実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

代襲相続できるのは法定相続分だけ?(3)

2011-09-30 09:47:21 | 最新判例
 要するに、私が言いたいことは、推定相続人が先に死亡していた場合の「相続させる」の遺言の効力を論じる前に、指定相続分が代襲するか否かの議論を先行させなければならなかったのではないか、ということなのである。なぜなら、遺産分割をする際には、どの相続人のどれだけの相続分があるのかが先に決まるのであって、その相続分の範囲内で遺産分割をすることになるからである。遺産分割方法を遺言で指定する場合も、本来は同じであって、ただし、その指定された遺産分割方法が法定相続分を超えていた場合には、それに見合う分だけの相続分の指定も同時になされ、その範囲で遺産分割方法が指定された遺言だと考えるだけのはずである。それが「相続させる」遺言の基本的意味合いだと思っている。
 だからこそ、指定相続分が代襲するか否かの議論を先行させなければならないのではないかと思うのである。

 もし逆に、先に死亡した推定相続人に相続させる遺言の範囲が、法定相続分の範囲に収まっていた場合はどのように考えるのであろうか。これも無効なのであろうか。もし遺言の効力として無効といってしまっても、結局法定相続分は代襲するのであるから、無効といってしまう意味はあまり大きくない。このことは、ひいては指定相続分が代襲するか否かの議論にも影響しそうな気がするのだが、どうなのだろう。

 とはいいつつ、私自身、最新判例のような解釈もそうでない解釈もどちらもあり得るであろうことは、結局のところ否定しがたく、仮に指定相続分が代襲するか否かの議論が先行したとしても、そのこと自体、両方の解釈があり得ることも承知せざるを得ない。
 そして、実務の立場からすれば、最高裁判例が出た以上、これに従った実務運用が欠かせず、今後は、「相続させる」遺言も代襲させたければ、その旨遺言に一言付け加えざるを得ないということであろう。あるいは、こうした一言の付加がそれ程困難ではないことも、最高裁判例に影響をしていたのかもしれない。

 いずれにしても、実務では最新判例を見逃せない。

代襲相続できるのは法定相続分だけ?(2)

2011-09-26 09:35:17 | 最新判例
 ところで、遺言の内容を、例えば
   「これこれの遺産を誰々に相続させる」
というような特定の財産を特定の相続人に相続させるような遺言ではなく、
   「総遺産の何分の幾つを誰々に相続させる」
という、純粋は相続分の指定として遺言がなされたときはどう考えるか。
 最高裁判例を形式的に当てはめれば、純粋な相続分を指定しただけの遺言であっても、推定相続人が先に死亡している場合は、やはり効力が生じないとなりそうな気がする。なぜなら、判例は、「相続させる」遺言は、遺産分割方法の指定というだけではなく、相続分の指定の趣旨も含んだ遺産分割方法の指定だと解しているからであり、今回の最新判例も、すべての遺産を特定の人物に相続させる旨の遺言の効力が争われた事案だからである。そのような「相続させる」遺言につき、推定相続人が先に死亡していた場合はその効力を生じないというのが最新判例なのである。したがって、最高裁は、純粋に相続分を指定するだけの遺言であっても、推定相続人が先に死亡していれば、やはりその効力は生じないと判示しそうである。

 しかし、もしこのような考え方をとるとなると、指定相続分は代襲しないという考え方に直結する。つまり、代襲相続権は法定相続分に限られるという解釈そのものを採用することに直結するのである。
 ところが、条文上は代襲相続の範囲について、法定相続分に限られるのか、指定相続分も含むのかについては、はっきりしていない。900条で法定相続分が規定され、次の条文に代襲相続人の相続分が被代襲者と同じと規定されているだけである。指定相続分はさらにその次の条文として、「前二条の規定にかかわらず」相続分の指定が可能と規定されているだけである。これらの条文の位置を形式的に解すると、代襲相続分は法定相続分に限られて、指定相続分は別という言い方も不可能ではないが、この条文の位置体系はあくまでも法定相続分を代襲相続分も含めて先に規定し、指定相続分はその次の条文で単に遺言で指定すべきことを定めたにすぎず、指定相続分について代襲が起こらないという趣旨まで含んだ規定とまで言い切れないという解釈も十分に可能だと思う。

 教科書レベルでもあまり議論はされていないのではないだろうか。仮に何らか触れている教科書があったとしても、上記のように最新判例のような事例からの議論の展開を前提として触れているとは思えず、あまり深くは掘り下げた議論をされたことはないのではないだろうか。

代襲相続できるのは法定相続分だけ?(1)

2011-09-20 12:37:14 | 最新判例
 既に半年以上前の最高裁判例なので、最新判例と言い切れるかどうか分からないが、その判例について少しだけ問題点が分かってきた気がするので、ここで若干のコメントを。

 いわゆる「相続させる」旨の遺言により遺産を相続するものとされた推定相続人が、被相続人より先に死亡していた場合の当該遺言の効力如何。
 ぱっと思いつく規定は、遺贈の場合の規定であり、受遺者が先に死亡していれば、遺贈は無効とされる。ただし、判例は、「相続させる」旨の遺言は、遺贈ではなく遺産分割方法の指定だと解しているので、遺産分割方法の指定に関する遺言でも、受遺者が先に死亡している場合と同様に考えることができるかどうかということになり、直感的には遺贈と同様に考えることもできそうである。
 他方で、推定相続人が先に死亡している場合は、一般に代襲相続が起こり、代襲相続人が相続することができる。そのため、相続人に「相続させる」遺言の場合も、代襲相続が起こると考えることもできそうである。
 この点に関し、最高裁は、特段の事情がない限り当該遺言の効力は生じないと判示した。

 私事でいうと、実は、最高裁判例がなされる前から、私も似たような案件を抱えており、私の事務所の別のベテラン弁護士も同じような案件を抱えていた。実社会ではいくらでもあり得そうな事例であるが、以外にも最高裁判例がなく、調べてみると、下級審判例は分かれている状況であった。実務書などでは最高裁に係属中という文献もあったところ、上記判例が出たということになる。
 最高裁判例が出たことで、事件処理はしやすくなったが、遺言者が生きていたら、果たしてどう考えただろうか。

 それはともかく、最高裁判例が出た当初は、解釈としては、無効説も代襲相続説も両方あり得そうであり、あとは価値観の問題のようにも思えた。しかし、とある研究会の報告及び議論に参加させてもらった結果、結論の当否はともかく、もう少し突っ込んだ議論も可能なような気がしてきた。

約款の解釈(3)

2011-09-13 10:30:19 | 債権各論
 考えてみれば、もともと約款作成者は自らに不利な条項など置くはずがないのであり、予測可能な範囲内で自らにとって都合のよい約款を定めることはいともたやすいのである。
 その約款が不適切だったからと言って、その解釈においてさらに約款作成者側の立場で解釈するというのは、ずいぶん業者側に甘い(裏を返せば、相手方にとって厳しい)判断手法といわざるをえない気がする。
 たしかに、業者側の判断で約款の内容を決められるのであるから、その約款の意味は約款そのものによってはっきりさせるべきなのであって(前回のブログの、中間的な論点整理にいう、「条項の意義を明確にする義務」とは、このことを言っているのであろう。)、それができていなければ、約款使用者(業者側)に不利に解釈されてもやむを得ないものと思うし、契約である以上、相手方の立場に立った約款の合理的な予測というものだって大事なはずである。
 ある本によると、英米法では、「作成者に不利に」という原則が、保険契約の標準的な約款でもよく利用される解釈ルールだそうである。
 これに対し、これまでの日本の実務では、合目的的解釈という大義名分のために約款作成者の立場のみに依拠した解釈をし(すなわち、約款作成者の自由な(もっと極端には勝手な)解釈をそのまま採用するという手法)、契約相手方の合理的な予測を無視した解釈をしてきてはいなかっただろうか。

 債権法改正に関して、全般的にはやや問題が多いと思っているが、個別的に見れば、早く導入すべき考え方ももちろんあり、条項使用者不利の原則はその一つだと思っている。仮に明文の規定がない現行法においてだって、信義則上も同様の考え方をして、決しておかしくないはずである。

 概して、日本の裁判所は業者側に甘すぎるのである。そう思うのは私だけであろうか。

約款の解釈(2)

2011-09-07 09:29:06 | 債権各論
 約款についても、合目的的解釈を行うべきことは当然としても、契約の解釈の問題であり、相手方のあることなのだから、相手方にとっても予測可能な公平な解釈がなされなければならず、合目的的解釈のためとはいえ、いたずらに約款作成者の立場にのみたって解釈するのは、不公平になりかねないと思う。

 消費者契約としての約款の適用においては、消費者契約法8条ないし10条によって、不当条項はその適用が排除される可能性はあるが、たとえば10条の適用に関しては、このブログでも紹介したように、判例は建物賃貸借契約における更新料の定めもなかなか10条違反を認めないなど、判例上は適用要件が厳しいようである。

 この点、現在法務省で行われている民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理において、条項使用者不利の原則というのが検討課題として掲げられている。
 どういうことかというと、条項の意義を明確にする義務は条項使用者(あらかじめ当該条項を準備した側の当事者)にあるという観点から、約款又は消費者契約に含まれる条項の意味が、一般的な手法で解釈してもなお多義的である場合には、条項使用者にとって不利な解釈を採用するのが信義則の要請に合致するとの考え方を採用しようというのである。