実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(6)

2016-03-30 10:09:40 | 民事訴訟法
 そこで、第1の問題点の解決はとりあえず保留することにして、私が思う第2の問題点がある。それは、既に指摘した、訴え却下判決に対する被告のみによる控訴と控訴審での一部認容判決との類似性、ただし、この類似性を問題設定することそのものに問題がありそうだと述べた点に絡む。

 何を言いたいかというと、そもそも、訴えを却下した一審判決に対する控訴審において、原判決を取り消す場合は、原則として事件を第一審に差し戻さなければならないのである。それを規定したのが民事訴訟法307条である。必要的差し戻しとした理由は、訴えを却下した一審判決は、本案について十分な審理がなされていない可能性があるから、当事者の審級の利益を確保するために必要的差し戻し事件としたのである。
 そして、不利益変更の問題とは直接の関係はないのだが、和解成立による訴訟終了宣言判決も訴訟判決だというのであれば、本案について十分な審理がされていない可能性がある以上、控訴審が和解無効と判断して一審判決を取り消すのであれば、この必要的差し戻しの規定を類推して第一審に差し戻す必要があったというべきではないのだろうか。
 この点が、今回の最高裁判例についての私の最大の疑問点なのである。

 もし一審に差し戻すのであれば、一審において本案判決をすればよいのであり、そこでは不利益変更など全く問題とならないから、堂々と一部認容判決ができる。そうなれば、そもそも第1の問題点は、問題とはならなくなるのである。

預金の遺産分割審判

2016-03-28 11:23:29 | 時事
 ちょっと脱線。

 今月24日、預金を他の財産と合わせて遺産分割の対象にできるかどうかについて争われている事件が、最高裁が大法廷に回付したという新聞記事を目にした。
 大法廷に回付するということは、判例変更をする予感がするので、預金は遺産分割審判の対象にならないという従前の扱いを変更するのかもしれない。

 実は、預金債権の相続について、私は、かつてこのブログでこのようなことを述べていた。ひょっとしたら、この私の意見が取り入れられるのかもしれない。
 まさか、最高裁判所がこのブログを見た結果で、判例変更しようと考えたわけではないと思うが、もし、判例変更されて預金債権も遺産分割審判の対象になるという結論が採用されれば、このブログで最高裁の判例変更後の見解を先取りした形になりそうである。

 果たしてどうなるか、最高裁の結論が見物である。

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(5)

2016-03-23 09:58:37 | 民事訴訟法
 もっとも、それでは仮に和解の内容と一部勝訴判決を比較して、どちらが被告に不利益なのか、ひいては、それによって和解成立による訴訟終了宣言判決に対する控訴審における不利益変更の有無を考えようと思っても、これまた困難なことに直面しかねない。
 なぜなら、和解の内容は千差万別であるから、一義的に比較できる場合もあるだろうが、和解内容によっては、一部勝訴判決とどちらが不利益なのか判断しかねるような場合も十分に想定されるからである。

 例えば、一定額の無条件の支払いを求める訴えに対し、全額の支払義務を認めるものの引換給付を内容とする和解が成立した場合と、無条件の支払ではあるが金額的に一部を認容する判決とは、どちらが不利益であろうか。
 おそらく、比較のしようがないだろうと思う。和解条項の内容は千差万別なので、いろいろな条件がついたもっと複雑な和解も十分にあり得る。その様な和解と一部認容判決とどちらが不利益かなど、比較できない場合も十分にあり得るのである。

 なので、第1の問題点は、実はクリアしようのない問題のように思うのである。

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(4)

2016-03-16 10:03:28 | 民事訴訟法
 少し事案を変えて、例えば、請求の認諾の無効を争って被告が期日指定の申立があったが、結局は請求の認諾を有効だとして、請求認諾による訴訟終了宣言判決をした一審に対して被告が控訴した事案で考えた場合はどうか。状況は、和解か認諾かの違いだけで、判例の場合とよく似ているようだが、はたしてこの場合、控訴審において請求の認諾は無効として一部認容の本案判決をすることは、被告に不利益だろうか。
 仮に、今回の判例と同じ理屈を持ち出せば、請求認諾による訴訟終了宣言判決は訴訟判決でありその既判力は訴訟が終了したことだけを既判力を持って確定するに過ぎないので、一部認容判決は請求認諾による訴訟終了宣言判決よりも被告に不利益である。だから控訴審で一部認容の本案判決をすることは不利益変更禁止に抵触する、ということになる。

 しかし、以上の発想は、直感的におかしく思えることは明らかだと思う。なぜなら、請求認諾による訴訟終了が宣言されてしまえば、請求認諾の効力が残ってしまうが、その効力よりも一部認容判決のほうが被告の有利であることは明らかだからである。

 仮に、以上のように考えて請求認諾の場合は不利益変更禁止に抵触するという考え方が正しいとして、請求認諾は和解とは異なるから今回の判例と同様に考えることはできず、判例は判例、請求認諾の場合はそれとは別に考えるということでいいのだ、と言いきれるのだろうか。
 論理構造は同じような気がするのだが……。

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(3)

2016-03-09 09:54:59 | 民事訴訟法
 まず第1の問題点として、和解成立による訴訟終了宣言判決の判決の効力の問題である。確かに、当該判決の主文だけを取り上げて既判力云々をするのであれば、最高裁がいうように、訴訟が終了したことだけを既判力をもって確定するに過ぎない。これは一種の訴訟判決であろう。しかし、問題はそれだけではないと思うのである。なぜなら、訴訟が有効に終了するには、和解が有効に存在することが前提のはずだからである。その和解の効力は何も考えなくていいのだろうか。
 和解も判決と同一の効力があるのだから、少なくとも形成力は執行力はあるわけで、しかも、過去の判例からすれば、和解に無効原因がなければ既判力も生じるというのが判例のようである。
 そうだとすると、仮に、和解成立による訴訟終了宣言判決が確定した場合には、必然的にその和解にも判決と同じ既判力も生じるわけで、その場合に、和解の効力を抜きにして当該訴訟終了宣言判決の既判力のみの問題として考えることが妥当なのかどうかについて、疑問が生じるのである。