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『急行特急THの川埼湊・小鳥新田めぐり』

2010年04月25日 02時29分34秒 | 物語・小説
『急行特急THの川埼湊・小鳥新田めぐり』

 急行特急THは、ある時、川埼駅へ赴いた。
(えっと、どうやって行ったらいいんだろう?)
 改札を抜け、別線の川埼駅に行くのだが、行き方がよく解っていなかったので、設置してある地図を見つけ、周囲の地理を調べた。
(なるほど、こう行ってこう行くのか)
 見ている内は、なんとなく解るのだが、実際に歩いていくうちに、解らなくなるのが急行特急THである。
(まぁ、何とかなるだろう)
 あまり思い悩んでいても仕方ない、そう思って急行特急THは歩きだす。
行き交う人は、それなりに多く、大都市の1つなんだ、という事を彼は実感する。
やがて、やや長いエスカレータを下って、駅ビルから出ると、すぐにバスのロータリーが広がり、次乗り換えする路線の高架橋が目に入った。
(あっちの方向か)
 その時、丁度、発車したばかりと思われる電車がぐんぐん加速していく様子が見えたので、急行特急THはさらに先へと進んだ。

(あれか)
 これから急行特急THが乗る路線は、さっき見た高架線を行くものではなく、そこから出る支線だった。目的地はその支線の終点だった。
(次は、速行か)
 ICカードで改札を抜けるとすぐに次の電車案内が目に入った。
(変わった列車が走るもんだよな)
 目線を移せば、4両編成の短い電車がホームに停車していたので、乗り込むと、

「ご乗車ありがとうございます。速行電車の川埼湊(かわさいみなと)行きです。終点まで途中駅は止まりませんのでご注意下さい。まもなく発車致します」

 車掌の肉声アナウンスが流れた。
(こんな短い路線でノンストップ運転とは挑戦的だよな)
 どうなるんだろう、という期待を胸にする中、発車ベルが鳴り終わるのと同時にドアが閉まり、電車が動き出した。
 
(なんだか変な感じだな)
 短い間隔で存在する駅を、1駅1駅やや遅い速度で速行電車は飛ばしていった。それぞれの駅で電車を待つ人はあまりおらず、ほぼ無人という感じでいる反面、車内はそれなりに人が乗っているというギャップにさらに急行特急THは妙な感じを覚えた。

(もうすぐ終点か)
 最後の通過駅で対向電車を追い越すようにして走り去ってしばらく行くと、電車は減速しポイントをガタンゴトンと大きな音を立てて渡る。するとすぐに下り坂に差し掛かりそのままトンネルに入ったかと思うと終点の川埼湊に着いた。
(あっと言う間だったな)
 大してスピードを出さない電車であったが、こうして途中駅を止まらないとあっという間である。

(ここが湊タワーか)
 地下駅から続く階段を上り地上に出ると、観光名所の1つである湊タワーがそびえ立っていた。
(海の青と陸地の緑のイメージした色で塗られた灯台機能もある塔か)
 なかなか良い色してるじゃん、と思いつつ、急行特急THは写メを撮った。
(さてそれで、湊循環ってバスがあるって話だけど、バス停はどこだ?)
 キョロキョロと辺りを見回すと、それらしき物を見つけた。
(あれだな)
 海風の所為なんだろうか?そのバス停ポールは錆が浮いていた。
(えーっと、次に来るのはと)
 急行特急THは時刻表を指でなぞって、腕時計で時刻を見ると5分程度で来る事が解かりしばし待っているうちに、定刻ぴったりにバスはやって来た。
(なんだ普通の路線バスかよ)
 観光用に多少こったデザインが施されたものと彼は思っていたのだが、何の意外性もなかったので、少しがっかりしつつもバスへ乗り込んだ。

 10数分の間、車窓は工業地帯の港の景色と蒼い海と青い空を映し出していた。天候もよく気温もそこそこで、いい感じのお出かけ日和であった。
(なるほど、こんなだった訳か)
 人工的な建造物ばかりが建ち並び、お世辞にものんびりとした良い雰囲気の場所とは言い難かったが、実際に生でこうして来て見ると、そんな悪いとさえ言えるものも、帳消しになってしまう位のものが時としてある。そういう意外な側面を知るのが好きな急行特急THであった。

 バスはその後、海をそれると倉庫と工場の事務所が建ち並ぶ場所を走り去ると、民家が広がる細い道を通った。
(こんな所に住んでいる人が居るとはねぇ)
 大型高層マンションならまだしも、こうしていかにも昔からありそうな一戸建ての家を見ると、どんな生活が営まれているのか、急行特急THは多少気になった。
(かつては漁師街かなんかだったのかな)
 ここ最近出来たという感じは無く、昔からという感じだったので、そんな事を思っているうちに、バスは急行特急THが最初に乗ったバス停に戻った。

(さーて、次はあの塔か)
 どんななんだろうか?と言う期待と、たぶんこんなもんなんだろうな、と言う解りきったというか想像に難くないような物があると感じながら彼は塔へ昇る事にした。

 急行特急THは展望室に行くと、先ほどのバスの中で見た景色の他に、蒼い海の中を行き交う大小の船の姿と高速道路のハープ橋そして鉄道貨物のターミナル駅みたいなのが見え、機関車とコンテナ車やタンク車が太陽の下で昼寝するみたいに止まっている姿があった。
(船は動き、電車は止まるか)
 静と動が同時に存在するというありありとした時間が形なるとこんな感じなのかな?と急行特急THは思いつつ、またも写メを撮った。

 やがて塔と降りると急行特急THは、駅へ向かった。
(さて、次も速行が来ると良いな)
 と思いながら改札を抜け、ホームに出て時刻表を確認する。
(なんだよ40分来ないってか)
 1時間に1本しかないのが速行電車であると知っては居たが、思惑通りに行かなかったので、急行特急THは肩を落とした。
(軽快なら来るってか?)
 途中2駅停車する電車で、あまり納得が行かないが来ないのでは仕方ないと急行特急THは思い、待っているとやがて電車がホームに入ってきた。先ほどと同じ4両編成というもの哀しさを漂わせながら。

「ご乗車ありがとうございます。軽快の川埼行きです。小鳥新田と川埼明神に停車致します。発車までご乗車になってお待ちください」

 折り返し時間は短く、すぐに電車は動き出した。
(小鳥新田ってどんな所なんだ?)
 不意に興味が湧いたので、急行特急THは行ってみることにした。丁度、次の駅だったので、都合が良かった。

(さてどうすっかな)
 初めて来た場所で何があるかは解らない急行特急TH。
 とりあえず改札を抜ける。
(こんな駅でもICカードで改札抜けられるのが凄いよな)
 切符じゃないと駄目、というイメージがあったのだが、ちゃんと自動改札があり、IC対応で多少驚きつつ、道なりに続く歩道を行くと小さな道路を跨ぎ、先ほどの塔と貨物ターミナルらしきものの上に出た。
(へー、こんな所にあったのか)
 2本の1ペアにレールがあちらこちらへとポイント伝えに延び、所々格納庫につながっていたが、シャッターが下りているものばかりで中を伺う事は出来なかった。そして、そのターミナルの横を幹線と思われる貨物線の線路が見え、両端がトンネルで闇の中へそれぞれのレールが延びていた。
 その時、警笛の音がしたかと思うと、1機のディーゼル機関車がコンテナ車牽いて、急行特急THの視界の中に入ってきた。
(1日居ても飽きなさそうだな)
 なんと言うことの無い景色だが、こうしてやはり「動いている」という景色を見ているというのは悪い気がしないと彼は思った。

 20分くらい経過して急行特急THは再び小鳥新田の駅へ向かって歩きだしたが、このまま帰るのもなぁ、と思い、駅近くの踏切を渡って少し行くと1枚の看板があった。
(なんだろう?)
 急行特急THは看板に近づくと、それはここの地に由来する事が書かれていた。

「小鳥新田。この地にたった1つだけの田んぼがあった。その田の持ち主は小鳥庄衛(ことりしょうべい)と言い、大切にその田を守り、後に海辺という悪条件にも関わらず数個の田を作ったとされている。その功績をたたえ、この地が小鳥新田となったという言い伝えあり」

 と看板に書いてあった。
(そうでございますか)
 とってつけたようだな、と急行特急THは思ったが、一先ず納得が行ったので良しとした。
(さて、そろそろ帰りますか?)
 日も傾きかけてきたので、急行特急THは駅へ行くと、運良く電車がホームで停車していたので、しめた!とおもったものの各駅停車で、喜びが一気に減った。
(なんだかな)
 シートの座り、凹んでいると、電子警笛音がしたかと思うと速行電車が駅を通過していった。
(なるほど、こんな感じだったのか)
 車内で見る通過の様子と車外、ホームで見る通過の様子は違うので、それを見るには丁度良い機会なので良いと言えばよかった。

「発車します。ドアを閉めます。ご注意下さい」

 車掌が無機質な声でアナウンスするとすぐに扉が閉まり、電車は動き出す。
1駅1駅を舐めるかの様に停車してはドアが開き閉まっていくが乗る人はあまり多くはない。
それは今日が休みの日だからなんだろうな、と急行特急THは思っている中、電車は走る。
(結構、家があるなぁ)
 工場街の赴きがありつつも大型高層マンションに一軒家が建ち並び、ここが1つの街なんだ、という事を移り行く車窓を見ながら急行特急THは確かめる。
(この街ではどんな生活があるんだろう)
 川埼湊でも思った事をもう一度急行特急THは考える。
(この路線と共にやっぱりあるんだろうか?)
 かつて読んだタイトルも忘れた小説に出てきそうな感じがどことなくする急行特急TH。場所こそ違えときっと似たようなものはあるだろうと思う。
(さて、今日の事、どうやってブログにまとめようかな)
 自作のブログ、『急行特急は行く』という電車ネタと彼が感じた事を形にしているもの。地味な存在であるが、いつしか生活の1部になっていたりもする。
(でもあんまり記事になるような写メ撮ってないんだよな)
 写メした画像を見つつ、記事の中身を考えていう内に、電車は川埼の駅に着いていた。







<あとがき>
 何のオチもなく、ただ文章羅列しただけだな、と書き終わってから思う。書いてる本人は、まぁこんなものか、と妥協できる範疇の出来にはなったので、良いかと思っているという事に、呆れ顔という感じである。
 この話は、このブログのリンク先の掲示板『通快!!名川2000系』のこの記事にあった地名を基に何か物語でも描けないだろうか?という事で創ってみた。当初は、いつものどろつき哀しみに満ちた人間模様の話にでもしようと目論んでいたのだが、ネタが浮かばず、また、本文中にある様に、「速行」だの「軽快」だのと言った「電車種別」が登場するので、そうも行かなくなってしまった。
 そんな時、いつか学生時代中期の頃に手がけた作品の様にしてみてはどうか?と勝手に思いつき形にしてみた。絵こそ無いが、案外、行けるなぁと完成してみて思う所。だが、オチも何も無く、物語って言えるか?という疑問が残り、なんとも奇妙な気持ちを胸に抱いている。
 話があちらこちらと飛んでしまうが、この物語の基ネタになった記事は、『通快!!名川2000系』で4月1日に、掲示板管理人の名川2000様が、エイプリルフールのネタとして書かれた物で、こんな風に乗り鉄?という形の物語でうまく収まったように思う。物語を書くというのは、こう言った何気ない事が話のネタになり、うまく行けばこの様に形になってくれるが、なかなか難しい所ではある。
 昨今、物語を書いても、面倒だったり、言い訳がましいか、と思って「あとがき」を書かないでいたが、書いてみるとやはりこう物語に対する思い入れが書け、かつ、ネタバレもこうして出来るという1粒で2度オイシイ側面があったりする。全て、読み手よりも書き手が優先されるというなんと言う事でしょう、である。
 最後に、話のネタを提供してくれました名川2000様、本当にありがとうございます。こんな風な話しか書けませんでしたけれど、書くというきっかけとネタを与えて下さった事、本当にありがとうございます。そして、話を最後まで読んでくださいまして全ての方々に感謝致します。ありがとうございます。
2010年4月25日 抜けきれぬ冬色な春深夜にて
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コメント
 
 
 
よく字をみると… (Nagawa2000)
2010-04-25 23:45:52
 なかなか、面白かったです。
 
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