実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

全部取得条項付種類株式と反対株主(5)

2012-04-26 09:38:22 | 会社法
 実は、こうした関係は株式買取請求権に限らず、ほかの少数株主権についても似たようなことが言えそうな気がしている。
 例えば、典型的な少数株主権である帳簿閲覧請求権。100分の3の議決権に相当する株式を有していればよい。もしぴったり100分の3の議決権を有している株主がいたとして、わずかでも超過記載が生じているとしよう。この場合に、ぴったり100分の3の議決権を有する株主の帳簿閲覧請求権を行使できないことが妥当だろうか。あるいは、1単元の株式のみを有している株主が、株主代表訴訟を提起しようとしている場合に、超過記載が生じていることを理由に代表訴訟が提起できないとすることが妥当なのだろうか。最終的に超過記載が解消される場面は、振替機関や口座管理機関による株式の消却であり、その他の個別の株主の株式保有状態に何らの変更も生じない。生じるとすれば、個別の株主が自らの意思で株式を売却する場合だけである。このことは、善意取得が生じた株主でも全く同様である。振替機関や口座管理機関が償却すべき株式を市場から取得することになる場合も当然にあり得るが、その場合は、これに対応して当然に株式を売却した株主が存在するわけで、その株主は自らの意思で売却し、その分の株主としての権利を失うのである。これによって帳尻がある。それ以上でも以下でもないのである。
 そうだとすると、超過記載の場合であっても、通常の少数株主権について権利制限が発生するのは、私には不当に会社を利しているだけのような気がしてならない。
 もともと、典型的に想定されている少数株主権は、基本的には株主総会における議決権あるいは剰余金配当請求権のように一度に全株主が集団的に権利行使するような代物ではない。だから、超過記載が生じても、少数株主の有する株式数をそのままカウントしたところで、それ程大きな問題はないはずなのである。

 これに対し、株主が集団的に権利行使をする議決権や剰余金配当請求権を超過記載分も含めて認めてしまうと、これは確かに会社にとって不都合である。そこで社債株式振替法は、超過記載が生じている場合の議決権については、超過記載の結果単元未満と扱われても割合的な議決権の行使を認めており(社債株式振替153条)、株主の権利と会社の立場を調整する特別な手当をしている。剰余金配当や残余財産分配請求については、典型的に147条1項を適用すればよい。
 しかし、こうした集団的権利行使の場面ではない少数株主権のような権利について、これを制限することの立法的妥当性については、超過記載の解消状態との権利関係と比較した場合に、私にはかなり大きな疑問を感じる。

全部取得条項付種類株式と反対株主(4)

2012-04-23 09:53:17 | 会社法
 株式買取請求権や価格決定の申立権と超過記載との関係について考えると、例えば1000株の株式を保有する株主がいたとして、仮に振替機関が1割の超過記載をしてしまったとした場合、1000株の株主はその1割に当たる100株分を会社に対して対抗できないということになる。この状態でもし、全部取得条項付種類株式の反対株主の買取請求や価格決定申立権が、同法147条1項の対抗できない権利であるとすると、株式買取請求権や価格決定の申立は900株分しか行使できないということになる。権利行使できない100株分については、超過記載をした振替機関に対して損害賠償請求をするということになろう。実際、立法者もこのように考えているのかもしれない。

 しかし、まずそもそも、反対株主が買取請求をし、あるいは価格決定の申立をする場合、超過記載があろうとなかろうと、反対株主の有する株式の真の数が増減するわけではない。株式を売却すれば減じるが、その場合は、買取請求権も価格決定の申立権も消滅する。これは判例がいうとおりであるが、決して売却したわけではない。そうすると、超過記載が発生しなければ、反対株主の前所有株式について買取請求権や価格決定の申立権が認められたにもかかわらず、超過記載という、それ自体は株主にとっても会社にとっても全くの偶然の出来事でしかない事象が発生したために、買取請求権や価格決定の申立権が超過記載の割合だけ会社に対抗できなくなってしまうと、むしろ会社が得をするという関係が生じるのではないか。
 そうだとすると、この場合に仮に振替機関が損害賠償義務を果たしたとしても、会社の利益の上に振替機関が損失を被ったということになり、不当利得関係が生じないのだろうか。もし、振替機関が会社に対して不当利得返還請求できるというならば、結局、超過記載があろうとなかろうと、はじめから株式買取請求権や価格決定の申立権を、反対株主の全所有株式について認めた方が手っ取り早い。

全部取得条項付種類株式と反対株主(3)

2012-04-16 14:14:13 | 会社法
 全部取得条項付種類株式の反対株主の株式買取請求や価格決定の際の個別株主通知の要否について、判例の解釈は形式的にはそのとおりなのかもしれないが、疑問もないわけではない。

 第一の疑問点は、株式買取請求や価格決定の裁判の行使が、本当に社債、株式等の振替に関する法律(社債株式振替方)にいう「少数株主権等の行使」と言えるかどうかである。
 同法上、「少数株主権等」の定義は、同法147条4項に規定されており、そこには「株主の権利(会社法第百二十四条第一項に規定する権利を除く。次条第四項及び第百五十四条において「少数株主権等」という。)」とある。要は、基準日時点で権利行使するもの以外の株主の権利をすべて包含するかのような規定ぶりとなっており、会社法上の解釈として言われる、いわゆる「少数株主権」とは範囲を異にし、より広いと言えよう。この少数株主権等の行使の場合には個別株主通知が必要であることが同法154条に規定されているという関係にある。
 それでは、「少数株主権等」を定義する社債株式振替法147条はいったい何が規定されているというと、振替株式に善意取得が生じ、振替機関において振替株式の超過記載が生じている場合の処理について規定されている。超過記載とは会社が発行する株式の総数より多くの株式が振替株式として振替口座簿に記載されてしまっている状態である。振替株式の場合、振替機関や口座管理機関が誤って口座に増加の記載がされても善意取得が起こりうることになっており、その場合に超過記載が起こりうるのである。
 このような超過記載の現象が生じている状態においては、各株主は、超過記載分に相当する割合だけ、自らが株主であることを会社に対して対抗できなくなってしまうのである。これが147条1項に規定されていることである。このようにして、超過記載が生じている状態における、会社側の不都合を回避しているのである。これによって、株主に損害が生じる場合、誤って超過記載をしてしまった振替機関に対して損害賠償を請求することになる(社債株式振替147条2項)。
 ただし、振替機関が超過起債分の振替株式を自ら取得しその権利を放棄すれば(特殊な株式の消却といえよう)、超過記載が解消されるので、その場合は少数株主権等の行使について、上記のような会社に対する対抗不能状態が解消されるという関係になる。それが少数株主権等を定義する社債株式振替法147条4項なのである。
 そうだとすると、全部取得条項付種類株式の反対株主の買取請求や価格決定申立権が、同法147条1項の対抗できない権利となるのか否かが、まずもって問題とされなければならないはずである。

全部取得条項付種類株式と反対株主(2)

2012-04-12 10:05:21 | 会社法
 さて、そこで全部取得条項付種類株式に話を戻すと、普通株式の全部取得条項付種類株式への定款変更に対しては、反対株主による株式買取請求権がある。これは、会社法116条であり、価格決定の裁判は117条に規定されている。
 会社法172条の方の価格決定の裁判の申立権に関しては、平成22年に判例があり、この権利は社債株式振替法にいう少数株主権等に該当するといい、会社側において、申立権者が株主であることを争っている場合は、価格決定の裁判終結までに個別株主通知がなされる必要があるという。
 そして、つい先だって、会社法116条の株式買取請求権における価格決定の裁判についても、個別株主通知を要するという判断がなされた。その上で、これら判例の事案では個別株主通知が行われなかったことから価格決定の裁判を却下してしまった。

全部取得条項付種類株式と反対株主(1)

2012-04-10 09:55:27 | 会社法
 上場会社が全部取得条項付種類株式を利用して実質的なキャッシュアウトを目論む場合、これに反対の株主の権利行使に関して、最高裁はかなり厳しい態度を示している。
 問題は、個別株主通知の問題である。

 まずは、個別株主通知がどのようなものかを説明する必要があるかもしれない。
 上場会社の場合、上場基準として「社債、株式等の振替に関する法律」(以下、「社債株式振替法」という)に基づいて、発行する株式について振替機関が取り扱うものとして取締役会で決定していることが必要となっている(いわゆる、株券の電子化である)。このように振替機関が取り扱う株式のことを、振替株式という。
 この振替株式に関して株主としての権利(少数株主権等)を行使するには、株主が口座を開設している証券会社等の口座管理機関を経由して申し出をすることによって、振替機関から会社に対して当該株主の氏名、住所、株式数等を通知してもらう必要がある(社債株式振替法154条3項)。これが個別株主通知と言われる。

 なぜこのような手続が必要かというと、振替株式の場合、株式の流通は振替機関や口座管理機関による口座管理簿に基づいて行われ、株主名簿の名義書換は基準日など一定の日に一斉に行われる場合(この場合は、振替機関から会社に対し、全株主の氏名、住所、株式数等が通知され、総株主通知が行われる)のほかは、行われないからである。そのため、総株主通知が行われてから、次の総株主通知までの間の真の株主が誰であるかは、会社には分からないのである。
 こうしたことから、少数株主権等を行使する前提として、自らが株主であることを会社に認識してもらうために、基準日時点の権利行使をする場合を除いて、個別株主通知が必要なのである。しかも、問題なのは、この個別株主通知は、株主であることの一つの証明手段という位置づけではなく、少数株主権等を行使する実体的要件となっているということなのである。