実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

破産管財人の法的地位(4)

2014-03-19 13:25:19 | その他の法律
 また、信託法そのものが平成18年に全面改正となり、より一層受託者説からの説明がしやすくなっていると思うのである。

 受託者説の問題点は、私の手元にある破産法の教科書レベルでは、単に法定信託を認める根拠がないというに過ぎないが、受託者説で私が考える最も問題だったと思われる点は、そのような点ではなかった。
 旧信託法上、受託者による第三者との取引は、信託財産のために行うのか、受託者固有財産のために行うのかは明確にする必要がなかった。信託財産に帰属すべき取引であったとしても、受託者の取引によって第三者に対して責任を負う範囲は、信託財産に限られず、受託者の固有財産も責任財産となることが当然だったからである。私は、信託法も別段詳しいわけではないので、間違っているところがあるかもしれないが、基本的には、受託者の取引を信託財産に帰属させるのは、受託者において信託財産の計算で取引をしたかどうかという問題に過ぎなかったのである。

 これを受託者たる破産管財人の問題に引き直して考えると、破産管財人の第三者に対する責任(つまり、財団債務の責任財産)は、破産財団に限らず破産管財人の固有財産も責任財産になってしまうということにつながりかねない。このようなことが認められていいはずはない。この点が難点であると思っていたのである。

 現行信託法も、以上の信託法の基本的原理原則に変わりはないのだが、現行信託法では、限定責任信託という種類の特殊な信託がある。破産管財人の地位を、この限定責任信託の受託者と理解することができるのではないかと思うのである。

破産管財人の法的地位(3)

2014-03-17 14:45:45 | その他の法律
 破産法の教科書レベルではあまり議論の対象にはされていないのだが、破産管財人の地位について、受託者説というのがある。破産者を委託者、破産債権者を受益者、破産管財人を受託者とする信託関係の成立を認めるのである。
 私は、受託者説を勉強したわけでも何でもないのだが、破産管財人が破産者の財産の管理処分権を取得し、その財産の処分をして現金化して破産債権者に配当するという関係を、信託関係で説明することに大変なシンプルさを感じており、非常にわかりやすいのではないかという気がしているのである。

 ただ、信託契約による信託関係の成立ではないので、破産手続開始決定による信託の成立を法定信託と説明するようであるが、法定信託に関する明文の根拠を欠く点に難点があるとされ、破産法学説ではあまり指示を受けてはいないようである。
 だが、ならば、破産財団代表説や管理機構人格説では、破産財団や管理機構たる破産管財人に法人格を認める明文の規定があるというのであろうか。やはりないはずである。
 これらの説との比較で言えば、受託者説からは、破産手続開始決定そのものが法定信託の成立の法的根拠だと説明することが十分可能だと思うのであり、破産財団代表説や管理機構人格説よりも遙かに明文上の説明がしやすいはずであるが、違うだろうか。

破産管財人の法的地位(2)

2014-03-11 09:52:24 | その他の法律
 私の理解では、破産財団代表説とは、破産財団そのものに一種の法人格を認め(一種の財団法人のようなものであろうか)、その代表者が破産管財人だとする説であり、管理機構人格説とは、破産財団に法人格を認めるのではなく、管理機構たる破産管財人に個人としての法人格とは別の法人格(?)を認める説である。

 講学上の説明の仕方とすれば、どちらも分からないわけではないのだが、いわば、両説とも破産法の条文自体では全く意識していない法人格を勝手に作り出してしまう説である。もしこうした破産財団、あるいは管理機構たる破産管財人が、純然たる法人であるとすると、法が法人と意識していないのに法人を認めることになってしまい、法が認めた場合にのみ法人の設立を認める民法33条の趣旨に悖るような気がしてならない。あるいは、破産法は法人の成立を意識していないのではなく規定全体の趣旨から法人の成立を認めていると読み込むのであろうか。また、権利能力ない法人格的なものを想定するのであろうか。破産財団を権利能力なき財団と構成することは不可能ではないかもしれないが、管理機構たる破産管財人に個人とは別の権利能力なき法人格を認めるとなると、もはや何でもありになってしまいかねない。

 要するに、破産財団代表説も、管理機構人格説も、やや技巧的に過ぎるような気がしてならないのである。

破産管財人の法的地位(1)

2014-03-07 13:55:21 | その他の法律
 破産管財人の法的地位に関する議論は、多分に講学上の問題が大きく、実務であまり役に立っている議論のようには思えないのではあるが、それでも私なりに思う点があるので一言。

 破産法の教科書レベルでは、破産管財人の法的地位について、古くからいろいろな学説が存在するようで、一時は破産財団代表説が有力だったようであるが、現在は管理機構人格説といわれる説が通説的といわれているであろうか。
 問題点は、破産手続の内部関係をいかに理論的にうまく説明できるかという点と、破産管財人の第三者性との関係をうまく説明できるかという点のようである。ただ、破産管財人の第三者性は、破産管財人の法的地位とは切り離して理解されることも多いようである。そのため、とりあえずは議論の対象としては破産手続の内部関係での説明が大きいといえそうである。

会社法改正案-旧株主による代表訴訟(3)

2014-03-03 11:18:40 | 会社法
 ところが、よく考えて見ると、会社法851条は、あくまでも株主代表訴訟を提訴した後の株式交換・株式移転の場合について規定しただけであって、既に役員に責任原因は存在しているが未だ代表訴訟提訴前に株式交換・株式移転が行われてしまった場合にどうなるかについては、法は沈黙を続けていたのである。
 そこで、多重代表訴訟を創設すると同時に、この点についての立法的手当をするというのが、今回の改正の趣旨なのであろう。
 いわば、851条を提訴前にまで前倒しして適用しようという趣旨であって、考え方としては非常に理解しやすいし、851条の趣旨からすれば、当然の改正であろうと思う。この点に今まで気づかなかったことの方が問題であったともいえそうであるが、実務であまり問題となったことがなかったから気づかなかったのかもしれない。

 以上のとおりなので、旧株主による株主代表訴訟の性質は、多重代表訴訟とは根本的に異なると言うべきであろう。だからこそ、通常の代表訴訟と同様に単独株主権とされているのだと思う。
 この旧株主による代表訴訟の改正は、理屈の上でも納得である。