物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

波源が波の進行速度より速い現象

2007-08-23 13:56:47 | 物理学

「波源が波の進行速度より速い現象」のことを学んだのは多分流体力学の講義のときだと思う。流体力学の何たるかは結局わからずじまいであったが、この現象がどんなところに現れるかは頭に残った。

この現象の一番いい例は船のつくる波である。この波の速さよりも船の速さの方が一般に速い。

次の例としては衝撃波であろう。例えば、ジェット戦闘機が急降下して衝撃波をつくる。そしてこの波によって家のガラス窓がブルブルと震えたりすることがある。このようにして音速より速く飛行する飛行機によってつくられた衝撃波も波源の速度が衝撃波の速度よりも速いという特性をもつ。

第三の例としては水中を走る荷電粒子の放出する、Cerenkov(チェレンコフ)輻射である。光は真空中では10^{8}m/sの3 倍の速さであるが、水中では荷電粒子の速さの方が、その荷電粒子から放出される光の速さより速くなることがある。

というのは真空中での光の速さcをその媒質の屈折率nで割ったものがその媒質中での光の速さになるからである。媒質の屈折率 n が1より大きいとき、この媒質での光の速度はもう真空中の光ではなく、c/n となる。このような場合にはその荷電粒子の放出する電磁波の速さよりもその荷電粒子の速さの方が大きくなることがある。

原子炉屋さんなどはこういう原子炉の燃料棒がある水中で発生するCerenkov輻射を日常茶飯に見ているらしい。もう亡くなられたが、私の友人の核化学者であった Tam さんを京都大学の原子炉実験所に訪ねたときにそういう話をしてくれた。

私の知っている例としてはこの3つであるが、他にも例があるかもしれない。多分この現象のことは流体力学の講義で M 先生に教わったのだと思うが、それはもう定かではない。それともそのときのテキストに使われた谷一郎先生の『流れ学』(岩波全書)の中に書かれていたのだろうか。

(2013.2.18 付記) このブログは2007.8.23付けの古いものであり、まさか隕石が落ちてきた時に生じる衝撃波で1000人を超える人が負傷をするなどということが起こるとは予想だにしていなかった。

そういうことが最近、現実にロシアで起こったので、このブログもどなたかの検索にひっかかって読まれたということがわかった。

朝日新聞の隕石の被害の解説にも波源の移動速度(これは隕石の落下速度のこと)が音の伝わる速さよりも速い現象であると説明がされていた。それがどれほど他の現象でも一般的なのかということは、隕石とは関係がないので書かれていなかった。

昨日の朝食の時に妻にその話をしたが、妻はまったくの素人なので、理解は難しかったであろう。しかし、ここに書いたようなことも理解されるとか関心を持たれるというのは、ある種の進歩だと思っている。

昨日、谷一郎『流れ学』(岩波全書)をひさしぶり取り出してきて調べてみたが、ちょっと見たところでは表題に書いた、「波源が波の進行速度より速い現象」の説明はなさそうである。もしそれが正しいとすれば、私たちに流体力学を教えた、三村洋一教授の講義から知ったことであったろうか。

その後 2008.6.27 日付のブログで『湯川秀樹と隕石』という記事を書いている。

(2013.5.8 付記) 5月5日の日曜日にEテレのサイエンスゼロを見ていたら、上の衝撃波による圧力波のことをソニック・ブームと言っていた。ジェット旅客機はこの何十年かで断然安全になってきたが、ソニック・ブームの被害のためにジェットの速度は音速を越えることを控えているのだという。

コンコルドというジェット機が超音速の飛行機としてフランスとイギリスの手で共同開発されたが、ソニック・ブームの被害のためにあまり使われなかったという。製造は20機だったという。

ところが、最近ソニック・ブームなしの超音速旅客機ができそうになっているのだという。技術の進歩だが、果たしてそういうことが私の生きている時代に実現するのだろうか。

(2017.1.27付記)  私のブログの中のランク10位で検索をされていた。このブログの扱っている内容が内容だけに普通の人の関心を引く内容ではない。それでも検索されたということはこういう現象に関心がある人が私以外にもおられるということである。

「波源が波の進行速度より速い現象」の説明をどこかで読んだことはなく、どうしてそういうことを私が知ったのかもいまではわからない。M教授、すなわち、三村教授の講義でそういうことが説明されたのかどうかもわからない。しかし、現象自身は多分流体力学の講義で触れられたのであろう。

谷一郎さんの『流れ学』(岩波全書)に出ていたと思って数年前に探したのだが、載っていないようだったが、それも探し方が十分でなかったのかもしれない。多分、大学のときの物理の同級生に聞いてみてもこんなマニアックな内容を覚えているかどうかはわからない。

(2024.3.4付記)今日のブログのアクセス数で4回とこのブログとしては珍しくアクセスが多かった。どこかの大学の流体力学の講義でこのような現象について述べた先生がおられたのだろう。

私のブログのこのトピックだけではなくときどき検索されるブログのトピックがある。最近では逆格子とか双対空間とかもときどきアクセスが多くなる。もっとも多くなったと言っても一日に10回ものアクセスではないが。

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