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酒の感想ばかり

「宇喜多の捨て嫁」 木下昌輝

2020-02-22 19:28:21 | 読書

宇喜多秀家に興味があったが、まず宇喜多直家の小説から。書評からはピカレスク小説とのこと。秀家はともかく直家は確かに悪人に数えられることが多い。
「宇喜多の捨て嫁」
宇喜多直家の4女の於葉の話。その於葉が後藤勝基へ嫁ぐという話が持ち上がる。後藤勝基の家臣である安東相馬が宇喜多家に訪ねてくる。宇喜多直家は自分の嫁、娘の嫁ぎ先の主人を暗殺してきた。安東は自分の主人である後藤勝基に於葉を送り込み滅ぼそうとたくらんでいるのではないかと、反抗心をあらわにしている。於葉は母や姉たちの運命を知っているので、自分は後藤家に嫁ぐが、一大事があれば宇喜多としてではなく後藤として父と一戦交え、さらには父親を討ち取ると決めていた。安東相馬は戦より碁の名人である。
人物がそれぞれ個性的によく描かれている。宇喜多直家は古傷が膿んで血種を作っては破裂して悪臭を放つ気病を患っている。於葉とはふすま越しに接見する、怪しい存在。
諱というキーワード。官職名でなく本名を言われるのは不吉であるということ。碁を戦の戦略と重ねていること。安東の息子郷左衛門が玉菊との密会、そして戦陣でそれを後藤は咎めると思いきや、サプライズで急遽簡素な祝言を上げる。後藤勝基は好人物。安東相馬は裏腹に宇喜多に寝返っている疑いがある。さて真相は裏切り者なのか?忠臣なのか?
血種で汚れた着衣を川に流す直家であるが、話のラスト、その着衣が最近流れてこなくなったことから、直家が死んだことを想起させる場面がある種叙情的だ。
文調は異なるが、山田風太郎的な奇想天外な発想であるし、戦国時代の、忠義より自分の利がやや上回るバランス。それでいて潔さがある時代。そんな雰囲気が井上靖的でもある。タイトルが宇喜多といいながら直家でなく、その周辺の人物の模様を描くところが井上靖(の真田軍記)的でもある。
なかなかいい作家、読書体験だ。
「夢想の抜刀術」
直家の少年期を描いた話だが、驚いたのは八郎(直家)のことを「お前は」という、視点で書かれていることだ。誰が話しているのかは初めは分からない。
祖父の能家が浦上家に仕える島村盛実に謀殺される。父である興家について、母と逃亡す
る。父が逃げ込んだのは阿部善定という商人の家だ。そこで父は側室を持ち、さらに子供まで作っていた。興家はかくまわれるが、母と八郎はもはや用済みで、阿部家の下人としてなら使ってやるということになる。父は病に伏せり存在感はない。侍なのに不幸な生活を強いられる八郎。興家が死んだ後、阿部家にはいられなくなった八郎母子は仇である浦上家に仕官する。侍として何の経験もない八郎はそこでも冷遇される。やがて戦に出るチャンスを得る。さらに名のありそうな武将の首を取るチャンスが訪れる。しかし追い詰めたと思った敵は、島村の射った矢で既に死んでいた。祖父の仇である島村である。島村から祖父を尊敬していたことを知らされ、さらに手柄を譲られる。そこで運命が変わった。手柄を立てて帰ると母は大層喜ぶ。しかし首化粧の際に島村の銘の入った矢尻が見つかり、母に毒を盛られる。解毒剤と引き換えに真実を告白するよう追及される。しかし母が刺し違えようと短刀を向けられたとき、夢想の抜刀術が発動し、母を刺し殺してしまう。直家には、害意をもって刃を向けられると、反射的に抜刀する能力を持っていた。それは乱世を納めることができる者のみが持つ能力とされている。それを島村から教えられた。
これらは前作で於葉が嫁入り前に訪ねて来る直前にみた直家の夢の出来事だった。於葉が後藤家と共に父直家を討つと宣言したとき、襖の奥で直家は半分抜刀していたのだ。
「貝あわせ」
富と結婚直後の直家の話。一城の主となった直家だが、貧乏暮らしで、家臣共々食を減らす生活を送っている。なかなかこの頃は好人物のようだ。この頃から既に母から受けた肩の古傷に血膿ができ、それが破裂して腐臭を発する病を患っていた。それを家臣に気を遣う心もあった。その病は戦が始まると治まる。
ある時、今は僧形となった島村盛実が訪ねてくる。妻の富を主の浦上に人質として差し出すよう伝えに来たのだ。富はこの城が好きで離れたくないと返事する。島村は快く了解し、代わりに家臣二名から人質を出すことで許した。
尼子が攻めてくる。もともと親戚であった浮田が裏切って直家を襲ってくる。富は子を宿していて、初めての子の顔を見ないまま破れてしまうのが惜しいと思う。そんな時義父の中山が援軍にやってくる。直家にとって仇である島村の助言があってそうしたのだという。その援助があって浮田を倒し難を逃れた。それから数年がたち、浮田を攻めた際、食料も潤沢でない直家は力づくで攻めようとする。そこで中山から孫子の兵法を説かれ、戦わずして勝つことを教わる。それまで島村が祖父を討ったのは夜襲だったため、それを潔しとは考えていなかった。しかし中山の言葉で、卑怯な手であっても部下や民を守ることが本当の勝ちであることに気づく。そして、夜襲によって浮田大和守を倒す。誠実な直家であったが、人生の分岐点となったようだ。
さらに皮肉な運命が直家を襲う。浦上宗景が徐々に力をつけてくる家臣を恐れ、互いに粛清させようと罠にかける。直家、中山、島村だ。直家は宗景から中山に謀反の疑いがあるので誅せよと命じられる。そんなことは根も葉もない話だ。しかし、断れば直家こそが疑われ、人質である妻と娘4人が処分される。苦渋の選択を迫られる。中山はそのことを悟り、自分の娘と孫を見殺しにするわけにはいかないと、自ら直家の剣を受けることにした。しかしそれこそが更なる罠で、無実の中山を討った直家を誅する為、島村が直家を処罰するべく兵を進めてくる。ここで直家は謀をめぐらす。島村を一人呼び出し、島村を討つ。この苦渋の駆け引きがつらい。しましまあ作者はよく考え付いたものだ。見事。
仕組まれたものであるが父、中山信正の謀反の責任を取り、富は自分が自害する代わりに娘4人を助命するよう嘆願。ラスト、この憤りを、人の肌に中山、島村、富の名を短刀で切り刻む場面が凄まじい。
「ぐひんの鼻」
冒頭は浦上宗景から始まる。その時代は僧といえど有効な兵力だったのだろう。兄の政宗を追い落とそうと謀る際、大樹山寺の僧兵を味方に付けようと浦上宗景自ら寺を訪れ仲間にならないかと誘いをかける。この宗景もかなりのくせ者で悪人っぽさを漂わせる。
前にみたある場面が出てくる。直家が母を夢想の抜刀術で殺してしまう場面。そこに宗景が出くわすわけだが、小姓たちには母親をこっそりと谷に落とすよう命じる。やがて宗景は直家が島村を越えるほどの自分の部下になりうるのではないかと、ぐひんの鼻という崖につれていき直家を試す。
期待に応えどんどん成長していく直家だが、それがかえって浦上宗景の妬みを買う。自分を脅かす存在になってきたのだ。家臣の反直家派である日笠を使い、今度は直家を討とうと罠を計画する。しかし、上をいく直家により失敗に終わる。全て直家の手の上で踊らされていたのだ。
「松之丞の一太刀」
浦上宗景の嫡男、松之丞とそこに嫁入りした直家の3女小梅の話。直家の夢想の抜刀術に対して、松之丞は危険が迫っても抜刀しない術を持つ。直家はそれこそが世に安定もたらす能力ではないかと考える。
松之丞を宇喜多家に婿入れさせることで、落ちぶれた浦上家を再興させようと考える家臣の日笠たち。万に一つも成功しないだろうが自ら小梅に化けて直家の寝所に潜り込み暗殺しようと考えた松之丞だった。返り討ちにされる。松之丞には何か思うところがある直家だった。
「五逆の鼓」
中心人物は浦上氏の兄の方の政宗の家来で、江見河原という人物で、鼓の名人である。今までの話と全く繋がりの無い展開に戸惑う。やがて小寺勘兵衛など登場し、サプライズがあり、ここでも直家、直家の弟忠家と岡剛介が登場する。
これまでの話の登場人物が再び登場する。腹裂きの山姥という気の触れた流民の老婆。謎の尼。ただならぬ気配の老僧。先の話での人物をこのように再配置するかという驚きと、それに加えてうまく因果を絡める、その手腕に唸るしかない。
短編集であり、連作とも言える。しかし単独では全容を掴みきる事はできないので、やはり長編とも言える。複雑な人間心理。構成力の高さが素晴らしい。史実では直家は相当な悪人と伝えられるが、それぞれの人物からの視点によって映る直家像が異なる。本当に悪人だったのか?という新たな解釈を投げ掛ける。山田風太郎賞の候補にもなったようだが、受賞は逃している。しかしこの作品こそ山田風太郎の系譜に繋がるのではないかと思わせる。まさに奇想。期待を抱かせる作家に出会った。寡作なのと、構成力と奇想天外なアイディアがかなり絞り出してる感があり、途中で息切れしてしまわないかが心配だ。

宇喜多の捨て嫁
20200215読み始め
20200216読了
夢想の抜刀術
20200216読み始め
20200216読了
貝あわせ
20200216読み始め
20200218読了
ぐひんの鼻
20200219読み始め
20200222読了
松之丞の一太刀
20200222読み始め
20200222読了
五逆の鼓
20200222読み始め
20200222読了


サッポロエビスマイスター2020

2020-02-19 18:59:50 | ビール

これはレギュラー商品だったのか?マルヨシセンターで目に入ったので買ってみたが、以前にも飲んでいたし、HPを見ると限定でもなさそうだ。

ただ、ひたすら重い、そして苦みが強い。渋みもある。

不快な苦みではない。

ノーマルのエビスと比べて、ウェッティで熟成感がある。華やかさともとれる風味は少ない。

それ以外の麦芽の濃厚さ、渋味は増している。

ここまで濃厚にして、だったら本場ドイツのビールの味になるかというとそれではない。

方向性が別の方向を向いて、それを突き詰めた感じで、それはやはり日本独自の方向性なのだろう。


土佐しらぎく 美潮 純米吟醸 吟の夢 2018

2020-02-14 19:46:34 | 日本酒

高知の近藤印で購入。

以前にも購入した美潮の別バージョン。因みに「土佐しらぎく」とはどこにも書かれていない。完全に独立した銘柄にしようという思いがあるのだろう。

香りは、やはり、老香的な風味が感じられる。そして甘い。

飲むと、香りと裏腹に老香は全く感じられず、甘い。

日本酒らしさは全く感じられない。ジュースか?と言われるとそこまででもない。

純米吟醸の生のようなフレッシュでさっぱりした感じではない。

ウェッティで、米のさっぱりした風味がベースにあり、酸味は弱く何の由来かはわからないが甘味が飲み口から続いていて、

後半は日本酒らしい苦みが湧き出してくる。

リンゴジュース的なフルーティーさではあるが、よくある無濾過生のようなくどいリンゴ感ではないのがいい。


レーベンブロイ

2020-02-14 19:11:17 | ビール

レーベンブロイと言えばドイツビールだ。

もともとは輸入していたのだろう、しかし、ここ最近はアサヒビールが販売していた。

輸入してたのか、ライセンスを受けてアサヒが造っていたのかわからないが、後者だろうと思い、

結局、本場の味ではなく、日本人の口に合わせて日本人が造った別物だろうと敬遠していた。

ところが、この度スーパーで見かけ、ラベルを見てみると、アサヒビールの文字はなく、

輸入アンハイザーブッシュインベブとある。ついにアサヒの手を離れ、ちょっとは欧米に戻って本場の味を味わえるかと期待して買って帰った。

そしていよいよ飲もうと改めてラベルを見ると、輸入は確かにABIだが、ドイツと期待してみた原産国が、なんと韓国だったのだ。

そこまで落ちたか、と衝撃だった。まあもともと日本製だった(かどうか知らないが)ので、どうしようもないが。

すっかり先入観ができてしまい、正常な判断ができそうにない。

しかし、それを取っ払って、真っ白な味覚で味わおう。

しかし、、、

香りは?まあ、知らずにいたらドイツ本場の香りと感じてしまうかもしれない。

しかし知ってしまった今では、韓国らしい気のせいだと思うが、薬品臭が感じられなくもない。

飲む。

まあ確かにドイツビールらしい風味がある。飲み口の湿った青っぽさは確かにそうだ。

中間以降は平板な感じがしないでもない。

後味はゆっくりと後になって、麦芽の香ばしさらしきものが感じることができる。

何なんだろうか?この気持ちのモヤモヤは。


サッポロゴールドスター

2020-02-06 20:33:10 | ビール以外

こちらはほぼ同時期に一緒に発売されたもう一つのほう。

缶のデザインはまるでビールと言ってもいいほど。

ゴールドスターというのもビールに付けてもいいくらいの名前。

麦とホップ「シングルモルト」と比べると香りは、華やかさがなく、グルタミン感、エグ味感がほのかに香る。

香りからはあまりいい予感はしない。

飲む。

予想外に、これはこれでビールのようだ。むしろ、

かなりパンチのある飲み口。エビスのような重厚感で、(新ジャンルという先入観からだと思うが)程よいエグ味が遠くに感じられて、それが丁度いいくらいのおいしさ。

後味は鉄っぽく、昔レーベンブロイを飲んだ時に感じた味で、本格的と思えるくらい。

これもいい。

シングルモルトはそれはそれでうまい。こちらもうまい。よくこれだけのものを同時に発売できたものだ。

シングルモルトは限定醸造だが、こちらはそうではないようだ。since2020などと書かれているくらいだからこれからも発売し続けようとしているのだろう。

しかし、これだけのものを製造し続けられるのか?あるいは、こう言った地味な名品は、消費者からあまり認知されず、メーカーが人気が出ないと勘違い→発売終了となりそうなパターン。

コンビニで見かけず、スーパーでも見かけず、どこで売ってるのか?見かけないほど売れているのか?元々お店が売ろうとしていないのか?

どうせ売れないだろうとお店が仕入れようと思っていないなら、どんどんお店においてほしい。

メーカーは自信をもってどんどん作って売ってほしい。