実務家弁護士の法解釈のギモン

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譲渡担保権設定に基づく所有権移転登記は虚偽表示?(6)

2019-11-27 12:38:02 | 物権法
 以下、登記の問題とは少し外れるが、譲渡担保権の何たるかについて、少し考えてみたい。

 譲渡担保に関しては、所有権的構成から担保的構成へと理解が変わってきたといっても、所有権から差し引かれる物権的権利たる設定者留保権とは何なのかが難しく、その中身が理解しにくい。教科書を読んでも、なかなかすっきりとは行かない。

 私は、次のように理解したいと思っている。
 譲渡担保権の所有権的構成の最たる考えは、所有権は完全に譲渡担保権者に移転しており、設定者が目的物を使用し収益を上げることができる法律関係や、債務を完済すれば所有権が設定者に戻ってくる法律関係は、設定者・担保権者の債権的な契約関係でしかないという理解であろう。そこでは、これら法律関係が債権的関係でしかない以上、設定者の権利は、譲渡担保権者にしか主張し得ないということになる。
 担保的構成における物権的権利たる設定者留保権とは、これを何人にでも主張できるように構成し直した物権的権利であり、譲渡担保権者は、所有権からこの設定者留保権を差し引いた権利しか有していないという理解が、担保的構成であろうと思っている。

譲渡担保権設定に基づく所有権移転登記は虚偽表示?(5)

2019-11-20 15:10:14 | 物権法
 ただし、同じ所有権移転登記であっても、登記原因を「譲渡担保」とすることが認められているので、登記原因を「売買」等とした場合には、虚偽表示に当たるという理解もないわけではないかもしれない。登記の代理を行う司法書士の立場からすれば、譲渡担保であることが明らかであれば、登記原因は「譲渡担保」でなければ登記代理を行わないという姿勢を取ってくれればいいのだが、こうした取扱が確立したものかどうかがよく分からない。また、通常は借金をする譲渡担保設定者の立場からすると、債権者である譲渡担保権者のいいなりに登記手続を行わざるをえないことも、よくあるだろう。
 そうだとすると、登記原因が「譲渡担保」ではなく「売買」等であっても、94条2項を(類推)適用する基礎といえるまでの設定者の帰責性があるとはいいにくいのではないかと思っている。

譲渡担保権設定に基づく所有権移転登記は虚偽表示?(4)

2019-11-13 14:02:25 | 物権法
 譲渡担保設定時の所有権移転登記も、この権利能力なき社団の登記とあまり違わないのではないか。
 実質的に考えても、譲渡担保権設定者としては、譲渡担保権者に対して所有権移転登記に応じざるを得ないのであり、所有権移転登記を行うことについて、設定者に落ち度はない。94条2項は、真の権利者に帰責性があることをその基礎としているはずであるから、譲渡担保においては、94条2項を適用(あるいは類推)する基礎に欠けるはずなのである。

譲渡担保権設定に基づく所有権移転登記は虚偽表示?(3)

2019-11-06 11:27:16 | 物権法
 このような状況は、例えば、権利能力なき社団の構成員に総有的に帰属する(すなわち、実質的に権利能力なき社団の財産たる)不動産について、適切な登記方法がないのと状況がよく似ている。
 権利能力なき社団の構成員に総有的に帰属する不動産の場合、その構成員全員の共有名義で登記することが、もっとも実態に近い。しかし、共有名義での登記であるにもかかわらず、共有物分割請求はできないとされるはずであるし、共有持分の処分はできないと解釈されているはずである。また、権利能力なき社団の代表者名義で登記することも認められているが、その場合も、名義人である代表者個人が権利能力なき社団に無断で売却しても、譲受人は有効に所有権を取得することはないと考えられているはずである。
 これらは、権利能力なき社団名義の登記や、総有での登記が認められていないことから、共有名義、あるいは代表者名義の登記を認め、しかも実態とは異なるけれども虚偽表示と考えているわけではないことを意味しているはずである。