実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(7)

2019-08-21 09:38:54 | 会社法
 私が思うにも、結局のところ、財務に関する部分については、基本的に会計監査の専門家である監査法人の監査証明を信頼するしかないのであって、元引受証券会社としては、何らかの事情で、粉飾決算を疑うような状況があり、それに気づけばともかくとしても、会計監査の専門家である監査法人の監査証明がある以上は、それとは別に元引受証券会社が財務部分の虚偽記載を丹念に調査しても、監査法人の監査以上の調査は通常は期待できないであろうし、元引受証券会社にも監査法人と同様の責任を認めたのでは、財務部分の調査義務についての二重規制になりかねないような気がする。
 そうだとすれば、高裁判例の結論は仕方がないような気がする。と同時に、高裁判例の理論構造のような、目論見書使用者としての元引受証券会社の責任は、有価証券届出書の元引受証券会社の責任を補完するというような理論構造にはならないと言わざるを得ないような気がするのである。ものの本に書いてあるような、粉飾決算について元引受証券会社が責任を負わないのは不合理であるかの如くの説明は、私にはどうにも納得しにくい。ただ単に、責任を負うものが多数いればよいというものではなく、責任の棲み分けによる責任の所在の明確化も合理性があるような気がするのである。

 バブル経済崩壊後、粉飾決算その他有価証券報告書等の開示書類の虚偽記載に絡んだ民事、刑事の事件が散見され、それによって被害を被る投資家には気の毒としか言いようがないが、最も責任を負うべきは、虚偽記載のある開示書類の提出会社であり、その役員である。その責任こそ、もっと厳格にする必要があるのではないか。
 それが私の感想である。

「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(6)

2019-08-15 10:40:36 | 会社法
 判例時報に搭載された高裁判例も、おおよそ以上のような論理構造を取り、元引受証券会社は、有価証券届出書の財務部分に関する粉飾を知らなかった以上は、有価証券届出書の関係者としての責任を問うことはできないとしつつ、目論見書使用者の責任で補完されるというのである。

 それならば、当該高裁判例が目論見書使用者としての元引受証券会社を認めたのかというと、そうではない。結局は、目論見書使用者としての元引受証券会社の責任も否定してしまった。要は、財務に関する部分については、監査法人の監査結果について疑義を生じさせるような事情の有無を調査確認し、かかる事情が存在しなければ、相当な注意を用いたと認められる等というのである。そして、結論としても元引受証券会社の責任を否定したのである。

「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(5)

2019-08-07 10:24:34 | 会社法
 ところが、ものの本によると、元引受証券会社が財務計算に関する部分について単に虚偽であることを知らないだけで免責されるのは不合理であるかの如くに論じる本がある。つまり、財務計算に関する部分についての虚偽記載(すなわち粉飾決算)であっても、元引受証券会社は責任を負わせたいというのであろう。そして、仮に有価証券届出書の財務計算に関する部分の虚偽記載について特別の規定たる元引受証券会社の責任を問えなくても、目論見書の使用者の責任でまかなえるというのである。
 つまり、金融商品取引法には、有価証券届出書の虚偽記載における賠償責任とは別の賠償責任に関する規定があり、虚偽記載のある目論見書を用いて有価証券を投資家に取得させた者も、有価証券を取得した投資家に対して損害賠償責任を負うと定めており、元引受証券会社は当然に目論見書を投資家に交付して販売するのであるから、有価証券届出書の内容がほぼそのまま網羅されている目論見書の財務計算に関する部分に粉飾があれば、この規定で元引受証券会社に賠償責任を認めることができるというのである。

 ただし、目論見書使用者の責任も、相当な注意を用いても虚偽記載を知らなかった場合は免責事由となっていることに注意を要する。