軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ベニテングタケ

2019-10-18 00:00:00 | キノコ
長野県のある地方では、ベニテングタケというキノコを特別な時に食べる風習があると、私たちが軽井沢に転居して間もない頃、妻がご近所の老婦人から聞いて帰ってきた。その特別な時というのはお葬式の後のことで、75歳以上の女性だけが食べることを許されるのだという。

 何とも意味深長な話に、その時はただ驚いたのであったが、後で調べてみると、それまで猛毒のキノコの代表格だと思っていたベニテングタケであるが、意外にも食べられるという話も散見できることが判ってきた。もちろん毒抜きをしてのことではあるが。

 例えば、手元の本「きのこ」(小宮山勝司著 2007年 永岡書店発行)を見てみると、「ベニテングタケ」の項には次のような記述がある。

 「世界中でたった1カ所、このきのこを毒抜きして食用にしているところがあった。長野県の菅平地方だ。今は食用にはしなくなったが、お年寄りに聞くと、あのおいしさは忘れられないという。恐る恐る1mm角ほどをかじってみると、舌にまとわりつくようなうまみがある・・・」。

 ただし、この文章の最後で、著者は「そうはいっても毒きのこ、絶対にまねをすべきではない」とくぎを刺すことを忘れていない。

 いきなり本題に入ってしまったが、この「ベニテングタケ」とはどのようなキノコなのかみておくと、童話などで真っ赤な傘に白い水玉模様(いぼいぼ)が描かれているキノコが登場することがあるが、そのキノコは「ベニテングタケ」を描いたものと考えてよい。この傘にあるいぼいぼは、ツボと呼ばれるものが崩れてできるとされ、強い雨にあたるととれてしまう。

 そして、キノコの毒性を話題にする時に決まって登場するのが、この真っ赤なキノコであった。したがって、我々には真っ赤なキノコは毒キノコというイメージが植えつけられている。
 
 ベニテングタケは日本では主に、夏から秋にかけて、高原の白樺、ダケカンバ、コメツガ、トウヒなどに発生し、針葉樹と広葉樹の双方に外菌根を形成する菌根菌であり、南日本ではほとんど見かけないとされる。

 このベニテングタケが実際に生えているところを見、写真撮影をしたいと思い、軽井沢で自宅周辺を歩いてみたが、よく似たタマゴタケやテングタケは見つかるが、ベニテングタケはなかなか見つからない。そうこうしているうちに日が過ぎていった。

 このベニテングタケは前述の通り、白樺の木と共生関係にあると言われているので、白樺林で有名な八千穂高原に出かけた際にも林の中を歩きながら探したことがあったが、その時は空振りに終わっていた。ここに一軒ある食堂に入り、店のおばさんに「ベニテングタケを見たいのだが・・・」と、話を聞いてみたが、「以前はたくさん生えていたのですが、最近は見かけなくなりましたね・・・」とのことであった。

 ここは白樺で有名なだけに、採集者が来るようになったのだろうかと思い、別な場所を探してみようと考えた。

 そして、今年の春、蓼科方面にドライブに出かけた時に、車の窓から白樺林を見ていたので、時期が来たらここに出かけてみようと計画していた。

 先日その機会が訪れ、妻と出かけ、考え始めて4年目にして首尾よく2株のベニテングタケを見つけて写真に撮ることができた。

 最初、春に目撃していた白樺林が道路から見えるようになった場所で車を停めて、白樺林に入ってみようとしたが、その辺りの林床にはびっしりとクマザサが生い茂っていて、足元が見えない。この調子ではキノコの類は生えていないだろうし、仮に生えていたとしても見つけるのは難しいと感じて、早々にこの場所を諦めて、別の場所に向かった。

道路沿いに広がるシラカバ林(2019.9.25 撮影)

 次に車を停めたのは牧場の駐車場であった。この日は平日であったが、結構観光客の車も停められていて、牧場の柵ごしに、放牧されている牛を眺めている親子連れの姿も見られた。

のんびりと草を食べる牛、後方に浅間山が見える(2019.9.25 撮影)

 売店の人に話を聞くと、周辺にはキノコ類がたくさん生えている場所があるとのことであった。車をその場所に残してしばらく周辺を散策することにした。

 少し歩くと白樺の林が出現する。車はその辺りにまで侵入することができるようで、数台の車が停められていたが、一番奥の方に停めてあった1台に乗ろうとしている中年の女性の手には、レジ袋のようなものがぶら下げられていて、その中に何やらキノコらしきものが入っているのが目に入った。きっとここでキノコ狩りをしてきたのだろうと、期待が膨らんだ。

 その車が立ち去った後、林の中を進むと足元にはたくさんのキノコが生えていた。しかし、目指すベニテングタケは見当たらなかった。林の中を、次々に現われる種々のキノコを撮影しながら、白樺の木が途切れる辺りまで進んでみたが、やはりベニテングタケを見つけることはできなかった。

 あたりがそろそろ暗くなりかけてきたこともあり、元来た方向に戻りながら、それでも諦めきれずにあたりを見回しつつ歩いていると、ツツジの密集している場所があり、その根元近くに赤いキノコを見つけた。小枝を掻き分けて近づくと、これが間違いなくベニテングタケであった。

 カサが開き、横倒しになっている1本と、カサがまだ開いていない1本であった。ベニテングタケといえば、赤いカサの部分に点々と白いツボが見られるところが特徴であるが、ここで見つけたまだカサの開ききっていない1本のツボは大部分、雨のためか剥げ落ちてしまっていた。

 しかし、貴重な2本。横倒しになっている、カサが開き、一部欠け落ちてしまっているベニテングタケも助け起こして撮影した。

傘が開き、一部が欠けているベニテングタケ(2019.9.25 撮影)

傘が開き始めたが、ツボが落ちてしまっているベニテングタケ(2019.9.25 撮影)

ツボが少し残っている側から撮影した同上のベニテングタケ(2019.9.25 撮影)

 八千穂高原といい、蓼科高原といい、ベニテングタケ狩りをする人々がいるのだろうかと思えるほど、見つけることが難しくなっている気がする。

 先に紹介したきのこの本には、菅平地方という地名だけが出ていたが、冒頭記したように、長野県にはほかにもこのベニテングタケを保存し、特別な時にだけ食べるという風習が残っているようである。

 改めて、ウィキペディアで「ベニテングタケ」の項を見てみると、「食用例」という記述があって、次のように、意外にも多くの事例が含まれていた。

 「本種の毒成分であるイボテン酸は、強い旨味成分でもあり、少量摂取では重篤な中毒症状に至らないことから、長野県の一部地域では塩漬けにして摂食されている場合がある。長野・小諸地方では、乾燥して蓄え、煮物やうどんのだしとしても利用した。煮こぼし塩漬けで2、3ヵ月保存すれば毒が緩和されるので食べ物の少ない冬に備えた。傘より柄の方が毒が少なく、よく煮こぼして水に晒して大根おろしを添えれば、味も歯切れもよい。・・・あまり広まらなかったが、早くとも19世紀以降のヨーロッパ地域、特にシベリアに入植したロシア人が何度も茹でて無毒化して食した。・・・19世紀後期の北米ではアフリカ系アメリカ人のキノコ販売者が、湯がいて酢につけてステーキソースとしていた。」

 小諸地方と言えば御代田町をはさんで軽井沢のすぐ近くである。ご近所の老婦人の話していたベニテングタケをお葬式の後に食べる風習がある町とは、小諸地方周辺のことであったのかと気付かされた。
 
 ベニテングタケの持つ毒について更にウィキペディアで見ていくと、毒性はさほど強くなく、主な毒成分はイボテン酸、ムッシモールであり、長い間毒成分と信じられてきたムスカリンは、その含まれる量がごくわずかであるとされる。

 イボテン酸、ムッシモールの毒性はさほど強くないとは言うものの、微量ながらドクツルタケのような猛毒テングタケ類の主な毒成分であるアマトキシン類も含むため、長期間食べ続けると肝臓などが冒されるといわれているし、やはり食べすぎると起きるという腹痛、嘔吐、下痢は気になる。そして、うまみ成分が毒成分と一致しているので、毒抜きをすると、同時にうまみ成分も取り除かれてしまい、せっかくのうまみも台無しと言うことになるようである。

 さて、やはり食用のキノコは専門家が勧めるものだけにすることにして、これまでのベニテングタケ探しの途中で出会った、その他のキノコの写真を一部紹介させていただこうと思う。

 最初は軽井沢で撮影した、食用の代表でもあるタマゴタケ。この種については、すでに本ブログで紹介しているが(2016.9.9 公開)、ベニテングタケのツボが雨などで流されてしまうと、外観はこのタマゴタケと、とてもよく似てくるので、注意が必要である。
 
地面から顔を出したばかりのタマゴタケ(2017.8.28 撮影)

少し成長したタマゴタケ(2017.8.28 撮影)

成長し、傘が開いたたタマゴタケ(2017.8.28 撮影)

 次も、やはり軽井沢で撮影したもので、ツボがあり、形はベニテングタケとそっくりであるが、傘の色が焦げ茶色のテングタケ。軽井沢では普通に見かける種である。

地面から出て来たばかりで、全体がツボに覆われているテングタケ(2017.8.24 撮影)

傘が開く前と後のテングタケが並んでいた。ツボの破片がよく残っている(2017.8.24 撮影)

同上を真上から撮影した(2017.8.24 撮影)

 以下は、今回ベニテングタケの撮影を行った場所の周辺に生えていたキノコの写真である。これらを紹介して本稿を終る。キノコの種類はとても多く、間違った名前を記載してしまうことを恐れるので、ここでは写真の掲載にとどめさせていただく。

遠目にはベニテングタケかと期待した赤い傘のキノコ(2019.9.25 撮影)

上のキノコの傘が開いた状態と思われる(2019.9.25 撮影)

傘の色が赤茶色のキノコ(2019.9.25 撮影)

柄に黒い小さな斑点のあるキノコ(2019.9.25 撮影)

マツタケに少し似ているキノコ(2019.9.25 撮影)

傘に放射状のスジが見えるキノコ(2019.9.25 撮影)

傘が肉厚のキノコ(2019.9.25 撮影)

傘の中央が窪んでラッパ状になるキノコ(2019.9.25 撮影)

シメジのように集合しているキノコ(2019.9.25 撮影)

今回見た中でいちばん背の高いキノコで20cm近い(2019.9.25 撮影)

独特の形状のホウキタケの仲間(2019.9.25 撮影)

 追記:上の文章を書き終えた後、10月9日に再度蓼科にベニテングタケの撮影に出かけてみた。前回と同じ場所に行ってみたところ、たくさん生えていたキノコ類はほとんど姿を消してしまっており、見ることができなかったが、ベニテングタケは3本見つかった。1本は、傘が開いた状態で、一旦採集されたのか破れて打ち捨てられていた。もう1本は、前回同様傘部分のツボは落ちてしまっていた。3本目はツボがしっかり残り、絵に描いたような姿で期待したものであったが、これは横倒しになっていた。この3本目を、すぐそばの柔らかい土の上に立てて撮影した。

ツボが残りベニテングタケらしい姿1/2(2019.10.9 撮影)

ツボが残りベニテングタケらしい姿2/2(2019.10.9 撮影)

 ご近所の人の話では、今年はどこもキノコ類が大不作とのこと。そういえば、7月からこちらいつもとは違った天候が続き、週末にはよく雨が降っていた。10月の3連休も台風19号の襲来で長野県では千曲川の決壊、これによる新幹線車両の水没、また佐久地方では千曲川沿いの住宅が川に流されるなど、予想以上の大災害で混乱した。
 軽井沢でも多くの地域で停電し、今も一部続いているのであるが、ショップのある旧軽井沢銀座地区は停電を免れ幸いであった。



















 
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