実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債券って何? 有価証券って何?(1)

2013-02-26 11:20:08 | その他の法律
 最近、医療機関債を巡る詐欺事件が報道されており、投資詐欺が後を絶たないことに心を痛めるところである。

 ところで、そもそも医療機関債とは何か。我々弁護士にとっても耳慣れない言葉である。どうも、医療法人が発行しているようなので、私は当初、医療法に基づいて一定の医療法人(社会医療法人とされる法人)が発行することが認められている社会医療法人債のことかと思っていたのだが、どうもそうでもないらしい。
 それでは、医療機関債なるものは、そもそもがまがい物で実態のない架空の投資なのかというと、今話題になっている詐欺事件に関する事件はともかくとして、一般的にはそうではなく、健全と発行されているものも全くないわけではないようである。
 実は、似たようなものとして、学校法人債(または学校債)と呼ばれる債券(?)がある。これは、私立学校を運営する学校法人が発行するものであるが、この学校法人債というものに関しても、私立学校法その他の法律に何らかの明確な法的根拠があって発行しているわけではないようなのである。ただし、学校法人債に関しては、一定の要件を満たす場合、金融商品取引法上の有価証券と見なされることとなっており、広く一般に募集する場合、発行開示やその後の継続開示が必要となってくる場合がある。

 では、これら医療機関債や学校法人債はどのような法律を根拠として発行しているのか。

ゴルフ場用地の賃料減額請求権(6)

2013-02-19 13:04:31 | 最新判例
 話は飛ぶが、いわゆるサブリース契約の判例がある。ディベロッパーがマンションを一括で借り上げて、これを転貸する方式で収益を上げる契約である。元々存在する賃貸マンションをディベロッパーが一括で借り上げて運用するのではなく、地主に建築費をほぼ全額借金をさせて新たに賃貸マンションを建築させ、これをあたかも家賃保障をするかのようにしてディベロッパーが一括で借り上げる事案が問題となった。経済的力関係は、地主よりも遙かにディベロッパーの方が力が強いし、事実上、ディベロッパーが支払う家賃が地主の借金の返済原資になっているのである。その一括借り上げ家賃が減額されてしまうと、借金が支払えない状況になりかねない事案である。
 この事案に関しては、その実質が本当に賃貸借と言えるのかどうか疑問があるにもかかわらず、最高裁はサブリース契約の特殊性を考慮してかなり限定的となっていると理解はできるが、結論的にはサブリース契約も建物の賃貸借であるとして賃料減額請求自体は認めてしまった。
 結局、賃料増減額請求の有無について、判例は借地借家法の適用される事案かどうかという一点のみにその考慮要素があるに過ぎないようである。

 しかし、特別法を一般法化していく解釈もあり得るはずである。例えば、借地権の第三者対抗要件は、借地借家法上は借地上の建物の登記であるが、この規定はかなり緩やかに適用されているはずである。これなどは、土地賃借権の物権化傾向を示すものであり、完全ではないが、ある意味では特別法が一般法に入り込んできている具体例とも言えなくはない。
 賃料増減額請求権についても、たとえ借地借家法や農地法が適用とならなくても、市場原理がうまく機能しない部分に関しては、類推するという形で、一般化してもよいのではないかと思うし、ゴルフ場用地など、その典型だったような気がしてならない。
 逆に、サブリース契約の場合、少なくとも地主の借金返済の負担が軽くなるまでは家賃の減額が出来ないという考えだってあり得たと思う。なぜなら、借金返済の負担が軽くなるまでにそれ程長期の期間が必要とは思えず(例えば、本来民法が予定している賃貸借契約の上限である20年間経れば、借金返済負担も相当軽くなるだろうと思われる。)、そのくらいであれば十分な見通しを持った家賃設定ができたのではないかとも思えるからである。

 いずれにしても、今回の最高裁の判断は、実態に即しておらず、やや硬直的に過ぎるような気がしてならない。どうなのだろう。

ゴルフ場用地の賃料減額請求権(5)

2013-02-14 10:14:18 | 最新判例
 それはともかく、では本題に戻って、ゴルフ場用地はどうか。

 ゴルフ場用地であっても、その敷地全体を一人の人から借りていて、一対一の話し合いが可能であり、かつ、契約期間満了時に、更新後の賃料の額が合意できなければ本気で土地の返還を求めるような事案であれば、競争原理をそのまま認め、賃料増減額請求など認める必要はないであろう。賃貸借契約期間満了時に更新時の賃料の合意ができなかったためにゴルフ場が敷地を返還しなければならなくなったとしても、それも競争原理である。このことによってゴルフ場経営者が倒産しても、やむを得まい。地主としては、企業の倒産を防ぐために自らの土地の利用権が制限されるいわれはないからである。返還を受けた敷地を以後どのように利用するかは、地主の意思次第である。
 しかし、実際にはゴルフ場用地は他への転用の用途が考えにくい土地だけに、地主としては土地を返還されても困るという事案の方が多いのではないだろうか。別のゴルフ場運営会社が参入してくるということも全く想定できないわけではないが(ゴルフ場経営会社が法的整理に入った場合などは、実質的な買収により別会社が参入することは十分にあり得るし、過去にも幾つも事例がある。が、これは管財人が引き継ぎをうまく行い、新規参入業者として初期投資が少なく済むからであろう。)、賃料減額が求められているようなゴルフ場に十分な引き継ぎも想定しにくい状況で新規参入をしてくる業者がはたしてどれだけ存在するであろうか。
 その場合に、地主の対応として、更新時の話し合いで更新はするけども減額には応じないという対応をとった場合、ゴルフ場経営者としては、賃料が減額されないのであれば敷地を返還して契約を終了するという選択肢があり得るかというと、おそらくあり得ない。敷地を返還するということは、実質ゴルフ場経営を終了することを意味するからである。別の場所でゴルフ場の経営をするということが、まず考えられない業種であり、そういう意味での特殊性もある。そうすると、契約期間の定めは事実上ないに等しく、結果、当初賃料の額だけが事実上一人歩きをすることになりかねない。
 つまり、ゴルフ場用地の他への転用の用途が想定しにくいということと、ゴルフ場経営者としては事業場所を移転することができないということから、結果、賃料について事実上競争原理が働きにくいのである。借地借家法や農地法のように、法律的に長期の契約が強制されるわけではないが、事実上、長期契約となることが想定される事案なのである。判例の事案も、地主側は債務不履行等を理由とする土地の返還を求めてはいない事案のようである。おそらくは、地主としても土地を返還されても困るのである。

 このように、ゴルフ場用地というのは、賃料額の決定について競争原理が働きにくい事案なのである。ある意味では、市場原理の失敗の事例と言えると思うのである。だから、適正な賃料価格を公的に決定する意味で、借地借家法の地代増減額請求権の規定を類推してもよかったのではなかったかと思うのである。
 しかし、判例はこの類推適用をあっさりと否定した。判旨も非常に形式的な理由を述べているに過ぎず、ゴルフ場用地の特殊性を考慮しているとは到底思えない。

ゴルフ場用地の賃料減額請求権(4)

2013-02-08 12:00:03 | 最新判例
 では、逆になぜ建物所有目的の土地の賃貸借や耕作目的の土地の賃貸借の場合、賃料の増減額請求権が存在するのか。

 建物所有目的の土地の賃貸借でいえば、既に述べたように、賃貸借期間は最低でも30年以上でなければならない。かなり長期である。しかも、30年経過時も、建物が存続している限り、同一条件でほとんど自動的に更新が強制される。更新拒絶ができる場合も法律上は一応想定しているが、なかなか認められるものではない。そうなると、結局建物存続する限りはいつまでも契約は終了しないことになる。
 農地についても、賃貸借契約期間の短期こそ特別なルールは存在しないが、長期については50年を超えてはならないと、民法の原則より長い賃貸借契約を想定し、更新拒絶はやはりある程度制限され、結果として長期間の契約となることが想定される。
 そのため、契約期間中に賃料相場が不相当となったり、また、契約更新時も自由な賃料の合意が妨げられてしまったりする可能性が強いのである。だからこそ、賃料が不相当となったら、賃料増減額請求を法律によって強制する必要性が存在するのである。

 ちなみに、本論とはあまり関係ないことかもしれないが、賃料増減額請求の根拠について、よく、事情変更の原則を明文で認めたものといわれることがある。しかし、事情変更の原則とは、私の理解ではドイツからの輸入理論で、ドイツが一時ハイパーインフレに見舞われたときに、契約の締結時と履行時で物価が全く異なってしまったことがあり、その際に、いわゆる価格改定訴訟(売買契約でいえば、売主側からの対価の増額請求)を裁判所が積極的に認めた際の理論である。
 この事情変更の原則が日本民法でも当てはまらないわけではもちろんないし、予見不可能な物価変動に対応する理論というふうに広く考えれば、長期間の不動産賃貸借の(数十年後の賃料相場を契約時に想定することはかなり困難であろう)賃料増減額請求もこれに似た側面はないわけではない。
 しかし、この事情変更の原則は、ハイパーインフレの発生という、競争原理とは全く異質のところでの問題である。これに対し、賃料相場は、本来は競争原理で決定されるところ、建物所有目的の土地の賃貸借、耕作目的の土地の賃貸借では長期の契約が強制されて競争原理が制約されるために、その見返りとして賃料増減額請求権が認められた制度だと言えると思う。そうであるならば、言い方はやや変であるが、賃料増減額請求権は、むしろ競争原理を裏から補完している仕組みとは言えないだろうか。

 要するに、賃料増減額請求権は、いわゆる事情変更の原則とは、やや異質なところがあるのではないかという気がしないではないのである。

ゴルフ場用地の賃料減額請求権(3)

2013-02-05 10:09:57 | 最新判例
 不動産の賃貸借の場合でも民法の基本原理からいえば、賃料の増減額請求権は、少なくとも認める必要性に乏しいといえるのである。

 例えば、資材置き場として利用する目的で工場に隣接する土地を当該工場が賃借したとしよう。この場合の賃貸借の契約期間は20年を超えない限り自由に定めることができる。そのため、2年、あるいは3年という期間の賃貸借も有効である。
 この点も誤解されやすいのだが、建物所有目的の土地の賃貸借の場合は、借地借家法によって賃貸借契約期間は最低30年と定められているが、あくまでも「建物所有目的」の土地の賃貸借の場合であって、借地借家法の適用がある場合に限られるのである。そうでない場合、例えば資材置き場として利用する目的の土地の賃貸借の場合、そのような縛りはないのである。そのため、土地を貸す貸主も2年とか3年とかの短期で貸せる。
 そして、契約期間満了時に、契約を終了するか、更新するかは、当事者の自由な合意によって決定できる。そのため、賃料に特に不満がなければ双方とも同一条件で契約を更新するかもしれないし、貸主の方が割安となっていると考えれば、賃料を値上げしない限り更新しないこともあり得、逆に借主の方が割高になっていると考えれば、賃料を値下げしない限り更新しないとすることもあり得る。

 要するに、この契約満了時に契約自由の原則が働き、一応競争原理が働くのである。この競争原理によって、自ずと適正な賃料に落ち着くことが期待される。そして、民法上、契約期間は長くても20年とされるから、その範囲であれば、一応自己責任で賃料を決めるべきということなのであろう。
 これが、賃料の増減額請求権を認める根拠に乏しい大きな理由といえるのである。契約自由の原則が働くのである。