【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

「墓で踊る」

2016-06-15 06:50:49 | Weblog

 アメリカの誰の小説だったかな、「お前の墓で踊ってやる」という言い回しを見たとき、そのネガティブな思いの強さに驚きました。相手の死を喜ぶだけではなくて、それを荒らしてはならない墓場で表現するわけですから。
 ただ、これが日本だと、同じ思いを「化けて出てやる」と表現しません? 日本だと「自分が先に死ぬ」が前提で、英語圏だと「相手が先に死ぬ」が前提になっているわけです。子どもを罰する場合に日本だと「家から閉め出す」、アメリカだと「部屋に閉じ込める」とやはりまったくの逆方向であるのも思い出してしまいました。
 人の思いは共通のはずですが、文化の違いでその表現が丸っきり逆方向に向くのは、興味深い現象です。

【ただいま読書中】『おれの墓で踊れ』エイダン・チェンバーズ 著、 浅羽莢子 訳、 徳間書店、1997年、1600円(税別)

 こちらはさらに“逆方向”のタイトルで、「Dance on my Grave」と命令形です。一体、どんな命令? 読む前から私の頭は混乱します。
 ハルは「心の友」を求めていましたがまだ見つけることができていませんでした。16歳の夏、イギリスでは進学か就職かを決定する時期ですが、ハルはそれを決めることができません。テムズ川河口で間抜けな転覆をしたハルは、颯爽と駆けつけたバリーという少年に救助されます。
 まず考えるハル。まず行動するバリー。あきらめが早いハル。絶対にあきらめないバリー。「死」にとりつかれているハル。生きることにしか興味がないバリー。まったく違うタイプの2人は一目惚れをします。2人の少年の友情と恋の物語が始まります。
 2人が出会ってからバリーが死ぬまで、7週間の物語です。細かい断章が積み重ねられていますが、そのほとんどはハルが書いたものです。所々に、カート・ヴォネガットの引用や、裁判でハルの動機について述べるために調査しているソシアルケースワーカーの手記も混ざって登場しますが、それが存在しなければならない理由は第3部になってわかります。
 裁判……バリーがオートバイで事故死をした後、ハルはバリーの墓の上で踊ったため、裁判になっていたのです。なぜハルはそんなことをしたのか。「バリーと約束をしたから」とハルは言います。では、なぜ2人はそんな約束をしたのでしょう? そして、ハルはなぜそんなとんでもない約束を果たそうとしたのでしょうか。
 むき出しの魂のひりひりするような青春時代。「理解したい」と渇望し、しかし「理解できないこと」だけは理解できてしまった、哀しさ。大切なものを思い出せないのに思い出すべきだという気持ち。破ることができない誓い。自己嫌悪。ハルは自死を考え、そして……
 「ロミオとジュリエット」の一つのバリエーションとすることもできる作品です。ただ、こちらの方が「現代の青少年」の心に響く部分を持っているでしょう。「2人の少年」という部分に反発する人が多いかもしれませんが。



コメントを投稿