きの書評

備忘録~いつか読んだ本(読書メーターに書ききれなかったもの)~

楽しみにしていた山海経

2023-11-03 16:56:03 | 書評

 高校の時の選択の授業で、古文だったか何の教科か忘れたが、大人しそうなひょろひょろした先生が自信を持って出してきた挿絵に度肝を抜かれて、それ以来、ずっと全部を読んでみたいと思っていた。

 なぜか博物館に原書しかないだろうと思い込んでいたが、小さな単行本になって現代語訳が図書館の民俗コーナーに並んでいた。さっそく借りてきてページをめくる。

 

 今になって読んでみたら、ずっと「禹」(う)だと思っていた一番かわいいカンガルーのような生き物(?)は、「」(き)だったということがわかった。20歳の頃、友人に禹がかわいい!と山海経について力説してしまったが、違った。禹は中国の初期の頃の皇帝の名だった。

 

 なんとこれは、古代の「神話」であったか。純真な高校生は、へー昔の中国にはこんなの居たんだーと図鑑を見るように素直に信じてしまったが、解説を読むとみんな居やしないみたいな否定的なこと言ってる。いいじゃないか、居たってさ。そういえば、ウルトラマンの怪獣図鑑も同じスタンスで見ていた。

 

 

 今まで何についての本か知らなかったが、読んでみたら結局のところ、主に、その場所までの距離、川の水のキレイさとその行く先、鉱物、山の木の植生と動物と、それらを食べると何に効くかが書かれている。山に「怪獣が多くて登れない」など、とても旅行案内とも思えず、薬になるものを探していた感じがするけど、各地の祭祀も紹介してある。

 

 山海「経」という名前だが、お経の話ではなく、へる、とか経度とか、it takes 3days to the placeみたいな、~へ至るにはというようなニュアンスみたいだ。

 

 1人が書いたんじゃないらしいが、もし、おたくの国に何があるか書いてよこせと言われたら、価値のあるものがあると知らせたら攻めて来られそうだから何もないと言いたいところだが、相手が何を探しているかわからない以上答えようもない。だから多くが「うちには怪獣がいます」という返答になるのかもしれない。

 

 でも、1人が旅をして書いた方がロマンがあっていい。初めて見た動物があっという間に走り去って良く見えなかったから、こんな感じだったと書いといたらダイナミックな挿絵をつけられてしまったんだと思いたい。人面て(笑)きっとこれも目と鼻と口が正面にあるとか、言いたかっただけなのでは。足がいっぱいあるとメッチャ走るとか、1本だとぴょんぴょん飛ぶとか。

 

 

樹木:

 樹木は割とまとも。ツタが襲いかかってきたりしない。暖地に生える植物はちゃんと南とか西に書かれてる。橿はカシなのか。奈良県の橿原はカシの木(樫)が多かったのかな。

 

鳥:

 捜神記にも1本足の鳥が現れると国が亡ぶとか書いてあったような気がする。ヒヨドリは確かに春になってどこからか「現れる」と作物が食いつくされるので、良くないかもしれないが、1羽だけ?不吉の予兆?

 反対に5色の鳥(鳳凰)が現れるとめでたいらしい。なぜなら天帝の地上でのお友達だからだそうな。実に微笑ましい。

 

 

 全般に詩のようなカッコイイ表現方法で書かれている。「その名は○○、鳴くときは我が名を呼ぶ」など。カッコウがカッコウって鳴くみたいなことなのかな。国の文字が「」になってるし、楠は「」。何だろうこの字。

 中国の人は意識が壮大で、常に四方が気になるみたいだ。一番最初の解説の文章は、きれいな文字が並んでいる。千年後に必要になるかもしれないから、取っといてくれという願いが込められていそうで、悠久の刻の移ろいを感じるが、それをありがたくいただいた千年後の人類としては、だからこれ何??というのが正直な感想だろう。

 

 使えるか使えないかはもはやどうでも良くて、千年前の人には世界はこう見えていたという記録でいいんじゃないかと思う。妖怪大図鑑ではないと思うけどね。

 

昔の人は情緒が豊かだったと。

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