実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

ゴルフ場用地の賃料減額請求権(1)

2013-01-28 13:50:43 | 最新判例
 本当はこういう言い方をしてはいけないのであろうが、私が現に今行っている事件にとって、えらい迷惑な最高裁判例が登場した。ゴルフ場用地を賃借している場合に、ゴルフ場側からの賃料の減額請求の余地を認めないというのである。それも、賃料の減額を認めた高裁判決を破棄した上、差し戻さずに自判している判例である。少数意見すら全くないだけに、強烈である。

 一般に、不動産の賃貸借では賃料の増減額請求が認められているとものと思い込まれているかもしれない。建物の賃貸借の場合は原則としてそのとおりなのだが、土地の賃貸借の場合、法律上賃料の増減額請求が認められているのは、建物所有目的の土地の賃貸借(建物所有目的の地上権の設定の場合も同様)の場合と耕作目的の土地の賃貸借(農地に永小作権が設定されている場合も同様)の場合だけなのである。前者は借地借家法の問題で、後者は農地法の問題である。それ以外の土地の賃貸借の場合、実は賃料の増減額の請求権の存否については、明文の規定が存在していないのである。ちなみに、建物の賃貸借の場合は定期建物賃貸借でない限り、すべからく賃料増減額請求権があることは、やはり借地借家法の問題である。

 要するに、賃料増減額請求権は、建物所有目的又は耕作目的の土地の賃貸借の場合のみ、「例外」的に法律上明文で認められているという位置づけなのである。
 ただし、世の中の実態としては、土地の賃貸借といえば建物を建てる目的または耕作目的での賃貸借が大多数であろうから、土地の賃貸借であれば、即賃料の増減額請求権があると思われがちであるが、法的には、必ずしもそうとはいえないのである。

継続的委任契約の受任者の債務不履行(5)

2013-01-22 10:02:53 | 債権各論
 話は飛ぶが、法務省で現在行われている債権法改正の議論で、危険負担の規定の廃止が遡上に上っているという噂を聞く。すべて解除に吸収し、債務者の無責の場合も解除を認めればよいという趣旨である。
 しかし、危険負担の規定は、双務契約上の債務の存続上の牽連性に関する根本的規定である。現在の民法の規定は、(個別の条文の当否の問題はさておいて)対価的牽連性に関して体系的に整理された条文構造となっているのである。それにもかかわらず、危険負担のところだけ廃止し、解除の中に吸収し尽くせるのかどうか、疑問なしとしない。少なくとも解除でうまく処理できない事案が生じる可能性があることを前提に、危険負担の規定は残しておいた方がよさそうな気がする。
 
 法制審議会ではどのような議論がなされているのだろうか。

継続的委任契約の受任者の債務不履行(4)

2013-01-18 10:07:49 | 債権各論
 業者が3ヶ月間清掃をしなかったことにより、その期間の管理業務遂行債務は行わなかったことに帰したこと、だからこそ、その対価の支払いが正当化されないことは既に述べたとおりであるが、もう少し法的な言葉で説明すれば、管理業務遂行義務は履行不能となっているのであり、その対価的牽連性からして対価の支払いが正当化され得ないということなのである。この、対価的牽連性について民法が一般的に規定している条文といえば、契約の効力を定めた533条以下であり、特に危険負担の一般原則を定めた536条が問題となりそうである。
 ただし、536条は、当事者双方の責めに帰することのできない事由による履行不能を規定している。しかし、上記事例では通常業者に責任がある。そのため、これを直接に適用することはできない。しかし、対価的牽連性ということからすれば、根本的な発想は同じだろうと思うのである。そのため、この規定を類推適用して処理するのが妥当な気がする。

 そもそも、契約の効力が問題となる533条以下を検討する場合は、通常、売買契約のような「結果債務」とその対価を内容とする契約を前提に検討する。しかし、必ずしも結果の発生が問題とならない「手段債務」の場合は、どうも533条以下の規定の適用はそのままではうまくいかないような気がするのである。
 例えば、別の事例で、毎月一定の報酬を前提に高齢者の財産管理を任意任された受任者がいたとして(具体的には、老人ホームに入所した高齢者の空き家となった自宅について、最低限毎月1回の見回り等の管理)、その財産管理行為(見回り等)を全くしなかった場合に、報酬が発生するといえるかどうか。高齢者の自宅の見回りを全くしていなくても、空き家には何の問題も発生しないかもしれないが、だからといって、財産管理をしたとはいえない状況であれば、報酬請求権が発生すると考えるべきではないであろう。マンションの管理業務も基本的にはこれと全く同じである。
 この種の事例で、当初から何も管理行為をしなければ、遡及的解除の効力を認めてもよいのかもしれないが、まだらに管理行為を行っているような場合、つまり管理をした月としない月があるような場合(管理しない月の報酬の支払義務のみが問題となる場合)に遡及的解除ではうまくいかない。やはり管理行為を行わなかった月の報酬は当然に消滅すると考えるべきであろうし、それには536条を類推するのがもっとも素直な考えのような気がするのである。

 結果債務の場合は、結果の不発生に債務者の責任があれば、対価の支払いの拒絶は解除で処理できる。しかし、解除で処理することが困難な場合、双務契約条の債務の存続上の牽連性が問題となっている以上、債務者に責任があっても、536条の適用あるいはその類推によるべきであろう。

継続的委任契約の受任者の債務不履行(3)

2013-01-15 15:58:28 | 債権各論
 ここで考えるべきことは、管理業者が毎月行うべき一定の管理業務の性質である。
 特に毎月行うマンションの共用部分の清掃ということになると、その業務を怠れば、その月の清掃は行わなかったことに自動的に確定してしまうのであり、売買契約の売主の引渡義務のように履行期後でも後から追完をするということが、事柄の性質上不可能な契約内容だということである。仮に翌月に清掃を行っても、それは翌月分の清掃を行ったに過ぎず、前月にサボった清掃を遅れて行ったことにはならないのである。
 だからこそ、その対価の支払いが常識的に正当化され得ないはずなのである。

 だが、これを同時履行の抗弁として説明するのは、どうもしっくりこない。なぜなら、根本的な問題として、管理業務と報酬の支払いとの間に同時履行関係はないからである。

 さりとて、債務不履行責任といってみても、債務不履行責任の発生が、直ちに反対債権の帰趨に影響するものではないことは、前回のブログでも述べたとおりである。
 また、債務不履行に基づく責任の内容は、履行強制、損害賠償、契約解除の3つであるが、履行強制に意味がないことは、上記のとおりである。契約解除も継続的契約関係にあっては将来に向かっての話であって、過去に遡って解除するということはおそらく困難であろう。したがって、債務不履行責任でもっとも問題としやすいのは損害賠償責任に基づいて報酬と相殺するという構成であろう。しかし、3ヶ月間清掃をしなかった損害とは何であろう。他の業者に清掃を依頼したのであれば、その費用が損害になることは間違いがないが、放置したままだった場合どうか。仮に、放置したまま4か月目に業者が清掃をしたならば、それできれいになり、結果として損害というのは発生しなかったことになってしまいそうである。せいぜい3ヶ月間汚いままだったことの精神的な慰謝料であろうか。そのような精神的慰謝料が実務上果たしてどれほど認められるのだろうか。
 このように考えると、債務不履行責任を問題としても、報酬の支払い拒絶との関係ではあまりうまい解決にはならない。

継続的委任契約の受任者の債務不履行(2)

2013-01-11 11:56:46 | 債権各論
 マンション共用部分の清掃に関する単純化した事例で、管理業者が清掃業務という管理業務を行わなかった期間がある場合、その期間の対価は支払う必要がないのは当然のようである。
 しかし、通常の管理委託契約などでは、管理業者が毎月の管理業務を行うことを条件として対価を支払うといったような条件付の契約となっているわけではなく、単純に毎月定期的に対価を支払うことを約している契約となっている場合がほとんどであろうと思われる。場合によっては、対価は前払である場合もあり得るだろう。
 このような契約の場合に、3ヶ月間管理業務を行わなかったのだからその間の対価の支払義務は当然に発生しない言い切れるだろうか。言い切れるとしたら、なぜ当然なのだろうか。契約条の文言からだけでは、難しい側面がないわけではないのである。実際に、現に裁判で争っている類似事案において、裁判官から、管理業務を行っていないことが即支払拒絶の理由になる法的根拠が分かりにくいという指摘もされている。

 このような裁判官の指摘は何を意味しているかというと、契約当事者の一方当事者の債務の不履行があっても、直ちに他方当事者の債務に影響があるわけではないということなのである。もちろん、同時履行の抗弁等があれば別であるが、そうした抗弁が別途存在するから支払い拒絶の根拠となるのであって、上記の事例でこうした法的根拠は一体何なのかが問題なのである。