市民活動総合情報誌『ウォロ』(2013年度までブログ掲載)

ボランティア・NPOをもう一歩深く! 大阪ボランティア協会が発行する市民活動総合情報誌です。

2006年7月号(通巻417号):この人に

2006-07-01 14:30:14 | ├ この人に


金香百合さん(ホリスティック教育実践研究所 所長)

インタビュアー・執筆
編集委員 ちょんせいこ


■「ホリスティック」という言葉に初めて出会う方もいらっしゃると思います。金さんが大切にされている「ホリスティック」という概念をご説明ください。

 「総合的、包括的、全体的」という意味です。私たちが生きる社会、今の時代は、「バラバラ」なことが多い。例えば、心と体、地域と職場、家族の関係など。本来は、つながりあっているものを、バラバラにして、さらには専門分化してとらえがちです。
 ホリスティックな考え方は、ひとつひとつの部分的なことを大切にしながらも、「つながり」や「かかわり」「バランス」「関係性」などの相互作用の中で総合的に見てゆくことを指します。
 例えば、心と体なら、そのどちらも大切にしながら、つながりやバランスなどを包括的にとらえます。

■具体的な取り組みをご紹介ください。

 私が多くのことを学び続けている大阪YWCAには、ドメスティック・バイオレンス(以下、DV)の被害にあった女性とその子どもを支援する短期宿泊施設「ステップハウス」があります。夫や恋人の暴力から逃れる緊急避難場所としてシェルターがありますが、「ステップハウス」は、その次にいくところです。住居探しや就労など自立生活の準備のために、6カ月間入居できます。さまざまな体験を持つ入居者が助け合って暮らし、生活の相談に応じるケースワーカーや、心の整理をお手伝いするカウンセラーもいる。これは女性と子どもに対する支援です。
 でも、女性と子どもへの支援だけではDVは解決しません。
 私たちはホリスティックに取り組むために、加害男性の脱暴力を支援するネットワークづくりや加害男性を対象とした脱暴力プログラムを実施してきました。女性を暴力から解放するためには、男性もまた、暴力から解放されることが必要です。被害者のエンパワメントと同じように、加害者のエンパワメントが大切なのです。
 また、長い回復のプロセスを支援するためには、子どもの存在を見逃してはいけない。子どもが母親のエンパワメントのカギになることも多いのです。
 このようにホリスティックな取り組みとは、被害者、加害者、子ども、周辺の人びと、援助者の互いの関係性をとらえながら問題解決を目指すことです。

■この4月からは、大阪府立女性総合センター(ドーンセンター)の指定管理者となった特定非営利活動法人ZUTTOの副理事長として、新しい展開を始められましたね。

 親友の佐々木妙月さん(同理事)から声をかけられました。「大阪のドーンセンターを大阪らしく活性化したいから手伝って」と。今の指定管理者制度は、民間に大きな負担を強い、力を活かしにくい。そのしんどさは分かっていますが、乗りかかった船なので、やると決めたからには、やっていきたいと思っています。(笑)
 「よりよい社会は生涯にわたる男女共同参画から」を基本理念に、ゆりかごから墓場までホリスティックに「ZUTTO」かかわっていきます。

■その第一弾セミナーが6月23日に開かれた「おんなたちのチャングム」と題した金さんと島崎今日子さん(ノンフィクションライター)の対談でした。

 韓国ドラマの「チャングムの誓い」をモチーフに男女共同参画社会について語り合いました。「チャングムの誓い」ご覧になったことありますか。おもしろいですよ。
 宮廷料理人の最高峰を目指す女の子チャングム。お母さんは第2話で亡くなってしまうのですが、両親がチャングムを精一杯愛したことが、チャングムのその後の人生を生きる力を育みました。このドラマを観ると、私は自分の母親を思い出すんです。

■金さんが、いつか作りたいと思っているグループホームも、お母さんの影響が大きいんですよね。

 子ども時代、わずか10坪の長屋の借家だった我が家には、まるで駆け込み寺のように、身を寄せる人がいました。長い人で半年もいる。血縁も何もない。でも助けを必要とする人がいつも家に来ました。
 冷蔵庫には、漬物とご飯しかないのに、母はどんな時も「お腹すいてないか」と問いかけるんです。当時は、言語的にも理論的にも説明できなかったけど、母がしてきたことは、今で言う「グループホーム」に凝縮されるんですね。
 人が癒され、元気になり、エンパワメントされるやさしい空間。豪華ではないけど、感謝の気持ち、幸せな気持ちで食べることができる人間的な空間が大切だということ。それは言葉ではなく、母の生き方から学びました。
 そんな母のもとに生まれ育った娘の使命として、高齢者や障がい者など、いろんな人がホリスティックにイキイキと幸せに暮らせるあたたかいグループホームを作ることが、私の人生の夢になっています。

■そうしたあたたかいホリスティックな関係を広げるため、今は全国を忙しくまわっていらっしゃるのですね。

 青森県では6年前から、ジェンダー教育をきっかけに継続的なかかわりが始まりました。青森県は自殺者が多く、そこには天寿を全うして送り出せない悲しさがあります。特に男性の自殺率が高く、子どもは父親を、妻は夫を亡くします。そうした喪失体験を乗り越えて生きる、子どものエンパワー学習や親学習プログラムに取り組んでいます。
 誰もが心の傷を持って生きています。そして、心を開くことが傷を癒すことになります。だから心を開こうと思える空間、関係づくりを進めてきました。単発で、バラバラではなく地域の人がつながってゆけるように意図しながらやってきた取り組みは、点ではじまり、今は線が面くらいになってきました。親だけでなく、子どもや教師も一緒に、仲間と地域まるごと包括的に取り組むことで効果をあげています。

■自分の身近なところで、どうすればあたたかいホリスティックな関係を作れるのでしょうか。

 人は誰でも、助けたり助けられたりの関係で生きています。私たちは、そうした相互作用の中で、あたり前に支えられてきました。理論ではなく、柔軟に。心と体から。その本質を私に教えてくれたのは、まちがいなく母です。それをソーシャルワーク的に発想し、実践してゆくことを大阪YWCAで教えてもらいました。これからはZUTTOで発展させたいですね。
 大阪YWCAのボランティアの方を見ていると、わざわざではない生まれつきの支え合いが、まるで遺伝子か細胞のように備わっています。また、上手な援助をする人は、援助されることも上手です。バランスがとても良い。かつて自分がしてもらったことを、目の前の相手に、次の誰かにつないでいく営み。「からだとこころと言葉で語り継ぐ」感じです。
 みんながシンプルに幸せになってほしい。そのためには「幸せな子ども時代」がひとつのキーワードです。子ども時代を幸せに過ごせれば、その後の人生を生きやすい。問題が起こったときも、失敗しながらも乗り越えて生きてゆきやすい。だから、幸せな子ども時代をつくることが、とても大切だと思っています。


●プロフィール●
大阪出身の在日韓国朝鮮人三世。(財)大阪YWCAでの仕事をとおして、平和教育、人権教育、子ども、女性、障がい者、高齢者、外国人、国際協力、異文化理解、ボランティア、企画力、ジェンダー、心のケア、生と死などの多様な問題に出会う。96年、大阪YWCA教育総合研究所を設立。以降、参加体験型学習による学びのファシリテーターとして全国各地で活躍。現在、ホリスティック教育実践研究所(HEAL)所長。特定非営利活動法人ZUTTO副理事長。金さんのHP キムリン・ホリスティック・ワールド



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