X:結局ずっとビニール太鼓のままだったね。
Y:二年ぶりに逢えたのにちょっと悔しい、また来年も(おそらく)見れないし。
X:四日あったのにびっしり雨仕様ではねえ、こうなったら早めにお天気になって湿気取りしてもらいたいよ。
Y:そもそももうしばらくお日様を見てない。
X:17午後に出立の際はかなりいい雰囲気だったけど見たかい。自治会館の炊事場で拵えをしてくれているご婦人方が顔を出してきてくれて拍手を贈ってくれたんだ。
Y:うん。あれでやる気と元気が出たね。予報どおりの雨でちょっと病んでたから。彼女たちのしている仕事はどこの自治会でも本当に感謝すべきものだと思うけど、義務や義理だけでやってるわけじゃないんだな。休みや負けが続いていたときは彼女たちも晴れやかな気分ではなかったんだろう。男衆が楽しそうに嬉しそうにいてくれるのが一番ではあるんだろうけど。
X:彼女たちのためにも17くらいはビニール除けて出てもよかったか。まぁあの時点からしばらく降らなかったから言ってるだけか。
Y:でもやる時も〆つけていたのはよかったね。
X:18午後にブルーシートが外されいた時に〆があったのはかなり嬉しかったよ。
Y:大江はほぼ〆を付けてやるよね、そこから余裕を感じてた。
X:こっちのは贅沢品だから……なぁんて言い訳はするけど、もしなんかあったら痛手だもんなあ。
Y:逃げの思想というか、そんな保険をかけてしまっていたところが気迫というか気概というか、欠落してたのはそのへんだろうな。
X:とにかくなにがなんでも絶対に退かぬという闘志が今回は〆に凝縮したってとこだろ。
Y:とは言っても心配したくせに。
X:まぁな。昨年の東町みたいに落としたら寒気だし、もっと酷いことまで想定できるしね。
Y:ぼくはこんなこと考えてたよ。そうはいいながら〆付きはなんかあったら怖い。〆は外してやってから勝って一宮行くときに付けてけばいいやってね。
X:勝ってから、というのがすでによくても五分五分、普通に考えて三七くらいの仮定じゃん。
Y:なのにだ。重旗さえ積まずに行ったのに、紙吹雪を用意してた重係はなかなかだよな。
X:あぁ確かに。中須賀去りし後だけど、道路に残った紙吹雪を見た地区の人はさぞや複雑だったろうなあ。
Y:一宮へ行くといえばだね、交戦前の段階で「勝って一宮へ行く、そこで差すぞ」と発破かかっていたけど。
X:あの時点では大言壮語の類いだろうけど、あれで担き夫にとって勝負に対して具体的なイメージが湧いたように思うよ。いい発破だった。
Y:DS君のだね。後ろ側では彼とOB君の指示がかなりよかったよ。はやりがちな担き夫を抑えることもできていた、ポイント高いんじゃないかな。
X:勝因はなんだろう。
Y:まぁうまく当たった偶然だといってしまえもするけど、執念じゃない? 序盤で芯棒の端管飛ばされて「えーまたかよ~」と落胆しそうなところを持ち直せたのは執念の一言だろうね。
X:右の芯棒の端管も少しめり込んでたからな。あれが飛んでしまうのと残ってるのは大違いでね、あそこで止まってくれたのは幸運そのものだ。
Y:棒が太かったから、という話はどう?
X:とはいっても大江と同じ太さに見えたけどね。大江はずっとあの太さでやってきたんだろうし、比較的細い棒なら折るのもまた比較的楽だったはずだよ。
Y:端管そのものは大江の方が短かったからね、こっちの方が少し飛びやすいはず、強度と当たった時の角度、衝撃力などの総合、つまりは結局「運」だったことか。
X:それで結構じゃないか。今まではことごとくそいつに見放されていたわけだから。それと今回、明らかに優位だったものに「勢い」を挙げていいだろ。
Y:言える。工場前でも最後は大江が退いたよね。めったにないことだ。あの勢いをそのまま次の日まで持ち越せたことはかなり大きい。
X:すこぉしだけど工場前では担いたしね、高欄幕を外さなかったのも偉い。〆の件もそうだけど、大事な幕を毀損しちゃいけない、という考えはどうしても弱気や萎縮に繋がりがちだから。
Y:なにか心機一転に近いものがあったのかもしれないな。
X:そして海岸通りでも大江がゆっくりと退いた時に終了のゴングが鳴ったわけだ、こっちにとってはそれが歓喜のファンファーレだったね……。