goo

七光台ピアノ教室での再会 その1

2014年08月07日 22時26分18秒 | 物語・小説
農台偉薙郎は、趣味でピアノを習っていた。とは言っても、所謂、正統派なクラシックではなく、そこいらのCD店で売っている“J-POP”で、ピアノ弾き語りと言うやや風変わりなものだった。そのピアノ教室の名前は七光台ピアノ教室だった。実際、七光台と言う苗字の人が運営しているので、そうなっていたが、本当にこじんまりとしたもので、一体どれだけの人が生徒になっているんだろう、と言う感じだった。

偉薙郎がこのピアノ教室の存在を知ったのは、偉薙郎がこの街に越して来てしばらく経った時だった。
高校生を終え、とりあえず大学となり、時間が出来たので何か楽しいことないかと探していた時、「J-POP曲も習えます、お時間ある時にどうですか?」と言う文言が書かれた看板が、この教室(と言っても見た目は普通の一軒家)の前に掲げられて居たのを見つけ、やってみようと決めたのだった。

習い始めてしばらくして、ピアノ教室の講師が、小さなライヴをやるから来てみないか?と偉薙郎に声をかけられたので、彼は行ってみる事にした。

(で、どんななんだろうか?)
当日、会場に向かう最中、偉薙郎はそんな月並みなことを思う。なにせ詳しいプログラムもなく、どんな人が来るのかさえも知らされてなかった。
(まあ、それはそれで興味わくけど)
ベタな表現にはなるが、秘密のライヴ鑑賞であるに違いなくで、良いじゃない、良いじゃない、と偉薙郎は思っていた。とは言っても、偉薙郎はライヴなんて1度も行った事がない人間だったので、秘密も何もあったものでは実際ないのだが、そう思いたかったのは、単に彼の性格によるものだった。

(まばらか、やっぱ)
ライヴ会場、とは言っても普段使っている部屋を開放しただけの簡単なもので、椅子が幾つか用意されてはいたものの、空席が目立った。
(皆様、お知り合い?)
偉薙郎は、あたりをしばらく見ていると、この教室の関係者なのか或いは講師の知り合いなのか、御互い顔見知りな感じで、「どーも、またやるんだって?」みたいな感じな会話に始まり、楽しそうだった。
(あの輪の中に入りてえ~)
と偉薙郎は思ったものの、何か近づけないものがあったので、親しく話す一団の会話に耳をすますしかなかった。
「今日はあれやりますかね、なんかアニメで使われたらしいやつ」
「やるんじゃないすか?六実さんのお気に入りソングですからねえ」
アニソンか。あの人の守備範囲は広いな、と偉薙郎は思う。六実さん、お呼ばれたのが、ここの教室の講師の名前で、七光台六実と言った。
(ピアノ1本でやれるもんなのか?)
と偉薙郎が思っていた時、会場に入ってきた3人組に目が行った。
(あれ?ホントの歌手じゃない?)
男性2名に女性が1名のうちの女性に見覚えがあった。それはあるときたまたま偉薙郎がある会員制サイトを介して知った人が好きだと言う歌手の画像を調べて、記憶に残っていたからだった。そして、その歌手のサイトを覗いた時、歌手数名でイベントライヴ第2段をやると言う時期でもあり、残りの男性2名もそのサイトに写真が載せられていたで、3人とも歌手であることに気づいたのだ。
(恐ろしい。何でそんな人がこんな所に。どう言う繋がりなんだ?
偉薙郎は、世の中の神秘の1つを見た感じだった。
(そうはいっても周囲は彼らの事は知らないってか?)
3人が来たからとて会場内は別段空気が変わることはなかった。
(あの3人は何を話しているんだろう)
偉薙郎が遠目で彼らを見ていた時、開演まであと5分になっていた。その時、会場に入ってきたひとりに偉薙郎は、目を疑った。
(嘘だろ)
いつかに会員制サイトで偉薙郎が知り合い、オフラインで会った人だった。
goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。