実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

譲渡制限特約付債権の譲渡(8)

2018-07-04 09:45:30 | 債権総論
 譲渡制限特約は、少なくとも現行法上は、債務者は悪意(又は重過失)の譲受人との関係では、完全に無視してよい制度設計になっている。しかし、解説書のような考えが妥当だとすると、完全無視はできなくなったということになる。それは、譲受人からの催告権が明文で規定された部分にとどまらない影響がありそうである。

 もっとも、立法政策として現行法のように譲渡制限特約の第三者に対する効力を認めることそのものに対して懐疑的な考えもあったようで、そうした考えも踏まえると、立法によって譲渡禁止特約の物権的効力を放棄したのであるから、解釈においても影響を受けることは当然というのかもしれない。
 そして、新法の解釈として悪意又は重過失ある譲受人であっても確定的に譲受人に帰属するというのも、あくまでも第三者対抗要件が備わっていることが大前提である(そうでなければ、ここでも私の疑問点は、すべて対抗要件の問題で処理できる。)。その対抗要件の具備が確定日付ある通知であれば、債務者も債権譲渡がなされたことの認識は可能である(対抗要件が債権譲渡登記であれば、債務者対抗要件を備えるまでは、第2事例と同じような状況の下で考えることになる。)。なので、たとえ譲渡制限特約付債権の譲渡であったとしても、確定日付ある譲渡通知が届けば、債務者も、その時点から法律状態に変更が生じたことの認識が可能である。そのため、解説書のような解釈さえ実務的に固まれば、現に法を運用する実務家として困ることはないのかもしれない。

 しかし、新法が物権的効力は放棄したとしても、譲渡制限特約の悪意重過失ある譲受人に対する効力は残し、譲渡制限をもって悪意重過失ある第三者に履行を拒むことができるという、結果的・表面的な効力は現行法と変わりばえはしない。しかも、その趣旨も債務者の利益であって、現行法の趣旨と変わらない。
 そうであれば、最初の方で紹介した平成21年判例が説明しやすくなったという理論的な問題にとどめた解釈をした方が良さそうな気もするのだが、どうなのだろう。

譲渡制限特約付債権の譲渡(7)

2018-06-28 10:27:08 | 債権総論
 以上の状況は、よく考えてみると、ある法律関係において、似たような状況が生じうることに気づく。具体的には、債権者が債権譲渡をし、債権譲渡登記がなされたが、債務者に対してはまだ通知がなされていない状態である。この場面では、譲渡制限(禁止)特約は関係がない。要は、第三者対抗要件は備えているが、債務者対抗要件が備わっていない状態である。
 この場面で、譲渡人の債権者が譲渡債権を差し押さえたらどうなるか。この事例を第2事例としてみよう。債権譲渡の第三者対抗要件を備えている以上は、差押えは空振りのはずである(劣後譲受人と同じような立場である)が、債権譲渡の債務者対抗要件が備わっていないので、債務者の立場から見れば、正当な差押えとなりはしないか。
 従って、第2事例では、いくら債権譲渡登記がなされているとしても、債務者に対する通知がない限りは、差押えによる弁済禁止効が生じ、(第三)債務者は差押債権者の取り立てに応じれば(あるいは執行供託をすれば)よく、それで正当な弁済(供託)になるのではないだろか。
 新法における譲渡制限特約付き債権の悪意重過失ある第三者への譲渡は、これとよく似た法律状況に感じるのである。

 譲渡制限特約付き債権との関係で、さらに別の事例を考えてみる。
 譲渡制限特約付き債権を悪意重過失ある第三者に譲渡し、確定日付ある通知がなされた後に、善意無重過失の第三者に債権が二重譲渡され、これも確定日付ある通知がなされたらどうなるか。
 この場合、譲渡人が有していた債権は、第三者対抗要件を先に備えた悪意重過失ある第三者に帰属するが、債務者は譲受人に対して履行をする義務はない。そして、第三者対抗要件で劣後する善意無重過失の第三者は、第三者対抗要件では負けるものの、債務者から見れば、正当に債権を譲り受けた譲受人に見える。しかし、解説書の考えを押し通せば、第二譲渡は空の債権の譲渡になるので、この場合でも、債務者は譲渡人に履行すれば足りる(というより、履行すべき)ということになるのだろう。

譲渡制限特約付債権の譲渡(6)

2018-06-20 11:23:07 | 債権総論
 別の角度から譲渡制限特約付債権の悪意・重過失ある譲受人に対する譲渡の問題点を指摘してみる。

 現行法では、合意による差押禁止財産を作り出すことを認めるものではないという理由で、譲渡禁止特約付債権であっても、その債権を差し押さえることは認められていた。この考えは、新法になっても変わらないはずで、むしろ、新法ではこのことを明文をもって定めるようになった。
 ところが、新法になって解説書のような考えを前提とすると、譲渡制限特約付き債権が悪意重過失の譲受人に譲渡された場面に限定はされるが、事実上、差押えの効力を奪い取ることができる場面を生じさせてしまっているのである。これは、合意による差押禁止債権を作り出すことを認めないという、新法では条文まで設けた趣旨に悖るような気がしてならない。

 債権は観念的な存在である。なので、その帰属が問題となる場合、実物資産である物(物権)の帰属の場面とは異なり、一物一権主義のような考え方を厳密に取り入れる必要はないと思うのである。そのため、譲渡制限特約付債権が悪意重過失の第三者に譲渡された場合、確かに債務者以外の者との関係では譲受人に移転するかもしれないが、債務者の立場から見れば、相変わらず債権者は譲渡人なのだという相対的な関係で説明をしてはいけないのだろうか。
 このように考えて、譲渡人は、本来は譲渡してしまった債権の履行請求権は存在しないが、現実に履行請求した場合は、債務者から見れば債権者からの履行請求になると考えていいのではないか。なので、例えば期限の定めのない債権について譲渡人から履行請求があれば、債務者は履行遅滞に陥ると考えたいし、譲渡人に対して譲渡債権の債権差押命令が発令されれば、(第三)債務者には差押えによる弁済禁止効が生じると考えたい。
 それはダメなのだろうか。

譲渡制限特約付債権の譲渡(4)

2018-06-06 14:01:02 | 債権総論
 大分横道にそれてしまったが、話しを譲渡制限特約付き債権に戻す。

 改正債権法における譲渡制限付き債権の譲受人からの催告の仕組みは、債務者に履行能力があることを当然の前提にしている規定である。なぜなら、ここでの催告の趣旨は、単にデッドロック状態を解消するための仕組みだからである。
 しかし、現実には債務者の支払能力に問題があって譲渡人に履行しない場合も機能してしまう仕組みとなっているはずである。支払能力の問題で履行しない場合あっても、履行遅滞に陥るのが悪いと言ってしまえばそれまでであるが、中には、一時的な手元不如意ということもあるはずである。履行期には資金が確保できなかったが、1ヶ月後には確実に確保できるという場合である。

 この場合でも、債務者の履行遅滞であることには変わりはなく、遅延損害金が発生し、あるいは契約上の債務であれば、催告解除に服するということは避けがたい。しかし、解除等による契約関係の解消がされない限りは、1ヶ月後に遅延損害金とともに元の債権者に支払えば、債務の本旨に従った履行となる。債権者側も、多少の遅れには目をつぶるということはいくらでもあると思う。

 ところが、この譲受人からの催告の仕組みは、多少の遅れには目をつぶるということを、譲受人として許さない仕組みとして使われてしまう可能性がある。しかし、譲渡制限を付する債務者側の利益の一つとして、過酷な取り立てをする者に債権が譲渡されることを防ぐ意味もあったのではなかったか。この債務者の利益は、債務者の手元不如意の時にこそ機能するはずである。
 このように考えると、譲受人からの催告の仕組みは、これでよかったかどうか、私は若干の疑問を持つようになった。

譲渡制限特約付債権の譲渡(3)

2018-05-16 12:42:01 | 債権総論
 解説書を読んで思った最大の疑問点は、悪意または重過失のある譲受人に譲渡した場合、たとえ債務者は譲受人に弁済する義務を負わず、譲渡人に弁済すれば足りるとしても、債権は確定的に譲受人に移転することから、もとの債権者である譲渡人は、債務者に対する履行請求権はないというのである。
 理論的にはそのような考えも成り立つのかもしれないが、果たして本当にそのような考えでいいのだろうか、というのが、最大の疑問なのである。

 この法律状態のままでは、譲受人も譲渡人も履行請求できないという、デッドロック状態になってしまうことから、一応、デッドロック解消のための立法的な手当はあり、譲受人は、相当期間を定めて譲渡人への履行を催告することができることとなっており、その期間内に譲渡人への履行がないときは、譲渡制限特約の効力が失われる。
 立法的には、この手当が必要にして十分と考えたのであろう。

 意味は分かるのだが、しかし、この立法に若干の疑問を持つ。ある一定の場面で、やや債務者に気の毒な場面が生じるのではないかという疑問である。