実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

理解不能な欠損填補責任(3)

2018-07-25 09:40:26 | 会社法
 ところが、当該行為(すなわち中間配当等)をした日の属する事業年度という場合の「事業年度」の意味につき、第一括弧書きは、「その事業年度の直前の事業年度が最終事業年度でないときは、その事業年度の直前の事業年度」と規定している。この括弧書きは、要するに、当期の直前の事業年度が最終事業年度でないならば、前期の事業年度で考えよ、といっているのである。しかし、「当期の直前の事業年度が最終事業年度でない場合」ということの意味が分からなかった。当期は、まさに今動いている期だから、その直前の期は常に最終事業年度のはずだと思ったのである。なので、当期の直前の事業年度が最終の事業年度でないということが理解できないでいた。

 しかし、これは早とちりであることに、わりと最近気づいた。
 そもそも、最終事業年度という言葉は、会社法上定義があり、計算書類を確定させた事業年度のうち最も遅いものというのが、会社法上2条24号の定義となっている。例えば、4月1日になり、新たな事業年度に突入したとしても、その前期の計算書類は、6月末日頃に開催される定時株主総会で承認等がされるまで確定しない。そのため、会社法の定義によると、4月1日に新たな事業年度(当期)に突入したとしても、前期の計算書類が確定されるまでは、前期は最終事業年度とは言わないのであり、前々期が最終事業年度のままとなる。そして、6月末日頃に計算書類が確定して、はじめて前期が最終事業年度となる。

理解不能な欠損填補責任(2)

2018-07-18 09:39:31 | 会社法
 そもそも、剰余金の配当や自己株式の取得は、分配可能額の範囲内で行うこととされている。その計算方法は461条2項に規定されており、複雑なのであるが、計算の出発点は、剰余金の額からである。この剰余金そのものの計算方法も会社法446条に規定されているのであるが、これもまた面倒な規定なのであるが、基本は同条1号であり、最終事業年度末日における計算書類が出発点になることが分かる。要は、計算書類が確定した場合の貸借対照表の記載が分配可能額計算の前提となるのである。

 そして、再び欠損填補責任の465条1項を見ると、剰余金の配当等をした事業年度の計算書類において欠損を生じさせたことが責任の発生の要件となっている。
 例えば、事業年度を4月1日から3月31日までとする会社において、9月末に中間配当をした場合を考えると、当該事業年度は翌3月31日にで決算を迎えるので(仮に、この期間を当期といおう)、当期の計算書類は、その後の6月頃(既に次期に突入している)に開催される株主総会で確定することになる。そこで確定する計算書類において欠損が生じたか否かが問題になるのである。

理解不能な欠損填補責任(1)

2018-07-11 09:36:37 | 会社法
 会社法の概念に、欠損填補責任という概念がある。要は、剰余金の配当や自己株式の取得をした事業年度における計算書類において、欠損を生じさせた場合には、その欠損額(配当総額や自己株式取得総額の方が少なければその総額)について、取締役のうちの事業執行者が責任を負うというものである。
 会社法465条1項に規定されているが、法律要件の厳密性を担保するために仕方のないことかもしれないが、非常に読みづらい条文である。

 欠損填補責任の趣旨は、事業年度の末日に欠損を生じさせるような配当や自己株式の取得をうかつに行うな、といっているのであり、趣旨そのものは理解できる。
 しかし、比較的最近まで、会社法465条は読みづらいだけでなく、第一括弧書きについては、その意味すらわからないでいた。

譲渡制限特約付債権の譲渡(8)

2018-07-04 09:45:30 | 債権総論
 譲渡制限特約は、少なくとも現行法上は、債務者は悪意(又は重過失)の譲受人との関係では、完全に無視してよい制度設計になっている。しかし、解説書のような考えが妥当だとすると、完全無視はできなくなったということになる。それは、譲受人からの催告権が明文で規定された部分にとどまらない影響がありそうである。

 もっとも、立法政策として現行法のように譲渡制限特約の第三者に対する効力を認めることそのものに対して懐疑的な考えもあったようで、そうした考えも踏まえると、立法によって譲渡禁止特約の物権的効力を放棄したのであるから、解釈においても影響を受けることは当然というのかもしれない。
 そして、新法の解釈として悪意又は重過失ある譲受人であっても確定的に譲受人に帰属するというのも、あくまでも第三者対抗要件が備わっていることが大前提である(そうでなければ、ここでも私の疑問点は、すべて対抗要件の問題で処理できる。)。その対抗要件の具備が確定日付ある通知であれば、債務者も債権譲渡がなされたことの認識は可能である(対抗要件が債権譲渡登記であれば、債務者対抗要件を備えるまでは、第2事例と同じような状況の下で考えることになる。)。なので、たとえ譲渡制限特約付債権の譲渡であったとしても、確定日付ある譲渡通知が届けば、債務者も、その時点から法律状態に変更が生じたことの認識が可能である。そのため、解説書のような解釈さえ実務的に固まれば、現に法を運用する実務家として困ることはないのかもしれない。

 しかし、新法が物権的効力は放棄したとしても、譲渡制限特約の悪意重過失ある譲受人に対する効力は残し、譲渡制限をもって悪意重過失ある第三者に履行を拒むことができるという、結果的・表面的な効力は現行法と変わりばえはしない。しかも、その趣旨も債務者の利益であって、現行法の趣旨と変わらない。
 そうであれば、最初の方で紹介した平成21年判例が説明しやすくなったという理論的な問題にとどめた解釈をした方が良さそうな気もするのだが、どうなのだろう。