【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

濡れた決まり/『時計はとまらない』

2009-06-14 17:22:22 | Weblog
 去は「キョ」と読みます。怯・佉・胠もすべて読みは「キョ」(またはキョウ)です。つまり「去」は「きょ」の音符と言えます。ところが「法」はどうでしょう。「ホウ」です。絶対に「キョ」とは読みません。……なぜ? 私は首を傾げます。
 いくら首を傾げても、知らない知識は出てきません。
 『漢字源』を引いてみました。すると「法」の元の文字はもう少しややこしくて「氵」+「タイ(「鹿の「比」を「烏」の下半分に置き換えた字)」+「去」で、「タイ」(鹿と馬に似た珍獣)を池の中の島に閉じこめて外に出られないようにした状態のことなんだそうです。意味は「ある枠(たとえば島)の中では自由だが、その枠の外には出られない」。で、そのうちに文字が簡略化されて「法」になったわけ。
 漢字の成り立ちはわかりましたが、それでも「法」の読みが「ホウ」であることに納得できたわけではありません。ただ、「法」の漢字の形は時の流れで変わっても、ホウの本質は昔も今も変わらないらしい、ことはよくわかりました。

【ただいま読書中】
ジグソーパズル入門』石井研士 著、 やのまん、2009年、1400円(税別)

 「富士山を動かすのには何日かかるか」で本書は始まります。マイクロソフト社の入社試験の一例なのだそうですが、ビル・ゲイツがジグソーパズルのファン、ということからのオープニングでした。(正解は書いてないけれど、私が答えるとしたら「一日もかからない」ですね。だって地球の動きにつれて富士山はもう動いていますから)
 ジグソーパズルは多彩です。ピースの数は、2から約21万まで(現在メキシコで100万ピースのものを制作中とか。ただしあまりに大きいものは市販はされない特注品です)。絵柄はなんでもあり。形も、平面だけではなくて立体や球体も。材質も、厚紙・布・木・プラスチック・アクリル・ガラス・金属…… 国産で一番大きいのは「バベルの塔(ブリューゲル)」147×216cmの畳二畳分(1万292ピース)。世界で市販されているものでは、「生命・偉大な挑戦」2万4000ピースで157×428cm。(宣伝サイトに各国で最初に完成させた人の写真が紹介されています(http://www.worldslargestpuzzle.com/hof3.html)。
 難解にするためには、ピースの数を増やす、ピースを小さくする(ピースから得られる情報が減る)、色を減らす(モノクロ写真、絵柄を無くして一色にする)などのテクニックが使われます。「世界で最も難しいパズル」とうたっているのはわずか529ピースのものですが、両面に無数のダルメシアン犬が描かれており、さらに表と裏で絵柄が90度ずれており、さらにピースの表裏がわからないように両面から裁断されています。つまり、表と裏とが同時にきちんとつながるように組み立てていくわけで……考えただけで、うわあ、です。アナスターシ・パズルも笑ってしまいます。150ピースくらいなのですが、絵柄が、ジグソーパズルのピースを打ち抜く刃型。実際のピースの輪郭と模様の刃型が微妙にずれて奇妙な感覚が味わえるそうです。
 日本の住宅事情を考えてか、「ジグソーパズルプチ」というシリーズもあります。ピースの大きさは1cmくらい204ピースで完成するとハガキ大で、箱の中にはピンセットが入っています。もっとすごいシリーズでは、ルーペを使いながら組み立てていくものがあるそうです。
 立体パズルも、地球儀とかボールはわかりますが、ドラえもんやビッグ・ベン、ミイラ、ステルス戦闘機とくると、どのマニアでも何かジグソーパズルへの入り口がありそうです。
 ジグソーパズルは18世紀の大英帝国で生まれました。最初は地図を教えるための教材だったそうです(名称も「解体地図」)。国や郡の境界に沿って切り出された木製のピースを組み立てるものです。アメリカでブームが起きたのは世界恐慌のときです。レンタルも登場します。高価なパズルを購入するのではなくて、ドラグストアや図書館で借りて作って楽しむわけです。1932年に厚紙を打ち抜くパズルが登場して商品のオマケとして配布され、ジグソーパズルはポピュラーな存在となります。さらに「毎週新しいパズルを安価に発売する」商売が登場し、一時200社以上がパズルを発売する大ブームとなりました。1974年東京でのモナリザ展で、モナリザのジグソーパズルが日本でのパズル熱に火をつけたそうです。(ちなみに著者は、名画のパズルは絵を見るだけではわからない細部が(文字通り)手に取るようにわかる魅力がある、と述べます) はじめは輸入品でしたが、すぐに国産が始まります。
 工場にも著者は出かけます。打ち抜きの金型は職人の手作りです。まず縦に切り、ついで移動して横に切り、最後にピースをばらすのは手作業です(海外ではオートメーション)。実はそれが日本のパズルが高品質である秘密だったのです。詳しくは、本書をどうぞ。
 学生時代、時間はあるが金がないときに、ベッドの布団の上げたところを専用製作場所にしてでかいジグソーパズルをゆっくり作っていたことを思い出しました。寝るときには布団を戻せば良いのです。今思うと、贅沢な時間の過ごし方でした。今は、そんなことができる場所も時間もありません。ちょっと悲しいな。



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