黒い時計の旅 (白水uブックス) 価格:¥ 1,260(税込) 発売日:2005-08 |
以前に図書館で借りて、少しだけ読んだか読んでないか、それくらい読んだという記憶がなかった。ところが今回読むと何か既視感がある。そうだとしたら、それは記憶には残らないが潜在意識に対しては強烈にインパクトを与える、まさに幻視力のなせる技だろう。開始からわずかの物語のなかでさえ溢れんばかりの不思議なエピソード。
1/3まで読んでも黒い時計とは何かわからない、そして内容紹介の「仮に第二次大戦でドイツが負けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら~」という事が全く出てこない。ここまではバニングジェーンライトの狂気が延々語られる。この狂気、そして時間感覚を超越した思考、現時点において既にそれが未来である。未来が見えているのである。それは年単位であり、ごく近い未来でもある。近い未来の方がよく出てくる。すなわち極近未来と現在という短い感覚があたかも同じ時間感覚で表現されているのだ。これがエリクソンの幻視の本質なのだろう。初めの1/3のさらに1/2はジェーンライトは登場しない。その息子であろう、が主体となる話だが、それこそが前述の通り幻想的な話、奇妙な話である。
読んでいると幻想的という喩えよりは、シュールなというのがいいのではないだろうか。
同一と思われる人物が、その時(時代)によって全く異なる名前と人格を持つ。このように人物が時間の流れを完全に無視して出現し、まともに時間軸に沿って理解しようとしても混乱してしまう。○年と具体的に数字が出てきて、さも意味がある如く感じるのだが、これも深く考える必要はないだろう。この物語は別に推理小説ではないのだ。ただ全体を楽しめばいい。
終盤は時間の超越も落ち着き、主要人物とも言えるZをつれ回し、何かをさせよう(何かしてやろう)と思わせる
ように話は進んでいくわけだが、何とも呆気なく役目を終える。呆気なくというよりは、(この物語において大きな役割を与えられているはずなのに)完全に無視されるが如く役割を終える。そしてそれ故に何の意味も与えられず、その後も話は進む。
(途中)