実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

改正相続法-居住用不動産の配偶者への贈与・遺贈(1)

2018-10-31 11:25:22 | 家族法
 先の通常国会で、相続法が改正された。

 民法の改正としては、債権法の改正がかなり大規模な改正であった。債権法改正は、法務省管轄の法改正としては、過去最大規模といわれるほどである。相続法の改正の規模は、債権法改正とは比較にならない規模であるが、過去の相続法の改正と比較すると、比較的規模の大きい改正といえそうである。
 また、改正債権法は、平成32年(施行時は既に平成ではなくなっているはずだが)4月1日から施行される予定であるが、改正相続法は、大部分は公布の日から1年以内に施行されることになっている。改正相続法が今年7月に既に公布されていることからすると、改正相続法は遅くとも来年(平成31年)7月には施行されるということであり、改正債権法より後に成立した改正相続法の方が先に施行されることになりそうである。

 さて、改正相続法について少し『あら探し』をしてみた。すると、早速一つ見つかった。それが、居住用不動産の配偶者への贈与・遺贈をした場合の持戻し免除の推定規定である。

改正債権法における取消後の第三者(5)

2018-10-24 09:54:25 | 民法総則
 似たような議論ではないかと思っている議論として、かつて、無効行為を取り消すことが出来るか、という議論が存在した。例えば、騙されたことによって要素の錯誤に陥った場合、そもそもその意思表示は錯誤無効となる可能性もある。そうだとすると、意思表示そのものが無効である以上、詐欺取消は出来ないのではないか、といった議論である。いかにも自然科学的発想である。
 しかし、この議論は、既に克服された議論であって、錯誤無効も詐欺取消も、要は表意者を保護するための規定であるから、いずれの主張をしようが、表意者が自由に選択できるというものである。自然科学的発想は捨てて、無効行為といえても無効を主張しないまま取り消すことができるのである。

 状況は異なることは確かであるが、取消権行使により、自然科学的発想のように意思表示が遡及的に消滅したと言ってみても、詐欺による意思表示は現になされたのであり、たとえ取消権を行使したと言っても、詐欺による意思表示の痕跡は残るのであるから、自然科学的発想をそのまま貫くべきところではないと思うのである。その痕跡を信用した第三者を保護する必要性が取消の前後で変わらないと思われる以上、自然科学的発想は捨てて、96条3項という同じ条文を使えばいいだけのことである。自然科学的発想にこだわりすぎてはいけないという意味では、無効行為の取り消しの可否の議論と似たような側面を持っているように思う。
 
 いずれにしても、債権法改正後の場合という限定付きではあるが、詐欺取消後の第三者も96条3項でよいという学説を見つけ、私は心強い味方が出来たと思っている。今後、学者の議論も少しは変わっていくだろうか。

改正債権法における取消後の第三者(4)

2018-10-18 15:19:11 | 民法総則
 法解釈学は、決して自然科学ではない。

 取消後の第三者の議論は何をやっていたかというと、詐欺による意思表示を取り消してしまえば、意思表示そのものが遡及的に消滅してなくなってしまうのだから、取消後の第三者は、詐欺による意思表示を前提として新たな利害関係に入った第三者とはいえない、だから96条3項の問題にはなり得ないという。しかし、登記のような外観は残ったままなのだから、94条2項類推だという議論をしていたのである。
 学生の頃は、これぞ法解釈という格好のいい議論だと思ったし、このような解釈こそが、法解釈学のあり方なのだと思い込んでいた。

 しかし、その後実務に就いて考え直してみると、この取消後の第三者の議論そのものが観念論に過ぎず、行き過ぎた自然科学的発想に陥っているようにしか思えなくなった。
 社会実態を見ると、例えば詐欺によって不動産を売却させられて登記した場合のその登記は、取消権を行使しても決して自動的に取消を表示するようになるわけではない。その(詐欺による)売買を原因とする所有権移転登記は、抹消登記や処分禁止の仮処分等をしない限り、なお、詐欺による意思表示の痕跡としてそのまま残ってしまうのである。その登記を信用して取引に入った第三者は、やはり詐欺による意思表示を前提とした利害関係者ではないのか。

改正債権法における取消後の第三者(3)

2018-10-10 11:53:28 | 民法総則
 しかしである。もしそうだとすると、改正前の96条3項と94条2項とで、第三者保護要件が双方とも、たまたま「善意」で共通していたから問題が生じなかったというだけであって、取消前と取消後で、どうしても論理的に区別しなければならない理由があったのだろうか、という疑問が生じてくる。

 どうしても論理的に区別すべき必然的理由があったならば、96条3項が法改正で「善意」だけではなく「善意無過失」を要求するようになったとしても、96条3項と94条2項類推とで適用状況が論理的に異なるのだから、第三者保護要件が変更されたというだけで、安易に論理構造に変更をもたらす理由はないはずである。
 それを、第三者保護要件が変更されたというだけで、易々と論理を変更しようというのであるから、私に言わせれば、これまでの議論は、いかにもこれぞ法解釈という格好のいい議論ではあったが、やや極端な言い方をすれば、結局は論理の遊びをしていただけではないのか、と言いたくなる。

改正債権法における取消後の第三者(2)

2018-10-03 13:41:52 | 民法総則
 以上に対し、債権法改正後の民法総則の教科書に、改正後は取消後の第三者も96条3項で考えるのが適切だという教科書を見かけたのである。しかも、その教科書は、私が学生だった頃は取消後の第三者保護は94条2項類推適用を力説していた学者(現在は既にお亡くなりになっている学者である。)の教科書を引き継いだ教科書である。私の学生当時、その教科書は民法総則の教科書として定評があった教科書である。その教科書を引き継ぎながらも、債権法改正後は、取消後であっても96条3項でよいというのである。
 これには驚いた。

 言わんとすることは要旨こうである。
 債権法改正により詐欺取消の場合の第三者保護要件が変更になり、「善意」から「善意無過失」が第三者保護要件となった。そうすると、取消前の第三者は善意無過失を要求されるが、取消後の第三者について94条2項を類推すると善意だけでよいことになるが、これはバランスが悪いというのである。