きの書評

備忘録~いつか読んだ本(読書メーターに書ききれなかったもの)~

コチのお吸い物

2023-01-24 02:17:02 | 書評

 大阪の名物って、お好み焼きとたこ焼きしかないのかなと以前に疑問に思ったことがある。その時に「船場汁」と「どて焼き」という料理があることを知った。船場汁ってどんなのだろう。字面から見て海の幸なのだろうけど、味の想像がつかない。法華クラブという仏教の宿坊ホテルで朝食に出しているらしいが、ちょうど大阪に泊まる日は部屋が空いてなかった。わざわざそれを食べに常連客でいっぱいの飲み屋に入るのもねぇ。

 

どて焼きは、東寺の弘法市の屋台であったので食べた。牛スジとコンニャクの煮物だった。もつ煮みたいなものか。

 

 「大阪の料理」という本が図書館にあった。さっそく借りてきて読んでみる。地域の伝統野菜もあるようだが、全般的に魚料理が多い。そして不思議なことに、うちは西日本なのだが親戚のおばさんが作ってくれた料理に近いものがいくつかあった。ナスとエビでだしを取る素麺や、魚の吸い物に山椒の葉を乗せるところ、コチをよく使う、スズキの洗いなど。

 

 なぜだろう。叔母は家庭科の教師で東京の師範学校に行っていたが、そこで大阪の郷土料理を習ったとも思えない。すると、その母から習ったとして、近畿出身だったということなのかな。それとも料亭の味が好みだったとか。和食の基本は全部関西だからなのかな。

 

 そして、いつか食べた白身魚のぶつ切りのお吸い物が食べたくなって、その味を忠実に再現してみようと思う。なるほど、昆布でだしを取るのだな。大量のかつぶしをいきなり投入する新宿のお祖母ちゃんとは全くちがう。しかも大阪は真昆布で京都は利尻と。ふむふむ。年末の押しせまった中、熱心に台所でだしを取る。初めてしみじみと昆布売り場を見て、真昆布と書いたものを買ってきた。袋から出してみると、まぁとても大きくて立派なものだな。1枚全部入れちゃえ。

 

 コチは、デボン紀の古生物のような見た目をした深海魚だが、買いに行ってもそれらしいものはなかった。代わりにグレと書かれた白身魚を買ってきて切り身の外側にお湯をかけて鍋に入れ、お玉ですくってそっとお椀に置いてみる。汁は少なめで、身が盛り上がってスープから島のように出ているのがコツだ。どうやら生臭いのを防止する目的でお湯をかけるらしいが、だったら焼いたり炙った頭などを入れたらどうかと思う。さぞかしエラなど尖って見栄えがするだろうに。焦げ臭いスープって和食的にだめなのかな。

 

 その本に載っていた竹の節を残して削っただけの箸が、なんともシンプルでカッコ良かったので通販で注文してみた。これで食べればもう気分は割烹料理屋の白木のカウンター。一体この熱意はどこへ向かっているのか。

 

 調子に乗り、四角いお餅を焼いて関東風雑煮など作ってみる。ちらっと調味料入れを見ると「つゆ3倍」と書いたビンがある。これ入れたらいいんじゃないか。まさかこの中にはダシとみりんと醤油が入っているのでは!?原材料をよく読んだらそう書いてあった。この世の真理に到達したような満足感があった。

 

 残った昆布で自家製の佃煮を作ろうかと思ったが、いつまで経っても柔らかくならない。真昆布は固い。ということがわかった。細切れにしてみりんにしばらく浸けておこう。どうにかなるかもしれない。

 

 真昆布は函館の方で採れるらしい。母方の叔母は小さい時に転勤先の北海道で肺炎にかかり、看病していた祖母がふと窓の外を見ると知らないおじさんが通りかかってひょいっとのぞき込んで、昆布を温めて肺の上に貼ると良いと教えてくれて、その通りにやったら治ったと言うが、それが真昆布だったのか!(ちょっと感動)ミネラル?温度?湿布?それともアイヌの秘術かな。

 

 

 後日、今度は利尻を買ってきて違いを見てみた。うん、確かに違う。なんか茶色い色が付く。これでは“お澄まし”にならない。しかもネバネバしている。利尻は柔らかくてすぐに佃煮になるらしい(結局佃煮が食べたかっただけなのか)。そういえばワカメってダシ取れないのかな。

 

 考えてみれば、お吸い物の味付けはほぼ塩のみ。(きの)「これって昆布まじりの海水に、飲んでた酒入れて今釣った魚を煮たらできるのでは?」最初はそうだったのかも知れない。潮汁(うしおじる)とも呼ぶらしいから。

 

 

 年末になると錦松梅や牛のしぐれ煮など、「純和食」のようなメニューを急に思い出す。なぜだろう。クリスマスで肉を食いすぎるからだろうか。お正月の気分なのか。関西地方には本当にしぐれ煮売ってないから、そうだ、ないものは自分で作ってしまえと思ったのが、そもそもの始まりだった気がする。

 

 小さい頃、柿安やら今半のお歳暮がよく家に来ていたからなのかな。近年しぐれ煮が好きだと言ったら叔母が、お殿様に献上していたという何かに浸けた牛肉を送ってくれたが、開けてみてびっくり(きの)「えぇ!?」

 

紫色・・・。

 

 これは大丈夫なのか。非常に恐ろしいが、ダメなものを献上するわけないから食べれるのだろうなと思いこわごわ焼いて食べてみた。何ともなかったが勇気を試されているような、いやに緊張するひと時であった。

 

 アメリカに居る時も(きの)「しぐれ煮が食べたいしぐれ煮が食べたい」うるさい。しかし、アメリカにはビーフは山ほどあっても薄切りがないので、肉売り場の人に薄く切ってくれと頼んだら曲がったブッチャーナイフでそぎ切りにしてくれて、ちがーうと思いながら食べたり。

そうだ、そういえば、そろそろ昆布が漬かった頃合いだ。

きのたん - 読書メーター (bookmeter.com)

追記:昆布が柔らかくならない。漬けておいたらネバネバの固い昆布がいつまでも緑色のまま。煮ても煮てもあの鞍馬山で売ってたような黒い佃煮ができない。なぜだ。

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