実務家弁護士の法解釈のギモン

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所有権留保の弁済による代位(5)

2018-03-23 13:07:58 | 債権総論
 ただし、この2つの判例の理解には、一つ問題があるように思う。前回の判例は、法定代位の事案ではないということを前提に、民事再生法45条を引用することになったのであるが、では、法定代位の事案だったらどうなのか。という点である。
 どういうことかというと、仮に前回の判例が法定代位の事案だとしても、立替払いは自動車購入時に速やかに実行される。従って、弁済による代位も立替払い時に生じると考えると、事案的には法定代位後の債務者の民事再生の事案なので、実は民法501条1号がズバリ問題となりそうなのである。この条文が問題になるのであれば、債務者の破産や民事再生の前に、所有権名義は信販会社に移転しておく必要が出てくる。もしそうだとすると、結局、合意の内容如何に関わらず、立替払いの時は所有権名義を信販会社が取得しておく必要があるということになりそうである。
 なお、弁済による代位の付記登記(つまり、現行民法501条1号の代位の付記登記)は、改正債権法においては対抗要件とはされなくなった。したがって、改正法施行後は法定代位の事案では、再生債務者や破産管財人に対抗するための付記登記の必要性はない。担保権の任意譲渡の事案について、民事再生法45条や破産法49条を気にすればよいだけである。

 時として、判例は例外的な事案が先に登場し、原則的な事案が後から登場するということが、ままある。これには理由がありそうである。なぜなら、原則的な事案は、法理上当然と考えるので、そもそも争いになりにくいからである。そこで、例外的な事案が先に判例として登場し、その判旨が原則と思っていた結論と異なるような結論だと、では、判例は原則をどう考えているのだろうと、後から争いになるのである。
 所有権留保の弁済による代位の判例は、例外的判例が先に登場してしまった典型例であろう。原則判例が未だ登場していない間は、注意を要する典型的判例かもしれない。

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