参加があったのも今回の特徴の一つである。
 開催中は、食や農業に関するワークショップやミーティングが数多く開かれた。ここでテーマを一部紹介しよう。「若者、食、農業」「守護聖人なる羊飼い」「エコ農業―コンクリートの普及に歯止めをかけよう」「天然繊維の促進」。このテーマがスローフードの視点の広さを示している。
 テッラ・マードレの会場の隣では、サローネ・デル・グストという味覚の祭典も開かれた。世界中の「おいしく、クリーンで、正しい」食べ物が東京ドーム1個分あろうかという会場で販売され、ほとんどのお店がなんと試食自由。食べ物がどのようなプロセスで作られたのかを詳細に説明してくれ、安心して口にできる。
 スローフードな食べ物を“見て”、世界中の人々の食や農業への思いを“耳にし”、生産者の顔が見える食べ物を“味わい”、「スローフードとは何たるか」を五感で学ぶ絶好の機会となった。
 食というと、おいしさばかりに目がいってしまう。しかし、口にする前にその食べ物がどの地域で作られ、どのような生産プロセスを辿ってきたのか、それはクリーンで正しいものであるのか、思いを馳せてみる必要がある。「おいしく、クリーンで、正しい」ものを消費者が購入することで、生産者を支えることができる。「経済は飛び交う紙の中で行われているのではなく、生産する人々から成り立っているのです。だから農業の重要性に注目しなくてはならない」これは、スローフード協会会長カルロ・ペトリーニ氏の言葉だ。日本においてもこの意識をもっと持たなくてはならないだろう。


*おいしく(Buono)は、食の感覚的で感情的な価値から来る意識、記憶、アイデンティティ。クリーン(Pulito)はさまざまな生態系や自然環境を考慮しつつ生産をすること。正しい(Giusto)は、労働や販売過程における社会的公正性を意味する。この3 つはスローフードの精神を表現する言葉としてよく使われる。

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