物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

『物理数学散歩』の目次

2025-02-24 12:00:00 | 物理学
小著『物理数学散歩』(国土社、2011)の目次をここに挙げておこう。

1. 単振動の合成
2. 立体角
3. 自然対数の底eの近似値
4. arcsin x+arccos x=n/2を理解する
5. 微分をして、積分を求める
6. 母関数の方法
7. 関数の定義
8. ラプラス演算子の極座標表示
9. Legendre変換
10. 分岐点の定義
11. 積分公式の場合分けはいらない?
12. ベクトル積の成分表示
13. ベクトルの3重積の公式の導出
14. rot rot A=grad divA-ΔAの導出
15. テンソル解析の学習における問題点
16. 「Levi-Civita」再論
17. 「Levi-Civitaの記号の縮約」再々論

である。

この本はアマゾンコムでもAmazonのマーケットプレイスに出品されているものであるが、自著でもある。委託して販売をお願いしたのであるが、本当はとても役立つ本だと思う。

出版社との関係からうまく売り出せていない。それで、まずはお披露目したい。売価2,200円は安い(注)。安いと価値がないと思われるのが、残念だが値段以上の価値があると思っている。

内容の一部紹介をしておこう。

(2. 立体角)
だれにでもわかる立体角の説明はいまでは各所でみられるようになったが、私が書いたころには立体角の説明はほとんどなかった。いまでは「予備ノリたくみ」さんの本には私の本よりも詳しい説明がある。しかし、本質的なところは逃してはいないつもりである。

(5.  微分をして、積分を求める)
これは『ご冗談でしょう、ファインマンさん』(岩波書店)のある章のエピソードをエッセイの書く動機としたものだが、そういう動機づけが面白いと自分では思っている。この同じことをエッセイとして取り扱った本やエッセイもぼつぼつ現れてきている。

要するに、定積分の被積分関数の中にパラメータがあれば、そのパラメータで微分することによって定積分の値を求める方法である。この方法を使って多くの積分をファインマンはやって見せたので、積分なら何でもできる男との評判をとったという(2024.5.13付記参照)。

ファインマンは単に自分の知っていた方法が役立っただけだと言っているのだが、この方法はあまり学校の講義では強調して教えられることがない。それで私も悪乗りしてみたのだ。

私も「数学・物理通信」に3つほどその後同じタイトルでエッセイを書いている。関心のある方はインターネットで検索してみてほしい。

(6.  母関数の方法)
これは伏見康治先生の本『伏見康治著作集』(みすず書房)のある巻のエッセイからヒントを得て書いたエッセイであるが、中身は量子力学でも出てくるエルミートの多項式について述べている。要するに母関数の方法が重要だとの認識を伏見先生に教えてもらったから書いた。エルミートの多項式は母関数の方法の使えるほんの一例にすぎないが。

(7. 関数の定義)
高校の数学の先生なら、「ははあ、関数をブラックボックスと見るという関数の定義だな」と推察されるだろうが、そういう見方だけではなくもっと広い関数の定義について述べている。

もっともそれを知っていて、高校で数学を教えるときに役立つかなどと功利的な考えの人にはまったく役立たないだろう。だが、いろいろの関数の定義のしかたがあるのを楽しむ余裕のある人には世界が広がるかもしれない。

最近では若い人は私のような老人とはちがって特殊関数のことをあまり学ばないとか言われている。なんでもコンピュータが計算してくれるからだとか。

(8. ラプラス演算子の球座標表示)
量子力学、特に、水素原子の電子の状態やエネルギー準位を求めるときに球座標表示(3次元の極座標表示のこと)を使う。もっとも直交座標から球座標にラプラス演算子に変換するのは一苦労である。普通には一度直交座標系から円柱座標系にしておいて、それから続いて極座標系に変換する方法が用いられる(注1)。

だが、そういう便法を使わないで直接に直交座標表示から球座標表示にするのが正道の方法ではないかという思いにとりつかれてしまった。

このやり方でその途中の計算をきちんと書いた本は最近はないわけではないが、昔はそんな面倒な計算を書いた本などなかった。これはE大学に勤めるようになってから、佐々木重吉先生ご本人から先生の著書『微分方程式概論 下』(槙書店)に書いてあると教わったが、それを参考にしている。

だいぶん後になってだが、上の方針でまともに計算したエッセイを読まれた、場の量子論で高名なN先生にこういう計算を学生にやらせるのは数学嫌いを助長するのではないかとのご批判をいただいた。もっともである。

その後、「数学・物理通信」に類似のエッセイをいくつか書いている。そしてそれらの中には、肝を冷やすようで面倒なこの種の計算を少し簡潔にできる方法で述べているものもある。関心のある方はインターネットで検索してほしい。

(9. Legendre変換)
Legendre変換の一番よく知られた例は解析力学のラグランジアン L からハミルトニアン H への変換である。H=p \dot{q}-Lだったかな。

もっとも解析力学を学んだ頃はそういうことはまったく知らなかった。ハミルトニアン Hへの変換は変な変換だなという印象しかない。 これがLegendre変換であることを知ったのは大学に勤めるようになってからである。このことは後年私も訳者の一人となったゴールドスタイン『古典力学』(吉岡書店)の初版を読んで知った。

だが、それよりも熱力学の第2法則での内部エネルギーUから、エンタルピーH=U+pVへの変換、ヘルムホルツの自由エネルギーF=U-TSとかギッブスの自由エネルギーG=H-TSへの変換がLegendre変換だとは物理化学の本でようやく知った。これらは物理化学でも天下りで定義として、教えられているのではないだろうか。

これはムーアの『物理化学』上(東京化学同人)を読んでようやく知ったことである。熱力学を学ぶのは物理化学の本からがわかりやすくてよいとは伏見康治先生のご自身の経験による教えだったらしいが。

(10. 分岐点の定義)
私のような頭のわるい者には複素解析の本に書いてある分岐点の定義はわからなかった。それがようやくわかったという、お粗末噺である。

だが、世の中の人はみんな頭がよくてわかってしまうらしい。

(12. ベクトル積の成分表示)
ベクトル積の成分表示を求める方法を書いている。最近ではこういうことを書いた本もときどき見かけるようになった。特に外国語の翻訳書に多く見かけるような気がする。私は原島鮮先生の力学の本から知ったと思う。『Feynman物理学』III(岩波書店)でもこの謎は解けないが。

(13. ベクトルの3重積の公式の導出)
ベクトルの3重積の公式 A*(B*C)=B(A・C)ーC(A・B)いわゆるbac-cabルールをどうやって導くか(注)。この公式の発見法的な導びき方を書いた本はいまではないわけではない。私はこれを原島鮮先生の力学の本から知った。最近ではこれについて書いた本もぽつぽつあるが、まだ一般的ではないのは残念である。

またここには書いていないが、ベクトルの3重積の公式の記憶法としては中央項ルールというのもある。記憶法は単なる記憶法ではあるが、計算するときには役立つ。

(注)bac-cabルールはベクトル三重積A*(B*C)=B(A・C)ーC(A・B)の記憶法の一つである。同じベクトル三重積(A*B)*C=B(A・C)ーA(B・C)をどう覚えるか。これにも役立つのが中央項ルールである。この中央項ルールの説明も「数学・物理通信」に掲載してある。インターネットで検索してみてほしい。

私自身はこの中央項ルールを知った後ではベクトル三重積の計算が嫌でなくなった気がする。

(14. rot rot A=grad divA-ΔAの導出)
これは『Feynman物理学』のFeynmanの発見法的な導き方と伝統的な、ただ公式を既知の事実として、その両辺を比べて正しいことを検証する方法とを並べて書いた。

なお、表題の公式の導出にはLevi-Civitaの記号を用いた方法が、Feynmanの発見法的な導出法以外にもある。

これは(15. テンソル解析の学習における問題点)の(3節 ベクトル解析への応用)で述べてある。ただし、Levi-Civitaの記号をフルに使ってではあるが。

(15.-17. 「ベクトル解析」関係)
標題はテンソル解析とかあったりするが、実は応用としてベクトル解析のベクトル代数関係には「Levi-Civitaの記号の縮約」再論とか再々論とかが役立つし、その前の「テンソル解析の学習における問題点」なども大いに役立つ。

この薄い本がすべてのことに役立つはずもないが、ベクトル解析の一部にはとても役立つ。ただ、あまりこの本の存在が知られていないのは出版社には、この書の価値がまるでわかっていないから。それよりもあまりに価格が低くて出版社の利益が出なかったことが理由だったかもしれない。

しかし、私のような多くの普通の人たちには目から鱗が落ちるような衝撃を与えるだろう。

(注)本来の定価は1、200円である。アマゾンマーケットプレイスに出品するにあたって、いくらか売価を値上げして申請されている。それがいくらだったか覚えていない。

(2024.5.13付記)
積分が上手だと聞いて記憶のいい人はマリー・キュリーの伝記を思い出すかもしれない。マリー・キュリーが積分が得意だったということがその伝記に書かれていたからである。

これは夫のピエール・キュリーは、学生が積分できないとか嘆いたら、「マリーが来るまでちょっと待ちなさい」とか言っていたとか書いてあったと思う。これがどこに出ていたのか、二女のエーブ・キュリーが書いた『キュリー夫人伝』にでもあったのだろうか。

要するに、微分は誰にでもできるが、基本的な積分を除いて、積分ができるためには、ある種の能力が必要だという証拠ではないかと思っている。

(注1)学生だったころにラプラス演算子の極座標表示に挑戦してみたことがある。1週間ほど頑張ってみたが、どうも計算がなかなかあわず残念ながら断念してしまった記憶がある。円柱座標を経由して球座標(3次元極座標系のこと)に変換する方法は当時学んだ高橋健人『物理数学』(培風館)に載っていたので、こちらの方は簡単にチェックできたと思う。

(注2)日本人は自分を自慢するのはいけない、慎むべきこととなっている。私自身も日本人だからそういうことも思わないでもない。しかし、外国人にとっては自己PRは普通のことである。そういう観点から自己PRすることにした。鼻につくと思う方はそう思えばいい。その覚悟はある。むしろ控えめであって他の人に役立たないよりは。

(2023.7.26付記) 実はこの本『物理数学散歩』と『数学散歩』についてはこれらの本のpdf文書を無料配布するというかなり多くのサイトができた。これは自慢しているわけではなく、事実を述べているだけである。

3,000円もしない本の無料pdf配布のサイトができたのはなぜなのか。多分、大学での数学のある分野に役立つからと思われたからであろう。そのときに著者の私のところには『物理数学散歩』の数百部の本が在庫していたというのに。これははっきり言って流通の問題であった。だれが価値がない本を誰がそのpdf資料を配布したりするだろうか。

インターネットの古本市場で一時14,000円などという高値がついていたこともある。そういう高い値段がつくのは著者としては心外であるが、「安かろう、悪かろう」の本ではないのだ。

昔、外国で出版された書籍を国内で闇で印刷して売るという海賊版があった。これはその当時日本円はとても弱くてそういう外国で出版された本など購入することが普通の日本人にはできなかったからである。いまでは私たちも外国の書籍をちょっと無理すれば、購入できる時代になった。だが、国内で『物理数学散歩』のような、現在の日本ではありえないような安価な書籍の海賊版が横行するとは信じられなかった。

(2023.7.27付記) ご注意を頂いたので付記しておく。『物理数学散歩』がインターネットで14,000円もの高値がつくのなら、2,200円で何冊かを買い占めてそれを14,000円で売ることを考える人がいるのではないかという心配である。

もっともなご心配だが、そういうよからぬことを考える人は成功しないことを知っておいてほしい。私は買っていただくことには反対はしないが。

ちょっと考えたらわかることだが、いくらいい本だと言っても、これは値段との相談であって、14,000円も出してこの本を買う人はいない。2,200円ならお買い得品であるが、そこを間違えてはいけない。私は14,000円という値段をつけた人がいたとは言ったが、それが売れたとは思わない。私だってたとえ喉から手が出るほど欲しくてもその高い値段を考えてやめにするからである。

小著『四元数の発見』(海鳴社)もpdf版が出回ったことがあった。いまは出まわってはいないと思うが。いまどき2,200円で買える本などあまりない。税込みだとそれよりはすこし高いが。それだって相当に安価な本である。それだのに無料のpdf版が出回るとはどういうことだろうか。日本の文化のために嘆かわしいことである。著作権もなにもあったものではない。

安いことが価値がないことだとは思わないでほしい。価値のあることを安くても良心的な気持ちで提供していることもあるのだから。この物価高の世であっても。

ちなみに私自身は著作権が死後50年というのを延長したいという考えには反対である。アメリカでディズニーの著作権を50年から70年に延長するという試みがあるとか、またはその延長が認められたとかとも聞くが、これはあまりに利益偏重で文化をないがしろにする話である。

(2024.6.23付記)
小著『数学散歩』だが、神田の有名な自然科学の古本店「明倫館」で6,000円で売っているのを今さっきインターネット「日本の古本屋」で見かけた。この書は私の手元にも自分用の数冊しか残っていない。

一方、『物理数学散歩』は多量の在庫があるのだが。




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