実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

詐害的代表訴訟と再審(2)

2014-06-27 11:47:25 | 会社法
 新株発行無効訴訟の当事者適格は法定されており、原告となり得るものは「株主等」、被告は会社である。新株を引き受けたものは本来訴訟当事者になり得ない。当事者適格がないのである。そのため、どんなに新株発行の有効性を主張したくても、新株引受人が原告や被告の立場で訴訟に関与する道筋はないのである。

 もっとも、おそらく会社側に補助参加して争うことはできると思われる。この場合、判決の効力を受ける利害関係人であるから、共同訴訟的補助参加となり、被告である会社がなし得なくなった訴訟行為もなし得ることになると思われる。そのため、訴訟係属中であれば、補助参加することによって新株引受人自らの利益を訴訟において守る可能性はあり得る。

 ところが、訴訟係属に気づかないまま無効判決がなされてしまうと、もはや補助参加して自らの地位を守ると言うことができなくなってしまう。
 いや、再審の訴えとともに補助参加することによって判決を覆す余地はないわけではない。しかし、それは通常の意味での再審事由があるか否かの問題となり、ただ単に原告・被告間で馴れ合い訴訟を行ったということが再審事由になるわけではないのである。そのため、既判力の拡張により判決の効力が及んでしまう第三者が馴れ合い訴訟により不利益を被った場合に、再審とともに補助参加するという手段は、機能しないのである。

 そこで、新株引受人は再審の訴えを提起するとともに独立当事者参加(詐害防止参加であろうか)の申立をすることにより当事者としての地位を取得させ、かつ、会社が馴れ合いにより満足に争わなかったことが、新株引受人にとって、必要な授権を欠いたという再審事由に該当する余地があるとして、再審の訴えを提起しうる余地を認めたのである。

詐害的代表訴訟と再審(1)

2014-06-24 14:40:35 | 会社法
 取締役等の役員の責任を追及する株主代表訴訟が、原告と被告との間の共謀により不当に請求が棄却されたような場合、会社や他の株主は、再審の訴えをもって不服を申し立てることができる。会社法853条である。要は、馴れ合い訴訟によって役員に対する責任追及を怠ることに対して、それを再審という形で是正することを認めた条文であり、民事訴訟法の一般原則上の再審事由に対する追加的再審事由のようにいわれることもある。

 もっとも、会社法上、馴れ合い訴訟による不当判決がなされる可能性がある場面は株主代表訴訟の場面に限られないようで、例えば、株主が会社に対して訴えた新株発行無効訴訟において、会社側が有効性をまともに主張立証しなかったことから無効判決がなされたような場合、第三者割当を受けた新株の株主(ここでは新株引受人としておく。)は、訴訟からは蚊帳の外のまま新株引受の効力を否定されることになってしまう。
 民事訴訟法がらみの判例なので、あまり注目していなかったのであるが、新株発行無効訴訟における馴れ合い訴訟において、無効判決により結果的に新株引受の効力を否定される新株引受人から、再審請求をする方法について、昨年、最高裁が判断を示している。どうするかというと、新株引受人から、再審の訴えを提起すると同時に独立当事者参加の申立をすればいいというのである。

会社法改正案成立

2014-06-23 09:59:06 | 会社法
 先週末に、国会期末ギリギリのタイミングで会社法の改正案が成立したようである。
 施行は、来年4月1日を予定しているという報道である。

 この改正法によって、実務がどれほど変わるだろうか。例えば、監査等委員会設置会社に移行する上場会社が出てくることは当然に想定されるが、それで企業不祥事が防げるようになるかといえば、私は決してそのようなことはなく、いずれまたどこかで企業不祥事は起こるものと思っており、その中には、監査等委員会設置会社も含まれてくると思うのである。それはなぜかというと、企業不祥事が起きる理由が、法的仕組みの問題ではなく、それを運用する人間自身の問題ではないかと思っているからである。

 また、会社法そのものが、どんどん複雑化してきており、大学等で教える立つ場からすると、教え方そのものも難しくなってくるような気がする。勉強する学生も大変である。
 今後、会社法に関する大学教育は、工夫が必要になりそうである。

会社法改正案-スクイーズアウト(8)

2014-06-17 11:37:44 | 会社法
 要するに、結論として何が言いたいかというと、どんなに議決権比率が小さくても、株主として残りたい株主がいてもおかしくないはずで、それをただの特別決議だけで現金排除できてしまう、それも、全株主が平等に現金排除されるのではなく、大株主だけはそのまま株主として残り、少数株主だけが現金排除されるというのは、どうしても納得できないのである。会社法体系そのものが、そのようなことを許しているとは、私には到底思えないのである。そして、納得できない株主がいるからこそ、スクイーズアウトの有効性が裁判で問題になっているのではないのか。
 改正法案でよりハードルが高い特別支配株主の株式等売渡請求が制度化されるのであれば、法はその方法しかスクイーズアウトを認めないのであって、株式併合や全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトは、改正前にも増して株主平等原則に反することになると解したいのである。

 現行会社法になって、経営の自由度が増したといわれる。しかしそれは、自由な経営により、より収益を上げやすくして株主に見返りがあればこその自由である。その自由を、株主を排除するような経営手法、特に大株主を残し少数株主だけを排除する方法として利用するなど、本末転倒としかいいようがないと思うのだが、そう思うのは私だけなのだろうか。

会社法改正案-スクイーズアウト(7)

2014-06-13 12:00:53 | 会社法
 以上4つの意味で、特別支配株主の株式等売渡請求よりも、株式併合、全部取得条項付種類株式を利用する方法の方が、支配株主にとって要件が緩やかでかつ有利になっているのではないかと思うのである。
 もしそうだとすれば、特別支配株主の株式等売渡請求よりも要件が緩やかで支配株主に有利といえそうな株式併合や全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトは、改正法成立後はそれこそ権利濫用あるいは株主平等原則違反になると考えたいのだが、ダメであろうか。

 もっとも、改正法案が、株式併合と全部取得条項付種類株式の取得に対して、差止請求を認めることとし、かつ、上記のように株式併合の場合にも株式買取請求権を認める改正を行うことになっているのが、その改正趣旨は、株式併合や全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトを念頭に置いているのかもしれない。もしそうだとすれば、立法者の意思は、一応株式併合や全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトを有効であることを前提としているということになる。
 しかし、それは株式併合や全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトを有効とする下級審判例に引きずられすぎであり、むしろ、本当にそれを有効としてよかったのかどうかを、もっと真剣に検討すべきではなかったのか。

 もし、株式併合や全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトそのものを株主平等原則違反といえるならば、法令違反になる。差止請求が可能であるし、またこれらの手続の法令違反の場合に特別な無効訴訟が用意されていないので、原理原則通り、そもそも株式併合や全部取得条項付種類株式の取得そのものの無効を、いつでも事後的にも主張しうるということになる。
 そのため、立法者の意思がどうかはともかく、株式併合や全部取得条項付種類株式における差止請求権は、まさに株主平等原則違反となるような方法において差し止めを認めることに、大きな意味があると考えたいのだが、それもダメであろうか。