On a bench ブログ

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聴いたCD D・スカルラッティ : ソナタ集 「影と光 ~ Ombre et lumiere」(アンヌ・ケフェレック)

2017年03月06日 | 古楽・バロック
ドメニコ・スカルラッティ : 鍵盤楽器のための18のソナタ集 「影と光 ~ Ombre et lumiere」 (Scarlatti : Omber et lumiere / Anne Queffelec) [輸入盤] [日本語帯・解説付]
アンヌ・ケフェレック,ドメニコ・スカルラッティ
Mirare France / King International

 

 今日は、久しぶりに美しいスカルラッティを聴いた。

 いやあ、しかしこれは素晴らしい。実際、こうしてスカルラッティをちゃんと聴いたのって何年ぶりだろう。

 そもそもスカルラッティについては、はるか昔にホロヴィッツのRCAの「メトロポリタン・コンサート」での、究極に美しい6曲のソナタを聴いてしまい(CBSの1枚全部スカルラッティのアルバムじゃないですよ、念のため)、ある意味それが呪縛にもなっていたんだけど、近年やっとその呪縛が解けてオープンな心になってからも、これといった演奏に巡り合わず、自然に聴かなくなってしまっていたのだった。

 いや、それでも少しずつは聴いていたのだが、チェンバロやクラヴサンみたいな音はキツくてどちらかというと苦手だし、ピアノ演奏盤も含めて最初の数音を聴いただけで最後まで聴かなくても分かってしまうような調子の演奏も多いしで(要するに気に入ってないのだが)、正直もうスカルラッティときいただけで食指も動かなくなりかけていた。

 それが今回、たまたまこのジャケットを見かけて「ナンだこれ?」となり、さらにそこに「スカルラッティ」という予想外の名前があったのに驚いて、これはもしやと思って(それでも半分は躊躇しつつ)聴いてみると、もう最初の1音から音が耳に清水のように浸透してくる。

 この盤を弾いているアンヌ・ケフェレックというピアニストは初めてだが、柔らかできれいな音色を持ち、どんな作曲家もこなす万能タイプではない感じだけど、音楽の芯がすごくしっかりしている上での、何よりも曲によって表現が非常に豊かで、一曲一曲それぞれ違う表情を感じさせてくれる。

 正直、「女性的」という表現が適切かは分からないが、こういうバロックの演奏では、どうしても堅いというか規律性があるというか、従来の(男性的な)演奏では最初に折り目正しさみたいなものを感じてしまうことが多いのだが、彼女の演奏ではそんな枠を一つ取り払ったような、融通性のある生気ある瑞々しさみたいなものを感じる。

 で、さっきからなぜだか頭の中に、金魚みたいな魚のイメージがちらついているのだが、そのイメージに沿っていえば、これまで一つの大きな飾り気のない水槽に一緒くたに飼われていた様々な魚たちが、それぞれ水草や飾りで意匠をこらしたガラスのきれいな水槽に移されて、喜んで泳いでいるみたいな印象にも感じてしまう。

 ややもすると、人はひとつの曲もしくは魚に、ひとつの決まった演奏もしくは水槽を作り上げようとするものだが、曲の性格によってはそういうやり方に必ずしもそぐわない曲もあって、一匹の魚を折々の機会に色々な変化に富んだ水槽で楽しんでいくやり方もいいんじゃないか、と言われているような、そう言われて気づくと、こちらも急に見晴らしが開けて息もしやすくなったみたいな、そんな新しさをこの演奏には感じた。

 「ねばならない」というある種の呪縛を、一つするっとほどいたような印象の演奏。そういった、清々しさみたいなものを感じた1枚だった。

 で、そんなアンヌ・ケフェレック、今彼女のディスコグラフィをチェックしてみると、やはり予想通りのフランスものに交じって、ハイドンの盤が1枚ある模様。こういう盤が、次に聴いてみたい。

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