実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(4)

2019-07-31 10:36:51 | 会社法
 では、財務計算に関する部分については、誰が責任を負うのかというと、監査証明をした公認会計士又は監査法人が責任を負うことになっている。

 つまり、虚偽記載のある有価証券届出書の関係者の責任としては、有価証券届出書の届出会社の役員の責任は全般的に責任を負うとして、その他の関係者としては、財務計算に関する部分は監査証明をした監査法人が、その他の部分は元引受証券会社が、それぞれ責任を負い、それぞれ当該部分についてゲートキーパー的な責任を負うような棲み分けがされている条文のように、私には見えるのである。

「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(3)

2019-07-26 14:36:01 | 会社法
 金融商品取引法には、「募集」または「売り出し」における元引受証券会社の責任について特別の規定があり、有価証券届出書に虚偽記載がある場合、元引受証券会社は「募集」または「売り出し」に応じて株式を取得した者に対し、損害賠償責任を負うと定めている。
 有価証券届出書は、株式を発行している会社自身が作成するものであり、証券会社が作成するものではない。しかし、有価証券届出書の虚偽記載に対して元引受証券会社に民事責任を負わせることにより、実質的(あるいは間接的)に、元引受証券会社にも有価証券届出書の内容の正確性についての調査義務を課したといえるのである。いわゆる、ゲートキーパー的な責任を持たせたのである。

 ところが、これに対して免責規定もあり、そこには、「記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、第193条の2第1項に規定する財務計算に関する書類に係る部分以外の部分については、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかつたこと」が免責事由となっているのである。この免責規定をかみ砕いて説明すれば、虚偽記載を相当な注意をもちいても知らなかったことが免責事由なのであるが、財務計算に関する書類、すなわち財務諸表の部分に限っては、単に虚偽記載であることを知らないだけで免責されるという規定ぶりとなっているのである。
 したがって、有価証券届出書の虚偽記載のうち粉飾決算が問題となっている場合は、元引受証券会社は虚偽記載であることを知らない限り責任を負わないという解釈が導ける規定となっている。

「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(2)

2019-07-17 12:16:04 | 会社法
 最近の判例時報に出ていた判例は、極めて単純化すれば、要は有価証券届出書や目論見書に記載される企業情報の一つである財務情報、平たくいえば決算資料が粉飾されていたという事案で、「募集」または「売り出し」に応じて株式を購入した投資家が損失を被ったとして、元引受証券会社の損害賠償が問題となった事案である。
 有価証券届出書の虚偽記載であるから、有価証券届出書作成者である株式発行会社が責任を負うことは当然なのであるが、その他にも関係者の責任が生じることになる。ここで言う関係者としては、会社の役員も責任も問題となり、同様に監査証明をした公認会計士又は監査法人の責任、元引受証券会社の責任も問題となる。

「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(1)

2019-07-10 10:14:35 | 会社法
 最近の判例時報で、金融商品取引法に関する高裁判例が出ていたので、一言。と言っても、私自身は、金融商品取引法にそれほど詳しいわけではない。単に会社法の延長部分について多少の知見があるだけなのだが、少し気になる判例であった。

 前提として、「募集」、「売り出し」について少し説明をした方がいいであろう。

 例えば、株式の新規上場時に、募集株式の発行の方法で広く一般投資家に発行したり、創業家が新規上場時にその有する既発行株式を一般投資家に売り出したりする場合、金融商品取引法が定義する「募集」または「売り出し」に該当することになる。この場合、当該株式の発行会社は、有価証券届出書の内閣総理大臣への届出をする必要がある。有価証券届出書には、「募集」または「売り出し」をする株式についての証券情報及び株式発行会社の企業情報等が詳細に記載される。
 この有価証券届出書は、公衆に縦覧されることになる。現在の仕組みでは、Edinetという開示用電子情報処理組織通じて、誰でもネット上で閲覧できる。このことによって、市場において「募集」または「売り出し」が行われる株式の評価が可能になる。この有価証券届出書の届出と公衆縦覧を、間接開示ということがある。

 有価証券届出書の届出とともに、実際に一般投資家に「募集」または「売り出し」をする株式の購入を勧誘し取得させるには、株式発行会社が目論見書を作成し、販売担当者が投資家に交付しなければならない。目論見書には、有価証券届出書記載事項がほぼそのまま網羅される。このことにより「募集」または「売り出し」により株式を購入しようとする投資家は、直接、証券情報及び企業情報等を知ることができる。投資家に直接交付する書面なので、直接開示にあたる。
 投資家への株式の販売行為は、実際には証券会社(金融商品取引業者)が担当することがほとんどで、証券会社が「募集」または「売り出し」をする株式全部をいったんすべて買取って、証券会社の責任で一般投資家に販売する方法(これを「買取引受」という言い方をする場合がある)や、とりあえずは証券会社は一般投資家への販売仲介をするに過ぎず、売れ残った残部のみを引き受ける方法(これを「残額引受」と言う言い方をする場合がある)がある。これにより、「募集」をする株式発行会社や「売り出し」をする創業家は、売れ残りの心配をせずに済むことになる。
 証券会社とするこうした契約のことを、元引受契約という言い方をし、元引受契約をした証券会社のことを、元引受証券会社という。現場での株式の販売活動は、この元引受証券会社さらにはその下請けたる証券会社が、目論見書その他の資料を用いて一般投資家に株式を販売することになる。

改正相続法-特別受益者の相続分と生前贈与に対する遺留分侵害額請求(7)

2019-07-03 13:10:52 | 家族法
 あくまでも個人的な感想に過ぎないが、具体的相続分を算定するに当たっては、特別受益の持ち戻し計算としていくらでも過去に遡って生計の資本たる生前贈与を問題とされる。そして、具体的な遺留分侵害額を算定する際には、遺言の内容が100%の包括遺贈でない限り、どうせ具体的相続分を考慮せざるを得ないのである。そうである以上、遺留分算定の基礎財産たる相続人に対する生前贈与も期限を区切る必要はなかったのではないかという気がしてならない。むしろ、期限を区切るのであれば、具体的相続分を算定する際の特別受益も期限を合わせるように区切った方がよかったのではないか。ただし、その場合に、過去10年では短すぎる。

 私のイメージからすると、死亡時からの逆算で区切るのではなく、生前贈与が問題となるのは、たいがい第一順位の子供であるから、子供の年齢で区切る方がいいような気がする。例えば、子供が20歳以後にされた生前贈与は特別受益に算定し、遺留分の算定の基礎財産と考えるという形の方が良さそうな気がしている。なぜなら、当然であるが、年長の子は年少の子よりもはやく大きくなるので、生計の資本たる贈与が早くされやすいのではないかと推測するが、そうすると、逆算方式だと年長の子に有利に働いてしまうからである。

 相続人に対する贈与がなされたときの遺留分は、今後だいぶ様子が変わってくるような気がする。
 その改正相続法も、この7月からついに本体は施行となった。どのような運用になるのだろう。