実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社法改正ー取締役の株式報酬(5)

2020-03-18 12:37:44 | 会社法
 ストックオプションの発行方法については、費用計上することにより問題点はクリアされてきたが、さらなる問題は、実務において1円ストックオプションと呼ばれるような、権利行使価格を1円とするストックオプションが登場したのである。
 なぜこのようなストックオプションが登場したかは必ずしもはっきりとはしないが、権利行使期間を取締役退任後数日間とすることにより、いわばインセンティブ退職慰労金とする趣旨で発行されたのが最初のようである。退職慰労金の代わりとして発行するとすれば、権利行使価格を、発行時の時価相当額とするわけにはいかないのは確かであろう。そうでないと、退任時に株価が払込価格より下落していると、何の退職金も得られないこととなってしまうからである。そして、仮に払込価格をほぼ発行時の時価とし、株価が値上がりするか値下がりするかがともに5割の確率だとすると、このような内容のストックオプションが発行されても、利益を得られる確率は5割となってしまう。いくらインセンティブ退職慰労金といっても、利益ゼロになる可能性が五割あるのでは、退職慰労金として納得できるものではないだろう。だから、得られる利益に変動はあり得るとしても、必ず退職慰労金が得られるようにするために、権利行使価格を1円として発行するのである。

 改正法は、こうした発行時の問題、権利行使時の問題を事実上追認した。つまり、上場会社が取締役の報酬として新株予約権を付与する場合は、発行時の払込も権利行使時の払込も要しないものとして新株予約権の内容及び発行事項を定めるべきこととされたのである。

会社法改正ー取締役の株式報酬(4)

2020-03-04 10:21:39 | 会社法
 ストックオプションに関しては、従前、発行方法そのものにも問題があった。
 どういうことかというと、ストックオプションを取締役に対して無償で付与する場合、有利発行とされる可能性が高いとされたため、実際上は、無償で発行しようとする場合は株主総会特別決議を経なければならなかったのである。
 そこで、取締役会限りでストックオプションを発行するために、ストックオプションの時価相当額を費用として計上するという方法が行われるようになったようである。費用計上するということは、ストックオプションの時価相当額の金銭を取締役に支払ったものとみなすことを意味する。この、いわば「見なし金銭報酬」をストックオプションの払込に充てたとみなすのである。

 以上のように、ストックオプションの発行方法については、発行時の払込金額相当額を費用計上することにより、実務上問題点はクリアされてきたといってよい。