市民活動総合情報誌『ウォロ』(2013年度までブログ掲載)

ボランティア・NPOをもう一歩深く! 大阪ボランティア協会が発行する市民活動総合情報誌です。

2009年3月号(通巻443号):わたしのライブラリー

2009-03-01 17:52:53 | ├ わたしのライブラリー
小学生のための減災マニュアル
編集委員 杉浦 健

■地震イツモプロジェクト:編、渥美公秀:監修、寄藤文平:絵
『地震イツモノート―阪神・淡路大震災の被災者167 人にきいたキモチの防災マニュアル』、木楽舎(2007/04)、1,500 円(税込)

■メモリアルコンファレンスイン神戸:編、土岐憲三、林春男、河田恵昭:監修
『12 歳からの被災者学―阪神・淡路大震災に学ぶ78 の知恵』
日本放送出版協会(2005/01)、1,260 円(税込)

■古屋兎丸 著、『彼女を守る51 の方法』(全5 巻)
新潮社(2006/09-2007/09)、各530 円(税込)


 「皆さん、今日は何の日か知ってますか?」
 今年の1月16日に兵庫県内のとある小学校において全児童を集めた一斉防災訓練が行われ、筆者は「震災体験講話」の講師を務めた。その際、冒頭で参加者にこう投げかけた。
 翌日は阪神・淡路大震災から14年目の日。だから防災訓練。それくらいは誰でも分かる。
 で、答えは、「今日は、僕の誕生日です!」一同、大爆笑。だが、別にここで笑いを取ろうとしたわけではない。
 95年1月16日、この日は筆者にとって輝かしき30代のスタートの日だった。そしてその翌日に震災が起きた。当時、筆者は大阪に住んでいたが、昔から親しんだ神戸の惨状は、今でも目に焼き付いている。だから特にこの年の誕生日のことは忘れない。この日がそういう特別な日であることを、震災後に生まれた「震災を知らない子どもたち」にも知ってほしかった。同時に、過去形から未来形に話を展開する中で、このような体験に根ざした減災への取り組みが大切であることを伝えたかった。

■「自分たち」という意識

 今回講演用に用意したテキストのうちの一冊は昨年夏に『ウォロ』でも紹介された『地震イツモノート』。これは徹底的にビジュアライズされた(挿し絵というよりも絵本に近いような)内容の、“減災マニュアル”だ。大人向けだが、絵を見れば中身は大方理解できるので、小学生でもパラパラめくって必要な部分は頭に入れてくれるだろう。あとは実際に防災訓練の機会などを利用し、大人から口頭で補足説明をしてあげればいい。監修は大阪大学准教授の渥美公秀氏。「自分の身は自分で守る」という意識ではなく、「自分たちの身は自分たちで守る」という意識の大切さと、「一人ひとりのかけがえのない命を、みんなで支えあうことができるような社会」の実現を提唱している。
 当書は、「イザ!カエルキャバン!」で、防災訓練プログラムに新しい風を吹き込んだNPO法人プラス・アーツの永田宏和氏の好企画だ。

■子どもという目線

 もう一冊。子どもたちに話をするには、子どもたちの目線も必要だ。『12歳からの被災者学』は、まさに子どもたちの素朴な疑問に、ダイレクトに答えてくれる。例えば「揺れているときはどうしたらいいの?」「電気はどうなったの?」というような基本情報から、「学校はどのくらい休みになったの?」(子どもたちには重要な話だ)だとか、いざ直面した場合に自分たちで乗り越えなければいけない「お父さん・お母さんが死んでしまったら、どうなるの?」といったことまで網羅されている。更に、地域コミュニティやボランティアに関する記述もあり、子どもたち、特に小学校高学年から中学生の減災意識を高める工夫もされている。個人がやるべきこと、家族、学校、町内、自治体のそれぞれの役割、そしてボランティア活動を実際に行うために、何が必要で何が不要なのか。「被災地に送ってほしい物は?困る物は?」「新しいまちづくりのために子どもたちが考えておきたいことは?」といった、実際に地震が起きたときの子どもたちの可能性を示唆している。それを、大人よりも低い位置の目線で解説し、これだったらみんなでできるよね、といった様々なアイデアを提示する。いかにも画一的なマニュアル本が多い中、シンプルな話題からスタートしているのがよかった。それが防災グッズをそろえるだけそろえても、結局活用もできずにいる大人たちに、一石を投じることになる。しかも、投じるのは、著者の目を通した、震災未体験の子どもたちなのだ。

■いったい何を守るのか

 昨年の12月、千代田区社会福祉協議会主催の「ちよだボランティアウィーク」において「災害ボランティア学習会・災害から大切な人を守るには」に参加した。講師は防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏。一貫して「災害時に生き残る方法」を提唱する。そして、阪神・淡路大震災の関係者は、早く震災の後遺症から卒業し、新しい防災都市の構築と危機管理に、考えの方向性を切り替えるべきだ、とも。実際の被災者にとってはどうにも割り切れない話ではあるのだが。
 その渡辺氏が、実験的な“減災マニュアル”を製作した。タイトルは『彼女を守る51の方法都会で︱地震が起こった日』。当初「防災本史上初のグラビア型災害マニュアル」として製作され、それを原案として古屋兎丸氏によって漫画化(『彼女を守る51の方法』)された。
 ある2月23日午後7時35分、突然首都を襲ったM8の直下型大地震に対し、絶望や悲しみを体験しながらも、生き残ろうと必死になる主人公たち。彼らの長かった8日間を描いている。
場面は足取りに合わせてお台場から新宿へと移り、その中で、実際こんな場面に遭遇したら、このように対処しよう、といったようなエピソードが51例紹介されていく。
 惜しむらくは、主人公のみに焦点を当てているため、他人の動きが見えてこないこと。筆者は震災の翌日、音信不通になった友人を助け出すために神戸に入ったし、発生後1週間もたてば、周辺エリアからの援助や
様々な自発的なコミュニティも現れた。そういう動きが全く描かれていない。ストーリー構成上の脆弱さのために、本来あるべき“減災マニュアル”としての奥行きや広がりを欠いてしまっているのは残念だ。これでは自分や“彼女”は守れても家族は守れないし、まちも守れない。
 阪神・淡路大震災から14年、あの未曾有の地震を体験した人も、これから別の地震を体験するかも知れない人も、もう一度減災について直視するべきだ。特別な日のためではない。本当に大切なものを守るために。

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