実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

一般社団,一般財団法人法 - 評議員・評議員会(2)

2010-01-18 15:48:16 | 一般法人
 一般財団法人と評議員の関係は委任の規定に従うものとされており(172条)、かつ、評議員は一般財団法人又はその子法人の理事、監事又は使用人を兼ねることができないとされている(173条2項)ので、評議員会は一般財団法人を自由に処理できる立場にあるわけではなく、第三者的な立場で善管注意義務をもってその任に当たることが想定されているといえよう。その意味において、権限は類似しているとしても、一般社団法人の社員(総会)と一般財団法人の評議員(会)とは、その性質は相当に異なる。社員(総会)と理事(会)との関係は、本来は社員が一般社団法人の運営主体たるべき地位にあるところ、理事(会)が社員(総会)に代わって一般社団法人の運営を担当するという関係にあり、重要事項など理事(会)に任せられない事項については社員総会の権限としたのであるから、一般社団法人と理事との関係が委任に関する規定に従うという64条の規定の意味は、組織内部的には社員の明示的意思(すなわち社員総会決議)及び推定的・客観的意思に従うという意味にも理解できると思われる(ちなみに、これは株式会社法においても同様の理解が可能であろう)。これに対し、評議員会は、重要事項の決定を理事会に任せずに評議員会の権限とすることにより、理事(会)を牽制する立場にあるといえよう。そのため、一般財団法人と評議員、理事、監事及び会計監査人との関係について、委任に関する規定に従うという172条1項の規定の意味は、文字どおり一般財団法人との関係でのみ(あえて組織内部的にいえば、財団そのものに対して)、善管注意義務が問題となるのであって、評議員も理事、監事と同じ善管注意義務を負うことになるというべきである。
 さらに、役員と同じ欠格事由が定めてあり(173条1項・65条1項)、任期も、原則4年で定款で6年に伸張できるとされている(174条1項)。評議員の報酬も定款で定めなければならない(196条)。

一般社団,一般財団法人法 - 評議員・評議員会(1)

2010-01-12 10:21:16 | 一般法人
 一般財団法人においては、評議員会が必置の機関とされたことは、すでに以前のブログで述べたとおりである。
 評議員会の権限は、法律・定款事項に限り決議することができることとされているが(178条2項)、法が定める評議員会の権限は、理事・監事・会計監査人の選任・解任(177条・63条、176条)、計算書類の承認(199条)、定款変更(200条)など、主に一般社団法人では社員総会が決議すべき事項について評議員会に決議する権限を与えている。また、評議員会の手続については、その招集手続(179条以下)、評議員提案権(184条以下)、評議員会に関する検査役の選任(187条)、普通決議と特別決議の存在(189条)、理事等の説明義務(190条)、資料等の調査(191条)、延期・続行(192条)、議事録の作成等(193条)、全員が同意している場合の決議、評議員会への報告の省略(194条、195条)など、ほぼ一般社団法人の社員総会と同等の規定をおいている。したがって、評議員会は、理事会設置一般社団法人における社員総会と非常によく似た機関ということができる。
 社員総会の権限、手続と違う点を上げるとすれば、まず役員及び会計監査人の解任は、一般社団法人の場合は社員総会の決議でいつでも解任できるが(70条)、一般財団法人の場合、職務上の義務違反や心身の故障がある場合などに限られ(176条)、また、評議員会の議長の権限は定められていない(社員総会の議長の権限は54条)などである。

 もっとも、評議員会が社員総会と非常によく似た機関だとしても、社員の概念のない一般財団法人において、誰が評議員になるかは自明のことではない。そこで、評議員の選任・解任の方法は定款に定めることとしている(153条1項8号)。ただし、理事又は理事会が評議員を選任し、又は解任する旨の定款の定めはその効力を有しない(同条3項1号)。これは、理事の選任が評議員会の権限とされていることから、その評議員の選任を理事(会)の権限とすると、理事(会)と評議員(会)の同質化が起こるからであろう。当たり前といえば当たり前かもしれないが、評議員会の選任に理事や理事会が全く関与できないのかどうかは、必ずしも明らかではないのではないか。例えば、一定の要件を満たす人物(評議員会や第三者機関が候補者を推薦するなど)の中から理事会で評議員を選任するのはだめなのか、あるいは逆に理事会が候補者を推薦した中から評議員会や第三者機関が選任するのはどうなのか。さらには、第三者機関といいながら、その機関のメンバーの多数が理事で占められている場合はどうか。理事や理事会の関与を完全に排除する趣旨だとすると、評議員の選任方法にかなり工夫を凝らさないと選任そのものが困難になりそうに思うのだが……。
 おそらく、これまで評議員会を任意設置していた財団法人における評議員の選任方法は、その全部又は一部を評議員会自身で選任したり、あるいは理事会で選任したりしていたと思われる。一部の評議員でもその選任に理事や理事会が関わっていた財団法人は、新法移行後は評議員の選任にいろいろと工夫を凝らす必要が出てくるであろう。

一般社団,一般財団法人法 - 社員・社員総会(2)

2009-12-01 12:46:45 | 一般法人
 社員総会の規律は、原則として議決権が1社員1議決権とされているほかは、株式会社における株主総会の規律と非常によく似ている。
 社員総会の権限は、一般的には一切の事項につき決議しうる万能な機関であるが、理事会設置一般社団法人における権限は、法律・定款事項に限られる(35条)。所有と経営の分離のところで、すでに述べたとおりである。そのほか、社員総会の召集(36条)、社員による召集請求(37条)、理事、理事会による社員総会の召集の決定(38条)、社員総会の招集通知(39条)、社員全員の同意がある場合の召集手続きの省略(40条)、書面投票、電磁的方法による投票を認める場合の参考書類、議決権行使書面の交付など(41条、42条)、社員提案権(43条、44条、45条)、総会検査役(46条)と裁判所による総会召集(47条)、議決権の数(48条)、普通決議、特別決議(49条)、議決権の代理行使(50条)、書面による議決権行使(51条)、電磁的方法による議決権行使(52条)、理事等の説明義務(53条)、議長の権限(54条)、社員総会に提出された資料等の調査をするものの選任(55条)、延期・続行の決議(56条)、議事録の作成(57条)、社員全員の書面・電磁的記録による同意がある場合の総会の省略(58条)、同様に社員総会への報告の省略(59条)まで、条文体系は株主総会と全く同じである。そのため、以上に掲げた条文解釈は、ほとんどの場合、会社法の株主総会の規定と同様の解釈でよいのだろうと思う。
 ただし、冒頭で記載したように、議決権の数は、基本的に社員各一個の議決権とされ、定款で別段の定めをすることを妨げないとされる(48条1項)。また、少数社員権とも言いうる総会召集請求権(37条1項)、社員提案権(43条2項)、社員による総会検査役選任(46条)の議決権数の要件は個別に規定されているが、株式会社の少数株主権の場合と違い、一人一議決権である以上、少数社員権を行使するには、一個の議決権だけで当該少数社員権の要件を満たす場合を除き、必ず複数の社員が共同して行使せざるを得ないという特徴がある。したがって、この少数社員権の解釈で多少株式会社法と違う解釈があり得るかどうかであろう。
 要するに、全般として、一般社団法人の社員総会の規律は、株主総会並みに厳格化されたといいうるのである。株主総会と解釈上の違いがあるとすれば、少数社員権の解釈であって、この点だけは、株主総会との違いを常に意識する必要があるということであろう。

一般社団,一般財団法人法 - 社員・社員総会(1)

2009-11-27 16:43:34 | 一般法人
 社員・社員総会(1)

 一般社団法人の社員の規定については、やはり株式会社における株主に関する規定との比較が重要である。もっとも、当然ではあるが、株式会社法においては、直接「株主」を規律するのではなく、「株式」という権利の規律を行っているが、一般社団法人に関しては、一応直接「社員」を規律しているという建前になっているといえる。が、社員名簿など、類似の制度は会社法と非常によく似た規定となっている。
 株主との比較で権利内容の違いをいうと、まず、社員は、定款の定めるところにより、経費支払義務を負うが(27条)、原則として退社の自由がある(任意退社・28条)。また、法定退社事由も明確化された(29条)。法定退社のうちの除名については、社員総会の特別決議による(30条、49条2項1号)。従前の社団法人においては、社員の資格の得喪に関しては、一切定款の記載に任されていたが(旧民法37条6号)、新法は上記の範囲で明確化した。
 しかし、その他の社員の資格の得喪に関する規定は定款の必要的記載事項である(11条1項5号)。従って,設立後の入社の方法などは,全て定款に記載されることになる。
 また、この社員の規定は、株主となった段階ではもはや何らの義務も負わず、基本的に退社が認められていない株式会社とは大きく異なり、むしろ持分会社(合名会社、合資会社、合同会社のこと)の社員の規定に近いと言えようか。

 他方で、社員名簿の設置を義務づけ(31条)、社員による閲覧・謄写を可能とし(32条)、一般社団法人から社員に対する通知・催告は、この社員名簿記載の住所においてなせば免責され(33条)、この通知・催告が5年以上到達しなければ、もはや通知・催告は不必要となる(34条)。以上の効果は、株式会社における株主名簿と同様であり、一般社団法人による社員管理を株式会社の株主管理にあわせて簡便にしたものといえよう。

一般社団,一般財団法人法 - 機関設計(4)

2009-10-26 11:16:56 | 一般法人
 機関設計の点でもっとも疑問に思っているのが、次の点である。
 すなわち、一般社団法人の社員総会で特徴的なのは、理事会設置一般社団法人における社員総会の権限は、法律・定款事項のみ、決議をすることができるとされたことである(35条2項)。この規律は、表面的には取締役会設置会社に関する現行株式会社法(会社法295条2項)と全く同じ規律といってもいい。そして、会社法295条2項が株式会社の所有と経営の分離を意味している規定だとすると、これと同じ規律を設けた理事会設置一般社団法人についても、取締役会設置会社と同様、理事会設置一般社団法人にも所有と経営の分離が図られたことになるのであろうか。
 この点、「試案」では、「定款で、社員総会の権限を制限し、理事の各自業務執行・代表権(……)を喪失させることにより、いわゆる理事会設置タイプと同様の規律を設けることができるものとする。」という記載があり、これに基づいた処理といえそうである。
 しかし、株式会社の場合は、株主は経営参加に関心がないことが基本的に想定されているので(株主は、何もしなくとも配当利益や株式の値上がり利益を期待しうる。こうした現象を合理的無関心(経営に無関心でいることがもっとも経済合理的な株主の態度という意味)と言うことがある。)、取締役会設置会社における株主総会の権限を、法律・定款事項に限るのは合理性を有する。しかし、非営利法人である一般社団法人に社員として参加するものは、株主のように、ただ単に社員であるという一事から即何らかの利益を得られるというわけではない。そのため、一般社団法人の社員は、何らかの形で積極的に法人の事業にかかわるつもりで参加する場合が多いのではないだろうか。そうだとすれば、理事会設置一般社団法人であっても、社員は法人経営に多少でも関心をもつ場合が多いのではないだろうか。そうだとすれば、たとえ理事会設置一般社団法人であっても、一律に社員総会の権限を縮小するのが、正しかったかどうかは、私は疑問に思っている。
 もちろん、新法でも定款で社員総会の権限を増やすことは可能ではある。しかし、本来は発想をむしろ逆にすべきで、仮に理事会設置一般社団法人の場合に社員総会の権限を縮小するとしても、社員総会の権限を縮小する部分について定款自治に任せるという発想の方がよかったのではないかという気もする。もっとも、そうだとしても具体的にどのように定款に記載すれば縮小できるのか、技術的な難しさはありそうではあるが……。
 新法のとおりだとしても、社員総会の決議事項を定款で増やすことは出来るので、それで問題ないという立法趣旨かもしれないが、定款変更は社員総会の特別決議が必要で、定款変更も簡単ではない。そのため、35条2項は会社法295条2項と全く同じとして考えていいものかどうか、極めて疑問に思っており、取締役会設置会社の株主よりも,理事会設置一般社団法人の社員の方が、法人に対する意見が通りやすいような解釈が必要なのではないかと思っている。