まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.倫理学を学んでよかったことは何ですか?

2009-10-02 19:02:51 | 哲学・倫理学ファック
すでにこのブログの中で以前に、
「Q.倫理学を学んで役に立つことって何ですか?」
という記事を書いたことがあります。
今回の質問には、それを読んでくださいとお答えしてもよかったかと思います。
また、倫理学は哲学の中に含まれていますので (ここを参照)、
「Q.哲学を学んでよかったことは何ですか?」 という記事に書いたことも、
今回の質問へのお答えを含んでいると言えるでしょう。
ですが、せっかくのご質問ですので、今日はまた別の答え方をしてみましょう。
今日の答えも、哲学にも倫理学にも当てはまることですので、
こんなふうにお答えすることにいたしましょう。

A.哲学・倫理学を学んだら 「問いを問い直す」 ことができるようになりました。

「問いを問い直す」 とはどういうことでしょうか?
ふつう人間はなにか問いを与えられると、その問いを当然のものとして受け入れて、
その問いにどう答えようか考え始めてしまいます。
ところが、哲学とか倫理学という学問はそこでちょっと待てよと立ち止まるのです。
少しひねくれていると言ってもいいでしょう。
しかし、問いを受け入れてしまうと、
その与えられた問いの枠組みの中でしか考えられなくなってしまいます。
問いというのはいろんなことを前提とした上で発せられています。
問いを受け入れるということは、その前提を受け入れることになってしまうのです。
哲学や倫理学は、その前提の部分にさかのぼって、
はたしてその前提を受け入れていいのかどうか、
なぜそのような前提が生じてしまうのかといったことまで根源的に考えようとするのです。

そのように根源的に考えるためによくやるのは、
問いの中に含まれているある概念 (=言葉) を取り出して、
「そもそも○○とは何か?」 と問い返すという手法です。
例えば、「自衛戦争は正しいか正しくないか?」 という問いを出されたとしたら、
自衛戦争は正しいんだろうか、正しくないんだろうかと考え始めてしまう前に、
「そもそも自衛戦争とは何か?」 と問い返すのです。
そうやって改めて問い直してみると、
どこからどこまでが自衛戦争なのかというのは実はとても難しい問題なのです。
ところがふつうの人はああいう問いを投げかけられると、
自衛戦争なんて当然のこととわかった気になったまま、
正しいかどうかというところに焦点を当ててそのことばかり考えてしまうのです。

もうひとつは問いの構造が含んでいる前提を問い直すというやり方もあります。
例えば今回の問いで言うと、「倫理学を学んでよかったことは何ですか」 という問いは、
「倫理学を学んでよかったことがあるはずだ」 ということを前提にした上で、
それは何ですかと問うているわけです。
ですから本来なら、2段階に分けて、
「倫理学を学んでよかったことはありましたか、ありませんでしたか?
 もしもあった場合には、それは何ですか?」 と聞くべきだったのです。
そう聞かれれば、まずはあったかなかったかを考え、
なかったと思うなら、もうそれ以上考える必要はなかったわけです。
それを最初から 「何ですか?」 と聞かれてしまうと、
よかったことがあったことを前提に、それを何とか見つけようとしてしまいます。
(こういう質問のしかたは実はいい面もあります。それはまた別の機会に。)

この手の問いはさらに、ある種の価値判断を前提としてもっている場合もあります。
例えば最初に挙げた、「倫理学を学んで役に立つことって何ですか?」 という問いです。
この問いは、役に立つことがあるということを前提にしているのはもちろん、
さらに、学問を学んだら役に立つことがなくてはならない、
もしも役に立つことがないなら学ぶ意味なんてない、
という価値判断をも裏に隠しもっているかもしれません。
実際多くの人はそう思っているでしょう。
しかし、ひょっとすると役に立つことなんて何にもなくても、
学んでよかったことなんて何にもなかったとしても、学ぶ意味がある、
ということだってありうるかもしれないのです。
先の問いはそういう可能性を押しつぶしてしまっています。

哲学・倫理学は、発せられた問いの手の平にのって前提を共有してしまう前に、
問いを問い直してみようとします。
もちろん問いの前提を問い直してみた結果、
その問いの前提を受け入れてもよいということが判明したら、
本格的にその問いに答えようと考え始めることになります。
私もいちおう問いの前提を問い直してみた結果、
やはり役に立つこと、よかったことがあるほうがいいし、
実際にあったと思うので、これらの問いにお答えしているわけです。
この 「問いを問い直す」 というのは、
意外と生活の身近なところでもけっこう使えたりしますので (それもまたの機会に)、
哲学・倫理学を学んでおいてよかったなあとしみじみ思うのでした。
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