実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

再転相続人の熟慮期間(3)

2019-09-27 09:51:07 | 家族法
 ところが、つい最近の判例の判旨は、抜き書きすると、「民法916条にいう『その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時』とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。 」と判示した。
 なかなか分かりにくい判示であり、この判示を一般紙が単純に掲載したことから、分かりにくい新聞記事となっていたのかもしれない。私の理解では、乙が甲の相続の承認、放棄をしないで死亡した場合の乙の相続人である丙が、乙の死亡により甲の地位を承継したことを知った時、それも、甲の相続につき乙が熟慮期間経過前に死亡しており、かつ、乙が承認も放棄もしていないことを丙が知った時から熟慮期間が進行するというのである。

 この判旨に従えば、再転相続における熟慮期間の起算点で重要なのは、丙が、乙の死亡を知ったときではなく、丙が甲の地位を承継したことを知ったときということになる。

再転相続人の熟慮期間(2)

2019-09-12 13:06:13 | 家族法
 問題は、再転相続に関する民法916条の解釈である。同条が想定している単純な事例は、甲が死亡した後、相続人である乙が、甲の相続を放棄や限定承認をするか否かの熟慮期間を経過する前に、放棄も限定承認も(もちろん承認も)しないで死亡した場合において、乙の相続人である丙における、甲の相続についての熟慮期間がどのようになるかについて規定しており、丙が「自己のために相続の開始があったことを知ったときから起算する。」となっている。
 この、「自己のために相続の開始があった」について、従来の相続法の教科書での説明では、乙の死亡による相続の開始を意味していたように思う。要するに、丙における甲の相続に関する熟慮期間も、乙の死亡を知ったときから起算されるのである。この解釈の意味するところは、乙が死亡する前に経過した熟慮期間は丙が引き継がないということであり、丙の熟慮期間はリセットされて乙の死亡を知ったときから改めて進行することを意味する。
 単純に、祖父甲が死亡し、父乙が熟慮期間経過前に死亡したことを考えると、本人丙は、乙の相続に関する熟慮期間も、甲の相続に関する熟慮期間も、乙の死亡を知ったときからと考えて、あまり問題はなさそうである。

再転相続人の熟慮期間(1)

2019-09-04 09:39:54 | 家族法
 つい最近、再転相続人の熟慮期間に関する判例が登場し、一般の新聞紙でも比較的大きく取り上げられていた。ただ、私は新聞記事にさっと目を通しただけでは、何を判示したのかがよく分からなかった。
 あらためて裁判所のホームページに掲載された判決文に目を通して、ようやく何を判示したのかが分かってきた。その内容は、従来の教科書レベルで説明されている内容とやや異なる解釈を採用していることと、私の考えでは、再転相続人の立場を保護するような内容とはなっているが、射程はかなり狭いのではないか、ということである。